第二章 セラピア地区3
「一体どういうことだ!?」
セラピア地区のハブポート。レンガ造りの趣ある建物のそのフロアに、アメリアの絶叫が響き渡る。赤い瞳を丸くしているアメリア。唖然としているその彼女に、受付カウンタの女性が困り顔で頭を下げる。
「本当に申し訳ありません、お客様」
「申し訳ありませんって……」
アメリアは丸くしていた瞳を瞬かせ、受付嬢の言葉を自身で繰り返す。
「予約されていた転移装置は使用できない? 貴女はいまそう言ったのか?」
「ええ……まあはい。確かにそう言いました」
「一体どういうことだ!?」
アメリアは再び絶叫すると、カウンタに身を乗り出して受付嬢に顔を近づけた。
「そんなこと在り得ないだろ! 事情をちゃんと説明してくれ!」
「事情……ですか? それはその……致し方ない都合によりと言いますか」
「だからその都合を教えてくれと言っているんだ!」
アメリアの剣幕に受付嬢が「えっと……その……」と狼狽する。どうも理由を口止めされているようだ。しばしの逡巡の後、受付嬢が声を抑えてぼそりと言う。
「実はその……レームブルック不動産様にポートを使用させるなと……そのような指示がされたようでして……私としてもどうしようもできないと言いますか」
「ポートを使用させるなと――指示?」
受付嬢の言葉をオウム返しに繰り返して、アメリアは困惑に眉をひそめた。
「なんだそれは? 一体誰がそんな指示を出したというんだ?」
「それは私も知らなくて……とりあえずカウンタから降りてもらっていいです?」
受付嬢が遠慮がちにそう言う。アメリアはしぶしぶカウンタから降りると――勢い余り乗り上げていた――、カウンタに立てかけていた剣をまた胸に抱き直した。
一体何者による指示になのか。そもそもハブポートは国により運営されている。そのような公共施設に指示を出せる人間など数少ないはずだ。
(相応の権力者による指示か……しかしどうして私たちの邪魔をする?)
ここでふとクルトとカタリナの様子に気付く。ポートが使用できない異常事態。だが二人は困りながらも特に驚いている様子がなかった。怪訝に首を傾げるアメリア。クルトがやれやれと頭を振りつつポツリと呟く。
「何かしら邪魔してくるだろうと予想していたが……こちらの足を封じてきたか」
「あの女のやりそうなことだわ……ほんと面倒くさい」
クルトに続いてカタリナもぼやく。二人のその様子にアメリアは慌てて尋ねる。
「な、なんだその態度は? まさか二人にはこの指示が誰のものか分かっているのか?」
「ま、十中八九あいつだな」
「ほぼほぼ間違いないわね」
どうやら本当に心当たりがあるらしい。クルトとカタリナが二人同時に嘆息する。するとそのタイミングをまるで見計らっていたかのように――
「おーほっほほほほほ! 何やらお困りのようですねえ!」
高飛車な笑い声がフロア中に響き渡った。
周囲の迷惑も顧みない大きな笑い声に、アメリアは考えるより先に声に振り返る。フロアにいる大勢の利用客。その彼らを退かせながら一人の女性が姿を現した。
二十代前半と思しき美しい女性だ。毛先が波打った長い金色の髪に、金色の睫毛に縁取られた碧い瞳。赤い紅が引かれた唇。一見して上等な白いスーツを着こなしており、各所に施された意匠やフリルが花弁のような鮮やかさを演出していた。
ハイヒールを鳴らしながら歩いてくる金髪の女性。その彼女をどこか呆れ顔で眺めているクルトとカタリナ。金髪の女性が二人の前に立ち止まり挑発的な微笑みを浮かべる。
「どうもトラブルに見舞われたようで、これからお仕事だというのに残念でしたね」
芝居がかった口調の金髪女性に、クルトが「よく言うぜ」と黒い瞳を半眼にした。
「全部お前が仕組んだことだろうが。つくづく余計なことしてくれるな」
「あらあら、一体何のことなのでしょうか?」
「こんな真似お前にしかできねえだろ。隠す気もねえのに無意味にとぼけるなよな」
