夕刻の作戦会議と大騒動?
放課後、学園の訓練場近くの広場には、夕日が傾き始めた光が差し込み、長く伸びた影が地面に映し出されていた。空気は涼しく、わずかに湿った土の匂いが漂う。新入生たちの話し声や装備の確認をする音があちこちから聞こえ、これから始まる訓練への期待と緊張が入り混じっていた。
レオンたちは広場の片隅に集まり、訓練の詳細が書かれた紙を手にして作戦会議を開いていた。
「今回の訓練、郊外の決められた範囲内で探索を行い、隠されたバッチを見つけて持ち帰るのが目的か……」
レオンが紙を見つめながらつぶやく。その瞳には鋭い光が宿り、戦闘に向けた意識が高まっているのが分かる。
「教師たちが結界を張って安全を確保してるけど、魔物もいるし、教師が誘導した強めの魔物も混じってるみたいだ」
カイルも自分に配布された紙を確認しながら重要そうな部分に印をつけていた。
「装備や消耗品の支給はなし、各自で準備するってことね」
リリスが紙を見ながら冷静に読み上げる。その横顔に迷いはなく、静かに戦闘に備えているのが伝わる。
「こういうのは準備が重要だな。事前に動きを考えておこう。」
レオンが真剣な表情で言う。
「じゃあ、まずはそれぞれの得意分野から役割を整理しよう」
カイルが紙を折りたたみ、視線を仲間たちへ向けた。
「俺が前衛のアタッカー。カイルも新しく剣を買ってるし俺の補助役をしてほしいんだけどどうだろう?」
「まぁ、レオン以外に前衛ができそうなやつはいないしな。そのフォローは任せろ」
カイルは軽く肩をすくめながら応じるが、その表情には仲間への信頼が垣間見える。
「私は後衛で魔法攻撃とムチを使って援護するわ」
リリスが静かに告げる。彼女の手がそっと腰に巻かれたムチに触れると、その長い革紐が微かに揺れた。
「私は索敵と遠距離攻撃を担当するね。森育ちだからそういった地形だったらなおのこと任せて!」
ティアが自信ありげに微笑む。彼女のヘーゼルグリーンの瞳は活き活きと輝き、まるで訓練を楽しみにしているかのようだった。
「基本はこの形で戦うとして、細かいところも決めておこう。まずは索敵だ。これはティアに先行してもらいたい。ティアが周囲の状況を確認。敵がいた場合、合図はマストとしてどう動く?」
カイルが問いかけると、ティアは少し考えた後、弓を軽く持ち上げながら答えた。
「まずは敵の数と強さを確認する。もし少数なら、私が弓で先制攻撃するよ。その間にレオンとカイルが前衛で距離を詰める。数が多いなら、迂回や待ち伏せも考えた方がいいかも」
「了解。戦闘になったら、俺が先に飛び込んで敵を引き付ける。カイルがサポート、リリスが魔法で削るって流れでいいか?」
「そうね。私のムチは魔力をまとわせられるから、敵の動きを止めたり武器を絡め取ることもできるわ」
リリスが静かに補足する。彼女の指先が微かに輝き、魔力が流れているのが分かる。
「あと、撤退の基準も決めておかないとな。俺たちだけでどうにもならないほど強敵だったら、無理せず逃げるのが最優先だ。怪我なんてしなければしないだけいいからな。」
「ならその判断は前衛の俺がやろう。俺が抑えられないと思えば撤退だ」
カイルとレオンが慎重な口調で言うと、ティアが頷きながら明るく言った。
「うん、そうだね。でもせっかくだし、できるだけバッチをたくさん集めたいな!」
「それはそうだけど、無茶はするなよ」
レオンが苦笑する。ティアはニッと笑い、軽く拳を握った。
その後は当日までにそれぞれが準備しておく消耗品などの相談を行った。こうして、レオンたちは討伐訓練に向けた作戦を固めていった。彼らの絆はさらに深まり、訓練への期待と緊張が高まっていく。そして、会議がひと段落すると——
「ねえねえ!せっかくだし、お揃いのマントとか買わない?」
ティアが突然提案する。そんな彼女の声はいつもより少し弾んでいた。
「マント?」
レオンが不思議そうに眉をひそめる。
「うん!お揃いの何かを身につけてたら、チームって感じがするじゃん!どうせなら格好良く決めようよ!」
「……戦闘の邪魔にならない軽いものなら悪くはないかもしれないわね」
