表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強の学園で、最凶の運命に挑む ―それでも、俺たちは運命に抗う―  作者: sakura


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/10

力と技の狭間

「それでは今から模擬戦の組み合わせを発表する。俺の独断で選出する。呼ばれなかった者は自主練習でも観戦でも好きにするがよい。」


 訓練場の空気が緊張に包まれ、ざわめきが収まる。全員の視線がラグーザに集まり、呼ばれる名前に耳を澄ませた。


「まず第一試合はティア・エルウィン対リリス・アルファード」


 ティアは驚きと高揚の混じった表情を浮かべ、一方のリリスは鋭い視線をティアに向けた。


「第二試合はカイル・ヴァルドレイク対イラゼル・ズヴァーク」


 名前を呼ばれたカイルの顔が一瞬青ざめる。それに対し、どこか特徴の掴めないイラゼルは愉快そうに口元を歪めた。彼のその笑みには、不穏な影が感じられるものの、それを指摘する者はいない。


「第三試合はレオン・アースレイン対ライズ・マークベイン」


 レオンとライズが静かに視線を交わす。ライズ・マークベイン、帝国貴族である彼はどこか余裕のある雰囲気を漂わせており、それがレオンの闘志をさらに燃え上がらせるようだった。


「以上の6名で模擬戦を行う。ルールは簡単だ。使用する武器はこの木剣のみ。魔法や精霊の力の使用は禁止とする。勝敗は相手の戦闘不能、または降参で決する。」


 ラグーザの声が訓練場に響き渡る。呼ばれた者以外は自主鍛錬に戻る者や休憩がてら観戦しようとする者など様々であった。


「それでは、第一試合を始める。ティア・エルウィン、リリス・アルファード。準備をしろ。」


 ティアは軽く頷き、木剣を手に取る。軽い準備運動がてら、その場で飛んだり、軽く剣を振っている。その軽快な動きには、彼女の自信がにじみ出ている。一方、リリスは冷静そのものだった。ゆっくりと歩を進めながら、観客席に視線を走らせた。


「ふふ、リリスが相手でも手加減なんてしないからね。」


 ティアが軽い口調で話しかけるが、リリスは短く応えるだけだった。

 

「ええ。手加減はしないわ。」


 観客席では、他の生徒たちが興味津々に二人を見守っている。

 訓練場の中央で、二人が向き合う。ティアは木剣を軽く回し、柔軟な構えをとった。一方のリリスは、足を固めるように腰を落とし、鋭い目つきでティアを睨んだ。


「勝つのは私よ、リリス!」


 ティアが闘志をむき出しにする。


 リリスは微かに笑みを浮かべた。


「その自信だけど勝てるほど私は弱く無いわよ!」


 ラグーザが二人を見据え、戦闘開始の合図を送る。


「始め!」


 合図と同時に、二人は地面を蹴り上げ、訓練場の中央で火花を散らすように木剣が激突した。観客席では、二人の動きの速さに思わず息をのむような声が上がった。


「やるわね、ティア!」

 

 リリスが冷静さを保ちながらも軽く微笑む。


「リリスこそ!」

 

 ティアは楽しそうに笑みを返したが、その瞳には油断の色は一切ない。


 剣が激しく押し合い、つばぜり合いとなる中、二人はわずかな余裕を見せながらもお互いを称え合う。しかし、それが続くわけではなかった。


 リリスが一瞬の隙をつき、木剣を巧みに横にずらす。その動きに引っ張られるようにして、ティアの剣は制御を奪われる。


「しまった!」

 

 ティアの体勢がわずかに崩れた。その瞬間をリリスは逃さない。


「これで決める!」

 

 リリスの木剣がティアに向かって鋭く繰り出される。その軌跡は正確無比で、訓練で培われた冷静さと実力が表れていた。


 だがティアもまたただでは終わらない。彼女は倒れ込むような動きでリリスの剣の軌道をかわしつつ、転倒の勢いを利用して距離をとる。


「さすがリリスね!でもね、エルフの身体能力をみくびらないでよね!」

 

 ティアは素早く立ち上がり、リリスに向けて軽く挑発する。


「ふん、簡単には逃がさないわ。」

 

 リリスは再び剣を構え、鋭い眼光をティアに向ける。


 再び緊張が張り詰める。訓練場にいる観客たちは息を呑み、この二人の高レベルな攻防に目を奪われていた。


「おいおい、これが本当に後衛職の戦いかよ!」


 観客席から歓声が溢れる。どっちが勝ってもおかしく無い攻防に観客席のボルテージも上がってきた。

 

 二人は距離を取ることなく激しく剣を交え続けた。リリスの攻撃は鋭く正確で、竜人族特有の力強さが垣間見える。一方のティアは、エルフ特有の俊敏な動きでそれをかわし、相手の攻撃を受け流す術に長けていた。


(やっぱりリリスはすごいな。全然隙が見えないや。ていうか敵の攻撃を受けながら自分の攻撃をするチャンスを探すのって難しすぎない!)


 ティアは動きながら、リリスの攻撃のリズムを探るように観察を続けていた。だが普段の戦闘では後衛に徹していたティアにとって剣で攻撃を受けるという普段やらない動作にはまだ不慣れな部分が見られる。

 

(素早いだけじゃなくて反応が鋭い。これだけ守りが固いと簡単には崩せないわね……ほんと、敵になると嫌になるわね!) 


