報酬の行方
ちょっと短めです。
「大変申し訳ありません!」
「頼むぜ〜。こっちも命賭けてやってんだからさぁ」
貴族の男をギルドに引き渡した後、手違いがあったことへの謝罪にネチネチと小言を言う賞金稼ぎの男。
「まあ過ぎたことを責めても現実は変わりませんよ。報酬の相談をしましょう」
少女がそう言ってテーブルの席に着き、2人分のコップに水を注ぐ。
「お、気が効くね。ありがとうよ」
向かい側の席に座り水を一口飲む賞金稼ぎ。
ことのあらましはこうだ。
騎士団がマヨネーズ密造の手引きを行った人物の捕縛を依頼、それと同時に少女の名義で受注。
しかし犯人の情報が漏れ、それとは別にギルドが依頼を出したのだ。
「それで、分けるってことで手を打ちませんか?とりあえず 7:3でどうでしょう」
ナチュラルに自分の取り分を多くしようとする少女。
「いや、8:2で良い。俺が来た頃にはお嬢ちゃんが依頼内容をほぼ達成していたからな」
「っ! ありがとうございます!」
少女がパァッと目を輝かせる。
側から見たら愛らしいがとんでもない守銭奴だな……と賞金稼ぎは思った。
「それじゃあ…」
「嫌だぁぁぁ!俺にはあれが……あれが無いと……!」
「うるせぇ! さっさと歩け!」
カウンターに戻ろうと席を立ち上がった時に男の泣き叫ぶ声が会場に響いた。
どうやらマヨラーがまた捕まったらしい。
逮捕されたマヨラーは更生施設へと送られる。
毎朝6時起床、労働などの日中活動、栄養バランスの整った食事。
健康的な生活を経て真っ当な人間へと戻して社会に送り返されるのだ。
「……今回の件で落ち着くと良いな」
「だな。しっかしまあ、マヨネーズってえのはそんなに美味いもんなんかね?」
「さあ……コメに魚……肉でも良いな。後は野菜とミソシルが出りゃそれで満足でしょう」
後はタクアンかノザワナのツケモノがあれば最高。と言う少女。
「俺はパン派だからな。ベーコンにレタス、トマトを挟めりゃそれで良い」
料理へのこだわりを語り合いながらカウンターへ向かう。
そういうことで報酬を分け合った2人はギルドの集会所の外へ出た。
「金貨が80枚……減ったのは残念だけどこれだけあれば……うふふ」
「なあ。お嬢ちゃん名前は?」
「はえ?」
賞金稼ぎの問いに間抜けな声を漏らす少女。
「ハクです。ハク・シキシマ」
「そうか。異国情緒溢れる良い名前だな。俺はレン・フリーデンスだ」
ここまで来てようやく自己紹介をする2人。
「じゃあな、ハクのお嬢ちゃん。世界は平らだが縁は巡る。また会う時も来るかもな」
「その時はよろしくお願いしますね」
それぞれ家路に着く。
多額の報酬を得たハクは半ばスキップしながら街を歩いていった。
○
「ただいま〜」
早朝のしんと静まり返った自宅にハクの小さな声が響く。
返事は無い。
家族は寝ているようだ。
ハクはニーソックスを脱いで素足になると洗い場で足を洗い、ユカタと呼ばれるルームウェアに着替えて自室に入り布団の中で眠りについた。
主人公の名前の由来はとある大不評だった実写映画の登場人物です。
特撮描写は迫力あったのにもったいない……
ハク(白)というのは単純に黒い衣装が映えるという意図もあります。