リリスが考え込む。その横顔には、単なる飾りではなく実用性も考慮しようという真剣な思索の色が浮かんでいるのかもしれない。
「俺は別にどっちでもいいけど、ティアは言い出したら止まらないしな……」
カイルが苦笑混じりに肩をすくめる。
「よし、じゃあ行こう!」
ティアが満面の笑みで先頭に立ち、買い物へと向かおうとしたそのとき、広場の一角から一際大きな高い声が響いた。
「急にどうしたのよ!びっくりするじゃない!」
レオン達がその声の方向を見るとそこには顔を真っ赤にしている女子生徒がいた。
「あの子同じクラスのフェリシアちゃんだ!」
ティアがそう言うとその場にいた全員がそういえばと彼女をことを思い出す。彼女の周りには他にも数人のクラスメイトがいることがわかる。
「あいつら幼馴染5人組だっけか?」
カイルが聞くとティアが頷いた。
「そうだよ!今度の討伐訓練もあの5人で参加するんだって!」
「へぇ、じゃあ私たちと一緒で作戦会議でもしてたのね」
そんな話をしながらティアが近寄っていくいきどうしたのかと尋ねる。
「クラリスちゃん!やっほー!」
「あ、ティアちゃんだ。やっほー」
クラリスと呼ばれた青いロングヘアーの少女はティアに挨拶だけ返してフェリシアをなだめている。
「ヴィクター君にラウル君、一体どうしたの?」
「いやあ、エドガーのやつがいきなり告白なんてしやがってよ」
「え?!誰に?!」
銀髪くせ毛で右耳にピアスをしているひょうひょうとした感じの少年、ヴィクターがそう答えると、カイルよりも頭1つ分は大きいであろうがっちりとした体格のラウルが補足する。
「フェリシアにだよ」
「え!?なんで急に!」
「俺らにもわかんなくて困ってるんだ、やれやれって感じ」
肩をすくめながら首を左右に振るヴィクター。そんな彼らをよそにフェリシアはヒートアップしていく。
「あんたはいつもそうやって突拍子の無いことばっかり言って!」
そうやって責められている少年、エドガーは視線を泳がせながら謝っている。
「いや、ごめん。なんか今言いたくなっちゃって…」
「だからってもっと雰囲気とかタイミングを考えてよ!みんなで次の訓練の為の作戦会議をしていたっていうのに!」
「まあまあ、フェリシアも落ち着て。エドガーが空気読めないのはいつものことじゃない」
クラリスが宥めているかいあってか息を整えながらフェリシアが元居た場所に座りなおす。
「急にこんな話してごめん」
「ほんとよ。まったく」
フェリシアは起こり疲れたかのか大き目のため息を一つついてエドガーに向き直る。
「まあ、あんたの気持ちは分かったわ。」
偶然居合わせた人多なども含め、その場にいた全員が続きの言葉が出るのを静かに見守っていた。
「でも私はね、ゼフィス君みたいな強くてかっこいい人が好きなの。あんたじゃまだまだね」
結果は振られてしまった。
「そっか、まだまだ修行が足りないな!」
「おー、玉砕かぁ。でもエドガーのことだからすぐに立ち直るだろ」
「エドガーは俺の次に打たれ強いからな」
「いやいや、そういう問題じゃないでしょ」
茶化すような会話が交わされる中、エドガーはいつものように笑っていたが、どこか力のない笑顔だった。フェリシアもそんな彼の様子をチラリと見たが、何も言わずに視線を逸らす。
「まあ、気を取り直して作戦会議の続きでも――」
クラリスがそう言いかけたところで、ヴィクターが伸びをしながら肩をすくめた。
「いや、もう今日はいいんじゃねえか?なんか集中できそうにないし」
「確かに……こんな空気のまま話してもいいアイデア出なさそうね」
ラウルとフェリシアも同意し、結局、この日は一旦解散することになった。
「じゃ、また明日ね!」
「おう、気をつけて帰れよー」
それぞれが軽く手を振り合いながら、思い思いの方向へと歩き出していく。
そんな中、エドガーはひとり、空を見上げながら小さく息を吐いた。
(ゼフィスみたいな強い男、か……)
何かを考えるように拳を握りしめるエドガー。その姿を、少し離れたところでフェリシアが静かに見つめていた――。




