表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

妹になった俺と、男に目覚めた妹――奪われた身体を取り戻すための歪な駆け引き

作者: きせまる

 ある日のこと。俺――かえではリビングへ向かいながら、なんとなく「妹はいいよなぁ」と考えていた。


 妹・はるかは小柄で可愛らしく、家族の中でもどこか“自由”に見える。


 いつでも甘えられるし、両親や周りからは守られる存在。


 一方、俺は兄としての責任や期待があり、日々そこから逃れられない。


 ――妹になれるなら、もっと気楽なんだろうか。


 そんなぼんやりした思いを抱えたまま廊下を曲がった瞬間、向こうからやってきた遥と勢いよくぶつかってしまった。


「うわっ、ごめん!」


 思わず声を張り上げてしまうと同時に、視界がぐるん、と反転する。


 突然のめまいに襲われ、倒れそうになるが、不思議と痛みは感じなかった。ただ、“一瞬”の暗闇の後――


「……え?」


 目を開けると、そこに見慣れた自分の身体……ではなく、俺とは違う小柄なシルエットが映っていた。


「なんだ、これ……?」


 手を目の前にかざす。細い。肌もやわらかい。声を出そうとすると、予想外に高いトーンが響く。


 まさか、入れ替わった――? そう思った瞬間、廊下の向こうで“俺の身体”が立ち上がりながら、驚いたように呟くのが聞こえた。


「お、お兄ちゃん……? ど、どういうこと……?」


 こうして、俺と遥の奇妙な入れ替わりが始まったのだ。




 入れ替わりの初日は、ただただ混乱したまま過ぎていった。


 結局、その夜は説明をする余裕もなく、お互い困惑しつつも翌朝を迎えた。


 しかし、何より奇妙だったのは、遥の身体で感じるすべてが、“過剰”と言えるほど敏感に伝わってくることだった。


 シャワーを浴びるときや、衣服が肌にこすれるとき――自分が知っているはずの感触が、なぜか何倍にも増して感じられる。


 夜、布団に入って目を閉じるときには特にそれが顕著で、身体がゾワリと落ち着かない。


「な、なんだよ、これ……」


 あまりにも生々しい感覚に、最初は恐怖すら覚えた。


 まるで“この身体”が俺の思考とは別に、自分の欲求を主張しているように感じられて仕方がないのだ。




 ある日のこと。シャワーを浴びようと風呂場に行くと、なぜか備え付けてあったはずのお気に入りのシャンプーのボトルがほぼ空っぽになっているのに気づいた。


 慌てて飛び出すと、ちょうど「兄の姿」をした遥が風呂場から出てくるところだった。


「ねえ、お兄ちゃん、私のシャンプー勝手に使ったでしょ? 高かったのに……!」


 とっさにそう言った瞬間、自分で言葉を発しておきながらハッとする。


 ――“お兄ちゃん”と呼ぶ感覚が自然になっている。しかも、「私のシャンプー」だなんて。


「あ、ああ……あれ? 普通のと何が違うんだ? 匂いが良かったから、つい……」


 男の声で返事をする「遥」を見ながら、思わず顔が熱くなる。


 なぜこんなに腹が立つんだろう。昔なら「まぁ仕方ないな」で済んだはずが、この身体だと、どうにも感情が昂りやすい。


 ――これも“妹の身体”の影響なのか。


 まるで、身体そのものに自分が引きずられているようで、怖い。


「(本当に……こんなの変なのに)」


 目の前の“兄になった遥”が、どこか楽しげに俺を見やる。


 その視線が、なにか“興味”を含んでいるような気がして、背中にゾクリとした感覚が走る。




 一方、兄の身体に入れ替わったはずの遥は、最初こそ戸惑っている様子だったが、次第に“男の身体”を扱うことを楽しむようになっていった。


 実はこの世界では、“自分の身体に対する性的な興味”が、魂を肉体に強く定着させる一因になるらしい。


 男としての強い身体的欲求を覚えはじめた遥は、加速度的に「男」に近づいていったのだ。




 入れ替わって数日後。


 遥――いや、“兄として暮らす遥”は、驚くほど自然に男の身体に馴染んでいた。


 見た目も言動も、以前の妹の頃とはまるで違う。


 俺――“妹として暮らす楓”は、夜ごと押し寄せるこの身体の欲求と戦いつつ、どうにか元に戻る方法を探っていた。


 そんなある日、遥が俺に不意に声をかけてきた。


「ねえ、“はるか”。実は、入れ替わりについてちょっとわかったことがあるんだ」


 “はるか”と呼ばれ、俺はドキッとする。妹としての呼称に慣れてしまいそうな自分が怖かった。


「わかったこと……?」


 遥は男の体格で肩をすくめながら、少し得意げに言う。


「どうやら、“同時にお互いの立場を強く望んでいて”、なおかつ“密着”することで入れ替わりが起こるらしい」


「それって……あの日、ぶつかったときに、同時に『妹はいいよな』と『兄はいいよな』って思ってたから?」


 言いながら、俺は当日のことを思い出す。


 確かに、ぶつかる前、俺は心の中で「妹って楽そうだな」なんて羨んでいた。


 遥のほうは「お兄ちゃんでいたら自由そうだな」と思っていたのかもしれない。


 遥は軽く笑う。


「そう。だからあのとき入れ替わってしまったんだと思う。単なる偶然かもしれないけど、これは事実みたい」


 それを聞いて、俺の中に希望が芽生えた。


 ――じゃあ、また「元に戻りたい」と同時に思って、身体を密着させれば、戻れるんじゃないか?