「ふ……バレてしまっては仕方ありません。その通ぉおおおおおおおりです!」
金髪の女性が自身を誇るように背筋を伸ばして形の良いその胸に手を当てる。
「確かにこのようなことは、この私――マイヤーハイム不動産の社長令嬢にして、開拓部部長でもあるイザベラ・マイヤーハイムにしかできないことでしょう! よくぞ見破りましたね! 褒めてあげますわよ! おーほっほほほほほほほほほ!」
高笑いする金髪の女性。その正体を知り――というか不自然に自己紹介していた――アメリアはぎょっと目を見開いた。イザベラ・マイヤーハイム。マイヤーハイム不動産の開拓部部長ということは、マイヤーハイム不動産に開拓者として雇用されていたアメリアにとっては、顔を合わせたことはないが直属の上司であった女性ということになる。
高笑いを止めない金髪の女性――イザベラに、クルトが溜息まじりに独りごちる。
「俺たちがエルピダ地区の開拓に参加していることをマイヤーハイム不動産に知られた時から、何かしらちょっかい掛けてくるんじゃねえかと心配してたんだよな」
「……やっぱり他社の開拓者なんて見捨てたほうが良かったんじゃない?」
カタリナが青い瞳でちらりとアメリアを見やる。何やら好ましくない方向に話が進みそうで、アメリアは「ちょっと待ってくれ!」と慌てて声を上げた。
「この人がハブポートに指示したと!? マイヤーハイム不動産は確かに大手不動産ではあるが、そのようなことが本当に可能なのか!?」
「ふふふ……それが可能なのですよ。なにせマイヤーハイム不動産は――ん?」
勝ち誇るように説明しようとしたイザベラが、アメリアの姿を見つけてポカンと目を丸くする。唐突に動きを止めたイザベラにきょとんと首を傾げるアメリア。イザベラの額にじんわりと大粒の汗が浮かんで、その全身が何やらガタガタと揺れ始めた。
「こここここ……この子ははははは……いいいいい……一体……まままさか……」
クルトとカタリナを指差して、イザベラが信じられないとばかりに声を震わせる。
「ままままさか……貴方がた二人の……ここここ……子供ぉおおおお?」
何とも衝撃的な勘違い。無表情のまま頬をほんのりと赤らめるカタリナ。どうやら照れているらしい。下手したら肯定しかねない彼女よりも先にクルトが呆れ口調で言う。
「んなわけあるか。こいつは開拓者。呪いに感染してこんなナリになってんだよ」
「おーほっほほほほほほ! 分かっていました! 分かっていましたよぉおお!」
イザベラがあっさりと調子を取り戻して、アメリアの質問に改めて答える。
「私たちマイヤーハイム不動産は開拓業務において高い実績を上げています。このセラピア地区もまたわが社により開拓された土地であり、さらにここハブポート一帯はわが社が国に無償提供したものです。その恩からここの職員は私たちを無下にできなのですよ」
「あらかじめ恩を売りつけておいて後から無茶な要求を突きとおす。まあ政治的手法としてよく聞くようなやり口だな」
「さっさと指示を撤回してくれない? これじゃあ仕事にならないのよ」
クルトの独りごとに続いて、カタリナがウザそうにそう話す。カタリナの要求にイザベラが「ふふ」と小さく笑い、優雅な仕草で両腕を組む。
「それはできません。エルピダ地区は私たちマイヤーハイム不動産が開拓する土地ですからね。貴女がたレームブルック不動産の出る幕など有りませんわ」
「競争するなら正々堂々とすれば? こんな小ズルいやり方なんてダサいわよ」
「非難されるのは心外ですね」
カタリナの悪態にイザベラがのんびりと頭を振る。
「未開拓地の獲得は不動産業界内の戦争と言えます。競争相手の妨害行為など大なり小なり誰しも行っていることでしょう。貴女がたもそうではありませんか?」
