静かな夜に潜むもの
服の裾を翻し、一人の侍女が駆け寄ってきた。
「お嬢様! お怪我はありませんか!」
切羽詰まった声。呼吸も荒く、周囲を見渡す余裕すらない様子だった。
令嬢はそんな侍女の肩に、そっと手を置く。
「ええ、大丈夫よ。それより、貴女こそ大丈夫?」
「は、はい……ですが……っ」
侍女の視線が、自然と周囲へ向かう。
地面に伏す騎士たち。
折れた槍と剣。
血の匂いが、風に乗って漂っていた。
護衛として同行していた騎士のうち数名が重軽傷を負い、犠牲となった者もいた。
少し離れた場所では、執事のスバスチャンが肩を押さえながらも、どうにか身を起こしていた。怪我はしているが、命に別状はなさそうだった。
「スバスチャン!」
「……ご無事で、なによりでございます、お嬢様」
息を整えつつ、彼は深く頭を下げる。
「申し訳、ございません。護衛として……このような事態を招いてしまい」
令嬢は静かに首を振った。
「いいえ。責められるべきは、わたくしです」
視線を伏せ、周囲の惨状を見渡す。
「皆が傷ついたのは……わたくしの判断が遅れたからです」
その声音は落ち着いていたが、悔恨の色を隠しきれてはいなかった。
侍女は言葉を失い、スバスチャンもまた、何かを言いかけて口を閉ざす。
しばしの沈黙の後、令嬢は顔を上げる。
「――それでも」
彼女は《夜空》の元へと歩み寄り、裾をつまんで一礼した。
「この度は……本当にありがとうございました。危ういところを救っていただきました」
そこに驕りはなく、ただ真摯な感謝だけがあった。
「わたくしは、エメラルド伯爵家の娘
――ミラ=フォン=エメラルドと申します」
柔らかく微笑み、正式に名乗る。
「改めて、皆さまに心より御礼を」
***
「ここから少し離れた場所に、騎士団の詰め所がございます」
状況が落ち着いたのを見計らい、スバスチャンが口を開いた。
「まずは、あちらで今回の件を正式に報告するのがよろしいかと存じます」
「組織的な動きだった可能性もあるしね。その方が後腐れもなさそう」
ルナが腕を組み、頷く。
ミラも同意するように、静かに頷いた。
「ええ。これほどの騒ぎですもの。きちんと筋を通すべきです」
だが、護衛の騎士の一人が、悔しさを滲ませた声を上げる。
「……内通していた者は、盗賊どもと共に姿をくらましました。追跡は、困難かと」
「そう……」
ミラは一瞬、目を伏せる。
「最近、伯爵領の動きが……」
言いかけて、そこで言葉を切った。
ほどなくして、別の騎士が状況を報告する。
「馬車ですが……この場で動かすのは危険です。補修が必要になります」
「どれくらいかかりそう?」
ルナが即座に問い返す。
「応急処置だけでも、かなりの時間を要します」
「……詰め所までは?」
「早馬で、急げば半刻ほど」
ミラは少し考え、すぐに結論を出した。
「では、一名を詰め所へ向かわせてください。応援を要請し、残りはこの場で警戒を」
「はっ!」
騎士の一人が馬に飛び乗り、目的地へと駆けていく。
ミラは夜空の面々へと向き直った。
「改めて……皆さまは、伯爵家の恩人です」
声の調子が、わずかに和らぐ。
「ぜひ、伯爵の客人としてお迎えしたいのですが……ご都合はいかがでしょう?」
「お嬢様のお言葉に、異存などございませんとも」
スバスチャンも、ミラに続く。
「ええ、喜んで!」
ルナが即答する。
セレナも一歩遅れて頷いた。
「そのようなお話でしたら、ぜひご一緒させていただければ」
スバスチャンが深々と頭を下げる。
「伯爵様も、きっとお喜びになられるでしょう」
こうして、夜空は正式に伯爵家の客人として迎えられることになった。
待ち時間の間、スバスチャンと先ほどの侍女が動き出す。
「……温かいものを用意しましょう。幸い、鹿肉を採っていただきましたので」
