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最強の学園で、最凶の運命に挑む ―それでも、俺たちは運命に抗う―  作者: sakura
入学式と討伐訓練

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兆しの夜-迫る異変と討伐訓練


街の賑わいも少しずつ遠ざかり、代わりに夜の静寂が忍び寄る。空にはまだ名残のように夕陽の橙色がわずかに残るが、東の空からは深い紺色が押し寄せていた。

街灯がひとつずつ灯り、暖かな光が石畳を照らし出している。レオンたちの足音が小さな反響となり、夜の訪れを感じさせるひんやりとした風が頬をかすめた。グラナイトの炉にて武器の新調や消耗品の補充を行ったレオン達は帰路に着いていた。その道中でそれぞれが買った武器や赤毛の少女についての話で盛り上がっていた。カイルは剣とワンドを。ティアは弓と矢筒。リリスは鞭。レオンは剣の整備用の消耗品などを購入していた。


「しかしこれ、本当に軽いな。」


 カイルが新調した剣を軽く振る。空気を切る音は良質な剣のものだった。新しいおもちゃを買ってもらったかのように剣を振り続けているカイルをティアがやれやれと言った感じに落ち着かせる。


「いくら人通りが少ないからって街中で剣を振るのはどうかと思うんだよなぁ。」

「うぐ……」

「そういうティアだって矢筒を大事そうに抱えてるじゃない。カイルのことを言えないわよ。」

「うぐ……」


 カイルを言い負かせたと思いふふんと鼻を鳴らしていたティアにリリスの一言が突き刺さっていた。


「そういうリリスだって、さっきから腰に下げてる鞭を握り続けてるじゃないか!」

「うぐ…」


 カイルがここぞとばかりに突っ込むと、リリスは言い返せずに一瞬視線をそらした。


「ほら、みんな同じだよね!」


 ティアが半ば呆れた様子で笑いながらまとめようとしたその時だった。


「くしゅん!」


 不意に響いた小さなくしゃみに、一同は言葉を止めてリリスに視線を向けた。彼女は片手で鼻先を押さえながら、やや恥ずかしそうに目をそらす。


「やっぱりこの時間は冷えるわね…」


 赤くなった頬を隠すように俯きながらリリスが言い訳めいた声を漏らすと、ティアとカイルは顔を見合わせて噴き出した。


「リリスでも寒いって感じるんだな。普段、無敵そうに見えるのに!」

「別に無敵じゃないわよ…!」


 少しむくれたリリスの表情に、場の空気が一気に和らぐ。レオンが微笑みながら小さく肩をすくめた。


「まあ、冷えるのは確かだな。早く寮に戻ろうか。」

「私お腹すいた!早く帰ろ!」


 ティアの一言に一同は頷き、街灯が灯る石畳を踏みしめながら再び歩き始めた。夜風が少し冷たく感じられる中、四人の笑い声が静かな通りに響いていた。


 寮に戻ったレオンたちは、手早く食事を済ませることにした。広々とした食堂には他の生徒たちもちらほら見受けられ、にぎやかな笑い声が遠くから聞こえてくる。食事は寮付きのシェフが作った簡素ながら栄養たっぷりのもので、スープの香りが温かな雰囲気を醸し出していた。ティアは早速スープをすすり、目を輝かせる。


「やっぱりここのスープは美味しいね!今日一日歩き回った甲斐があったよ!」

「確かに。こういう暖かい食事があると疲れも取れる感じがするな。」


 レオンが頷きながら言うと、隣でリリスも静かにスープを口に運んでいた。


「カイル、また肉だけ食べて野菜を残そうとしてない?」

 

ティアが鋭く指摘すると、カイルは慌てて皿を隠そうとする。

 

「う、うるさいな!ちゃんと後で食べるって!」

「それ、絶対食べないやつだよね。」

 

 二人のやり取りにリリスが微かに微笑むと、レオンも苦笑を漏らしながら食事を続けた。


――――――


 夕食を食べ終えたレオン達は各自自室に戻って明日の授業の準備をしていた。


「食べた食べた!もう何も入らない!」

「そんな細い体によく入るよな。」


 部屋に戻って早々に横になりお腹をさすっているカイルに苦笑を浮かべながらレオンが話しかける。


「ここのご飯が美味しすぎるのがいけないんだ。僕は悪くない!」


 カイルが満足げにお腹をさすっているのを横目に、レオンは机の上に置いていた剣の整備道具を手に取った。買ったばかりの砥石と'ウィンターエッジ'を取り出し、剣の刃を軽く撫でるように確認する。


「さて、と。少し自主練でもしてくるか。」


 ぼそっと呟きながら剣を手に取ると、カイルがすぐに顔を上げた。


「え、今日もやるのか?」

「毎日の積み重ねが大事なんだよ」


 レオンが肩をすくめると、カイルはしばらく考え込むようにしてから、ニヤリと笑った。


「じゃあ僕も行く!せっかく新しい剣を買ったし、試しに振ってみたいしな!」


 そう言うやいなや、カイルはベッドから飛び起き、自分の剣を手に取ると意気揚々とレオンに並んだ。


「お前、さっきまで『もう何も入らない』ってぐったりしてただろ。」

「それとこれとは別問題!」


 ケロッとした顔でそう言い切るカイルに、レオンは半ば呆れつつも苦笑を浮かべた。


「……まあ、ついて来るのは自由だけど、手加減はしないぞ?」

「へっ、望むところだ!」


 そんなやり取りを交わしながら、二人は訓練場へと向かうために寮を後にした。


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 夜の静寂が学園の一角を包み込む中、理事長室の奥深くで暖かな灯火が揺れていた。書物や古びた巻物が並ぶこの部屋は、歴史の重みを感じさせる空間だ。机には先ほどまで整理されていた書類が広げられ、ページの端には前夜の会談の痕跡が残されている。


