タツマキマキマキ
すっごい難産でした。
戦闘描写、魔物の設定を考えるのは難しいです。
ハクたちは討伐依頼を受注した。
内容はテラリオンの毛皮、牙、骨の納品。
テラリオンはライオンや虎のような大型の猫科動物をイメージしてもらえば話が早い。
食性は当然肉食である。
本来山や森の奥地に生息しているが衣類の素材となる低級の魔物の数が討伐により減ったことで餌に困り、その活動圏が少しずつ広がっていることが近年問題視されている……ちなみにこれは他の大型肉食魔物にも同じことが言える……。
分厚い毛皮に覆われた巨体とそれに似合うパワーと鋭い爪はそれだけでも十分な脅威だが、さらに知能も高く魔法すら放つ……気性も獰猛だ。
そんな危険な魔物の分布が広がれば当然討伐に赴くギルドメンバーが遭遇して死亡するケースも増える。
難易度は高いがその分報酬も多額だ。
直接戦闘を不得意とするハクとケイトの2人だけではあまりにも分が悪いが、4人なら戦えるはずだ。
街の外の魔物の森へ入り、移動する4人。
途中ヴォルプスやサラマンドラ……これは火を吹くトカゲだ……の群れと遭遇したが難なく倒し、退け奥へと進む。
……いた。
草で作ったベッドの上で身体を丸めて寝ている。
間抜けな寝顔を晒しているが、辺りに他の魔物の気配がしないのはその力を恐れているからか。
ハクはケイトに目を配る。
頷くケイト。
引き絞る矢に風の魔法を込める。
テラリオンの保有属性は土だ。
放たれた矢がテラリオンの右目に突き刺さる。
「グオォォォ!?」
激痛に目を覚ますテラリオン。
あわよくばそのまま風魔法で貫通力を高めた矢が脳まで届けばと思ったが、情報通り大した防御力だ。
立ち上がりながら右目に矢が刺さったまま、残った左目で4人を一瞥した。
凄まじい怒気だ。
どちらかの命が尽きるまで戦いが止まることは無いだろう。
「行くぞ!」
レンの合図で取り囲むように散らばる。
固まっていては纏めてやられる可能性が高い。
ハクは試しに風のシュリケンを左目に目掛けて投げてみるが、身体を捻って躱される。
流石に警戒しているか……視界を奪うのは期待できなさそうだ……
ハクはそう判断する。
「関節を狙うよ!」
目というわかりやすい急所が届かない以上、ターゲットを変える。
人間も魔物も問わず、関節というのは構造的に他の部位より脆い。
それでもテラリオンの分厚い毛皮を突破するのは容易ではないだろうが……
「吹き荒れろ!」
ケイスが杖を振るい、首を目掛けて竜巻を放つ。
前足でガードするテラリオン。
それは読んでいた。
初めから前足にダメージを与え攻撃力と機動力を同時に奪うつもりだった。
大きな前足に無数の切り傷が刻まれる。
「……チッ」
だが浅い。これでは大したことは無いだろう。
「グオッ!」
「おっと!」
隙を窺っていたレン目掛けて爪が飛んできて躱す。
ガッ!
空ぶった前足が近くの木を真っ二つに切り裂く。
直撃すれば魚のように3枚に下ろされるだろう。
「流石に辛い……なっ!」
「グオォッ!」
「っ! 回避っ!」
反撃を放とうとするレンだったがテラリオンが土魔法を発動する。
地面が隆起し、岩が現れる。
4人それぞれに目掛けて岩が飛んでくる。
ドゴンッ!
地面が抉れる。
これも食らえば即死だろう。
小さなクレーターを見てハクは身震いした。
テラリオンがこちらを見る。
次の狙いは自分か……!
岩が飛んでくると同時に横に転がるハク。
前を見上げると前足が迫っていた。
「なっ……」
岩はブラフ!?
テラリオンの顔が嘲笑うように見えた。
「ハクっ!」
叫ぶケイト。
眼前に迫る前足がスローモーションに映る。
ここで終わるのか……?
