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大怪獣逆襲キモラス対デスビッチ

作者: なろうスパーク

※この作品は執筆にAIのべりすとを使用しています※


渋谷が沈む!新怪獣デスビッチ復活!

まけるなキモラス!超音波キャノンでやっつけろ!!

挿絵(By みてみん)

大怪獣逆襲

キモラス対デスビッチ


***


キモラスが上陸し、理不尽な介入によってその命を散らしてから、1ヶ月後の事である。

アブラゼミの声がヒグラシの音色に変わり、暑い夏が終わりを告げようとしていた頃、田丸博士が久々に超常現象研究サークルに顔を出した。


「やあ二人共、久しいね」

「先生、お元気でしたか?」

「ああ、おかげさまでね」


田丸は笑顔を見せると、椅子に座っていた岡田と斎藤の隣に腰掛ける。

キモラスの出現により、古代の様々な巨大生物が生存する可能性が出てきた事で、世界中で本格的な調査が行われていた。

田丸博士も、アメリカのある大学の研究チームに呼ばれており、ここしばらく日本には帰ってきていなかったのだ。


「実は先日、アメリカの大学で面白い発見があったんだ」

「何ですか?」

「ああ、大昔にキモラス………つまりはミティサウルスと同じ時代に生きていた生き物が見つかったんだ」


そう言って田丸博士が見せてきたのは、タブレットに表示された三枚の写真。

そこには、地下洞窟で発見された何やら禍々しい繭か卵のようなもの。


「これはブラジル、こっちはカリフォルニア、最後はメキシコで見つかった」


それも、別々の場所に三つも。


「博士、これ何です?」

「ああ、これはディアボロステウティスという古代生物……古代のイカだよ」

「イカ、ですか」

「ああ、現地ではデスビッチだなんて下品な名前で言われているがね」


画像に映っている黒い繭か卵のような姿のディアボロステウティスこと、古代イカ怪獣「デスビッチ」は、岡田と斎藤の知る一般的なイカとはかけ離れた形をしていた。

二人が首をかしげていると、見かねた田丸博士が助け舟を出した。


「斎藤君、ハイギョの夏眠のメカニズムは知っているかね?」

「はい、たしか……乾期に入ると水が干上がるから、粘膜で身体を覆う事でカプセルを作り、その中で乾期が過ぎるのを待つ、でしたっけ」

「その通り。そしてこのディアボロステスチスも、同じように長期の休眠に入る際には粘液状の殻を作ってその中に身を隠す習性を持っていたらしいんだ」


それを聞いて、彼等はある事に気付いた。

眼前の三頭のデスビッチは、化石でも、保存状態のいい死体でもなく、ハイギョのように長期休眠状態にあるだけだ。

つまり。


「こいつら、生きてるんですか!?」

「ああ、生きている」

「本当ですか!?」


思わず声をあげる岡田。

周囲にいる現地スタッフや機材と対比しても、デスビッチは20mはある。

キモラスより小さいにしても、もしこれが目を覚まして街に出たらと思うと、冷や汗をかいてしまう。

更に田丸博士は、追い打ちをかけるようにさらなる悪い知らせを投下した。


「そしてこのディアボロステスティスだが、どうやら一種の電磁パルスを持つらしくてね」

「はぁ……え?それってどういう……」

「要するに、奴等が目覚めてその気になれば、人間の持つ誘導ミサイルだとか電子戦システムは勿論、社会を形成する電子ネットワークの一切をダメにしてしまう事ができるのさ」

