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液状化少女  作者: 長瀬
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第4話 膨張する  

「私と妹の凛、あと君のクラスの清水。この3人は確実に、君らと同じように記憶を保ったままループしてるってことさ」


 陸枝先輩は椅子に座ったまま下からのアングルでそんなことを言う。なんというか……えっちだなぁ。女の子は上目遣いをするときだけ扇情的不可視光を射出しているので、僕の発情は科学的な根拠に基づいた当然の反応だ。適当言ってんじゃないよ。


 ……今割と重要なこと言ってなかったか?





「記憶がある……?ループに気づいてたってことですか!?」


「うん」




 ”うん”じゃないですけど。こんな大事なことを”うん”で済ませちゃうなんて……先輩らしいなぁ!可愛いから全部許せちまうぜ!先輩になら利用されても怒りを通過せず光栄至極ですね。陸枝軍師に導かれるまま戦火で身を焦がすところまで達したころ、先輩の目線が見定めるようなものから、呆れた様子に変わっていた。




「まったく……君に揺さぶりをかけようとした私が馬鹿だったよ」


「揺さぶり!?僕にですか!ひどいなあ」


「少しもひどいと思ってないくせに」




 じっとりとした目もいいですね先輩。




「このループ、認識していない人の方が多そうだったからね、黙っておいた方が後々有利になるとおもったんだ。まあ、清水は朝教室で騒いでたみたいだけど」


「ヘエ清水が」


「そう清水、清水椎矢。君の知り合いだったね。私に聞くよりは彼に聞いた方が、いろいろとスムーズに進むと思うよ」


「清水が……?あいつそんな情報通なんですか」




 そんな印象はないけどな。めんどくさいからあまり関わりたくないんだけど。


  ……というか先輩が清水のこと知っているのか。あいつそんな有名人だったか?




 先輩はいつの間にか取り出した万年筆をくるくるとまわしている。視線は壁に向かっている。髪は風ではためいて、油のにおいが強くなってくる……


 そうだ、先輩の絵を邪魔して話しているんだった。長話しちゃ悪いしそろそろ行かないと。先輩にノーマルの筆ではなく万年の筆を握らせていることに自責の念を感じつつ、なぜ万年筆を持っているかどうかへの思考へと飛ぶ前に、後ろから……つまり廊下側から女性の声がした。




「啓一」


「あ?」


「今日休んだでしょ。どうして?」




 声の主はよく知る同級生。反応して振り向く前に二の矢を放ってくる。見ると腕組をして冷ややかな目線を送ってくるところだった。




「どうしたもこうしたもない。体調が悪かっただけだ」


「じゃあなんで来てんの」


 食い気味に食い下がってくる。常に同じ棘で武装した奴で、それはいつ会っても変わらない。気分に左右されない分幾らか良心的かもしれないな。態度は全く良心的じゃあないんですけど。




「由紀ちゃん、あまりこいつを責めないでやってくれ。私に免じてさ」


「あなたに免じる程の効力があるかどうか疑問が残りますけど。あなたには関係ないですよね、黙っていてくれませんか?」


 先輩は肩をすくめた。


「私はあんたに聞いてるの。体調が悪かったなら家で休んでおけばいいじゃない。この子に会うのがどうしても……どーしても今日じゃなきゃいけなかったの?」




 黙っていれば可愛らしい面しているんだけどなぁもったいない。宝の持ち腐れと言いたいところだけど、宝と言うには癪なので”持ち腐れ”とし、女性に腐れなどと宣うのはこのご時世まずいので、餅みたいにもちもちした顔と紹介しておく。触ったことはないから案外固いのかもしれないけど。




「もち……もちろん今日じゃなくても別にいい。大したことのない、急用とは正反対の用で来た。午後には体調がよくなってしまって、暇だったから訪ねたんだ。それだけだよ」


 急用ということにすると、話していたことを根掘り葉掘り聞かれそうだし……何もなかったことにしておこう。ループのことは知らなそうだ、下手に言い広めない方がいいだろう。


「全然信じられない」


 本日二度目のジト目だけどこっちはあまり嬉しくないな。優しいジト目の方でお願いします。


「というか別にお前に関係ないだろ。仮にお前に信じられなかったとして、どうするってんだよ。休んでいた人間が、放課後に学校に来ていたところで別に悪いことをしたわけでもない」


「そうかも……しれないけど」


 いままであった有り余る勢いが幾分か削がれた。冷静に考えれば怒る理由なんてないはずなのに、何をとち狂ってるんだ。河合、お前いつもそんなんじゃあなかっただろ。 


 そんなことを彼女に言ったら、更にしょんぼりしていった。喉元にまで突き付けていた棘が収束していく、珍しくもとの可愛い河合に成っていく。




「けど、やっぱりおかしいじゃない、そんなの。休んでいたあんたがわざわざ来るなんてこと今までなかったし、なんだか今日はクラスもおかしいし……」


 クラス?あー先輩がさっき清水がどうとか言ってたな。清水はもとからおかしいから仕方ない。


「気にすんなよ。月曜日の学校なんて大体おかしいもんだ」


 河合は押し黙ってしまった。こんなに早く折れるなんて本当に珍しいな。今日の教室で、清水の奇行以外に何かあったのだろうか?少し弱っているように見える。


 河合の様子を見てか背後で先輩が立ち上がり、近づいてくる。




「じゃあキリもついたし、家に帰ると良い。そろそろ貝無先生が来る頃だしね」


「!…………そうですね、失礼します。今日はありがとう」




 手をひらひらと振る先輩と美術準備室を後にした。




 僕が言った礼に対して河合が眉をひそめたが、気づかないふりをした。





 ******










あちらに見えるのは高校生でしょうか?同じでしょうか?声は届かないのに肉は親機に向かいます。


「」


腕を保有しない彼女はとても苦しそうです。  はあらぬ方角を指す眼球とは無関係に揺蕩わせているようです、ホシとモノと肉に区別はなく、すべては平等に、  が公正に見出されるのでしょう。性に神性を見出すこともなかったのに。









『上へ』









 ******




 河合を準備室から連れ出した後、無気力ぶりがかなり心配になったので家まで送ることにした。……と言ってもまともな会話がなされることもなく、陸枝先輩への用を聞かれて、それをはぐらかすだけの時間が最後まで続いた。




 形式上はデートに当たるかもしれない状況を、全身全霊で浴びることができなかったのは、別れ際の先輩の行動に起因する。


 別れ際先輩はさり気なく、僕のポケットに紙を仕込んでいた。「家に帰ってから読んでほしい」と耳元で囁かれた僕が、正常な思考でいられるはずがない。




 家に帰り急いで折りたたまれた紙を開く。愛の告白かどうかを真っ先に確認したが、どうやら違うらしい。字体からして僕と河合が話していた間に殴り書いたようだった。




 


【まだニュースにはなっていないが、今日の朝怪奇な事件があった。美術部の1年が腕を失くしたらしい。これは君が言っていた日羽君のに似ているんじゃあないだろうか?これを調べてみてほしい。】






 そして、思い出したように手紙の最後に、文の頭に「そういえば」と付けて軽く、されど重要なことを付け加えていた。


【ここは監視されている。会いに来るときは気を付けてくれ。】





 全く、先輩らしい。

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