 けれど、その期待は次の瞬間に打ち砕かれることになる。




 夜、リビングで向かい合う形で座った俺たちは、話し合いを始めた。


「今すぐやってみよう。お互い『元に戻りたい』と思えば、いけるんじゃないか?」


 俺がそう言うと、遥はわざとらしく首を振る。


「悪いけど、“かえで”の身体を返すつもりはないんだ」


「は……? ちょっと待てよ。ふざけるな。お前、俺の身体を……」


「だって、こっちのほうが快適だし、面白いんだ。もう自分が男として生きていくのも悪くないと思ってる」


 面白いーその言葉に、ゾクッとする。“俺”の体で、一人で、何をしてるんだ……


「逆に、“はるか”だって、『妹の身体』をそれなりに楽しんでるんじゃないの?」


 そんなはずはない。それなのに、はっきり「返したくない」と言われた瞬間、頭が真っ白になる。


 つまり、遥は本気なのだ。このまま二度と戻すつもりはない。


 絶望が胸を締め付ける。けれど、諦めるわけにはいかない。どうすればいい? ここで取るべき最後の手段とは……?




 俺は一計を案じ、わざと遥を挑発することにした。


 鍵となるのは、“性的な興味が身体への定着を加速させる”という事実。


 俺の元の体、楓の姿でいるあいだ、遥は男としての欲望をどんどん強めてきた。


 逆に、そうなってしまえばこそ、“妹の身体”への性的興味を持つ可能性があるのではないか――という逆転の発想だ。


「……お兄ちゃん、“女”の身体って、面白いんだよ」


 そう笑いながら言うと、遥の目が一瞬だけ揺れた。俺の“妹の身体”を見つめる視線が、微妙に熱を帯びている。


 それを見逃さず、俺はさらに言葉を重ねる。


「いろんなとこが敏感で……ねえ、知りたい?」


 男として定着しつつある遥――つまり、今は“兄”の身体を持っている存在――が、それを聞いてゴクリと唾を飲む気配がした。


 その一瞬、“性的好奇心”が遥の理性よりも強くなる。まさにそれが狙いだ。


 遥は無意識のうちに、俺――“妹”へ向けて身を乗り出してくる。


「――――っ!」


 そこに起こる、あの感覚。視界が反転し、身体の奥底がぐるぐると回転していくような――。


 またしても、強烈なめまいが起こるのを感じた。


「まさか……」


 それは、“二人が同時に強く思った”からに他ならない。


 遥が“妹の身体”への興味を抑えきれず“知りたい”と願い、俺は“この身体を元に戻したい”と強く思った。


 しかも、俺たちは密着と呼べるほどの至近距離にいる。


 結果は言うまでもない――




 気がつくと、俺――楓は自室のベッドで目を覚ましていた。


 腕を動かすと、以前の自分の腕だ。声を出してみると、低い男の声。


 慌てて隣の鏡を見れば、そこには紛れもない“俺”の姿があった。胸を撫でおろす。どうやら、成功したらしい。


 一方で、妹の遥はというと、部屋の外で俺の元へ駆け寄ってきた。


 妹の姿をした遥が、少し憮然とした表情でぼそりと呟く。


「……最悪。お兄ちゃんの策略にハマった」


 どうやら、遥はその瞬間の“好奇心”を引き金に、意図せず入れ替わりを起こしてしまったのだ。


 それでも、元に戻った安堵と、今後どうなるかという不安が同時に湧き起こる。


 あの体験を通して、自分の中にあった「妹への羨望」は思った以上に強かったし、一方の遥も「兄の身体」でしか得られない快感を覚えてしまった。


 そして何より、いつまた“同時に入れ替わりたい”と思ってしまうのか分からない。


 生活をしていれば、ふとした瞬間に「兄がいい」「妹がいい」と感じることがあるかもしれないのだ。


 ――だが、今はとりあえず、日常が戻ってきた。


 大きく息を吐いて、俺は考える。もし、また入れ替わりが起こったら……今度こそ完全に“あっち”の身体へと馴染んでしまうのかもしれない。


 その恐怖と、ほんのわずかな興味を心の片隅に抱えながら、俺と妹の日常は続いていく。

読んでいただきありがとうございます!


少しホラーな内容ですが、楽しんでいただければ幸いです。

感想、評価、励みになります!



今回の作品は短編ですが、TS物も連載中です!


服に着られて変身してしまうドタバタTSコメディー

「ひかりくんは進化系!?服に着られて『完璧な』女の子に!」ぜひチェックしてもらえると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