表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強の学園で、最凶の運命に挑む ―それでも、俺たちは運命に抗う―  作者: sakura
入学式と討伐訓練

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/36

絶望の檻、そして一筋の重力


 怒りの咆哮とともに、炎が爆ぜて吹き飛ばされた。毛並みは焦げていたが、瞳の奥に宿る瘴気の光は、一切衰えていない。


「はは……こりゃ、凄いな……」


 カイルが乾いた笑みを漏らす。その隣で、デスグリズリーはまるで嗤うように、無機質な口をわずかに開いた。


 瘴気が――ざわりと空気を濁す。


「くるよ!」


 ティアが叫んだ瞬間、巨体が動く。怒りとともに腕を振り上げ――


「しまった!」


 いち早く相手の動きに気付いたリリスは素早くムチを巻き戻しながら後退。だが、その隙を見逃さなかったデスグリズリーが、巻き付いたムチを逆に引き寄せるように力を込めた。


「っく……!」


 デスグリズリーの強力な腕力には抗えず、リリスの体が宙を舞い、獣の目前へと引き寄せられる。


「リリス!!」


 レオンの叫びも間に合わず、デスグリズリーの鉤爪が、振り下ろされた。


 ドゴォッ!!


 衝撃音とともに、リリスの体が地面に叩きつけられる。


「ぐっ……あ……」


 意識が途切れる寸前、リリスの身体が痙攣し、ピクリとも動かなくなった。


「リリスが……!」


 獣はティアが叫ぶ声に反応し、その巨体からは想像も速さで距離を詰める。一瞬の出来事に全く追いつけず気付いた時には巨体が眼前に広がっていた。


「やばっ――!」


 ティアが回避のために身をひねるが、避けきれない。


「ティア、下がれ!!」


 レオンの声と同時、スフィラが風の壁を立ち上げようとする――が、わずかに遅い。


 ドガァン!!


 風の衝撃が爆ぜた瞬間、ティアの身体は人形のように弾かれ、土の上を転がった。


「くっ……!」


 立ち上がろうとするティアの目が霞む。意識が薄れる。


「ティアァッ!!」


 カイルが叫び、駆け寄ろうとする。しかしその刹那、黒い爪がカイルの脇腹を抉った。


「ぐぅっ……!!」


 血飛沫が舞う。カイルはティアの身体を抱えて庇いながら、膝をついた。


「……なんて、威力だ……っ」


 歯を食いしばりながらも、意識はまだある。だが体が言うことを聞かない。


「俺が相手だ!!」


 レオンが吠える。剣を構え、スフィラが風の加護を纏わせる。


「風雅斬!」


 ゴブリンロードを一撃で屠った、今のレオンの最初の一撃が、獣の胸元を走る――


 だが、届いたのは――浅い切り傷、ただそれだけだった。


「……まさか……」


 レオンの目が見開かれる。そのままデスグリズリーの拳が振るわれる――


 ズガァァン!!


「ぐあっ――!!」


 致命の一撃が――来る、そう思った瞬間。レオンの身体は風に包まれ、僅かに軌道が逸れた。


「スフィラ……!」


「……気を抜くな!本当に死ぬよっ!」


 スフィラの悲鳴にも似た声が響く。


 立ち上がるレオン。意識が霞むカイル、倒れ伏すリリスとティア。彼一人が、獣と対峙する。


 崩れそうになる膝で必死に踏みとどまりながら剣を握る――だが。


「くっ……!」


 世界がぐにゃりと歪んで、視界の端が黒く染まっていく。体が重い。膝が勝手に崩れ落ちそうになる。


(ダメだ……今ここで俺が倒れたら全員死ぬ……それだけは絶対に……)


 仲間を守るというその強い、いや、ある種狂気に満ちた思いでガス欠寸前の闘志を再び燃やし始めた。


「レオン!止まるんだ!」


 スフィラの呼び声も今のレオンには雑音にしか聞こえない。

 レオンの視界は揺れていた。全身が重く、立っているのがやっとだった。

 それでも──足を止めるわけにはいかない。


(ここで、終わるわけには……!)


 ぐらつく身体を無理やり押し上げ、剣を構える。

 スフィラが青ざめた顔で、レオンの肩に飛び乗る。


「……レオン、本気? もう魔力だってほとんど残ってないんだ!今魔力を使い果たせば、あんたは死ぬかもしれないんだよ?あいつを倒せたってあんたが死んだんじゃ意味がないでしょ!!」


「……いいんだ。これで、最後だから」


 レオンは静かに言い、残った魔力をすべて剣に込めた。

 風だけでなく、氷の魔力までもが怨嗟のように剣にまとわりつき――


「風雅雪・終刃!」


 斜めに踏み込み、レオンの一撃が風氷の刃となってデスグリズリーの肩口を裂いた。


 鈍い音と共に、巨体がよろめいた。その皮膚を裂いた風刃に、ついに初めての「確かな傷」が刻まれた。


「……やった、のか……?」


 だが、次の瞬間。


 グォオオオオオオォオッ!!!


 デスグリズリーが咆哮する。その傷口から黒い瘴気が噴き出し、怒りが空間を震わせる。


「……まずい!」


 スフィラが叫んだ時には、もう遅かった。


 獣の巨腕が振り下ろされる――


「っく!!」


 レオンは避ける暇もなかった。

 ドグォォン!!!


 衝撃が地面を揺らし、土煙が舞い上がる。

 吹き飛ばされたレオンの身体が地面を転がり、ぐったりと動かなくなる。


「れ、レオン!!」


 スフィラが慌てて駆け寄る。だが、レオンの目は半ば閉じかけ、意識が遠のいていた。


(ああ……ここまで、か……)


 仲間の姿が頭をよぎる。

 それでも、どこか心は安らかだった。

 やれるだけは、やったのだ。


 だが――


 その瞬間、空気が一変した。


「……対象座標、重力場を定点収束――」


 澄んだ声が空を裂いた。空間が歪む。


「《グラヴィトゥス・シンギュラリティ》」


 見えざる重力が一点に凝縮され、デスグリズリーの巨体が押し潰されるように地に伏した。

 骨がきしみ、瘴気が悲鳴のように揺れる。


「君たち、よく持ち堪えたね……」


 声の主――ダリルが森の奥から歩み出てくる。漆黒のローブを揺らしながら、静かに前線へと進み出るその姿に、レオンの表情がようやく緩んだ。


(よかった……これで……)


 力が抜ける。

 もはや一歩も動けない体を、静かに大地へ委ねながら、レオンはそっと目を閉じた。


 ――闇の中に沈みゆく直前、彼の耳には確かに聞こえていた。


「ここからは……大人の出番だ。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