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最強の学園で、最凶の運命に挑む ―それでも、俺たちは運命に抗う―  作者: sakura
入学式と討伐訓練

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夕暮れの街と鍛治の灯火


「おい、ティア。本当にこっちの方に武器屋があるのか?」


 一番後ろを歩くカイルが先頭にいるティアに問いかける。気づけば昼下がりから夕暮れに差し掛かっていた。西の空は赤く染まり始め、街を照らす光も柔らかい橙色に変わっている。

 学園の商業地帯は依然として賑やかだったが、昼間ほどの喧騒は落ち着き、行き交う人々の足取りもどこか緩やかに見える。空腹を満たすためか、香ばしい匂いを漂わせる屋台の周りに人が集まり始めていた。


「だってこっちの方だったと思ったんだもん!」


 ティアは後ろを振り返りながら元気よく答えるが、その声にはどこか自信がない。彼女の背後でゆらめく短い影が、低く伸びる夕陽の角度を物語っていた。


「『思った』って……それ、本当に勘だけじゃないだろうな?」


 カイルが半分あきれたようにため息をつくと、ティアは少しムキになって言い返した。


「ちょっと待ってよ!さっき、この通りで綺麗な武器を持った人たちを見たんだもん!絶対、この先にあるはず!」


 足元に転がる小石を蹴りながら歩くカイルが、ふと空を見上げた。茜色から濃紺へと染まりゆく空に、一番星が瞬き始めている。


「まあまあ、せっかくだし歩いてみようよ。」


 レオンが間に入り、穏やかに仲裁する。その顔には少し疲れが見えるものの、どこか楽しげな笑みを浮かべていた。


「それに、ここは学園の商業地帯なんだから、いろんな店があって当たり前さ。面白そうな店だってたくさん見つかっただろ?探していればそのうち武器屋も見つかるだろ。」

「確かにね。武器屋なら学園推薦のお店だっていくつかあるだろうから、どこかに案内板があるかもしれないわ。」


 リリスが冷静に補足する。少し前まで店の窓に並んで太陽の明かりで輝いていた装飾品や魔導書が、今は灯されたランプの明かりを受けて温かく輝いていた。


「なるほど、案内板か。確かにそういうのを探した方が早いかもな。」


 カイルがリリスの言葉にうなずくと、ティアも大きげさに顔を縦に振った。


「そうだよ!案内板だよ!そうとなれば案内板を探そう!絶対この先にあるから!まだまだ冒険は終わらないよ!」


 その時、どこからか鐘の音が響いてきた。商業地帯にある時計塔が、夕刻を知らせているのだろう。


「……じゃあもう少しだけ進んでみるか。」


 レオンが苦笑いを浮かべながら言い、皆で再び歩き出す。空には薄明かりが残るが、周囲の灯りが次第に目立ち始めてきた。探索の疲れが出てきたのか、それとも腹が空いてきたのか、カイルが小さな声で「飯屋ならすぐに見つかるのにな」とぼやくのを、ティアが軽く睨んで黙らせた。


 更に歩くこと夕闇が濃くなり始めた頃、ついにティアが歓声を上げた。


「あった!ほらね、言った通りでしょ!」


 彼女が指さした先には、他の店とは一風変わった佇まいの建物があった。厚みのある木材と石でできた外壁は重厚感があり、店の入口には大きな金槌のマークが掲げられている。ドアの脇には鍛冶台のミニチュアが飾られており、そこから漂う金属と油の香りが、どこか懐かしさを感じさせた。


「やっと見つけたか。」


 カイルが呟きながら、疲れた足を引きずるようにして店の前にたどり着く。


「ここが武器屋?名前が書いてあるけど……『グラナイトの炉』か。」


 レオンが店の看板を読み上げると、ティアが満足げに胸を張る。


「ほらね!私の勘、間違ってなかったでしょ!」

「散々歩かされたけどな。まあ、結果オーライだな。ほら入るぞ。」


 カイルはそう言いドアを押し開けると、中からカンカンという金属を叩く音が聞こえてきた。店内は広々としており、所狭しと武器や防具が並べられている。そのどれもが光を受けて鈍く輝き、磨き抜かれた品であることが一目でわかる。


