タイトル未定2024/08/05 17:59
夏休みに入り、バスケ部の練習に明け暮れていたある日のこと。
部活動を終え、誰が言い出したのかわからないが、俺たちはなんとなく涼を求め、肝試しに出掛けた。
通学途中に古い病院があって、そこは院長が亡くなって以降、人の管理がないまま老朽化が進み、ずっと廃墟となっている。
立入禁止の貼り紙はあっても、柵などは無いから部外者が入り放題で、俺も以前冷やかしに行ったことがある。建物の中はひどい有り様だった。窓ガラスは割られ、家具や備品は盗まれたか、残っているものはどれも壊されている。レジ袋や酒瓶などのゴミが散乱し、落書きもし放題だった。ある意味その荒れ具合は、お化け屋敷にぴったりだ。
建物の中を進むと、一番奥に手術室がある。その手術台に日本人形が置いてあるから、一人ずつ順番に行って、スマホで写真を撮ってくるというのが、今回俺たちが決めた肝試しのルールだ。
男四人でジャンケンをした。負け残った俺が一番となり、早速スマホのライトをかざし、暗い廃病院の中へと入って行った。
いきなりカビ臭い匂いが鼻をついた。虫の泣き声が不気味に聴こえ、壁の薄汚れた黒ずみが人影のように見えてドキッとした。以前、昼間来たときとはぜんぜん違う。すっかり雰囲気に飲まれ、浮き足立ってしまった。辺りを観察する余裕もなく、やる事をやって早くここから出ようと急いだ。
突き当たりとも行き止まりともいえる部屋に人形はあった。薄汚れた手術台の上に寝かされている。朱色の着物を身に着け、おかっぱの黒髪に白い顔。人とはかけ離れた気味の悪い黒目がまさにホラーで、これはいつも思うことだが、俺には日本人形の良さがちっともわからない。
「ったく、愛嬌のない顔しやがって」
横たわった姿をカメラに収めると、俺は脇目も振らず来た道を引き返していった。
立ち代わりに二番手が向かい、待つあいだ、他の連中に中の様子を教えてやった。
それから数分後、何事もなく二人目も戻ってきて三人目が入っていった。
間もなく三人目も無事戻ってきた。
「それじゃあ、お化け退治に行ってくるぜ」
ラストの四人目が一番度胸がある。陽気にケツを振って屁をこきながら行くから、俺たちは爆笑してしまった。さらにウケを狙いダッシュで入っていった。そんなお調子者の彼を見届け、三人で撮ってきたスマホを見せ合った。
はっとし、俺たちは互いに息を飲んだ。
中へ入っていった彼を呼び止めようと声をかけたが返事はなく、俺たち三人は、もう一度廃病院に入って行くしかなかった。
──あの人形は普通じゃない。手術室の中を動き回ってる