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第八章 太陽のマスクと月のマント①

今回は、少し短めですがクライマックスに向けて練り練りしながら書き進めたいと思っていますので、よろしくお願いします!

 パウロは遺跡から出て、整理のつかない頭を抱え夜の林を歩いていた。

 自分が見たフェニックス・へメロは幻だったのだろうか?

「月のマントを取り戻せ」と彼は言った。


 レリーフに描かれたものが、月のマントならば、エスペランサが手にしていたものが、まさにそれのはず・・・


 エスペランサに聞けばわかるのだろうか?何をどう説明すればいいのか?


 林を抜けて、遠くにセント・アンジェリカ教会への道が見えたとき、突然、丘を猛スピードで駆け下りる車列のライトが跳ねるように目に飛び込んだ。


 月明かりに照らされた小道で、パウロは咄嗟に身を屈め、草むらに身を隠した。

 嫌な予感が全身を締め付ける。

 ――エスペランサ!

 心の中で叫びながら、息を呑み、彼は慌てて丘を駆け上がった。


 息を切らしながら教会に辿り着くと、嫌な予感は的中していた。


 扉の前に無造作に投げ出されたローラの骸が目に入ったのだ。

 先ほど見送った車列・・・カルテルの奴らか⁉襲撃されたのだ。


 パウロは教会の扉を跳ね開けて、中に入った。

 教会内は血の匂いが充満し、女たちの半数近くが血を流して倒れている。

 壁には銃弾の痕が生々しく残り、激しい戦闘の跡がそこかしこにあった。


 ――パン!

 銃声が響き、パウロの目の前の長椅子に着弾する。


「パウロだッ・・・」

「撃つな!神父のパウロ・ガウェインだ」

 パウロは屈んだ姿勢で女たちに声をかける。


 生き残った女たちから安堵の吐息が漏れるのを聞いて、パウロは立ち上がった。

「カルテルの奴らの仕業か?」

 問いかけるパウロに「どこに行ってたんですか!」責める口調で、色白で背の高い修道女が言った。


 それに答えず、パウロはもう一度、聖堂に横たわる女たちを見渡した。

 そこに、左腕を届けたフアナの姿があった。

 そのフアナが、何発もの銃弾を浴び、痛ましい姿で骸となっていた。

 夫の左腕を抱きながら、涙を流して復讐を誓った彼女の成れの果てが、これなのかとパウロは奥歯を噛みしめる。


 色白の修道女が、パウロに銃を向けて言う。

「カルテルの奴らに、エスピが攫われました・・・」

 彼女、確かエスペランサはカロリーナと読んでいた、その彼女の瞳に深い恨みが揺れている。

 その恨みの何割かが、襲撃の場に居合わせなかった自分に向けられているのであろうとパウロは思った。


「エスピの命を救いたければ・・・あなたをバレラの屋敷に連れてこいと言われています」

 覚悟を決めた彼女の手は震えていない・・・銃口は真っ直ぐパウロの胸に向けられている。


「わかった・・・わたしはバレラの屋敷に向かう」

「信じられない、わたしがあなたをバレラの屋敷まで連れて行く」

 彼女がそう言うと、残りの女たちも同意するようにパウロに銃を向けてきた。


「いいか、よく聞いてくれ」パウロは女たちに問いかける。

「わたしは、バレラの屋敷に乗り込むつもりだ、襲撃するんだ・・・」


 パウロの言葉にカロリーナの表情が一瞬にして険しくなる。

「そんなことをしたら、エスピが殺されるじゃない!」


「いや、逆だ・・・大人しくわたしを引き渡せば、エスペランサが解放されると思っているのか?わたしもエスペランサも殺されて終わりだ」

 パウロはカロリーナの瞳を真っ直ぐ見つめて言った。


「相手はカルテルだぞ・・・力のない者は踏みにじるだけだ」

 女たちが息を飲む。散々、思い知らされてきたことだった。


「こちらにも力があると認めさせてはじめて、交渉ができる」

 そう言って、パウロは女たちを見渡した。


「成功するかどうか、わからないじゃない」女たちの1人が言う。

 その声に向かって、パウロは言った。

「わからない・・・ただ、これだけは言える」


「大人しくしていたら、確実に失敗する。ここにいる誰も、エスペランサも生き残れないだろう・・・」

 思い沈黙の後、カロリーナが言った。

「わかった・・・ただし、わたしも連れて行って」

 パウロは静かに、しかし、はっきりと首を横に振る。


「あなたをまだ完全に信用したわけじゃないのよ・・・逃げ出すかもしれない、あなたを1人で送り出すわけないでしょ!」

 銃をギュッと構え直して「これは交渉よ、いま、わたしたちには力がある」と言った。


「盾として使ってもいい、エスピを救い出すためにできることをしたいの」

 彼女の視線には、その鋭さとは裏腹に、「お願い」と言っているような切実さがあった。

 ここで、もたもたしている時間が惜しいパウロは「わかった・・・」と直ぐに退いた。


「教会にある武器をすべてバンに積み込め、それから・・・」

「エスペランサが持って帰ったマントはどこにある?」

「地下の礼拝堂・・・マリア様の像に着せていたわ」

「それを取って来てもらえるか」

 カロリーナは、まだパウロを完全に信用できないようで、かたわらの女に取ってくるように言うと、彼に銃口を向けたまま留まった。


 パウロはその警戒心を評価した。


 訓練は重要だが、実戦でしか身につかない動きがある。

 覚悟もそうだ。


 昼間とはまるで違う、覚悟に満ちた女たちの雰囲気が、頼もしい。


 準備が整うまで、いくぶんの時間を要した。

 武装を整え、倒れた女たちを聖堂に並べて寝かせた。


 カロリーナが運転席に、パウロは助手席に、武装した女たちが後部座席に乗り込んだ。

 パウロは手渡されたエスペランサが奪ってきた布をまじまじと眺める。


 これが月のマント?マントというには長さが足りない気がする。肩掛けくらいの丈しかないのだ。

 だがしかし、確かに遺跡で見たレリーフと同じ、文様が刺繍されている・・・

 これが月のマントだ、パウロは信じることに決めた。


 ただ、月のマントを手に入れたことをどうやってフェニックス・へメロに伝えればいいのか・・・

 思いつかないうちに、バンは教会の門を出た。

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