 理事長は椅子に深く腰を下ろし、目の前に座るミレーナへと視線を向けた。


「またこうして話すことになるとはな。」


 老齢ながらも鋭い眼光を宿した理事長は静かに言葉を紡ぐ。


「前夜の会談で話した件と直接繋がりがあるわけではないが気になる報告が上がってきてな。」

「気になる報告ですか?」

「そうだ。入ってよいぞ。」


 ミレーナがそう言うと理事長は扉の向こうで待機していた人物へ部屋へ入るように促した。ぎいと音を立てて扉が開く。そこにいたのはレオン達の担任であるダリルであった。


「ミレーナ先生、お久しぶりですね。」

「ダリル先生じゃないですか。レオンはどうですか?」

「彼はいろいろと面白い子ですね。なにかを起こしてくれそうな予感がします。ですが危うさも孕んでいますね。目が離せませんよ。」


 そういって不敵な笑みを浮かべるダリル。それ以上会話を続けずにダリルは部屋の中央まで進むと、軽く咳払いをして話し始めた。


「本題に入りましょう。実は、二週間後に行われる討伐訓練の下見をしていたのですが、そこで妙な魔力の痕跡を見つけましてね。」


 その言葉に、ミレーナの表情がわずかに引き締まる。


「魔力の痕跡……?」

「ええ。通常の魔獣や魔法使いのものとは明らかに性質が異なるものでした。痕跡自体は微かでしたが、わずかに瘴気を含んでいたのです。」


 ダリルの言葉に、理事長がゆっくりと頷く。


「瘴気、か……。それが、どの程度のものだったのか詳しく聞かせてもらおう。」

「痕跡自体は薄いものでしたが、瘴気なんて自然に存在するようなものではありません。誰かが意図的に魔力を放った形跡もありました。しかも、それはごく最近のものであろうと推測できます。」


 理事長室のランプが小さく揺れ、窓の外で風が唸った

 

「となると……誰かが討伐訓練の行われる場所に何かを仕掛けた、あるいは、すでに潜伏している可能性があるということですね。」


 ミレーナは腕を組みながら、慎重に言葉を選んだ。


「この件、前夜の会談で話した異変と関連があるかもしれません。」

「ふむ……わしもそう考えている。」


 理事長が机の上で指を組みながら、重々しく言った。


「だからこそ、ミレーナ。お前に討伐訓練への同行を依頼したい。」


 ミレーナは理事長の言葉を受け、しばし沈黙した。


「……私が、ですか?」

「そうだ。ダリルの他にも数名の教師をつけるつもりだが、ちと人手不足での。加えて、レオンや他の生徒たちも参加する訓練だ。万が一、想定外の事態が起きれば、被害は計り知れん。」


 理事長の表情には、ただの訓練として見過ごせないという強い意志が滲んでいた。


「……わかりました。」


 ミレーナはゆっくりと頷いた。


「私もこの件が気になりますし、もし何かが起こるとしたら、対処できる人間が必要でしょう。」

「助かる。」


 理事長は満足げに頷き、再びダリルに視線を向ける。


「ダリル、お前は訓練の進行を変えるつもりはあるか?」

「現時点では、予定通り進めるつもりです。ただ、魔力の痕跡があった場所を重点的に確認し、生徒たちのルートを調整することも考えています。」

「それでいい。だが、慎重にな。ミレーナも、瘴気のある地を重点的にみてもらいたい。そのついでに生徒たちの動向も見てやってくれ。」

「もちろんです。」


 こうして、二週間後の討伐訓練が、ただの訓練ではなく、ある種の『調査』としての側面を持つこととなった。


 ミレーナが理事長の依頼を受け入れたことで、会談はひとまずの結論を迎えた。しかし、誰もがこの件が単なる偶然ではないことを感じ取っていた。


 理事長はふと、部屋の隅に置かれた古びた地図に目を向ける。そこには、討伐訓練の予定地である森林周辺の詳細な地形が描かれていた。


「……気になることがある。」


 静かに呟いた理事長の声に、ミレーナとダリルが視線を向ける。


「この魔力の痕跡があった場所。昔、ある事件があった場所と重なっている。」

「事件……?」


 ミレーナの眉がわずかに動く。


「詳しくはまだ話せんが、今度の討伐訓練がただの訓練で終わるとは思わんことだ。」


 重々しい理事長の言葉に、部屋の空気がさらに張り詰める。


 そして——


 その夜、学園の外れ。


 誰もいないはずの森の奥で、淡い紫色の魔力が微かに揺らめいていた。


 それは、静かに、確実に。


 まるで、誰かが次の一手を打つのを待っているかのように——。

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