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最強の学園で、最凶の運命に挑む ―それでも、俺たちは運命に抗う―  作者: sakura
揺らぎ始める日常

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恐怖を知る者


「おや?レオンくんじゃないか。もう傷は大丈夫なのかな?」


 聞き慣れない声に驚き振り向くとそこには理事長の姿があった。


「理事長じゃないですか。驚かせないで下さいよ、心臓が止まるかと思いました」

「ほっほっほ。すまんのぉ。若者を驚かせるのは癖になるのぉ」


 豪快に笑い飛ばすその仕草にどこか見覚えがあるような感覚に陥るレオンだった。だがそんなことより学園の最高権力者であるこの老人がなぜこんな所にいるのかが気になって仕方なかった。


「何故訓練場にいらっしゃるんですか?使われる予定があるなら部屋に戻りますが」


 少しかしこまっているレオンを見て微笑みを溢すその姿は本当の祖父のようで、ミレーナと話している時とは違った安心感に包まれていた。


「たまたまレオン君が訓練場に入っていくところを見たから着いてきただけなんじゃ」


 そう告げてレオンの横に立ち、壁に掛かった木剣1本手に取る。


「話は聞いておるぞ」


 その言葉に心臓の鼓動が早くなるのを感じる。世界最強と言われる学園の理事長にまで不甲斐ない戦いの顛末が届いているのかという恐怖と焦り。いまから何を告げられるのか冷や汗が身体中に吹き出してきた。

 だが、理事長から紡がれた言葉は予想だにしないものだった。


「奴と戦ってどうじゃった。怖かったかのう?」

「……え?」


 理事長の言ってる意味が分からなかったが、理事長のレオンを見る目に軽蔑などの負の感情が込められていなかった。むしろ、優しく教え導こうとする教員としての暖かさを感じた。


「正直な話、あいつの姿を見た瞬間に死を覚悟しました。怖かったし足は竦んでいました。俺1人だけならなりふり構わず逃げたと思います」


 レオンの言葉を聞いてうんうんと頷く理事長。

 聞き終えてしばらく考え込んだ後、口を開く。


「それはいい事じゃ。自分より強者を前にして恐怖を覚えるのは当たり前のことじゃ。わしも長く生きてきたが、怖いと言う気持ちを大事にした者は長生きしたのお」


 そこまで話、一度レオンの様子を伺う理事長。その様子に満足したのかレオンに背を向け訓練場の中心に向かって歩き始める。


「レオン君は今、強くなる為の壁にぶつかっておるんじゃな。」


 訓練場の中心にたどり着き静かに木剣を構える。


「1つ授業をしてあげよう。恐怖とはな、恥ずべきものでは無いのじゃ」


 瞬間、空気が震える。

 

 少し離れた場所にいたレオンだったが何が起こったのか分からず立ち尽くすしか無かった。

 少しの間の後ようやく理解した。

 理事長の気迫が空気を震わせたのだと。

 自らとあまりにも隔絶した実力差に頭が理解を拒んだ。

 恐怖を通り越し乾いた笑いしか出てこない。


 ――ああ、ダメだ。俺はここで死ぬんだ。


 身体中から力が抜けそうな感覚に襲われる。


「どうかな?今、怖かったかな?」


 その問いになんと答えるべきか迷ったが、ありのまま正直に話す事にした。


「怖いとそういう次元じゃなかったです……理事長がその気なら俺はもうここに立ってないと思います。」


 そうやって素直に自分の意見を伝えてきたレオンに驚きながらも笑みを溢す。


「そうかそうか、聞いた話よりも大分素直な子じゃのう。」

「聞いた話……?」


 構えを解いてレオンへと向き直り話を続ける。


「恐怖とはな、危険から身を守るための自己防衛なんじゃよ。ほら、怪我をした時に痛いと感じるじゃろ?あれは、身体に異常が発生し危険だから脳に知らせてくれてるんじゃよ。だがな、もう手遅れな怪我をした時には痛みは感じないのじゃ。意味がないからのう。恐怖というのもそれと同じなんじゃ。」


 諭すような眼差しでレオンを真っ直ぐ見据えて話を続ける。その姿はまるでミレーナのようで、レオンの中に不思議な安心感が生まれた。


「……そういうものなんですかね」

「そういうもんじゃよ。どれ、1度手合わせでもしてみるかの?」


 その問いかけに自分の顔が引き攣るのが分かる。


「病み上がりなので遠慮しておきます……」

「なんじゃ、つまらんのう。あいつなら喜んで挑んでくるじゃろうに……」

 (あいつ?)


 肩を落として分かりやすく落ち込む理事長に少しだけ罪悪感が芽生えたが、それよりも最後に出てきたあいつとは一体誰なのかと気になってしょうがない。

 ここまでの強者と日頃から手合わせが出来て喜んで引き受ける、そんな変な人がいるなら1度会ってみたいものだと考えていると理事長が話を続ける。


「話を戻すとの、わしでもどんな相手と戦う時でも怖いんじゃよ。きっと、今からレオン君と戦うことになっても怖いじゃろうな。それはの、戦いの最中に何が起こるか分からんことを知っておるからじゃ。」


 そう言った理事長の目は少し寂しげだった。


「理事長でも怖いって感じるんですね」

「そりゃそうじゃよ」


 何かを吹き飛ばすように豪快に笑う理事長。その姿はどこか自分と重なる所があるように感じる。


「俺はもう誰かを失いたくないんです。だから強くなるために頑張ってきたと思ってました。でも、まだまだダメだったみたいです」


 血が滲む程に手を強く握り込む。後悔だけじゃない、今までの自分が無意味だったという怒りも込み上げてくる。


「バカモノが。さっきまで何を聞いておった。恐怖を感じるのは相手の実力を正確に把握して自分や周りとの実力差をしっかりと理解できておるからじゃ。安心せい。お主は、お主が思ってより強いぞ」

「俺が、強い……?」

「それに良い仲間や師にも恵まれておるようじゃな」


 ニカッと笑う理事長の顔があまりにもミレーナにそっくりで驚いてしまう。

 その笑顔に安心してしまい、ふと疑問に思ったことを口にしてしまった。


「なんで、理事長はこんなに親身になってくれるんですか?」


 理事長はしばらく考え込む様子を見せてから口を開いた。

 

「そうよのぉ。我が校の大事な生徒ということもあるが1番は、愛娘の息子のような存在だからかのう」


 衝撃的な事実を告げられたレオンは口を開けたまま返す言葉も見つからなかった。

 

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