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最強の学園で、最凶の運命に挑む ―それでも、俺たちは運命に抗う―  作者: sakura
揺らぎ始める日常

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蝕まれた剣心


 どれくらい泣いたであろうか。他人から見れば一瞬だったかもしれない。当人たちから見たら長時間であったかもしれない。しかしどんな時間であっても終わりは必ず来る。今回の終わりは除け者にされていた少女のような精霊の一言だった。


「いつまでうちの事を除け者にするんだ!」


 スフィラのその言葉に我に返った4人は顔を赤くし、レオン以外はベッドから跳ねるように離れた。


「「「「………………」」」」


 何を話せばいいか分からず固まっている4人を他所に、スフィラがレオンに近寄る。


「もう身体は大丈夫なのか?元気になったのか?遊べるか?」


 レオンの顔を覗き込みながら不安そうな声で問いかける。


「そこまで回復した訳じゃないけど、もう大丈夫だよ。スフィラもありがとう。君がいなかったら俺は今ここにいなかったかもしれない。」


 その言葉を聞いてスフィラは笑顔になった。


「そうだろそうだろ!ま、ともだちを助けるのは当たり前だけどな!」

「ああ、そうだな。スフィラも俺の大事な友達だ」


 さらに機嫌をよくしたスフィラはレオンの周りを飛び回る。比喩表現などではなく本当に宙に浮いている。その姿を4人は口を開けて見つめる。


「ん?なんだ、お前ら」

「そういえば、スフィラも精霊だもんな……そりゃ飛べるか……」

「うん……なんか、うん……」


 ティアが少し口ごもるが何が言いたいかはスフィラ以外何となく察していた。

 なんだなんだと4人を詰め寄るスフィラだったが無視して会話は続けられた。


「結構遅い時間になっちまったし僕らは帰るよ。まだ傷を癒してもらわないとだからな」

「そうね。あんまり長居しても悪いし」

「さ、スフィラは私たちと一緒に行こうね」

「む?うちはレオンと一緒にいるぞ!」

「わかったわかった。早く行こうね?」


 ティアがガッチリとスフィラの腕を組んで病室から出ていく。それに続いてアリス、カイルの順番で部屋を出ていく。カイルが部屋を出る直前、何かを思い出したようにレオンに声をかける。


「そうだレオン。剣だけど部屋で預かってるけど、持ってきた方がいいか?」


 そういえば目を覚ましてから愛剣"ウィンターエッジ"を見かけてない事に気付く。大分酷使した為、本来なら手入れをしっかりした方がいいのだが……。

 レオンはしばらく考え込んだのちカイルに告げる。


「そのまま預かっておいて欲しい。剣があるとすぐにでも訓練に行っちゃいそだからな」


 そう言うレオンの表情は少し微笑んでいたが、その奥には他の感情が見え隠れしているのをカイルは感じ取った。

 友達として本当に大丈夫か聞きたかったが、自分から話してくれるまではそっとしておこうと思いとどまったカイルは、それ以上何も聞かずに「わかった」と一言残して部屋を後にした。


――――――――――


 病室が静かになりしばらく経った。窓の外を見ると陽の光は完全に無くなり、代わりに月の淡い光と建物から漏れ出る暖かい明かりが学園を照らしていた。


 自分が戦う理由はわかった。

 大切な人を失いたく無いから戦うのだ。

 今までミレーナに教えて貰った剣だけでは守りきれなかった。

 一体どうすれば良いのだろう。


 ミレーナや仲間達のお陰で大分落ち着いていたレオンの感情だったが、1人になり静かに考えるとまた気持ちが昂ってくるのを感じる。


「少し……夜風にでも当たりたいな……」


 そう言って軽く着替える。特に外出禁止を言い渡されていたり、門限があったりするわけでは無いため外出しても問題ないだろうが、少しだけ気が引けたためなるべく物音を立てず誰にも気付かれないように外へ出た。


――――――――――

 

 窮屈な脱出劇を終え、見事誰にも気付かれず(おそらく)に外に出たレオンは伸びをして身体を解す。


 (さて、ここからどうするか……ま、とりあえず歩くか)


 特に目的も決めずに歩き出したレオン。しばらく歩いているとある場所にたどり着いた。


 (学園内でよく来てたのは家と教室を除けばここだし、

 そりゃそうか……)


 眼前に広がる巨大な訓練場。レオンは無意識にここに来ていた。

 それはなんの為なのか。無意識下でこの場所になにかを求めたのか。はたまた偶然だったのか。

 一瞬の逡巡ののちここに立っていても仕方ないと思い訓練場の中へと足を運ぶ。


――――――――――


 壁に並んだ木剣。年季の入った木人形。

 訓練場に入ったレオンは軽い準備運動を始める。

 10分程身体を温めてからいつもの自分とどれくらい動きに差があるのかを確認する。


「全然動けないな……」


 苦虫を噛み潰したような、自分の情けなさを呪うようななんとも言えない表情を浮かべる。


「そんな事言ってても仕方ないか……はやく本調子に戻さないとな」


 準備運動を終えたレオンは壁に並ぶ木剣の目の前まで歩を進める。

 木剣の前にたどり着き、その柄を持とうと手を伸ばすがもう少しで触れるその瞬間に動きが止まってしまう。

 ミレーナやカイルらと話して気持ちは落ち着いて来たが、心の傷が癒えた訳ではなかった。

 

 もう何も失いたくないと毎日剣を握り続けた。

 プライドなんてものは捨てて強者に教えを乞う。

 雨が降ろうが、強風が吹こうが剣を握り続けた。

 強くなった自信があった。もう誰にも負けないのではと自負があった。

 だがそれは違った。

 オルデナ学園に入学し初日にゼフィスに負けた。

 そして討伐訓練ではゴブリンロードを相手に苦戦をした。いや、スフィラと契約しなければ敗北していたかもしれない。

 その後のデスグリズリー。完敗であった。スフィラの力を借りた上で敗北した。

 そして何より、全力を出していないミレーナに一度も勝てたことがなかった。

 彼の記憶の中には、何かに勝てた記憶がなかった。いつも、いつも、自分の全力を出した上で相手には届く事がなく敗北していた。


 全力の魔法が相手に届かなかったり、全力の剣技で与えられたのはかすり傷程度のものだったり。

 無力だったあの時から少しも成長出来てないと感じるには充分である。


 彼の心は壊れる寸前であった。

 

 どうすれば良かったのか。

 今まで自分がやってきたことは間違いだったのか。

 どうしたら仲間を守れる強さが手に入るのか。

 逃げ出したくなる。

 仲間から、ミレーナから逃げてしまいたい。

 いっそ、デスグリズリーと戦った時に…………。


 黒い感情がまた心を支配してくる。考えてはいけない事が心を蝕んでしょうがない。

 辺りの建物から灯りがすっかり消え、月の明かりのみが訓練場を照らしていた。仲間達のお陰で心が少し明るくなったレオンであったが、今はこの訓練場のように薄暗くなっていた。

 さっきまで目の前にあった木剣が遠くなっていく錯覚に陥る。

 

 指1本動かせなくなり、何もかもが遠ざかっていき、意識が暗い底へと沈んでいく――


 そんな時、聞き慣れない声がレオンの意識を現世へと呼び戻した。

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