カタリナが沈黙する。まさにマイヤーハイム不動産の機密情報から他社を出し抜こうとしているカタリナにとって耳の痛い指摘だったのだろう。反論できないカタリナをちらりと一瞥して、イザベラが「でもそうですね」と考える仕草をする。
「これでは貴方がたが余りに不憫。態度しだいでは私も指示を取り消しましょう」
「這いつくばって靴でも舐めてほしいのか?」
「それはそれで面白いとは思いますが……私が何を言うかなどお判りでしょう?」
クルトの皮肉にはさして取り合わず、イザベラが一歩足を進める。クルトのすぐ目の前まで近づいたイザベラが、その表情に勝気の笑みを浮かべたまま手を伸ばし――
クルトの右手を優しく握った。
「クルト・ホーエンローエさん。わが社は開拓者である貴方と専属契約を結びたいのです。今度こそ頷いては貰えませんか?」
イザベラの意外な言葉に、アメリアは無関係な立場ながら驚愕した。マイヤーハイムは国内屈指の大手不動産会社だ。その専属の開拓者となれば一生の安泰が約束される。開拓者ならば誰もが断る理由などないだろう。
だが当人であるクルトは喜ぶどころかむしろ迷惑そうに顔をしかめていた。クルトの手を握ったまま離そうとしないイザベラに、カタリナが「ちょっと」と声を鋭くする。
「いい加減に諦めてくれる? クルトはうちの開拓者でどこにもいかない。そう何度も言っているはずよ。それとどさくさにクルトに触るのやめてちょうだい?」
カタリナがそう言いながら、クルトに体を寄せて彼の左腕を抱きしめる。無表情を険しくさせるカタリナに、イザベラもまた表情をムッとさせて口早に言う。
「貴女には聞いていません。私はクルトさんにお尋ねしているのです。そもそも彼のような優れた開拓者が小さな不動産でくすぶるなど業界全体の損害に他なりませんわ」
カタリナに負けじとイザベラもまたクルトの右腕を抱きしめる。カタリナが険しくさせた無表情に苛立ちを混ぜ込んで、抱きしめたクルトの左腕をグイっと引く。
「どの不動産で働くかはクルト自身が決めることよ。そしてクルトはうちを選んだの。他人の貴女にとやかく言われる筋合いない。いいからその手を離して」
カタリナに引かれた分、イザベラもクルトの右腕を引き寄せて碧い瞳を尖らせる。
「それは彼が温情深いからです。彼の善良な心を利用して劣悪な環境に縛り付けるなど言語道断。彼は私のそばにいるべき人。貴女こそその手を離しなさい」
「誰の会社が劣悪環境よ。貴女の会社こそ黒い噂が絶えないじゃない。クルトに犯罪者の片棒を担がせるなんてそれこそ言語道断よ」
「うちは至ってクリーンです。そちらこそ聞きましたよ。他社の開拓者を闇討ちして行動不能にしたと。何と恐ろしいことでしょう」
「あれは向こうから仕掛けてきたの。貴女だってこの前、契約金未払いで揉めたくせに」
「それは先方の誤解であったと解決済みです。適当なことを言わないで下さらない?」
「揉めていたこと自体は事実じゃない。適当なことを言っているのは貴女よ」
「いいからその手を離しなさい。クルトさんが迷惑しているではありませんか」
「貴女から先に離してよ。呼んでもないのに現れて勝手なこと言わないでくれる?」
言い合いをしながらカタリナとイザベラがクルトの腕を交互に引き合う。口調こそ冷静な二人だが、その言葉の節々には相手に対する明確な敵意が感じられた。
「ああ……モテモテの――俺」
女性二人から腕を引っ張られながらクルトがなぜか渋い顔でそうポツリと呟いた。クルトの馬鹿げた感想に呆れつつ「何でもいいが……」とアメリアは嘆息混じりに言う。
「さっさとこの状況をどうにかしてくれ。仕事にならない」
「俺がどうにかするのか?」
「クルトさん以外に止める人がいないだろ」
クルトが両脇にいる女性二人をちらりと一瞥する。「馬鹿」や「女狐」など低次元な悪口合戦に発展している二人。クルトが何やら納得したように「ふむ」と頷いた。
「確かに俺がどうにかするのが早そうだ」
「分かったのならすぐそうしてくれ」
