落ちていた水筒
従姉のYから聞いた話。
Yが住む町にはS川という川があった。
川幅は10mほどで、流れの緩い川だった。
とりたてて特徴は無く、釣りをする人がたまに糸を垂らしているくらいで、地元の人もあまりやって来ることはない。
だから、これといって事故も起きないし、洪水になることもなかった。
そのS川の河原にはたくさんのシロツメクサ(クローバー)が群生する場所があった。
Yは時折友達とそこへ行き、花冠とか作っていたらしい。
そんなある日、Yはうっかり忘れ物をしてしまい、その場所に戻ったという。
その時、辺りはもう夕方になっていて、Y以外には誰も見当たらなかった。
少し心細かったが、暗くなる前に忘れ物を回収したかったYは、自分が滞在していた場所をうろつき、目当ての忘れ物を無事に回収した。
早速戻ろうとしたその時、視界の片隅にある物が目に入る。
それは一個の水筒だった。
ピンク色で人気アニメのキャラクターが描かれた、女の子用の水筒だったという。
明らかに自分の物ではないし、友達の者でもなさそうだ。
そこで無視して帰ればよかったのだが、気の優しいYは「名前か何か書いてないかな?」と近寄った。
落とし主が知り合いなら、届けてあげようとも思ったんだそうだ。
そうして手に取ろうとして、Yは手を止めた。
考えてみたら、自分が忘れ物を取りに戻って来た時、こんな水筒は無かったはずだ。
それは間違いない。
だって、自分の忘れ物を探すために、Yはあちこちを歩き回っていた。
もし最初から落ちていたなら、こんな目立つ色の水筒なんてすぐに目に入るはずなのだ。
少し気味悪いものを感じたYは、拾おうとした手を引っ込めた。
その時だった。
ガコンッ!
突然、水筒がひとりでに陸に打ち上げられた魚のように跳ねたという。
Yにはまるで水筒の中に何かがいて、外に出ようともがいていたように見えたらしい。
肝を冷やしたYは、そのまま一目散に家に戻った。
そして翌日、友達と水筒が落ちていた場所に行くと、そこには何もなかったという。
後日、Yはお祖母さんからある話を聞いたそうだ。
その話によると、水筒が落ちていたその場所は、昔、水子供養のお地蔵さんがあったんだとか。
「水子」は流産や中絶により、お母さんのお腹の中で亡くなってしまった赤ちゃんのことを指す。
最後にYはこう言っていた。
「もしかしたら…お腹の中から生まれたかった赤ちゃんの霊が、水筒(子宮)の中から出ようともがいていたのかも…」
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