「「なっ……!!」」


二人の顔は、みるみると青ざめていく。

今の社会、ネットに無関係な所などどこにもない。

スマホを手放せない若者は当然として、老若男女を問わずあらゆる人がインターネットに依存した生活をしている。

そんな状況でデスビッチが目覚め、その強力な電磁パルスで電子機器を破壊しまくったとしたら……。


「それは……とんでもない事になるな……」

「そうですね……」


二人はゴクリと唾を飲み込む。

間違いなく、主要先進国はその機能を麻痺させるだろう。


「幸い、三体のデスビッチは休眠状態にある。目覚めないよう細心の注意を払いながら、どうにか倒す方法を見つけなければならんのだがね……」


田丸博士は頭を抱えていた。

その様を見て、二人は色々と察した。

デスビッチを発見したのは、田丸博士も同行していたアメリカの研究チームだ。

おそらく、また米軍が介入してきたのだろう。

十分な対策や調査をすっ飛ばして、ナパームで焼き払えと指示を出してきたのだ。

それが通用するかもわからないのに。


「まあ、いつものアメリカですね……」


特に二人は、アメリカが武力介入によってキモラスを一方的に殺した様を間近で見ている。

連中がそういった判断を平気でするという事は、よく知っている。


「なんとか事態を見守るよう話はつけてきたが……」


手を出さないよう田丸博士は米軍に釘を刺したが、どこまで効果があるかは分からない。

それに、そもそもの話。


「どうやって、あいつ等を倒すんです?」


斎藤の言葉に、田丸は苦い顔をした。


「問題はそこなんだ。いくら我々が研究を重ねても、電磁パルスを発動されれば現代兵器では太刀打ちできない。」


キモラスを倒せた事により米軍は調子に乗っているのだろうが、それだってキモラスが大人しい怪獣で、なおかつ弱っていたからできた事。

それに、デスビッチは現代兵器の天敵である電磁パルスを使うのだ。

状況はキモラスの時よりも、ずっと人間側が不利である。


「あいつら……東京の地下洞窟でもナパームで吹っ飛ばせとか言い出しそうですね」

「……んん?」


ふと、岡田が呟いたその一言に、田丸博士が反応した。


「待て岡田君、東京の地下洞窟とは何だ?私が日本を離れている間にそんな物が見つかったのか?」

「ええ、実は……」


岡田は、田丸博士に東京で見つかった地下洞窟について話した。

なんでも、地下鉄の工事中に偶然見つかったらしい。

かなり広大な空間が広がっており、中には古代の環境がタイムカプセルのようにそのまま残っているらしい。


「大発見じゃないか……それなのに、何で騒ぎにならないんだ?」


話を聞いた田丸博士は、難しい表情を浮かべていた。


「それは、これです」


呆れたように斎藤が、自身のスマホを差し出す。

そこには、政治家が不倫したとかそういうニュースが掲載されていた。


「どこのテレビもこの話題ばっかりで、正義を拗らせた日本国民もこれに怒るのに夢中で、気がつけば地下洞窟の話題は流れていって誰も見向きしなくなっていったんです」

「ああ……なるほど」


田丸博士も納得した。

そりゃそうだ。こんな下らないスキャンダルは日本人の大好物。

今の時代、皆自分達の生活を守る事で精一杯であり、求めるのは日々のストレスのはけ口となるサンドバッグ。


地下洞窟や、そこに広がる古代の世界のロマンなど、一部の学者やオタク以外は誰も見向きしないのだ。



***



その日の夜。

ここは、東京地下鉄のある路線になる予定だった場所。

掘り進んでいる最中に天然の横穴が見つかり、工事はストップしている。

そう、件の地下洞窟に繋がる横穴である。そしてそこに、一人の作業員がいた。


「はあーあ、かったりい」


政府の仕事してますアピールの為に見張りを割り当てられたこの作業員は、真っ暗な闇の中をライト片手に進んでいる。


「俺達みたいな底辺労働者をこき使いやがってよぉ」


この男、学生時代にワルぶって不良をしていた事が仇となったらしく、卒業した後もろくな仕事にありついていないらしい。


「まあ、前の職場のクソ上司よりはマシだけどな」


さっさとこんな仕事終わらせて、飲みに行こうと男は思った。

しかし、異変が起きたのはその直後だった。


「ん?何か光ったような……」


一瞬だけ、闇の中で青白い光が見えた。


「気のせいか?いや……」


もう一度確認しようと男が目を凝らすと、なんと地下洞窟への入り口を封鎖しているブロックが破壊されているではないか。


「はぁ!?誰だよ!勝手に入り込んだ奴は!」


慌てて周囲を確認すると、近くに誰かがいる気配はない。


「くそ、面倒な事になったな……」


地下では携帯の電波も通じないが為に、面倒だが地上に戻って報告するしかない。


「仕方ねえ、戻るか……」


そう思い、男が振り返ろうとすると……。

びちゃっ。

と、ドロリとした液体が顔にかかる感触があった。


「な、なんだこれは……?」


男の視界が急に霞み、やがて暗闇に閉ざされた。

そして、その身体がゆっくりと倒れていく。


「う、嘘だろ……おい……」


倒れたまま動かなくなった彼の耳に、カロカロカロという生き物の声が聞こえる。

男が最後に見たのは、自身に向けて迫ってくる巨大な嘴だった。



***



「うわー、すっげえ」


大学の食堂にて、テレビに映るニュースを見て、岡田は呟いた。

そこには、なんと渋谷が水没した光景が映し出されているではないか。

大雨で水浸しになった所ではなく、ビルの半分が水中に沈む程の大災害だ。


自衛隊が取り残された市民をボートで救出している様が報道されている。

まるで、SFか何かのような光景である。


「へっ、ざまあみろ陽キャ共……」


同席していた斎藤は、渋谷に巣食うパリピ達。

特にハロウィンに馬鹿騒ぎをしてゴミを撒き散らすような連中が何千人も溺れ死んだ事にほくそ笑んだ。


倫理的なアレコレは置いておいて、斎藤もまたあの手の人間は大嫌いかつ、こういった性格の悪い一面もある陰キャなのだ。


「でも、どうして急にこんな事が……」

「この間話した地下洞窟あるだろ、あそこから水が噴出して浸水したのが原因らしいぞ」

「ああ、なるほどね……ん?」


ふと、岡田はニュースと斎藤の説明の内容に疑問を抱いた。


「ちょっと待って下さい、地下洞窟は前々から見つかっていたんですよね」

「ああ、そうだな」

「じゃあ、なんで今いきなり水が吹き出したりしたんです?それまでは何も無かったのでしょう?」

「言われてみれば……」


たしかに、斎藤の言う通りである。

ニュースによれば、地下洞窟から水脈が突然溢れ出たらしい。

つまり、地下に何かしらの原因がある筈。


「……つまり」


岡田は、顎に手を当てながら考え込んでいた。


「あの地下洞窟には、水を噴出させて街を沈める事ができる「何か」がいた……?」


あり得ない話ではない。

現にキモラスや、先日のデスビッチという前例もあるし、渋谷の地下にそういった古代の怪獣が潜んでいてもおかしくないのだ。


キモラスに続き、二頭目の怪獣が日本に、それも東京に潜んでいる。

そう思うと、二人は妙な胸騒ぎを覚えた。

これ以上、泣きっ面に蜂理論でまたトラブルが起きないか、と。

そして、その予感はすぐに的中する事となる。


「二人共大変だ!!」


血相を変えた田丸博士が駆け込んできた。


「どうしたんです教授?」

「アメリカ軍が、三頭のデスビッチに対して攻撃を開始すると言ってきた!」

「なんですって!?」


二人は驚き、そして呆れ果てた。

米軍よ、キモラスを殺しただけでは飽き足らず、あなた達はどこまで愚かなのだと。



***



ブラジルの地下洞窟入り口。

発見された三体のデスビッチの内の一体が眠るその場所から、研究者達を追い出して居座る米軍の部隊。


「やめてください!米軍の装備でデスビッチを倒せる保証はないんですよ!?」

「ウルサイっ!俺の邪魔をするな!」


デスビッチ撃破を命じられた米軍の司令官アントンは、講義する研究者を蹴飛ばして黙らせる。

悪い意味でのアメリカ的な人間である彼は、彼等のような研究者を見下しており、男らしい力のある自分達軍人こそがアメリカを統べる勝ち組だと信じて疑わない。


そして、彼がかつて殲滅司令を出したキモラスと同じく、デスビッチも自分達のような「世界最強のアメリカ」に叩き潰される噛ませ犬だと思いこんでいるのだ。


「司令官!爆破準備ができました!」

「よし!ハイ・メガボム、爆破!」


アントンは、アメリカ軍の爆破工作用の武器であるハイメガボムを、変なアクセントのかかった名前で呼びながら、手に持ったリモコンのスイッチを押した。

すると、地中に眠っていたデスビッチの足元が盛り上がり……。

ズゴォンッ!!

凄まじい爆発と共に、デスビッチの巨体が宙に浮かび上がった。

そのまま洞窟の天井を突き破り、地上へと飛び出すデスビッチ。


「フハハッ!やったぞ!」


ガッツポーズを取るアントンだが、すぐに異変に気付いた。


「ナッ……ナンダこれは!?」


地表に押し上げられたデスビッチ。

それは、身体を覆っていた粘膜を突き破り、その悪魔の如き姿を現した。


カロロロロロロッ!!


触腕と触腕の間には被膜があり、それを広げて叫ぶ様は、まさに翼を広げた悪魔である。


「デスビッチ、未だ健在!」

「ナ、ナ、ナ、ナ、何だって!?」


妙な口調で驚くアントン。

世界最強たる米軍の最新兵器の攻撃を受けて無傷とは思わなかったのだろう。


「マ、マ、マ、マ、まだだ!マ、マ、マ、マ、まだ俺は負けてナイ!!」


動揺しながらも、次の手を打つべく無線機を手に取る。

しかし、そこで彼の耳に信じ難い言葉が届いた。


『こちら第4戦車大隊、全滅!』

「え、え、え、え、えぇっ!?」


思わず素の声が出てしまうアントン。

メキシコで目覚めた個体のデスビッチが飛来し、後方にいた戦車部隊を攻撃しているのだ。


『現在、我々は後退中です……!』

「バ、バ、バ、バ、バカな……!」


たった一匹の怪物相手に、あの無敵の第4戦車大隊(アントン基準)ですらやられるというのか。


『うわぁー!!』


無線から悲鳴が聞こえ、ブツリと切れた。

唖然とするアントンだったが、直後空の彼方から聞こえたゴオオオッ!というエンジン音を聞き、正気を取り戻す。


「オ、オ、オ、オ、オオッ!空軍か!!」


あれは、ノースロップ・グラマンB-2戦略爆撃機。

通称、「スピリット」「空飛ぶ国家予算」と呼ばれる、アメリカ最強の爆撃機である。かつてアントンの指示でキモラスを抹殺した、バンカーバスターを搭載した機体だ。

その機体は今、デスビッチを葬るべく猛スピードで向かってくる。


「ヤ、ヤ、ヤ、ヤ、ヤレェッ!」


アントンは拳を振り上げ、叫んだ。


「こ、こ、こ、こ、殺せ!デスビッチを殺せェェエエッ!!!」


ヒュルルル……ドガァアアッ!!