「わたしもお手伝いします」
火が起こされ、鍋がかけられる。
香ばしい匂いが、張り詰めていた空気を少しずつ和らげていった。
警戒を続ける騎士たちの合間で、簡素な食事を囲む。
「……本当に、助かりました」
シエラが、湯気の立つ器を手に言った。
「皆さまがいなければ……」
「結果的に、うまく噛み合っただけよ。
私たちも、運が良かったわ!」
ルナは軽く言う。
セレナは周囲を見渡しながら、静かに付け加えた。
「……組織的な動きだったのは、気になりますね」
「ええ」
ミラは小さく頷く。
「だからこそ、今は慎重に動かねばなりませんわ」
アルスは、鹿肉を頬張りながら思う。
(……世界が変わっても、貴族ってのは変わらないらしい)
温かい食事が腹に落ちると、張り詰めていた緊張が少しだけ緩んだ。
やがて、空は朱から藍へと染まり、夜が訪れる。
遠くから、馬蹄の音が響いた。
「応援だ!」
詰め所からの騎士たちだった。
合流後、馬車の補修は手際よく進み、出発の準備が整う。
「それでは、参りましょう」
ミラの一声で、一行は再び馬車へと乗り込んだ。
道中、特に問題は起きなかった。
静かな夜の中、灯りに照らされた大きな屋敷が、やがて視界に現れる。
「エメラルド伯爵邸です」
こうして《夜空》は、何事もなく伯爵邸へと到着した。
***
夜の帳が降りる頃、馬車は静かに屋敷の正門をくぐった。
視界いっぱいに広がるのは、白い石で築かれた壮麗な建築。
高くそびえる壁、整然と並ぶ尖塔、魔導灯に照らされた回廊。
「……」
アルスは言葉を失った。
(――こんなの……)
記憶の中にある、どんな建物とも違う。
元の世界で見た西洋建築の写真や映像とは、比べものにならない存在感だった。
「……スゴすぎ……」
思わず、呟く。
馬車が止まると、ミラが一歩前に出た。
「皆さま、ようこそお越しくださいました」
その声音には、令嬢としての品格と――
無事に帰り着けたことへの安堵が、確かに滲んでいた。
扉が開き、使用人たちが整然と並ぶ。
その先頭に立っていたのは、壮年の執事だった。
スバスチャンよりも年嵩で、長年この屋敷を支えてきたことが一目でわかる落ち着きを纏っている。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
深々と一礼し、視線を《夜空》へと向ける。
「伯爵様より、皆さまを晩餐にお招きするよう仰せつかっております」
「いきなり晩餐とは、ずいぶん手厚いわね!」
ルナの目が輝く。
「それまでの間、客室にてお寛ぎください」
そう言って、同行していた侍女が前に出た。
「こちらへどうぞ」
そう言って先導する侍女と、その隣を歩く令嬢に続き、一行は廊下を進んだ。
高い天井、磨き込まれた床、壁に飾られた肖像画。
まるで美術館のようだ。
その途中だった。
「……おや?」
どこか芝居がかった声が響いた。
派手な装備の男が、こちらへ歩いてくる。
金髪をきっちりと撫でつけた、ハンサムな男だった。
その身を包む鎧は、実戦よりも見栄えを優先したかのように、過剰なまでに磨き上げられている。灯りを受けてきらきらと輝き、装飾の一つ一つが自己主張していた。
背には赤褐色のマントを翻し、一目で高級品とわかる大剣を提げている。
剣身よりも柄や鍔の方が目立つほど、金細工や宝石がこれでもかと施され、歩くたびに細かな装飾がじゃらりと音を立てた。
宝石をあしらった指輪をいくつも嵌め、首元や腕、腰回りにも、用途より誇示を目的としたアクセサリーが所々に光っている。
まるで――「俺を見ろ」と言わんばかりの出で立ちだった。
「《夜空》じゃないか」
男は口角を吊り上げる。
「わざわざボクに会いに、ここまで来たのかい?」
その言い方に、アルスは眉をひそめる。
(……知り合い?)
