多分、風(属性)。
お腹が空いて皮と服だけのペラペラ状態で風に飛ばされました。
自室に戻ったハクはユカタを脱いで下着姿になり、愛用している衣装に袖……と言っても袖など無いのだが……を通す。
ひらひらと揺れる前掛けの下を隠すようにスパッツを履き、ニーソックスに足を通していく。
ちなみにこれは爪先部分が親指だけ分かれている。タビと呼ばれる東の国の靴下だ。
そしてグローブを身につけ、長いマフラーを首に巻いて着替えを終える。
「ハクー! ケイトちゃん来てるわよー!」
はーい!と母の呼び声に返事する。
武器であるコダチと道具をしまう為のポーチを腰に巻いて玄関に行くと弓と矢の入った筒を背負った同い年の少女が立っていた。
「ハク、おはよう!」
「おはようケイティ」
彼女の名前はケイト・テイラー。通称ケイティ、ハクの幼馴染だ。
「今日は討伐? 採取?」
「討伐!」
彼女もギルドのメンバーだ。
魔物討伐検定の等級は準2級。
ハクと比べれば見劣りするかもしれないが、14歳の少女が取得しているのは十分優秀と言える。
ハクは玄関で脛当てと一体化した東の国のサンダル……ゾーリを履き、2人で外に出た。
○
「依頼を受け付けました。お気をつけて」
集会所で依頼を選び、受注して街の外へ向かう。
今回の内容はヴォルプスの牙と毛皮を8体分の納品だ。
素材の納品は討伐の証明になり、その後卸されて衣類や武具へ加工、街に並ぶという訳だ。
ヴォルプスとは我々の世界で表現するならば中型の狼のような魔物で常に群れで行動する。その数と鋭い牙、素早い動きが特徴で決して油断ならない相手だ。
等級が上がり調子に乗ったギルドのメンバーがヴォルプスの群れに全身を貪られて死亡するのは良くあることだ。
「おっ、ニンジャと弓の嬢ちゃん、討伐かい? 気をつけて行くんだよ」
「もし危なくなったら僕が殴ってでも止めますよ」
「ひどーい! 私そんなに弱くないもん!」
街の門の前で警備兵の男と言葉を交わして外に出る。
街同士を繋ぐ道はある程度舗装されているがそこを外れれば魔物たちのテリトリーだ。
しばらく移動して昼頃。
標的である魔物の住処である森へと入り、互いに武器を手に背を向け合いながら進む。
背後からの奇襲はギルドメンバーの死亡理由の上位だ。
そのため魔物狩りは最低でも2人組で行動することが推奨されている。
通りかかりにある薬草や木の実の採取も忘れない。こういった素材はいくらあっても困ることはない。
ちなみに資格には薬草採取検定と魔道検定もある。
ハクは薬草採取検定2級と魔道検定2級も取得していた。
1級は研究職レベルで、魔物狩りに重きを置くハクとしてはチャレンジする気は無かった。
しばらくして空気が変わる。
殺気だ。
見渡すと複数のヴォルプスが低い唸り声を上げながら2人を囲んでいた。
数は……
「12体か。多いな……行ける?」
「もしもの時は守ってね。頼りにしてるよ」
刺激しないように小さな声で会話する。
「ガウッ!」
先に動いたのはヴォルプスの方だ。
ハクの側から3体が同時に飛びかかる。
「ふっ!」
「キャインッ!?」
空中で体勢を崩し、倒れる3体のヴォルプス。
ハクが瞬時に風魔法のシュリケンを放ったのだ。
目を切り裂かれてのたうち回るその首にコダチを突き立てて息の根を止める。
後ろを見るとケイトが4体のヴォルプスに炎魔法を纏った矢を引き絞っていた。
放たれた矢は頭蓋に深く突き刺さり、脳を損傷して倒れる。
「あー。悪くはないけど、良くもないよ」
「何で? ヴォルプスの保有属性は風でしょ?」
魔法……東の国では術と呼ぶ……の属性は火、水、風、土の4種類。
火は風に強く、風は土に強く、土は水に強く、水は火に強い。
人間や魔物には保有属性というものがある。
不利な属性の魔法を受けることで大きなダメージが入るのだ。
そのためそれを見極めて有利な属性で攻撃することがセオリーである。
そして対人戦では己の保有属性を悟られないように立ち回る必要がある。
個人の保有属性を聞くことはマナー違反とされ、家族にも話さない者が多い。
ケイトの保有属性は火。ハクは風……だと思っている。
自分がどの保有属性なのかは感覚でわかるそうなのだが、ハクにはいまいちわからなかった。
風魔法が得意なため、風ということにしている。
閑話休題。
ハクがケイトに説明する。
「火属性じゃ毛皮が痛む。他の属性で仕留めた方が状態が良い」
「なるほど」
ヴォルプスの1体に水魔法を纏った矢を放つケイト。
口の中に入ると水が溢れ出し、呼吸できなくなったヴォルプスはもがき苦しみ、やがて動かなくなった。
「グル……」
仲間を8体瞬く間に殺された残りの4体は後退り、背を向けて逃げ出した。
今回の依頼は8体分だったので後は追わずに見逃す。
「流石に12体相手はキツいね……」
「うん。そろそろ本格的にパーティを探しても良いかもしれない」
少し緊張を解く2人。
ハクは魔物狩りのプロだが直接戦闘は苦手なのだ。
仲間と呼べる者はケイトしかいないので複数で真正面からかかられるとひとたまりもない。
周囲への警戒を怠らずにヴォルプスの死骸の解体を始めた。
○
「依頼達成です。報酬はこちらになります」
集会所に戻り素材を納品する。
「お金大好きなハクなのに珍しい」
「人聞きが悪いよ。ケイティの方が多く倒したから当然でしょ」
報酬はケイトの方が多く分けられた。
ハクとしては労働に見合った対価があればそれで良いので守銭奴という認識は無いのだ。
「ああ。それと……」
カウンターで受付をしている中年女性に1つ頼み事をして、集会所を後にした。
男の娘の絶対領域たまんね〜。
とてもスケベな格好だと思います。