B-2から投下されたバンカーバスターが、真っ直ぐにデスビッチに命中し、爆発。

辺りを爆煙が覆い尽くした。


「フハハッ!し、し、し、し、死ねィ、怪獣め!!」


キモラスの時と同様に、勝利を確信するアントン。

だがその直後、信じられない事が起きた。


「ウワァッ!?」


爆煙の向こうから現れたのは、なんと無傷のデスビッチ。

そして、デスビッチは背中に伸びた頭……頭足類の「胴」を怪しく点滅させる。

まるで、ホタルイカのように。


「なっ……!」


アントンが声を上げた時にはもう遅い。

直後デスビッチから、強烈な電磁波が放たれた。

本来天敵の攻撃に使われるこの電磁パルスは、その場にあった米軍のあらゆる電子機器を狂わせ、破壊する。


「コンピューターダウン!駄目です司令!全ての兵器がダウンしました!」

「ナ、ナ、ナ、ナ、何てコトだ!」


直後、コンピューターを破壊された事でコントロール不能になったB-2が、アントン達のいる場所へと落下してきた。

今から逃げようにも、もう間に合わない。


「チ、チ、チ、ちきしょうッ!!、ちきしょうが〜〜〜っ!!!」


妙な断末魔を残し、アントンはデスビッチを復活させてしまった報いを、己の命で支払う事になった。


もしも、彼が日本の怪獣映画に少しでも詳しかったら、己のやった事が愚行である事に気づけたかも知れない。

だが、全ては後の祭りである。


カロロロロロ!!


ズドンッ!と地面に激突して大破炎上するB-2と、全滅した米軍部隊を見下ろしながら、デスビッチは高笑いのような咆哮をあげる。

そして触腕の間の翼を広げ、空高く舞い上がる。


同じような経緯で復活したメキシコの個体とカリフォルニアの個体も、空へと飛び立っていった。

こうして、世界最強のアメリカが誇る最新鋭戦闘機群を一瞬にして壊滅させたデスビッチ3体は、この後道中にある都市を次々と電子パルスで麻痺させながら、ある場所へと向かう。

そこは……。



***



「えっ!?デスビッチが日本に来る!?」


米軍の大失態によるデスビッチ復活から四日後。

岡田は大学にて、田丸博士からとんでもない事を知らされた。

それは、あの三体のデスビッチが日本に向かっているという事。


「まだ憶測に過ぎんがね、可能性は高い。」

「でもどうして!?日本にあいつらの求める物なんて……あっ!」


ふと、岡田はある事に気付いた。

それは、地下洞窟からの浸水により水没した、あの渋谷。

斎藤が、キモラスやデスビッチのような存在によって人為的に起こされたと推測した場所である。


「まさか、そこにある何かを狙って……」

「恐らくな。これも憶測に過ぎんが、あそこに古代の環境があると考えたら、奴等が求める物があってもおかしくない」


確かに、その考えなら辻妻が合う。

しかし、そうなるとあの場所には今、キモラスやデスビッチと同じ存在が眠っている事になる。

そうなると……。


「でも、あそこには確か先輩が……!」


そう。

調査に向かった斎藤にも、危機が迫っているという事になる。



***



既に太陽は沈み、救助活動と調査に来た自衛隊のライト以外の光源のない、水没した渋谷の街。

斎藤は自衛隊の調査に加わり、水中に沈めたラジコンカメラを使って、沈んだ渋谷の街を調査していた。


「こりゃ驚いた……」


ラジコンカメラから届いた映像を前に、斎藤は目を見開く。


「何かあったのか?」


なんの偶然か、キモラス事件に続いて斎藤を傘下に加え、今回の事件の対処を指揮しているのは自衛隊の司令官の小柴であった。


「見てください小柴司令」

「ふむ」


小柴が、ラジコンカメラに繋がったタブレットを覗き見ると、そこにはライトに照らされた水中を泳ぐ生物の姿があった。

魚やエビ・カニなら、噴出した地下水を通って出てきただけで終わる。

だが、カメラが捉えたのは、そんなありきたりな生物ではない。


「これは……まさか三葉虫か?」

「ええ、そしてあちらに見えるのはアンモナイトです」


画面には、絶滅したはずの中生代の三葉虫や、化石でしか見られない筈のジュラ紀のアンモナイトが映し出されている。

つまりあの地下洞窟の内部に、古代の地球の環境がそのまま残っているという話は、本当だったのだ。


もし、メディアや国民が下らないスキャンダルに夢中になりさえしなければ、こんな事になる前に本格的な調査が出来たであろう。


「しかし、何故こんなものが東京の地下に……?」

「おそらくキモラスと同じ原理でしょう。古代の海の一部が何かの理由でそのまま地中に閉じ込められ、地層の動きと共に少しずつ地上に押し上げられてきた」

「馬鹿な……いくらなんでも非現実的だ」

「私だってそう思いますよ。でもそうとしか考えられません」


実際、それくらいしか説明のしようがない。

現に、キモラスやデスビッチという前例もあるのだ。

同じ事が土地に対して起きたとしても、おかしくはない。


……そして不幸にも、彼等はそのデスビッチがこちらに向かっている事を、まだ知らずにいた……。


「あれっ?」


突如、ラジコンカメラの映像が乱れたかと思うと、画面がブラックアウトする。


「故障か……?」


機材の故障を斎藤が勘ぐっていると、彼等の元に一人の自衛隊員が駆けてきた。


「司令官、失礼します!」

「どうした?」

「調査用のドローンが、次々と不具合を起こしているとの事です!」


異変は、斎藤のラジコンカメラだけではなかった。

この水没した渋谷を調査させていた調査用ドローンも、原因不明の不調に見舞われていた。

この事態を受け、小柴はすぐにドローンの回収を命じる。

しかし時すでに遅く、回収班が到着した時には、既に半数のドローンが故障してしまっていた。


「一体どういう事なんだ……」

「それがドローンは、この場所に近づいた途端に不具合を起こしているんです」

「どれどれ?」


自衛隊員に渡された地図を見ると、それは自分達がいる自衛隊司令部のすぐ近くである事に気付く。


「……やはり、何かあるな」


斎藤は確信した。

この臨時の司令部を出れば、すぐに水没した渋谷に出る。

そしてその先は……あの地下洞窟の、丁度真下に当たるのだ。


「まさか、本当にあの場所に何かが……。」


斎藤が呟くと、突然警報が鳴り響く。

ビーッ!ビーッ!!


「今度は何事だ!?」

「わかりません!ただ、調査中の隊員が数名、行方不明になったとの報告が……!」


異常を知らせる報告と同時に、彼等の眼前に見える水面が、突如としてブクブクと泡立ち始める。


「なんだアレは……?」


小柴は解らなかったが、斎藤にはアレが気泡に見えた。

地中に閉じ込められていた空気が、地面が割れた事で押し出されているのだ。

つまり……あの場所で「何か」が、地面を突き破って地上に現れようとしている。やがてざばあっ!と水柱が上がり、その正体が明らかになる。


「あれは……!!」


それは、一目で見るなら双頭の首長竜にも見えた。

しかし首の先にある頭のような機関に輝くのは、よく見れば目ではなくただの発光器官。さらに言うと、首と思われたそれも首ではなく、触腕である事が解った。

本体には岩を重ね合わせたような甲羅があり、そこから見える残り四本の触腕と、触腕の間から小さく覗く目と「嘴」から、斎藤はあの巨竜の正体に気付いた。


「二本首の………プレシオサウルスか?」

「いえ、違います……ありゃデカいイカです」


斎藤は確信した。

アレこそが、この異変の元凶であると。


カロロロロロッ!


御機嫌よう。

とでも言うように、その巨竜は眼下の自衛隊員に向けて、その独特の声で吠えた。

そして。

ドゴンッ!!!


