進む勇気vs戻る勇気
とても短いですし、ひねりは無いのでお気楽にどうぞ。
とある建造物を前に、手を繋いだとある男女のカップルが立ち竦んでいた。
「ねえススム、私達はここまで来たのよ?」
「そ、そうだね。 カエ」
これだけ。
たったこれだけの言葉を交わしただけで、繋がっている手をより強く握り合う。
「私達が付き合いだして、もう大分経つしさ」
「う、うん」
「もう、良いよね?」
「そうだよ、ね。 うん、そうだと思う」
この立ち竦む2人の姿は、近くを通る人に丸見えだった。
そしてこの2人を見た通行人達は様々な感情が胸に湧き、時間に余裕のある通行人は足を止めて遠巻きに野次馬する構えを見せた。
こんな衆人環視の中、その野次馬にすら気付く余裕がない2人はまだ立ち竦んでいる。
「ドキドキするね」
「そうだね、ド……ドキドキしてるよ」
建造物を、ゆっくり見上げる2人。
その見上げている2人の胸には、今までの出来事が回想されているのだろう。
その証拠に手が、もっともっと強く握られる。
見上げるのをやめ、建造物の入口を見据えたススムは、しっかりハッキリした声…………は無理でとても弱々しく怯えた様な声色で、宣言した。
「オレ達にはまだ早い。 帰ろうか」
ススム、戻る勇気を発動!
それに対するカエは急にスンッと無表情になり、ススムとの手を振り払い、2歩ほど下がると――――
「え? なになに?」
どごぉぉぉっ!!!
「おぅふっ!!?」
――――ススムの尻めがけて見事なフォームで廻し蹴りをした。
その見事な蹴りと音の割にはススムが痛そうにしていないのを見る限り、おそらく見かけだけの蹴りなのだろう。
それはそれとして、カエの眉が吊り上がる。
「お前から言い出しといて、ここまで来といて、ラブホから逃げようとすんじゃねえ! 行くよっ!」
…………そう、建造物とはラブホの事。
この初々しい2人は、ラブホの前で立ち竦んでいたのだ。
カエがススムと手を繋ぎ直し、引っ張るようにラブホへ突入して行く。
残ったのは、それはもうニヤニヤが止まらなくなった野次馬ばかりだった。
(関係性を含めた)進む勇気 WON!!
なお野次馬からすればラブホへ入る事より、その前でマゴマゴしている方が恥ずかしいと思うぞって思われていた模様。
それと、なんとなく書き終わってから思いついたのが、ススムは一心進歩で、カエが加江礼奈なんて名前はどうですかね?