 レオン達が並べられた美しい作品達に目を奪われていたその時、奥から足音が聞こえ、小柄な影が現れた。


「おや?そのピカピカで綺麗な制服は新入生君かな?」


 現れたのは、赤毛をポニーテールに結った小柄な女性だった。彼女のエプロンは煤と油で汚れていたが、それがかえって彼女が本気で鍛冶に取り組んでいることを感じさせた。


「よく来たね。この学園で一番腕のいい鍛冶師のいる『グラナイトの炉』に来るなんて、なかなか見る目があるじゃないか。」


 その自信満々な口調に、カイルが思わず眉をひそめた。


「えっと……あなたがこの店の?」


 レオンが尋ねると、女性は胸を張って答える。


「ウチはオルデナ学園3年生のターニャ・アリサイム。ここでは鍛冶の訓練を積ませてもらってるんだ。この店に並んでる武器はどれも最高峰だよ!」


 その言葉にリリスが興味深そうに店内を覗き込み、ティアは目を輝かせた。


「最高峰!?すごいじゃん!」

「まあ、評判はまだこれからってところだけどね。」


 ターニャがさらりと付け加えるその小さな声には、計算高い自信が含まれていた。


「新入生たちがどんな目的でここに来たかは知らないけど、ここで買った武器が活躍すれば、自然と評判も上がるってわけさ。」


 その言葉にレオンが少し苦笑しながらも頷いた。


「それなら、どんな武器があるのか見せてもらっていいですか。」

「もちろん!見るだけならタダだし、いいものがあれば買っていきな!」


 ターニャは自信満々に店内を指差し、一行を招き入れた。金属の微かな香りと、炭の残り香が鼻をくすぐった。壁一面に並ぶ武器は、それぞれが個性を主張しているかのように輝きを放ち、無骨でありながらも美しい芸術品のようだった。槍の先端は精緻な彫刻が施され、剣は鋭い刃先が光を反射して鋭利さを際立たせる。弓の滑らかな曲線や杖に刻まれた古代文字の文様――どれもがただの道具ではなく、職人の魂が込められていることを感じさせた。


「この弓の芯の強さ、すごい……!」

 

 ティアが息をのむように呟きながら、弓や矢が並べられている場所へと駆け寄った。その小柄な体が跳ねるように動き、指先がそっと矢の一本に触れる。その瞬間、矢先が淡い青白い光を灯した。光はまるで呼応するようにティアの手元で揺らめき、彼女の目がさらに輝く。その様子を見たターニャがにっと笑みを浮かべた。


「そいつの素材は特別なんだ。矢に精霊の力を込められるように作ってある。エルフのお嬢ちゃんにはぴったりの道具かもね。」

「え!?そんなことができるの?」


 驚きと興奮が入り混じった声でティアが尋ねると、ターニャは満足そうに頷いた。一方、カイルは少し後ろからそのやり取りを眺めていたが、興味に負けて弓矢のひとつを手に取った。金属の微かな振動が指先に伝わり、魔力がわずかに弾けるような感覚が広がる。


「この微かな振動、精霊との相性を測れる仕掛けがあるのか?」

 

 分析するようなカイルの低い声に、ターニャは得意げに頷く。


「その通り。素材に特殊な魔法細工を施してあって、使う人の魔力と調和するように作ってあるんだ。それで持ち主の力を最大限に引き出せるってわけさ。」

「なるほどね……。」

 

 カイルが納得したように言いながらも、値札に視線を走らせる。その額にわずかな苦笑いが浮かぶ。


「だけどこれって結構なお値段なんじゃないか?」

 

 ターニャは肩をすくめ、気楽な口調で返す。


「まあ、いいものにはそれなりの値がつく。でも、学生には割引もあるし、気に入れば相談に乗るよ。」


 その言葉にティアの顔がぱっと明るくなり、カイルを見上げた。

 

「ねえ、これ絶対私にぴったりだと思うんだけど!」

「おいおい、他のやつも見てみないとまだわかんないだろ……。」

 

 カイルは頭をかきながらも、興味を隠せない表情だった。


「まあまあ、焦るなよ。せっかくだから他の武器も見てみよう。カイルは何か気になるものはないのか。」

「僕は剣が気になるかな。少しでも前線で戦えるようになりたい。」


 そういったカイルの瞳は力強いものだった。

 