「なっ……!」


斎藤達が絶句している間に、巨竜は触腕を振るい、近くにあったビルを破壊した。

破片が飛び散り、コンクリート片がさながらショットガンの弾丸がごとく、自衛隊員達に襲いかかる。


「うわああ!?」

「クソおっ!応戦だ!急げ!」


幸いにも、彼等は即座に退避したので無事だったが、もし反応が遅れていれば、間違いなく即死していただろう。


「斎藤さん!あなたは避難です!」

「えあ、は、はひいっ!」


だが、斎藤は違う。

あくまで一般人である斎藤は、今すぐ逃げなければならなかった。

しかし運悪くあの巨竜は、それなりの知性を持っていたようだ。

触腕の先にある感覚器官により、司令部に集まっている人間達の反応を感知。

あそこが、連中の「脳」だと確信した。


………カロロロロロッ!!


巨竜は、その全長80mはあろうという巨体を揺らし、真っ直ぐ司令部へと向かってきた!


「なっ……!?なんだコイツは!?」

「総員、戦闘配置につけぇっ!!」


斎藤が驚く中、小柴達自衛隊員達は、すぐさま迎撃態勢を取る。

しかし、あくまで調査目的だった彼らの装備は携行用の銃火器のみであり、対する相手は未知の巨大生物だ。

果たして、勝ち目はあるのか?


「撃てーっ!」


自衛隊員の一人が、手にした小銃を発砲するが、全く効いている様子はない。

その衝撃で相手は怯む気配すらない。

むしろ、逆鱗に触れたかのように怒り狂っている。


カロロロロ!!


触腕が振り回され、またも他のビルが崩れ落ちる。

響く怒号、そして悲鳴。

蹂躙される人々をあざ笑うかのような、巨竜のカロロロという声。


「うぎゃわあぁあぁぁあぁあぁぁあぁぁあぁぁあぁぁあ!!!!」


降りしきるコンクリート片の雨の中、断末魔とも言える悲鳴をあげる斎藤。

ああ、今度こそ死ぬ、でも死にたくない。

こんな事なら、もっと運動していればよかった。

もはやミリグラム程度もなくなった僅かな希望に縋りつき、少しでもこの地獄から逃れようと無我夢中で走った………。



***



「………………ツッッッ!!!!」


斎藤が目を覚ました時、次に見えたのは見知らぬ病院の天井であった。

はっきりと全身に残る痛覚が、自分がまだ生きている事と、あの惨劇が夢でない事を物語る。


「おお!気がついたかね斎藤君!」

「先輩!ああ、よかった………」


見れば、病院のベッドに横たわる斎藤の隣に、田丸博士と岡田の姿だ。

聞けばあの後、メーデーを聞きつけた他の部隊により、斎藤は瓦礫で頭を打って気を失った状態で救助されたらしい。


小柴も奇跡的に無事だったらしいが、あの時調査に来ていた自衛隊員の半数以上が殉職したとの事。

きっと、あの巨竜に貪り食われたのだ。

根拠はないが、斎藤はそう思った。


「………博士、あのイカのバケモノは一体何なんです?なんとなく、俺にはデスビッチに似ているように見えましたが………」


未だ鮮明に残る恐怖に震えつつも、勇気を振り絞って斎藤は尋ねる。

田丸博士も、そんな斎藤の気持ちを察したのか、少し間を置いてから語り始めた。


「………アレもデスビッチだよ」

「なんですって!?」


なんと、あの巨竜もデスビッチだという。

これには斎藤は勿論、岡田も驚いたらしく、目を見開いている。

当然だ。確かに似た意匠はあるが、アメリカで見つかった三体のデスビッチとあの巨竜は、姿が違いすぎる。


「アメリカに現れた三体のデスビッチは全てがオスの個体。そして斎藤君が渋谷で見たのはメスだ。恐らく奴等は進化の過程で各々の能力に特化した二つの姿に分かれたんだろう」

「……なるほど」


そう考えると至当に思えてくる。

子育てに当てはめて考えると解りやすいだろう。

高い飛翔能力を持ったオスが広範囲を飛び回ってエサを探し、その間巨体とパワーを持つメスが卵や子供を外敵から守る。

実に、よくできた生態だ。


「そしてこれは、悪いニュースなのだが………ほれ」

「あ………」


田丸博士が見せてきたスマホの画面には、日本に向かっていた三体のデスビッチ………テレビ局に「アッシー」「メッシー」「ミツグクン」という、オッサン丸出しのコードネームをつけられたオス個体達は、斎藤が眠っている間にメス個体と接触してしまっていた。


現在、水没した渋谷に巣を作っているらしいのだが、日本の主要都市の一つが怪獣に乗っ取られるという非常事態にも関わらず、テレビ局はオス三体メス一体とい状況のデスビッチを「恋の四角関係」だの「怪獣トレンディゲス不倫」だのと茶化しており、まるで緊張感がない。


「どこまでバカなんですか……日本も、日本人も!」

「岡田………俺も同意見だよ」


常識がないレベル不謹慎なテレビ局に怒りに震える岡田を宥めつつ、斎藤は思う。

自分たちの国家の危機でさえ下品な娯楽として消費する、日本人の悪癖。

それは、いつまで経っても変わらないのか? そして、これからも変わることはないのだろうか?


きっと変わらない。

そしてそんなバカな大人が社会を回している以上は、彼等の馬鹿騒ぎのあとしまつをやらされるのは、いつだって岡田達のような若者なのだ。


「………無論、我々や自衛隊も指をくわえて見過ごすワケじゃない」

「教授………」


そして、国民やメディアがバカを繰り返す中でも、必死に戦う者達がいる。

直接デスビッチと対峙する事になるであろう自衛隊もそうだが、今は田丸達超常現象研究サークルもまた、戦士の一員として戦いに加わっている。


「君達に紹介したい相手がいる」

「なんですって?」

「秋葉くん、入ってくれたまえ」

「はい」


ドアの向こうから澄んだ女の声が聞こえてきたと思うと、病室のドアを開けて一人の女性が入ってきた。

その姿を見て、斎藤は思わず息を飲む。


「……女の人?」


現れた女性は、一言で言うなら美人だった。

年齢は二十代前半だろうか。

身長は百七十センチ弱ほどで、顔立ちは整っており優しげな印象を与える。

長い黒髪と黒い瞳が特徴の、アジアンビューティーという言葉がよく似合う美女であった。

胸元には「秋葉」と書かれたネームプレートが付けられており、その胸は豊満であった。


なんの必要性も感じない巨乳美女の登場。

作者がキモオタと野郎と怪獣しかいないムサイ状況に精神的に耐えられなくなったが故に登場させたという事は、見るに明らかであった。


「紹介しよう、彼女は私の教え子の一人で、今はアンブレラ大学で生物学の教授をしている……」

「私は生物学者の秋葉さやかよ、よろしく」

「……ども」

「あ、ああ……」


礼儀正しく頭を下げる女性「秋葉さやか」に対して、チェリーボーイである斎藤は緊張してどもってしまう。

対する岡田は、以前三次元の女にひどい目に逢わされてから拒否感がついたのか、特に反応を崩す様子はない。

そんな二人に構わず、秋葉は話を続けた。


「早速だけど、あのデスビッチ………ディアボロステウティスの古代の海における天敵は、なんだったと思う?」

「さぁ……サメとか?ほら、メガロドンみたいな」


突然の質問に戸惑いつつも、斎藤は答える。

デスビッチこと、ディアボロステウティスの生きていた時代の海は、恐竜絶滅によりモササウルスのような肉食魚竜は姿を消していた為、メガロドンのような古代サメではないかと考えたのだ。