「風よっ!」
「うわっ!?」
横から突然吹く突風に吹き飛ばされるハク。
どうやらケイスが風魔法で避けさせてくれたらしい。
「すみません、ケイスさん!」
「こういう時はお礼よ!」
「ありがとうございます!」
離れた距離から言葉を交わす。
「オラァッ!」
「風刃っ!」
レンが魔法を放った隙を狙い、右の後ろ足の腱に斬撃を、ケイスが左の後ろ足に風魔法の刃を浴びせる。
「グオッ!?」
ここで目に続いて明確なダメージを与えられた。
「今っ!」
下半身が使い物にならなくなり膝を着いた隙を突いてケイトが左目に矢を放つ。
「グゥゥゥッ!」
ついに両目の視界を奪われるテラリオン。
「っ! 退がれっ!」
だが決着にはまだ早い。
「グオァァァァァァッ!!」
土魔法で生み出した岩を辺り構わず飛ばしまくる。
狙いなんて何もないそれはどこに飛んでくるか直前までわからず、避けるのに精一杯でこれでは近づけない。
何か方法は……一瞬で近づき、厚い毛皮を貫く手段は……さっきの突風。
「っ! ケイスさんっ!」
閃くハクがケイスに大声で作戦を伝える。
「正気かハクっ!?」
「そうだよっ!」
聞いたレンとケイトが叫ぶ。
「これしか思い浮かばないっ!」
「君も無傷では済まないわよ! それでも良いっ!?」
「はいっ!」
飛んでくる岩を避けながらケイスの元へ行くハク。
「それじゃあ行くわよ!」
「お願いしますっ!」
「吹き荒れろっ!」
ハクの背中に竜巻が吹き荒れ、凄まじい勢いで吹き飛ぶ。
「ぐぅっ!」
「ハクぅっ!」
ケイトの悲鳴が聞こえる。
背中に無数に刻まれる切り傷、痛み。
だがこれで良い。
ハクの身体が一気に加速する。
「おぉぉぉぉぉぉっ!」
飛んでくる岩を風魔法を纏ったコダチの斬撃で破壊しながらテラリオンに肉薄するハク。
狙うは……首!
「セイヤァァァァァァッ!!」
一閃。
分かたれる頭部。
倒れる身体。
背を傷だらけにしながら着地して振り返ると物言わぬ骸となったテラリオンが横たわっていた。
「はは……良し、やった……」
「ハクっ!」
緊張が抜けて倒れ込む身体を急いで駆け寄って支えるケイト。
「バカっ! 心配したんだからっ!」
「痛い痛い痛い! やめて!」
ぽかぽかと叩くケイトに悲鳴をあげるハク。
「全くヒヤヒヤさせやがるぜ。東の国のやつは命知らずなのか?」
「本当ね。私も背筋が凍ったわよ……」
その後ハクはケイスの回復魔法で傷を癒して復帰した。
○
「流石に帰って飯食うのは遅いな。このまま済ませるか」
「そうですね」
解体を終えるころには昼時を過ぎていた。今から帰って食べたら早めの夕飯だ。
携帯食料を取り出す一同。
魔物の肉を食べることも不可能ではないが、魔物は火を恐れないので火起こしは目立つだけで特にメリットが無い。
強いて言うなら食事の質が高まるくらいか。
「「「「………………」」」」
みんなで黙って携帯食料を食べる。
一般的にはナッツなどの木の実や麦などの穀物を混ぜて作られたものだ。
ハクが口にしているのはコメ、ゴマ、大豆をすり潰したものを混ぜ、蜂蜜と油を加えて練った黒いボール状のものでヒョウロウガンと呼ばれている。
味はナッツと麦、甘いゴマ。それ以上でも以下でもない。
特に気分が上がるものでもないので淡々と補給を済ませるのだった。
「それで、パーティの件、どうかしら?」
「あっ、そうでした」
今回の目的を思い出す。
「僕は一層加わって欲しいと思いました。連携も上手く取れましたし」
「わ、私も……ハクのこと助けてくれたし……」
ケイトは複雑な顔をして渋々といった様子だ。
「それじゃあ決まりだな。これから大型討伐は4人でやっていこうぜ」
「改めて、よろしくね」
そうして新たな仲間が加わった。
4人は来た道を引き返し、街を目指すのだった。