ルナが即座に口を開いた。
「ずいぶん自意識過剰ね。あんたに会うために来るほど暇じゃないわ」
「ほう?」
男は鼻で笑う。
「銀級風情が、頭が高ぇぞ!
誰に口をきいてると思って――」
「へぇ。階級でしか人を見られないタイプ?」
「ルナ」
セレナの低い声が、それを遮った。
ルナは舌打ちしつつも、一歩引く。
「……覚えておけよ。
ボクこそが、この地の切り札だってことをな!」
男はそう言い残し、去っていった。
客室前に着き、ようやく侍女が振り返る。
「改めまして」
丁寧に頭を下げる。
「シエラと申します。
先ほどは……お嬢様、そして皆さまの命を救っていただき、誠にありがとうございました」
ルナが、ひらりと手を振る。
「そんな畏まらなくていいわよ。ただ私たちの仕事をしただけだし」
セレナも、柔らかく頷く。
「結果的に護衛対象を守り抜けた。それで十分です」
シエラは、ほっとしたように微笑む。
扉が閉まり、静寂が戻る。
「ところで……今の人、誰?」
アルスが尋ねる。
「”自称”ドラゴンスレイヤーよ」
ルナが吐き捨てる。
ミラが静かに説明を引き取った。
「伯爵領近くの山に、ドラゴンが出現しているのですわ。
街は今、警戒態勢にあります。ドラゴンは気まぐれで……時に、人の多い場所へも現れます」
「その討伐のために、彼が常駐しているというわけね」
セレナが淡々とまとめる。
「ええ」
ミラは頷いた。
「騎士団、領内の冒険者、そして……わたくしの氷魔法も加え、討伐隊を編成中です」
アルスは思わず目を見張る。
「ミラさんも?」
「はい。氷魔法は、対ドラゴン戦で有効ですから」
「……で、あの男が中心、ってわけか」
ルナが腕を組む。
「癪だけど、あいつは数少ない白金級冒険者よ」
その声には、苦々しさが滲んでいた。
「大規模討伐には欠かせない戦力だわ」
「……剣も、すごい代物っぽかったね。
装飾が、これでもかってくらい施されてた」
アルスが思い出すように言った。
「”ドラゴンキラー”って名前らしいわ」
ルナが鼻で笑う。
誰も、それ以上は口にしなかった。
ルナが、ぼそりと毒づく。
「伯爵様も……ああいうのが常駐していて、目障りじゃないのかしら」
「ドラゴン戦においての主力ですし、領民の命に代えられるものではありませんわ。」
ミラが、少し言いづらそうに告げる。
(……なんだか、思った以上にきな臭いな)
***
その後、俺と《夜空》の二人は別の部屋をあてがわれた。
客室に通されると、シエラが一歩前に出た。
「滞在中は、わたしがお世話を担当いたします」
淡々とした口調だが、先ほどよりもどこか柔らかい。
「晩餐まで、少しお時間がありますので……お着替えをなさってください」
「え、着替え?」
「旅装のままでは、さすがに失礼ですから」
そう言って、シエラは自然な仕草でアルスの荷に手を伸ばした。
「では、こちらを――」
「い、いや! それは……!」
思わず声を上げてしまい、アルスは慌てて手を振る。
「だ、大丈夫です! 自分でやります!」
「……そう、ですか?」
少しだけ首を傾げるシエラ。
「念のため、お手伝いをと――」
「ほんとに大丈夫なので!」
必死の抵抗だった。
結局、部屋から追い出すことはできなかったものの、着替えを手伝わせることだけは断固として拒否する、という奇妙な妥協点に落ち着いた。
背を向けてもらい、急いで服を替える。
……はずだったのだが。
(……見られてる)
「……その、ご出身は?」
沈黙を和らげるように、シエラが問いかけてきた。
「え? あ、えっと……ダスキー男爵領にある村です」
答えた瞬間、シエラの目がわずかに見開かれた。
「まあ……!