 リリスもまた、ティアの動きの柔軟さに苦労していた。防御とは攻撃を受けるだけではないのだと嫌でもわからせられるようだ。


 そんな中、ティアが一瞬だけ踏み込みを深くする。リリスの攻撃を誘うようにして木剣を防御の形に構えた。


「……!」

 

 リリスは一瞬迷ってしまいそこに隙が生まれる。その隙を見逃さずティアが強烈な一撃を仕掛ける。


「読まれてた!?」

 

 咄嗟に防御体勢を取ろうとするリリス。しかし、ティアはその動きを読んでいたかのように木剣の軌道を変えて攻撃を仕掛ける。


「っ……まだだ!」

 

 リリスは体を低くし、ぎりぎりで剣先をかわす。その動きには観客も驚きの声を上げた。


「まさかこれをよけてくるなんて、驚いたよ!」

 

 ティアが口元に笑みを浮かべる。


「そっちこそ、攻撃が鋭すぎて冷や汗ものだわ。」

 

 リリスは軽口を叩きながらも警戒を緩めない。


 再び、二人は間合いを詰めて攻防を繰り返す。互いに一歩も引かないその戦いは、見ている者たちを圧倒した。数分間続いた拮抗状態の中で、徐々に二人の呼吸が荒くなり始める。


(決めるなら次の一撃……!)

(きっと仕掛けてくる。これを防いで反撃すれば勝てる!)

 

 リリスとティア、両者の視線がぶつかる。


 ティアが先に仕掛けた。一気に距離を詰め、勢いをつけて木剣を振り下ろす。しかし、リリスは冷静に見極めてティアの剣を受け止めた。つばぜり合いの状態で、二人の剣が激しく擦れ合う音が響く。


「あなた、意外と力が強いのね。」

 

 リリスが感心したように言う。


「リリスは思っていたより速いよね!」

 

 ティアが笑みを浮かべながら押し返そうと力を込める。


 だが、リリスが絶妙なタイミングでティアの力を受け流すように木剣を横に滑らせた。その動きに引きずられるようにしてティアの体勢がわずかに崩れる。


「……しまった!」

 

 崩れた体勢を立て直そうとするティア。この一撃で終わらせようと攻撃態勢になるリリスだが、ティアの不穏な雰囲気に押されて一歩引いてしまう。


「ふぅ……まだ終わりじゃないわ。」

 

 リリスが木剣を構え直しながら冷静に言う。


 ティアは驚いた表情を見せたが、すぐに笑みを浮かべる。

 

「あちゃあ、今のを見切られちゃったか。次は絶対に追いついてみせるから!」


「私だってあなたを逃さないわよ。さあ、続けましょう。」


 二人の戦いはなおも続き、観客席は熱気に包まれていた。しかし、観戦している生徒たちの中には二人の体力の消耗に気づき始める者もいた。


「二人とも、もう相当疲れてるんじゃないか?」

「いや、それでもまだやめないだろうな……すごい。」


 その予想通り、二人は疲労を見せながらも再びぶつかり合おうと構えを取った。だがその瞬間、ラグーザが手を叩いて試合を止めた。


「そこまでだ!」


 木剣を構えたまま立ち止まる二人。その表情には悔しさと達成感が混じり合っていた。


「見事な戦いだった。お前たちの力と成長の可能性を十分に見せてもらった。」


 ラグーザの言葉に、訓練場から拍手と歓声が沸き起こる。ティアとリリスはお互いを見つめ合い、深く頷いて握手を交わした。


 口元をかすかに上げて二人を褒めるラグーザ。ラグーザに褒められて少し照れたような二人が歩きながら近づき握手をする。


「なかなかだったわ。竜人族を相手に力負けしないなんて。」

 

 リリスは悔しそうでありながらどこかすがすがしそうな顔でティアを称える。


「リリスだって!エルフの俊敏さについてこれるんだからびっくりしちゃった!」


 無邪気な笑顔でリリスの動きの滑らかさを褒める。


 リリスは少しの沈黙の後、穏やかな表情で答える。

 

「あなたと戦ってみてわかったわ。あなたは純粋な速度だけじゃなく、動きの読み合いがうまい。これからも一緒に訓練をしていきましょ。」


 ティアはその言葉に驚いたように目を丸くしたが、すぐに笑みを浮かべる。

 

「私も!リリスと一緒に訓練すれば、もっと強くなれそうな気がする!これからもよろしくね!」


 二人はしっかりと握手を交わした。その様子に観戦していた生徒たちから自然と拍手が起こる。


「いいぞー!またやれー!」「次は決着を見たいな!」


 歓声とともに、二人は歩いて訓練場の外側へと戻る。その間も互いに軽口を交わしながら笑い合っていた。


 ラグーザはそんな二人を見送り、次の試合の準備を進めながら呟く。

 

「ふむ、素晴らしい。まだまだ未熟だが、あの二人は確実に伸びるだろうな。」


 そして大きな声で次の試合を告げる。

 

「次、カイル・ヴァルドレイク対イラゼル・ズヴァーク!」


 訓練場に再び緊張感が漂う。特にカイルはその名を呼ばれた瞬間、眉をひそめた。

 

「クソ……またこいつが相手かよ……」


 対照的に、イラゼルは悠然とした足取りで中央に向かう。その目はどこか底知れない不気味さを感じさせた。

 

「さあて、男子三日会わざればなんとやらというけど、君はどうなのかな?カイル君。」

 

 軽薄な笑みを浮かべたイラゼルの言葉に、カイルは苛立ちを隠そうともせず、剣を構える。


「ふざけるな……その減らず口、言えなくしてやるよ!」


 こうして第二試合が始まろうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