アメリアの催促にクルトが思案顔をする。打開策を考えているのだろう。彼をぼんやりと眺めて待つこと十秒弱。沈黙していたクルトが何かを思いついたのか――
ニヤリと牙を剥いて笑った。
「――ほい」
クルトが両腕を掴んでいる女性二人を器用に剥がす。掴んでいた腕をあっさり抜き取られカタリナとイザベラの体勢が崩れた。その隙を狙うようにクルトがイザベラの肩を掴んで後ろに押しやる。困惑顔のままクルトに押されていくイザベラ。フロアに立てられた柱に彼女の背中を押しつけて――
クルトが彼女に急接近した。
「ふぁ……ふぁあああああああ……クク……クルトさん!?」
大企業の社長令嬢である自負か。どこか超然とした態度であったイザベラ。その彼女が年相応の女性らしく顔を真っ赤にして動揺を顕わにする。彼女の逃げ道を塞ぐように柱に両手をついて、クルトがイザベラの赤く染まった顔に自身の顔を近づけた。
「イザベラ……何も言わず目をつぶれ」
「めめめ……目ですか!?」
「さっさとしろ。俺の命令が聞けねえのか?」
「ああ……あああああ……」
赤く染めた顔をさらに沸騰させて、イザベラが碧い瞳をグルグルと回転させる。
「めめ……命令されているのですね? この私が……このイザベラ・マイヤーハイムが……殿方に命令されているのですね? この私がぞんざいに扱われているのですね?」
「ドンくせえ奴だな。目をつぶれってのが分からねえのか?」
「すすす……すみません! 今すぐに――えっと……ここ……こうでしょうか?」
イザベラが言わるがまま目を閉じる。ピンと背筋を伸ばしてクルトに無防備な姿をさらすイザベラ。心なしか彼女の唇が何かを期待するようにすぼめられていた。金色の睫毛をふるふると震わせている彼女を前に、クルトが懐から極太の縄を取り出して――
イザベラの体を手早く縛り上げる。
「――ほへ?」
イザベラが閉じていた瞼を開ける。状況が理解できないのだろう。縛られた自身を見下ろしてきょとんと目を丸くするイザベラ。クルトが困惑している彼女の肩にポンと手を置く。そして何かブツブツと呟いた後――
「うらぁ! よく聞けテメエら! マイヤーハイム不動産の社長令嬢を人質に取った!」
クルトが唐突にハブポート職員を脅迫した。
「そ……そんな、イザベラ様!?」
「な、なんだ!? 人質って言ったか!?」
クルトの脅し文句に騒然とするハブポート職員。そして偶然居合わせた利用客。カタリナがイザベラに近づいて――なぜかサングラスとマスクを着用――いつの間にか手にしていた拳銃をイザベラに向けた。ここでようやくイザベラも状況を理解したのか――
「にぃやあああああああ! 何ですか!? これは一体何なのですかぁあああ!?」
癇癪を起したように騒ぎ始めた。
「こいつをぶっ殺されたくなければ俺たちが予約していたポートを開けやがれ! 妙な真似すんじゃねえぞ! 俺の相方は人語を介さない殺戮兵器! 何するか分からねえぜ!」
「にゃんにゃん」
クルトの出まかせに応じてか。カタリナが可愛らしく猫の鳴きまねをする。確かに人語を介していないが多分そういうことではない。だがそれなりに効果はあったのかハブポートの職員の顔がみるみると蒼白になった。
「そんな……一体どうすれば?」
「なな……何を迷っているのです!?」
混乱している様子の職員にイザベラが急かすように声を荒げる。
「このままでは私が殺されてしまいます! すす、すぐにポートを開きなさい!」
「し、しかし先程までイザベラ様とその方々は普通に話をしていませんでしたか?」
「貴方は何も理解していないのです!」
至極まっとうな指摘をする職員にイザベラが碧い瞳に涙を滲ませた。
「この方々は手段を選ばない人たちです! 必要があれば殺人に手を染めることに躊躇などありません! いいえ! 必要がなくとも嬉々としてやりかねない危険人物ですよ!」
「そ……そんな恐ろしい奴が――」