「えぇ。確かにあの生物は基本的には海洋で活動してたわ。でも惜しいわね、実は違うのよ」

「どういう事ですか?」

「デスビッチの天敵、それはミティサウルス………つまり、キモラスなの」

「なんだって!?」


二人が驚くのは無理なかった。


あの、危害を加えられなければ攻撃してこない程に大人しく、ダニオタからされた銃撃でさえもパニックを起こして逃げ惑った、多少悪意のある言い方をすればどう見てもいじめられる側であるキモラス。


それが、あの悪魔がごときデスビッチの天敵だとは。


「信じられませんよ、あんなおとなしいキモラスが……まさか」


しかし、そう考えれば色々と辻褄が合うのも事実。

戦闘ヘリをも撃墜するキモラスの超音波キャノンは、あの巨大なデスビッチを仕留める為の物。

逆にデスビッチの持つ電磁パルスは、キモラスのエコーロケーションを鈍らせる為の、いわばジャミング。


あの時湖に落ちたダニーズを襲わなかったのは、デスビッチと比べるとあまりに小さく、姿形も知らない人間を食べ物として認識しなかったから。

何より、キモラスはクジラの仲間。

マッコウクジラがダイオウイカと激戦を繰り広げるように、古代の海ではキモラスの同族とデスビッチ達が、激しい戦いを繰り広げていたのだろう。

だが。


「でも、今更そんな事が解って何なんです?そのキモラスは、もう………」


岡田の言う通り、デスビッチの天敵であるキモラスだが、既に米軍によって「駆除」されてしまい、その遺体は北海道はオホーツク海に沈められた。

キモラスはもういない。

だから、そんな事が解っても意味はない……かに、思われた。


「これを見て」

「何を………あっ!?」


しかし、秋葉が見せてきたタブレットの画像スライドショーを見て、岡田の懸念はひっくり返された。


「これはオホーツク海のライブカメラの記録です」


そこに映されていたのは、この所数週間のキモラスの死体の記録。

オホーツク海に沈むそれは、朽ちて分解される所か、少しずつであるが再生していたのだ。


「キモラスは死んだ。それは事実よ……でも、完全に殺すまでには至らなかった」


よくよく考えてみればそうだ。

キモラスは一億レベルの時間を冬眠し続け、火山の活性化すら目覚まし代わりするような生命力の持ち主だ。

並んで、確かにバンカーバスターはキモラスの脳にもダメージを与えたが、キモラスは腰部に第二の脳とでも言うべき神経の束を持ち、これが傷ついた脳に代わってキモラスの再生を指揮している。

さらに、海中に死体が沈められたのも運が良かった。

ここには生物の源となるありゆる栄養や物質が満ちており、再生の材料には困らない。


まとめると、キモラスはこのまま時間が過ぎればいずれ元通りになって復活するという事だ。

だが。


「それで……キモラスが完全に復活するまでは、どれ位かかるんだ?」

「AIに計算させた所、およそ一年かかると」

「一年だって!?かかりすぎる!」


問題は時間だ。

キモラスの完全復活まで待っていたのでは、一年もかかってしまう。

その間、渋谷に巣を作ったデスビッチ達は繁殖し、文明の天敵の増殖を許してしまった人類は絶滅してしまうだろう。


「安心して、それも計算の内よ」


次にタブレットに映されたのは、ある薬品に関するデータ。


「これはオーガニックエボリューダー、私が開発した生物の成長促進剤」


これは、岡田も聞いた事がある。

たしかドイツのある研究チームが開発中の物で、将来訪れるであろう飢餓問題に対して、生物の細胞分裂を活性化させて短期間で成長させるという画期的な発明だったはずだ。


「これを使えば、キモラスの復活を早める事が出来るわ」

「本当か!?」


ようやく、希望が見えてきた。

この薬を使ってキモラスを復活させれば、デスビッチを倒してもらえるかも知れない。


「身勝手がすぎる!!!」

「ッ……!?」


が、その提案に真っ向から意義を唱えたのは、他ならぬ岡田である。


「キモラスは、人間の身勝手な都合に振り回されて死んだんですよ?!それをまた身勝手な都合で蘇らせて戦わせるなんて……そんなの、あんまりじゃないですか!!人の心とか無いんですか?!そんなだから、進んだ文明の宇宙人からも、モルモットの車からも、人間は愚かって罵られるんじゃないんですか!?」


