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シキシマ:異世界忍法譚  作者: 杉浦総一
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ニンジャでゴザル

初めまして。

拙作ですがよろしければ読んでいってください。

とあるアパートの一室。

衛生帽子にエプロン姿の女性が数人、大きなテーブルの上で作業をしている。

ボウルの上で卵を割って卵黄と卵白に分け、卵黄に塩と酢を加えて混ぜ合わせる。そこに油を少しずつ加えて混ぜていく。しばらくすると油が完全に混ざり合い乳化して色が白っぽく変わる。

それを確認したらパックに詰めていく。

一連の流れを彼女たちが黙々と行なっている。


ドン!


その沈黙が突然破られる。


「きゃあ!」


「騎士団だ! 両手を上げて膝を着け!」


ドアが蹴破られ、軽装の鎧に帯剣した男たちが雪崩れ込んでくる。

そして女性たちは成す術なく捕縛された。



「これでこの街も3件目か……」


「多いんですか? こういうことって……」


「あぁ、お前は今日からの新入りだったな」


年齢は40も手前のベテラン騎士が若い新米騎士と会話する。


「多いよ。潰しては生え潰しては生え、まるで膿みたいだ」


「あれも膿みたいな見た目ですもんね……」


「ははは、お前シャレがわかるか!」


あれ。先ほど摘発したアパートの一室で作られていたものとは。

マヨネーズ。かつて異世界より現れた人間が広めた禁断の調味料。

卵黄に塩、酢を混ぜ、油を加える。たったそれだけで完成するそれには強い中毒作用があり、食べてしまった者は何にでもマヨネーズをかけてしまうのだ。

脂質による肥満、動脈硬化、心筋梗塞、死亡。

かつてマヨネーズ中毒者たちに訪れた健康被害は深刻な社会問題となった。

現在、マヨネーズは製造・販売・所持は法律によって禁止されている。

しかし、違法に生産されたマヨネーズが高値で取引され、それによって人生を狂わされてしまう人間が後を絶たないのが現状だ。

そうした中毒者をマヨラーと呼び、取り締まりの対象になっている。

もはや新たなる社会問題だ。

そしてマヨネーズの密造はアパートの部屋を借りて行われることが多いため、発見に時間がかかる。

決め手となったのは材料をそれぞれ分けて購入しに行った姿を見た近隣住民からの通報だった。


「それで、あの部屋の借人は誰になってる」


別の部下に聞く。


「はっ! 架空の人物となっておりました!」


またか……とため息をつくベテラン騎士。


「また振り出しに戻った……ってことですか?」


「いや、そうでもないさ。だろ?」


「ええ」


「うわっ!?」


いつの間にか騎士たちの隣に小柄な人物が立っていた。


「き、君、ここは関係者以外は……」


ベテラン騎士が手で制する。


「よせ。この子は俺が呼んだ。こんな見た目だが腕は信用できる」


新米騎士が改めて突然の来訪者を見る。

小柄で華奢な体格の少女だった。年齢は13から15歳くらいか。

赤いマフラーで口元は隠されているがその上の瞳は大きく、整った容姿をしていることが想像された。

その身体は丈の短い黒い異国風の衣装に身を包んでいた。剥き出しの手足は同じく黒の指抜きグローブとニーソックスに覆われている。

存在は聞いたことがある。東の国のアサシンで名前は……


「……ニンジャ?」


「あぁ。それでシノビガール。どうだった?」


「はい。偽の個人情報を売っていた方を『説得』したら、バッチリ」


少女が資料を渡す。顔から住所、家族構成まで全てが載っていた。


「ちょ、ちょっと先輩、これはマズいんじゃ……!」


騎士団が裏稼業と通じているなんて大問題だ。


「青いねぇ。誰かが手を汚すことで治安が守られる。世の中ってそういうもんなんだよ」


「流石、人生の先輩の言う言葉は違いますね」


茶化すなよ。と少女と笑うベテラン騎士に新米騎士は小さな少女にその汚れ仕事を任せていることに複雑な気持ちを抱いた。


「それで、せっかく元締めを探ってくれたところに悪いが、俺たち騎士団は腰が重い。制圧に向かっても話を聞きつけて先に逃げられちまうだろう……だから引き続き頼めるか。報酬は弾む」


報酬という言葉に少女がぴくりと反応する。


「やる! やります! やらせてください!」


ものすごい勢いで依頼を飲む少女。


「今夜の内に片付けますよ〜!」


「おう、ギルドには俺から伝えておくから」


「あっ、待ってくださいよ先輩!」


笑顔で意気込む少女に手を振って現場を後にするベテラン騎士。

新米騎士が彼を追いかける。


「大丈夫なんですか? あんな女の子に危ない真似させて。もしかしたら死んでしまうかも……」


不安を語る新米騎士にベテラン騎士が笑う。


「あの子は魔物討伐検定1級だ。そう簡単に死ぬタマじゃないさ」

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