懐かしき風と新たな脅威
「レオン、こっちだよ!」
聞き覚えのある声に、レオンは重たい瞼をゆっくりと開けた。
「ここは……どこだ……?」
目に映るのは、幼い頃に何度も駆け回った懐かしい風景だった。陽射しは柔らかく、風は心地よく頬を撫でる。
「何寝ぼけてるんだよ!今日はみんなで遊ぶ約束だったじゃん!」
「そうそう!前回の続きからだから、レオンが鬼ね!」
笑いながら駆け出す子供たち。状況を掴めないまま、レオンもその背を追いかける。
「ちょ、待ってってば!置いてかないで!」
何度呼びかけても、子供たちはどんどん小さくなっていく。全力で走るのに、距離は縮まらない。やがて、誰の姿も見えなくなった。
息を整えながら立ち止まり、あたりを見渡す。そこは――かつてレオンが過ごした村だった。
「これは……夢?」
夢にしてはあまりにも鮮やかで、空気の匂いや風の感触さえ感じられる。懐かしさと共に、胸の奥がきゅっと締めつけられる。
――楽しかった日々。戻らない時間。
だが、その安堵も束の間。景色が、ゆっくりと赤く染まり始める。
――またか。いつもの、悪夢。
背後から嫌な気配を感じて振り返ると、そこには地獄が広がっていた。
村のあちこちから立ちのぼる炎。耳をつんざくような悲鳴。下卑た笑い声と、誰かを呼ぶ助けの声。
「ああ、あああああああ……!」
頭を抱え、蹲る。思い出したくもない情景が、鮮明によみがえる。家族の最期、仲間の叫び。
「ごめん……ごめん、ごめん、ごめん……!」
崩れ落ちていく地面に、拳を打ちつける。
「助けられなくて……ごめん……!」
声にならない嗚咽が漏れた瞬間、意識が闇の中へ落ちていった。
――――――――――――――
場所は少し変わり、森の奥深く。とあるパーティが木陰で小休止をとっていた。
「エドガーのやつ、どこまで探索しに行ったんだよー」
ラウルが大きく伸びをしながらぼやくと、そばにいたフェリシア、クラリス、そしてヴィクターも無言でうなずいた。
「『ちょっと見てくる』って言ってから、もうどれくらい経ったかな……」
「まったく、探検家気取りかよ……そろそろ腹も減ってきたんだけどな」
ラウルが空腹をアピールしながら、腰をぽんぽんと叩く。
「あいつってば、昔から熱中すると周りが見えなくなるのよね」
フェリシアが苦笑しながら言うと、クラリスがニヤッと笑う。
「でも最近は“あること”に熱中してるみたいじゃない?」
「あぁーあれかー!」
ラウルが手を叩く。
「広場の前で、堂々の告白劇!しかもフェリシアに!」
「や、やめてよ!あれはエドガーが勝手に……っ」
フェリシアが赤面しながら手を振るが、ラウルとクラリスは止まらない。
「あの場にいた誰もが見てたよな。ヴィクター、お前も驚いてたろ?」
「……ああ。まさかあんなに真正面から言うとは思わなかった」
ぼそりとつぶやくヴィクター。その真顔が妙にツボに入り、クラリスが吹き出す。
「ふふっ、でもいいじゃん。青春してるなぁって感じでさ」
和やかな空気が流れる。
だが――
「おい、おまえらッ!!逃げるぞ!!!」
急に草をかき分けて飛び込んできたのは、顔面蒼白のエドガーだった。
彼の背中からは、どこかただならぬ“気”が立ち上っているような――
「な、なんだよ!?どうしたんだよ急に!」
「あれはだめだ……やばいのがいる。きっと上位個体だ。こっちに気づかれた――!早く走れ!」
エドガーの叫び声は森の奥へと掻き消されていく。