それは、人道的な価値観を持っている者からすれば、至極当然の反応であった。

そも、キモラスは確かに人類に危害を加えてはいるが、それも元を辿れば人間が原因だ。


そして、そんなキモラスを助けようとした岡田や斎藤の努力を、直前でキモラスを殺すという形で踏みにじったのも人間だ。

そんな、理不尽の果てに死んだキモラスに自分のような陰キャをダブらせていた岡田からすれば、余計に怒りを感じるのも仕方がない。


「岡田」


だがそんな岡田に、斎藤は枕元にあった飲料水をドンと渡す。


「まずは君が落ち着け」


多くは語らない。

だが、斎藤が言いたい事は岡田にも解った。

今は、そんな感傷に浸るような事を言っている場合ではない、と。


「………ッス」


岡田も、それを受け取る。

そうして少し落ち着いた所で、秋葉は話を続けた。


「私は科学者として、多くの命を守る為の研究をしているつもりよ。それに、岡田さんが言う事もわかる。でも……それでも、今の私達には、キモラスの力が必要なの」


秋葉も、こんな形でのキモラスの復活を望んでいる訳ではない。

しかし、今現在キモラス以外にデスビッチと対抗できる存在はいないのだ。


「罰や断罪はその後でいくらでも受けるわ。けれども今は、多くの人々の明日の為に………」


彼女もまた、人類の危機に立ち上がった戦士の一人なのだ。



***



同じ頃、自衛隊でも動きがあった。


「地下の排水システム?」

「はい、こうした事態に備えて作られていた物です」


小柴は、部下からの報告を受けていた。


「でも……何故こんな事態になっても動いていないんだ?」

「どうやら、使えば大金が飛んでいくとして都知事が使用をケチっているそうで」

「こんな時まで自腹を切ろうとしないのか、あのミドリババァめ………」


彼は、その報告を聞いて、複雑な表情を浮かべる。

市民の危機においても金を出さない都知事もそうだが、その施設にしても本当にちゃんと機能するのか、正直疑わしい。


というのも、その施設はつい最近作られたばかりで、まだ試験運転すら行われていないのだ。

ましてや、そんな守銭奴の都知事が管理している施設だ。何かしらの不具合があってもおかしくない。


「でも、その設備が使えれば、水没した渋谷を元に戻せるかも知れません」

「そうだな、そうすればデスビッチに対しても有利になる」


相手は古代イカの一種であるデスビッチ。

肺呼吸であるキモラスと違い、水のない状況はより弱点となる。

それに、オスとメスが合流した事を考えると、放っておけば繁殖が始まるという点もあり、今は一刻を争う状況だ。

たとえ不安があろうと、使える物は何でも使うべきだ。


「ですが問題は、誰がそれを動かしに行くかです」

「遠隔操作でどうにか……あっ」


言いかけて、小柴はそれが不可能である事に気付く。

デスビッチの放った電子パルスにより、渋谷一帯の電子機器が全てダウンしてしまった。

無論排水システムも例外ではなく、起動する為には渋谷の地下にある排水システムを直接操作しなくてはならない。


「動かせる部隊は?」

「現在内閣会議によって、自衛隊の全部隊を動かすかどうかが議論されています」

「くっ……なんてタイミングの悪い……」


小柴は、日本というシステム的に仕方ないにしても、政府の遅い対応に頭を抱えつつ、視線の先の監視モニターを見る。


そこでは、衛星カメラによる渋谷の様子が映し出されている。

そこには、ビル街が沈んでしまった事で出来た大きな湖が出来上がっていた。

しかも、この映像では確認できないが、恐らくその底にはあのデスビッチが潜み、繁殖の準備をしているのだろう。


今会議で部隊を決めていたのでは、とても間に合わない。

小柴は決断した。


「………俺が行こう」

「司令官自らが、ですか!?」

「立場が立場だからな、ある程度の無理はできる。それに水中での作業は得意分野だ」

「しかし……」

「心配はいらん、俺はこういう時の為にいる」


小柴は、自分の胸に手を当てて言う。


「動かせる隊員は所属問わず全て集めてくれ、俺は今から上の連中に掛け合う」

「……解りました、ご武運をお祈りします」

「ああ、任せておけ」


そして、小柴は部屋を後にすると、上階へと続く階段を駆け上がった。



***



小柴を筆頭に集まった決死隊による、渋谷解放作戦が始まろうとしている頃。

岡田と斎藤、そして田丸博士と秋葉を乗せた海自の海洋観測艦「えちぜん」は、オホーツク海を進んでいる。

目的は一つ。

オホーツクに眠るキモラスの復活だ。


「へくしっ!さ、さむ……」

「おい大丈夫か?風邪引くぞ」

「だ、大丈夫ですよこれくらい!ちょっと鼻がムズムズしただけで……ぶぇっくしょい!!!」

「全然ダメじゃねぇか!」


そんな会話をしつつ、斎藤は後部甲板から岡田と漫才を繰り広げている。

場所が場所なので着込んではきたが、それでも寒さには耐え難い。

何せここは、外気温が氷点下10°Cを下回り、風が吹き荒れる極寒の地なのだから。


「…………」


ただその中で、秋葉だけは違った。

彼女は一人、甲板から空を見上げていた。

それはまるで何かを祈るような姿であり、同時にその姿は、一枚の絵画のように美しかった。


「流石、美少女は何をやらせても絵になりますね」

「お、お前が三次元に反応するとはな」

「野郎の欲望ダダ漏れですよ、気持ち悪い。シン・ウ○ト○マンもそれで叩かれたってのに、学ばないんですかね?これ書いてる人」

「なんだ作者への皮肉か」


そんなメタ発言を含めたやり取りを交えつつも、えちぜんは目的地であるキモラスの眠る海域。

その途中だった。


「ん?」


ブリッジにて。

突然、レーダーが何かの反応を遠くに捉えた。


「どうしました」

「いえ、何か変な影が映った気がして……」

「どれ」


ブリッジにいた田丸博士は、双眼鏡を取り出して確認する。

そこには。


「な……ッ!?」


田丸博士は目を見開く。

そこに見えたのは、翼を広げてこちらに向かってくるデスビッチ・オス。

メキシコで目覚めた「アッシー」のコードネームを与えられた個体である。


「デスビッチだ!」

「バカな!?どうしてこんな所に……?!」


まるで田丸達が自分達の天敵であるキモラスを目覚めさせようとしている事に勘付いたかのように現れたデスビッチ・アッシーは、翼を羽ばたかせて猛スピードで迫ってくる。


「空自はどうしたんだ!?」

「デスビッチが電磁パルスでセンサーをダメにしたんだ!わかるわけねえよ!」

「くそったれ!」

「艦長、回避行動に移りましょう!」


デスビッチが低空飛行で突っ込んでくる。

体当たりでえちぜんを破壊するつもりだ。

操舵手が、艦と人員を守るために舵を切る。


「回避!伏せろーーッッ!!」

「うわあ!?」


しかし無理な操縦である事には変わらず、えちぜんの船体は大きく揺れた。

ブリッジにいる田丸博士達は勿論の事、甲板から船内に戻ろうとしていた岡田達も、激しい揺れに襲われる。


カロロ……ッ!


それもあり、デスビッチ・アッシーの奇襲は失敗に終わった。

空中で体制を立て直しつつ、舌打ちをするように唸り声をあげている。


「最寄りの自衛隊基地に緊急入電!援軍を呼ぶんだ!」

「は、はいっ!」


オペレーターが無線機を手に取り、応援を要請しようとしたその時。


「艦長!緊急事態です!」


別の隊員が、血相を変えて飛び込んでくる。


「どうした!?」

「今の衝撃で、作業艇の乗組員が負傷!腕を骨折したとの事です!」

「なんだって!?」



***



同じ頃。

水没した影響で上空に分厚い雲が発生し、昼間だというのに薄暗い渋谷においても、自衛隊が動き出していた。


小柴の呼びかけで集まった彼等決死隊は、数々の震災や重大な事故現場において活動してきたエキスパートの集まりでもある。

ある意味では、日本の環境や自衛隊という特殊な組織だからこそ生まれた、世界で最も珍しい形の「平和利用のための工兵」とも言えるやも知れない。


「渋谷がこんな事に……」


ウエットスーツに身を包んだ、そんな工作部隊の一人が、変わり果てた渋谷の姿を前に一言漏らした。

他の隊員から見ても、見知った渋谷の街が水の底に沈み、そこを一隻のボートで進んでいるという状況は、奇妙な物に他ならなかった。


遠くから、カラカラカラというデスビッチのカラスのような声が聞こえてくる。

幸い、デスビッチ達は自分達に気づいていないようだった。


「今オホーツクにいる別働隊は、キモラスを復活させようとしているらしい」


小柴はそう言って、決死隊の面々の顔を見る。


「それは本当なんですか?小柴隊長」

「ああ。さっき、同行した田丸さんから連絡があった。キモラスはデスビッチの天敵らしくてな、そのキモラスにデスビッチを倒してもらおうって魂胆さ」

「怪獣同士を戦わせようってのか?正気か?」

「だよな、でもそんな映画の真似事でもやらなきゃならん状況さ。現に、デスビッチは米軍のバンカーバスターにも耐えたんだ。今の人間の武器じゃ、デスビッチには勝てんのも事実だ」


小柴は、悔しさと申し訳なさを半々に感じていた。

国民を守るための組織である自分たちが、怪獣に対して決定打を持たない事への悔しさ。


そして、人類のいざこざに巻き込まれて死んだキモラスを、蘇らせて人類の為に戦わせようとしている事への申し訳なさ。

自衛隊の仕事だから仕方ないとしても、負い目を感じる位の良心は小柴にもある。


「………ッッ!!」


その時、隊員の一人が所持していた小銃を構えた。

その視線の先には、オスのデスビッチが………


「落ち着け、よく見ろ」

「あ……」


……いた。

確かにそこには、オスのデスビッチが水面から顔を出している。

が、デスビッチは動こうとしない。

その理由はただ一つ。


「………死んでる」


その、オスのデスビッチは死んでいた。

見れば、水面下にある身体は無惨にも食いちぎられ、半分が無くなり、千切れた内臓がだらりと垂れている。


デスビッチがイカである事は皆が頭では理解していたが、いくら日本人である彼等も、この惨状を見て「おいしそう」とはとても言えなかった。


「このデスビッチ、誰かが殺したんですかね……?」

「決まってる……」


小柴は、斎藤や田丸博士程で無いにしろ、生き物の生態やうんちくについては明るい方だ。

故に、キモラスが未だいない状況で、このオスのデスビッチを食い殺した者が何者かは、おおよその検討はついていた。


「メスだよ」

「えっ……?」

「見ろ、皮膚に吸盤の痕がある」


小柴の言う通り、オスがデスビッチの体表には、いくつもの吸盤による吸い付いた跡が残っている。

つまりこれは、先程の攻撃の際にデスビッチを襲ったのではなく、もっと以前からこの個体はここにいて、他のデスビッチに捕食されていた事になる。


「じゃあ、あのメスのデスビッチが、このデスビッチを……!?」

「多分な」


共食い、と聞くと少々グロテスクに感じる者もいるだろう。

しかし自然界において………たとえば女郎蜘蛛やカマキリは、雄が雌を捕食する事で種を残す為の糧にするという行為を行う事がある。

デスビッチも、同じ様にして繁殖しているのかもしれない。


「だが………なあ」


しかしながら、年配である小柴はこの状況に引っかかる物がある。

そも、三体のオスのデスビッチのコードネームの由来となった、アッシー、メッシー、ミツグクンというのは、バブル期の日本において、女性の好意を得る為に、まるで召使いがごとく女性からこき使われる男性を比喩する言葉であった筈なのだ。