わたし、ダスキー男爵家の出身なのです。三女になりますが」
「え、そうなんですか?」
「はい。今は、エメラルド伯爵家で、お嬢様の傍仕えをしております!」
淡々とした語り口だったが、その言葉には誇りが滲んでいた。
「じゃあ、同郷ですね」
「そうなりますね」
ほんの一瞬、距離が縮まった気がした。
ダスキーの風景。街道の話。
ごくありふれた話題を、短く言葉にする。
そういえば……一つ確認したいことがあった。
「ダスキー男爵家と、スカーレット公爵家は仲が良いんですか?」
「えっ? どうしてそんなことを?」
シエラの、単純な疑問。
「村にスカーレット家に連なる方がいて、もしかしてと思って。」
「そういうことでしたか。
ダスキー男爵家の寄親であるエメラルド伯爵は、スカーレット公爵の派閥だそうです。
だから、間接的に接点があったのかもしれないですね。」
なるほど、リリアのルーツについては全く認識していなかったが、
この話を聞いて、彼女のことを少し理解できた気がした。
それから暫く、他愛のない話が続いた。
深く踏み込むことはしない。
それでも、先ほどまでの他人行儀な空気は、確かに薄れていた。
「……準備は整いましたか?」
「あ、はい。もう大丈夫です」
アルスが振り返ると、シエラは小さく頷いた。
「それでは、晩餐の時間まで、どうぞお休みください」
丁寧な一礼。
その所作に、先ほどまでとは違う、わずかな親しみが混じっていた。
***
晩餐の席は、思っていたよりも穏やかな空気に包まれていた。
長い卓の上には、湯気を立てる料理が並び、柔らかな灯りが室内を満たしている。
正面に座るのは、エメラルド伯爵――威厳ある風貌の中に、どこか人の好さを感じさせる男だった。
「まずは、礼を言わせてほしい」
伯爵はそう切り出し、夜空へと視線を向ける。
「此度の件、娘を――そして我が家の者たちを救ってくれたこと、心より感謝する」
形式張った言葉ではあったが、その声音に偽りはなかった。
「成り行きみたいなもので、結果的に助けになったなら何よりです」
ルナが軽く肩をすくめる。
「その謙虚さも含めて、ありがたい」
伯爵は穏やかに頷いた。
「……今回の件だが」
そこで一拍、間を置く。
「力ある者が増えるほど、妬みも増える」
静かな言葉だったが、場の空気がわずかに引き締まった。
「守るために力をもとうとする者もいれば――力を、都合よく使おうとする者もいる」
誰の名も挙げない。
だが、そこに含まれた意味は、十分すぎるほど伝わった。
「我が家が、優秀な魔術師を輩出したことを、快く思わぬ者もいる」
伯爵はそう言って、隣に座るミラへと一瞬だけ視線を向ける。
「今回の襲撃も……その延長線上にある可能性が高いだろう」
「……」
ミラは、静かに唇を引き結んだ。
「もっとも」
伯爵は、ふっと表情を緩める。
「証のない話を、ここで広げるつもりはない。今のは、ただの世間話だ」
その一言で、場の緊張はすっと解けた。
料理の話、領内の近況、旅の苦労。
自然と話題は移り、和やかな時間が流れる。
やがて、ミラが控えめに口を開いた。
「……お父様」
「どうした?」
「ドラゴンの件ですが……」
伯爵は、小さく息を吐いた。
「街へ、徐々に近づいてきているそうだな」
「はい。警戒は続けておりますが……」
ミラは一度、《夜空》の方へ視線を向け、すぐに伏せる。
「……もし可能であれば」
言葉を選びながら続けた。
「《夜空》の皆さまにも、討伐に――」
「ミラ」
伯爵の声が、静かにそれを遮った。
「さすがに、そこまで迷惑はかけられん」
叱責ではない。
だが、父として、領主としての線引きだった。
「……出過ぎた真似をしました」
ミラは素直に頭を下げる。