「それなら、これなんかどうだい?」


 ターニャがカイルの横立ち、軽い剣を持ち上げる。


「あんたは見たところそんなに筋力がなさそうだからね。これくらいの重さがちょうどいいんじゃないかな。」


 剣を手に取り、そっと振ってみる。驚くほど軽く、手に馴染む感触がある。剣の刃には細かな模様が彫られており、光を受けて美しく輝いていた。その模様に触れると、微かに魔力が伝わるような感覚がある。


「これ、何でできてるんだ?」

 

 カイルが興味津々で尋ねると、ターニャは得意げに胸を張る。


「それは、特別な軽量合金と魔法細工で作った剣さ。力のない人でも扱いやすいように設計してあるんだ。魔力を通せば切れ味も強化されるから、前線で戦いたいっていうあんたにはぴったりだろう。」


 カイルは少し驚いた表情を浮かべながら剣を見つめた。

 

「なるほど……確かにこれは良さそうだな。でも、僕に扱いこなせるかな……。」

「何言ってんだい、心配するなって!」

 

 ターニャはカイルの肩を軽く叩きながら言った。

 

「あんたが使いたいって言うならあんた専用にカスタマイズしてやるさ!それがウチの、いいや。鍛冶師の仕事ってことさ。」

「……ありがとう。もう少し考えてみるよ。」

 

 カイルが礼を言うと、ターニャは満足そうにうなずいた。 その背後では、リリスが一本の鞭を手に取りじっと見つめていた。黒光りする鞭の表面には繊細な魔法の文様が刻まれており、冷たい力を秘めたような雰囲気を纏っている。


「竜人のお姉さんはその鞭に興味があるのかい?」

 

 ターニャが声をかけると、リリスは静かに頷いた。


「これ、ただの鞭じゃないわね。」

「お、見る目があるね。それは使用者の魔力を吸ってその魔力と同調して相性を高める細工が施されている。普通の魔力量じゃ扱いきれないが、お姉さんみたいに魔力が有り余ってる人なら問題ない。」


 リリスが鞭を軽く振ると、鞭先から淡い青い光が放たれ、空気を切り裂く音とともに輝きが尾を引いた。

 

「強い分、制御が難しいからね。使いこなせれば大きな力になるのは間違いないね。」

「制御が難しい、ね。」


 リリスの冷静な声が響き、店内の空気が一瞬引き締まるようだった。


「それで、そこの茶髪のお兄さんは何か気になる武器はあったかい?」


 残ったレオンの方を見てターニャは言う。


「俺か?俺にはこいつがあるから特にはいらないかな。」


 レオンはおなじみの動作で手を前に差し出す。青白い光の粒子が彼の手元に集まり、剣の形を形作る様子は何度見ても不思議なもので仲間たちも興味深げに覗いている。

 

「何度見ても不思議な能力だよね」


 ティアの言葉にカイルとリリスが頷く。その様子に苦笑いをしながらターニャに剣を預ける。ターニャはレオンが顕現させた剣をしばらく眺め、興味深そうに言葉を挟んだ。

 

「へえ、異空間から取り出すだけってわけじゃなさそうだね。形も仕上がりも妙に新鮮な感じがする。」


 レオンは少し驚いたようにターニャを見たが、すぐに肩をすくめた。

 

「いや、これはただの【武器庫】だよ。必要な時に取り出せるだけ。それ以上でも以下でもない。」


 ターニャはそれ以上深追いせず、肩をすくめながら笑った。

 

「ふーん、そういうことにしておこうか。でも、あんたの剣、普通の鍛冶屋が作るのとは何かが違う気がする。気のせいかもしれないけどな。」


 レオンは少し困惑しつつも苦笑いを浮かべる。

 

「俺はただの剣士だよ。そんな大層なものじゃないって。」


 ターニャはそれ以上追及せず、軽く手を振った。

 

「まあ、それでもいいさ。あんたとその剣がどれだけ相性がいいのか、戦いで見せてくれりゃ十分だ。」


 そう言い残してターニャは店の奥に向かっていった。しばらくすると様々な手入れ用の道具を持ったターニャが現れる。それらをドサっと机の上に置き各道具の説明をしていく。そうして各々は目的の品を手に入れ、迫る模擬訓練への準備を続けていく。

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