アッシーは、女性の移動手段として車を運転する男性。

メッシーは、女性の腹とムードを満足させる為に高い食事を奢る男。

ミツグクンは、女性の為にプレゼントを送る、つまりは貢ぐ男。

そんな、まるで貴族か王族のような状態にある女性は選ぶ立場にあり、散々男性を搾取した後に一人を選ぶ。


今では考えられないが、そんな時代もあったのだ。


「どうしたんですか?隊長……」

「いや、なんでもない……」


このデスビッチも、メスに気に入られる為に必死に尽くした後に、食事として食い殺されてしまった。

根拠はないが、小柴にはそう思えてならなかった。


「……行こう」

「?」


心の中で、あの哀れなオスのデスビッチを弔いながら、小柴はボートを進めた。

この時は決死隊の誰も気づかなかったが、あのデスビッチに与えられたコードネームは、メッシーであった。

名前の意味する通り、彼はメスのデスビッチからは、死ぬまでメッシーとして扱われていたのである。


「……見えたぞ」


そうこうしている間に、小柴の目に目的の建物が見えてきた。

他のビルと同じく半分水に浸かったそれは、渋谷に設置された水道管理局のビルだ。

あのビルに、地下の排水システムに繋がる道がある。

それを起動させれば、この水没した渋谷を元通りにできるという訳だ。


「……ん?なんだあれは……」


小柴の目には、何か大きな物が動いているように見えた。


「おい!ちょっと止まってくれ!」


小柴は隊員達に指示を出す。


「何ですか?」

「今あそこで、なんか動いた気が……」


小柴が指差す方向を見るが、そこには特に何も見えない。

ただ、水面から突き出た鉄骨とコンクリートの塊が見えるだけだ。


「……すまん、双眼鏡あるか?」

「え、あ、はい」


それでも何か気になった小柴は、隊員の一人に双眼鏡を借りて覗いてみる。

すると、そこには……


「……ッ!!」


水面から突き出た鉄骨とコンクリートの塊。

さらに、その向こうにあるビルの影に、それはいた。


「デスビッチ………!」


忘れるハズもない。

あの時、斎藤と共に調査に訪れていた小柴の前に現れ、部下や同僚を何人も殺したメスのデスビッチ。

その、竜の首がごとき触腕で先程のデスビッチ・メッシーから食い千切ったのであろう触腕を咥え、バリバリと捕食している。


「隊長……?」

「左舷、九時の方向にデスビッチだ」

「えっ!?」

「あっちはまだこちらに気づいていない。今のうちだ、行け!」


小柴が見張る中、水中ボンベを咥えた隊員達は、次々と水中に飛び込んでゆく。

一人、二人、三人………。

ボートに乗っているのが、小柴と副隊長だけになる。

後は二人が飛び込むだけとなった、その時。


………ギョロッ!

デスビッチの小さな両目が、双眼鏡越しに小柴を睨み返した。

小柴は、目と目が逢う瞬間に気付いた。

見つかった、と。


カロロロロロロッッ!!


もしデスビッチが喋れたなら「私の庭で何やってるのよ!」とでも言ったであろう。

水没した渋谷という自らのテリトリーを侵されたメスのデスビッチは怒り狂い、その巨大な身体をザバンザバンと動かし、小柴達の乗ったボートへと突進してきた。


「こっちに来る!」


ボートからデスビッチまでは距離があるが、あの巨体なら到達はすぐだろう。


「副隊長、指揮は任せる!」

「隊長!?」


小柴は、ボートの横に牽引されていた水上バイクを起動すると、ロケットランチャーを背負い、ミニガンを片手に飛び乗った。


「俺が奴を引き付ける、その隙にシステムを起動しろ!」

「………了解です!」


小柴が水上バイクを発進させると、それに気づいたデスビッチも方向転換し、猛スピードで追いかけてくる。

小柴は、そのまま水上バイクを加速させてデスビッチを引き離し、ビルとの距離を取る。


「来い!化け物め!」


小柴は叫びながら、自慢の筋肉で片手でロケットランチャーを構える。

そして、後ろを振り向きざまにロケットランチャーを撃ち込んだ。

ドバァンッ!!! 命中した砲弾が爆発し、デスビッチの全身に炎が上がる。


カロロロロロッ!


「やっぱ効かないな、知ってるよ!」


離れてゆく水上バイクとデスビッチを、副隊長は敬礼で見送り、部下達を追って水中に飛び込んだ。


「隊長………御武運を!」


未来を掴む為、戦う者達。

そしてそれは、オホーツク海の方でも………。



***



再び急降下し、観測艦えちぜんに再び襲いかかろうとするデスビッチ・アッシー。

だがそれを、横から飛来したミサイルが阻止した。


「助けに来たぞ!えちぜんッ!!」


ミサイルの主は、救難信号を聞いて駆けつけた、海自の護衛艦いずもだ。

甲板に仁王立ちする艦長の田沼 幸太郎一佐は、手すりから身を乗り出して叫ぶ。


「貴様の相手は我々だ!あのフネには指一本触れさせんぞ!」


しかし、デスビッチはお構いなしに飛びかかり、その触腕を槍に見立てて突き立てようとする。


どごぉんッ!

カロロロッ!?


それを間一髪、主砲である5インチ単装速射砲の一撃が炸裂し、デスビッチを吹き飛ばす。


「撃てぇーッ!!」


田沼の号令の元、いずものCIWSが一斉に火を噴く。


カロロロッ……!


デスビッチは怯むが、致命傷ではないようだ。

だが、人間の兵器でデスビッチが倒せない事など、田沼だって承知の上。

ようは、えちぜんがキモラスを復活させるまでの時間を稼げばいいだけだ。


「頼むぞ、えちぜん………!」


未来を託す田沼だが、えちぜんの方でも問題が起きていた事は、知らなかった……


………さて、ここで斎藤達がやろうとしていた作戦について説明しよう。

内容は簡単。

秋葉の開発したオーガニックエボリューダーを、小型の特殊魚雷に内蔵し、それを積んだ小型水中作業艇を建造して、海底のキモラスに撃ち込む。

しかし、ここに来て小型水中作業艇の乗組員が負傷。

作業艇が動かせなくなってしまう。


「そんな……ここまで来て……」


絶望し、頭をかかえる秋葉。

えちぜんの乗組員に水中作業艇を動かせる者は他におらず、このままではオーガニックエボリューダーの発射は不可能となる。

だがその時、岡田は諦めなかった。


「………俺が行きます」

「えっ?」

「作業艇の免許なら昔取りました、大丈夫です!」

「ちょ、ちょっと待って!危険よ!?」


呼び止める秋葉。

外でデスビッチ・アッシーが暴れている所に出ていくのだ。

もし、奴が電磁パルスを使ったら、岡田は作業艇ごと海中に沈む事になる。

しかし、岡田の覚悟は硬かった。


「承知の上です、秋葉さん」

「………そう」


それを察したのか、斎藤も秋葉も何も言わない。

ただ、黙って見守るだけだった。


「……お願いがあるわ」

「なんですか?」

「………生きて帰ってきて。自分の立案した作戦で誰かが死ぬなんて、まっぴらなのよ」

「………善処します」


そして、岡田は一人、作業艇に乗って出撃していった。



***



ざばんっ!