「こんな話は、ここまでだ」
伯爵は、手を打つように言った。
「せっかくの晩餐だ。楽しい話をしよう!」
そして、にやりと笑う。
「《夜空》の名は聞き及んでいるよ。
是非、君たちの冒険譚を聞かせてくれ」
「お任せください!」
待ってましたとばかりに、ルナが胸を張る。
「最近だと――」
得意げに語り始めるルナ。
伯爵家の者たちは微笑みながら耳を傾け、シエラは時折、苦笑を浮かべる。
「……うまい」
一方アルスは、目の前の料理に夢中だった。
そんな、穏やかな夜。
こうして晩餐会は、終始和やかなまま幕を閉じた。
***
夜も更け、屋敷は静まり返っていた。
アルスが寝支度を整え、ベッドに腰を下ろした、その時だった。
――控えめなノック音。
「……アルスさん。起きていらっしゃいますか」
扉の向こうから、聞き覚えのある声がする。
慌てて扉を開けると、そこに立っていたのはミラだった。
昼間とは違い、簡素な寝間着姿。
艶やかな髪は湯浴みを終えたばかりなのか、ほのかに湿り気を帯びている。
火照りの残る頬は血色よく、灯りを受けて柔らかく浮かび上がっていた。
「……っ」
思わず、息を呑む。
「急に、ごめんなさい」
ミラはそう言って、控えめに微笑んだ。
「少しだけ……お話をしたくて」
「い、いえ……どうぞ」
部屋に迎え入れると、ミラは椅子に腰を下ろした。
「晩餐の席では……お父様に止められてしまいましたが」
そう前置きしてから、真っ直ぐにアルスを見る。
「やはり、できれば《夜空》の皆さまにも、討伐に参加していただきたいのです」
言葉は丁寧だが、そこには強い思いが滲んでいた。
「無理にとは申しません。それでも……難しければ、しばらくこの街に留まっていただけないでしょうか」
アルスは、少し考え込む。
「ドラゴンスレイヤーさんもいるし、騎士団も冒険者も参加するんですよね」
「ええ」
「戦力としては……十分なんじゃないかって、思います」
それは、率直な疑問だった。
それでもミラは、すぐには否定しなかった。
「……それでも」
一瞬、視線を伏せる。
「今日、皆さまの戦いを見て……とても、頼もしく思いました」
それ以上は言わない。
だが、その沈黙が、かえって重みを持っていた。
胸の内で、ミラは思う。
(――あの時の、閃光を伴った一撃。
……どうしても、そこに期待してしまいます)
それは、口にしてはいけない本音だった。
「……考えてみます」
アルスは、正直に答えた。
ミラはほっとしたように、微笑む。
「ありがとうございます。
……こうして、落ち着いてお話しできる夜も、久しぶりです」
そう言って、少しだけ肩の力を抜く。
「昼間は、どうしても気を張ってしまいますもの」
「……分かる気がします」
アルスがそう返すと、ミラは小さく微笑んだ。
立ち上がり、扉へ向かう。
「おやすみなさい、アルスさん」
「おやすみなさい」
扉が静かに閉まり、足音が遠ざかる。
一人になった部屋で、アルスはベッドに腰を下ろした。
今日一日で、ずいぶんと多くのことがあった気がする。
(……ドラゴン)
どんな存在なのか、よく分からない。
それでも――騎士団や冒険者が集まり、大規模な構成を組まなければ討伐できない相手なのだろう、ということは分かった。
今の自分では、至近距離まで接近しなければ力を発揮できない。
相手がドラゴンとなれば――なおさら現実的ではないだろう。
(正直……役に立てる気はしない)
課題は山積みだ。
明日、ルナとセレナに相談してみよう。
この街に留まるべきか、そして――自分に何ができるのかを。
そう決め、横になる。
不安が消えたわけではない。
それでも――必要とされる自分でいられたことが、少しだけ誇らしかった。




