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第九章 メヒコ・ザ・グレート・スーパー・スター⑤

 フリオを床に叩きつけ、フェニックス・へメロとなったパウロはゆっくりと身を起こし、マスクを整えた。そして、部屋を飛び出す。


 一気に廊下の奥へとやってくる。

 階段の最上段からドロップ・キックの体勢で階下の扉へ飛びかかった。

 圧倒的なパワーを前に、扉が弾け飛ぶ。


 へメロは突入すると受け身を取るようにして転がり、敵の攻撃に備えた。

 彼を迎え撃つものはなかった。


 部屋に女の遺体が転がっている。

 へメロは警戒しながら、女の遺体へと近づいた。

 見覚えのある顔だ、パウロとして一度、会っている。

 バレラの妻、確か名はクラウディア・・・・


 へメロは顔を上げ、部屋を見渡した。

 どこかに隠し扉があるはずだ。

 へメロはファイルが収まる棚を次々に押し倒した。

 重い音が響き、紙が宙に舞う。それでも隠し扉は見つからない。


 へメロは再び女の遺体を覗き込む。

 足でまといとなって彼女は殺されたのであろう。

 その恨みは如何ばかりか。頼めば答えてくれる気がして「教えてくれぬか・・・・」と声をかける。

 当然、答えはない。


 へメロは、一瞬目を伏せて、考える。

「⁉」

 何かを見落としたような気がして、部屋を見渡す。

「違う!」部屋じゃない。


 へメロは再度、女の姿へと目をやった。

 胸から大量の血が流れ出て、血溜まりとなっている。

 その血が綺麗に吸い込まれている一角がある。


 へメロは血が流れ込むタイルの隙間に指をかけた。

 そして、ぐっと持ち上げる。

 冷たい風が底から吹き上げ、マスクを撫でた。


 ーーーーーーー


「何よ!どうしたらいい?」

 エスペランサは、ダスト・シューターを駆け上がったパウロを見送り、キッチンで頭を抱えていた。

「わたしを助けに来たんじゃなかったの……?」

 その時――


「エスピ! エスペランサ! どこにいるの?」

 甲高い声が響いた。カロリーナだ。


「ここよ、カロリーナ!」

 エスペランサは叫びながら廊下へ飛び出す。


 カロリーナが両手を広げて駆け寄ってきた。

 エスペランサも走り寄り、その腕に飛び込む。

 二人はしばし、言葉を忘れて抱き合った。


「くっさ!」

 カロリーナが顔を背け、鼻をつまむ。

「ひどい匂いよ、エスピ……どんな拷問を受けてたのよ」


「その話は後よ」

 エスペランサは、苦笑しながらも真剣な眼差しで言った。

「カロリーナ、パウロを追わなきゃ」


 ーーーーーーー


 ――バン!

 地下通路で発砲する音が響く。


 何度目だろう、バレラは何者かが追いかけてくる気配に銃を向ける。

「くたばってたまるか・・・へメロ、テメェが俺を畏れるんだ、思い知らせてやる」そう自分に言い聞かせる。


 出口へと続く梯子に手をかけ、ハッとして引き金を絞った。

 カチッ。――乾いた音。

「クソッ!」

 弾は尽きていた。銃を地面に叩きつけ、バレラは口を強く引き結んで、梯子を登る。


 蓋を押し開けると眩しい光が差し込んできた。

 夜が明けたのだ。


 光に目が慣れるのを待てず、半分目を閉じて梯子を登りきる。

 立ち上がった、その時――

「だ、誰だ!」思わず大声を上げるバレラ。


 窓際のテーブルに腰掛ける人影があった。

「お待ちしておりましたよ、エル・カルニ」

 年老いた男の声だった。

 バレラは、柔らかい声音に、一瞬、味方かと思ったが、光に慣れてきた目が自分に向けられている銃を捉える。

「テメェなにもんだ⁉」

 年老いた男は、バレラの問いかけを無視して呼びかける。


「エル・カルニ、聞いてほしい、話があるんでさぁ」

 穏やかな声と裏腹に、向けられた銃口が冷たく光る。


「ここへ、座ってください」

 バレラは男を睨む。早くここを抜け出さなければならないのだ。


 バレラは言う。

「いくらだ?いくら欲しい?」

「?」年老いた男が片眉を上げた。

「金だよ、金。いくらだ?」

 それを聞いて愉快そうに年老いた男が笑みを漏らす。


「そうこなくっちゃ、さすがエル・カルニ」

「例えばですよ・・・家族を殺された恨みってのは、いくらになります?」

「そりゃ、オメェ、殺された家族にもよるだろうよ」

 バレラがそう答えた瞬間、銃声が響いた。


 パラパラと埃が朝日を反射させながら落ちる。

 年老いた男が天井を撃ったのだ。

「エル・カルニ」変わらない声音で、年老いた男が尋ねる。

「あんたの命はいくらだい?」


 ーーーーーーー


 エスペランサとカロリーナは、恐る恐る破壊された扉をくぐった。


 穴の空いた床。その横に、ひとりの女が静かに横たわっている。

 二人は引き寄せられるように歩み寄り、冷たくなりつつある身体を抱きしめた。


「こんなことって……」

 カロリーナが、押し潰されるような声で言葉をこぼす。


 やがて二人は、そっと女の体を床へ戻す。

 エスペランサはその瞳を優しく閉じた。

 まぶたに触れた瞬間――彼女から流れ込むように、女としての悲しみ、母としての怒り、人としての憤りが胸を焼いた。


 エスペランサは深く息を吸い、カロリーナと目を合わせる。

 二人は無言のまま頷き合うと、意を決して穴を降りた。


 狭く湿気ったトンネルに中、カロリーナが自分を鼓舞するように呟く。

「我らは、クアウトリ・ピリの遺志を継ぐもの。

 我らはフェニックス・へメロであり

 わたしはフェニックス・へメロである」


「なに?」と訝しそうにエスペランサが振り返る。

「お、おまじない」とバツが悪そうに答えるカロリーナ。

 トンネルの奥から闘争の気配がビンビンと伝わってくる。

まだ、終わらない・・・ん、ぐうぅうう。苦悩しております。応援していただけるとありがたいです!

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