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プロローグ

一時間に及ぶオンライン打ち合わせ。

画面の向こうには、かつての上司――元コンサルの男が映っていた。


「もう少し解像度を上げて説明してくれる?」


「プロセス、ちゃんと組み立てた?」


「で、結局……何が言いたいの?」


「……すみません。一度持ち帰って、整理してから――」


「いや、それじゃいつまで経っても終わらないでしょ」


「そ、そっすね……」


「いい加減、その進め方はやめなさい。在栖君」


「……はい」


「ちゃんと、言われてる意味、腹落ちしてる?」


「はい! 大丈夫です!」


***


ヘッドセットを外した瞬間、深いため息が漏れる。

上司との会話は、内容以上に神経をすり減らす。

体感時間が、現実より二倍は長い。


仕事が特別できるわけじゃない。

ただ、逃げるように転職を繰り返した結果、

分不相応な会社に入り込んでしまっただけだ。


テレワークが当たり前になり、仕事と生活の境界は曖昧になった。

休日も、気づけば社用PCを開いている。


――目を逸らしたかった。

現実から。


そんな俺が縋りついたのが、宝くじだった。


理由は単純だ。

当たるかどうかはともかく、

夢を見ている時間だけは、誰にも否定されない。


そして、三ヶ月目。


三十万円、当選。


大金ではない。

それでも、胸の奥が少しだけ軽くなった。


勢いで友人を呼び出し、街へ出る。


「君の話聞いてるとさ、それ普通にパワハラだと思うけど」


そう言ったのは一条。

大学時代からの親友で、今は外資系コンサルティングファームのディレクター。

仕事もできて、顔もいい。

神は、本当に不公平だ。


「身の丈に合った職場なら、こんな悩みなかったんだけどね」


「自己評価、低すぎ。

 メンタル潰れる前に動いたほうがいいよ」


「はは……古巣に戻るのも、ありかもな」


宝くじ売り場で当選確認を頼んだ直後だった。


販売員が席を外した、その瞬間。


今まで聞いたことのない衝突音が、背後から響いた。


視界が、暗転する。


(……あれ?)



気づきましたか?


落ち着いて聞いてください。

あなたは、不幸にも死にました。


(ちょっと待って。三十万円は?)


最初の質問がそれですか。


血に濡れた宝くじは、近くにいた方が拾って換金しました。

家族サービスに使われましたよ。


(……一条か。

 血まみれの宝くじ換金して家族サービス。

 メンタル強すぎるだろ)


さて、本題です。


あなたが死んだのは、こちらの手違いです。


本来であれば、対象は一人。

勇者となる魂を回収するだけの、簡単なお仕事でした。


念には念を入れて、日○建機製リジッドダンプトラックを最大積載で対象者に突っ込ませたのですが――

衝撃が大きすぎました。

結果、近くにいた貴方を巻き込んでしまったわけです。


(オーバーキルにも程がある!)


罪滅ぼしとして、贈り物を用意しました。


(生き返らせて……は無理そうですね。

 じゃあ、生まれ変わらせてください)


当然、そのつもりです。


ただし、生前の世界への干渉は不可能です。

不可逆の処理でしたので。


転生先の世界では、人は「ギフト」と呼ばれる潜在能力を基盤に成長します。


(個性、みたいなもの?)


近いですね。

ギフトを根源として、スキルが発現・成長します。


(ギフトが勇者とすると、スキルが剣技とか聖魔法?)


正解です。


ただし、あなたは勇者にはなれません。

既に、その魂は決まっていますので。


(……そうですか)


どうせ自分は、そういう役回りじゃない。

妙に納得してしまった。


さて。

ギフトを贈るにあたり、希望はありますか?


(前情報が足りなさすぎます。

 人生左右するなら、仕様を詳しく――)


説明は省きます。

種類が多すぎるので。


代わりに、方向性だけ聞きましょう。


(……発現するスキルが、一番自由なギフトは?)


願いを具現化し、スキルとして定着させるギフトがあります。


ただし、スキル生成・実行には、あなた自身のリソースを使用します。

スキルを保有できる数は、二、三個が限界でしょう。


(他に制約は?)


このギフトによるスキル生成は、すべてゼロベースです。

発動条件や効果を細かく定義しなければ、再現性のない、不安定なスキルになります。


なお、抽象的な願いから生成した場合、こちらで勝手に補完します。

後からチューニングをしなければ、意図しない効果になる可能性が高いでしょう。


(……なるほど。

面白そうですね。それにします)


承知しました。

ギフト《創生コンストラクト》を付与します。


(ありがとう。

 そういえば、君の名前は?)


私は、案内人(ナビゲーター)



それでは――

良き人生を。

 

案内人(ナビゲーター)の声がかすかに遠ざかる。

意識が、ゆっくりと沈んでいった。


その奥で、かすかに別の声が聞こえた気がした。


……ようこそ……勇者様



……。



「……思い出した」

「アルス!? 急にどうしたの!」


まぶたを開いた瞬間、視界いっぱいに青が広がった。

どこまでも澄んだ空。

背中に柔らかな、草の感触。


土と草の匂いが、鼻をくすぐる。


――ここは。

キープレート王国、

ダスキー男爵領の外れにある村。


十六歳の青年、アルス=アークスは、そうして目を覚ました。


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