「理解されたのならポートを開きなさい! 今すぐにです!」
イザベラに怒鳴られて職員が慌てて手元にある端末を操作する。受付カウンタのすぐ横にある扉が自動で開かれた。ポートとフロアをつないでいる通路の入口。クルトがニヤリと笑みを浮かべてアメリアに振り返る。
「それじゃあ行こうぜ、アメリア」
「……」
アメリアは敢えて何も言わずに開かれた通路へと足を向けた。クルトとカタリナ、そして人質のイザベラもまた開かれた通路へと駆けていく。受付カウンタで怯えている職員を横切り通路に入る。そしてしばらく無言のまま通路を進んだところで――
「……まったく、相変わらず無茶をする人たちですね」
目尻に溜めていた涙をあっさり引っ込めて、イザベラが苦笑交じりにそう言った。縛られたまま軽快に走っているイザベラにクルトがクツクツと笑う。
「迫真の演技だったじゃねえか。まさか涙まで流すとは恐れ入ったぜ」
「涙は女性の武器ですよ。女性ならば好きな時に泣くことぐらい誰でもできます」
イザベラもまた可笑しそうに微笑んで碧い瞳を挑発的に細めていく。
「何にせよ……貴方がたの茶番にはお付き合いして差し上げました。約束通りに報酬は頂きますよ。デート一日でしたよね?」
「ん? まあ……そうだな」
どうやら騒ぎの最中に――恐らくイザベラを縄で縛り上げた直後――そのような取引がされていたらしい。カタリナがサングラスとマスク越しでも分かるほど露骨に不機嫌になる。どす黒い気配を発するカタリナにクルトが言い訳するように口早に言う。
「仕方ねえだろ? そんな条件でもねえとポートを開けてもらえねえんだからよ」
「……だからこの女が関わるのはイヤなのよ」
カタリナがぼそりと愚痴る。
おおよその状況を理解してアメリアは足を止めないまま嘆息した。アメリアはクルトとイザベラの取引を知らない。だがクルトがこのような短絡的な犯罪をするような人間でないことも把握していたため静観していたのだ。ただひとつ疑問が残る。
「イザベラさんがその条件で言うことを聞いてくれるなら、職員に出した指示をただ取り消してもらえば良かったんじゃないのか?」
わざわざ騒ぎを起こす必要などないはずだ。このアメリアの疑問に、クルトが「それも悪くねえが」と前置きしてから答える。
「ああいう下っ端連中は上の命令がねえと動けねえもんだ。仮にイザベラが指示を取り消せと連中に話しても、それを上に報告して許可が下りるまで待機させられる。そんなの待ってらんねえだろ。だがイザベラを人質に取られて脅されたとなれば、連中だって悠長に上に確認するようなことはしねえさ」
「そんな僅かな時間を短縮するために、あのような騒ぎを起こしたのか?」
「下手したら数時間かかる。馬鹿にできないぜ? あと強いて言うなら――」
通路の階段を駆け上がりながらクルトがニヤリと牙を剥く。
「そっちのほうが面白れえからだ」
それは冗談なのか。それとも本気か。階段を上り切りクルトが足を止める。彼に続いてカタリナとイザベラ、そしてアメリアも足を止めた。四人の正面にある扉。その扉に貼られた銀のプレート。そこに記載されている四桁の数値をクルトが黙して確認する。
どうやらこの扉の先にクルトが事前予約していたポートがあるらしい。ポートの転移先は未開拓地のエルピダ地区。そこに設置されたレストポイントだ。そのレストポイントから目的の場所まで速やかに移動し――
エルピダ地区を開拓する。
「……と、そうだ。あの茶番をした理由がもう一つあったな」
クルトがふと思いついたように呟く。気を引き締めつつもクルトの言葉に耳を傾けるアメリア。クルトが扉の前へと移動しながらあっけらかんとこう言った。
「イザベラが取引を拒否した時は、ガチの人質にしてポートを開けさせればいいだろ?」
またまた冗談なのか本気なのか。
扉の前に立つクルトに反応して――
ポートへの扉が自動で開いた。