と、岡田を乗せた水中作業艇が、オホーツクの冷たい海に着水する。

作業艇には防寒システムもついていたが、心なしか岡田は北の海の冷たさを感じていた。


「よし………行くか!」


岡田は気合いを入れ、操縦桿を握る。

そして、計器を確認しながら、ゆっくりと前進を始めた。

どんどん、水深が深くなってゆく。

やがて、深度計が900メートルを越えた所で、ソナーに反応があった。


「…………いた!」


水中作業艇の眼前。

巨大な影が、海底に佇んでいる。

それは、頭から尻尾までの全長が80メートルもある巨大生物。


「キモラス……!」


そう、キモラスだ。

再生途中とはいえ、アメリカ軍に負わされた傷が生々しく残っており、秋葉に知らされなければ死んでいると思うだろう。

岡田はキモラスに向かって、一直線に進んでいった。


「………キモラス」


岡田は、オーガニックエボリューダーの発射ボタンに手をかける。

しかし、ここまで来て発射に抵抗が生まれた。


眼前の痛々しい姿を晒すキモラス。

その原因となったのは、他でもない人間。

人間のせいでキモラスは一度死んだのに、今度は人間の都合の為に復活させられようとしている。


まるで、今まで視聴率のためにオタクを日陰者に追いやり都合のいいサンドバッグにしてきたくせに、金になると解るや否や手の平を返して称賛し出す、メディアのように。


岡田は、今自分がやろうとしている事がそういう事である自覚は、ちゃんと持っている。

だが、今キモラスを蘇らせなければ、デスビッチによってもっと大勢の………それこそ、あの時の自分達のように、キモラスを助けるべく尽力した人々も犠牲になる。


岡田は、罪悪感を必死に押し殺し、オーガニックエボリューダーを発射する、操縦桿のトリガーに指をかける。


「…………許せ、同志よ………」


意を決し、引き金を引く。

オーガニックエボリューダーを搭載した特殊魚雷が、キモラスの口に向けて発射された。

と、同時に、作業艇の電子機器が、海上から放たれた電磁パルスによってダウンした。



***



海上にて、デスビッチ・アッシーがまたも電磁パルスを放出。

それは、先程までアッシーを攻撃していたいずもは勿論、えちぜんの電子機器までもダウンさせた。


「うそ……!?」

「……ッ!!」


秋葉達は、完全に戦意を喪失してしまう。

唯一、田沼だけが最後まで戦い抜く意志を見せたが、それも長くは続かなかった。

いずもの甲板上で、いずも乗組員と共に倒れ込む。


「……ぐっ!」

「田沼さん!しっかり!」

「……ごめんなさい、みんな」

「そんな!謝らないで下さい!」

「私達、何も出来なくて……」


秋葉達の悲壮な声が響く中、遂にデスビッチ・アッシーがえちぜんに向かってきた。

三度となる急降下体当たりにより、今度こそえちぜんを粉砕するつもりだ。


「来るぞ!皆伏せろォ!!」


田丸博士が叫んだ。

デスビッチ・アッシーは勝利を確信したようにカロロロ!と鳴いた。

その黒き翼がえちぜんの艦橋を粉砕しようとした、その時。


カロ…………!?


ザバアッ!と、えちぜんとデスビッチ・アッシーの間を遮るかのように、巨大な水飛沫が立つ。


カロロロロ!?

ブモオォォォォッ!!


次の瞬間秋葉が見たのは、デスビッチ・アッシーの翼に噛みつく、巨大な顎。


牛が豚のような咆哮と共に現れたそれは、まるでゾウアザラシを思わせる膨れた鼻をしており、その体表はトロールを思わせる緑色。

顔つきはどこか人間的であり、腫れぼったい半開きの目をして、身体の各部にイボのようなブツブツのある、這うような体制の怪物だった。


否、その姿は秋葉が小さい頃兄と一緒に見ていた特撮番組に出てくる「怪獣」を思わせる。間違いない。

これこそ、人類の前に初めて明確に現れた、怪獣。

一部のバカな女達により追い立てられ、大国の威厳の為にその命を散らした、クジラの祖たる古代怪獣。


「……キモラス!」


秋葉は思わずその名を口に出した。

キモラスは、えちぜんとデスビッチの間に割って入り、秋葉達を守るようにして立ちはだかる。

そしてデスビッチの翼に噛み付いたまま、ゆっくりと首を振ってデスビッチを振り回し始めた。


ブモ……ッ!


ブチブチッ!と、デスビッチ・アッシーの翼が千切れ、キモラスはそのまま、海へと投げ飛ばす。


カロロロロッ!?


飛行能力を失ったデスビッチ・アッシーは海中に逃げようとしたが、それより早く、キモラスがデスビッチ・アッシーに襲いかかる。


………いくら気弱なキモラスとはいえ、その種族は肉食のミティサウルス。

相手は被食対象かつ、自分の半分もない大きさのデスビッチ・アッシー。

恐れる要素などどこにも無かった。


ブモォオオ!!


キモラスはデスビッチ・アッシーに組み付くと、そのまま持ち上げて勢いよく後頭部……首筋に噛み付いた!。


カロロ……ッ!?


デスビッチ・アッシーは苦しそうにもがくも、キモラスの力には敵わない。

やがて、グチャアッ!という、体内の主要機関が噛み潰される音が響き、デスビッチ・アッシーは絶命する。

がぶ、ぐちゃ、と、デスビッチ・アッシーの血肉を咀む音が響く。

久々の食事を楽しむキモラスを前に、斎藤がある事に気付く。


「なんか……前よりゴツくなってないか?」

「えっ?」


見れば、キモラスは以前現れた時と比べると、まあ全体的にブヨブヨしている事には変わりない。

だが、基本重力下では四足歩行だったのが、水中でしか取れないハズの直立二足歩行姿勢になる等、以前より逞しくなった感がある。

いわゆる、本来の意味での「ガチムチ」に近いだろう。


「多分………オーガニックエボリューダーの影響ね?」

「え……あれ骨格レベルで変化するぐらいすごいの?」

「当然よ、私の発明なんだから」


ただでさえ大きいGカップの胸を張ってドヤる秋葉。

根拠のない自信であったが、偶然にも当たりだった。


オーガニックエボリューダーは再生途中のキモラスの細胞に働きかけ、遺伝子レベルにまで変化させ、更には肉体そのものを強化させたのだ。

その結果、古代においてもいじめられっ子であり、子孫も残せなかったキモラスが、この現代で、ここまで強力な存在へと成り上がった。


「驚く事はないわ、ミティサウルスのオスとしてはあれが普通よ」

「は、はあ………」

「もっとも、同族のいない今こうなっても仕方ないけどね」


瞬間、キモラスがえちぜんの方向を向いた。

まさか、悪口が聞こえたのか?とも思ったが、違うだろう。

そも、キモラス………もといミティサウルスは、クジラの仲間だ。

クジラは知能が高く、その仲間であるキモラスなら解るだろう。


………あそこに居るのが、自分を一度殺した連中だと。


「キモラスが来る……!?」


キモラスは、海上に半身を出したままえちぜんに向かってくる。

現在、えちぜんもいずももデスビッチ・アッシーの電磁パルスによって機能がダウンしてる状態にあり、今キモラスに攻撃されればひとたまりもない。


「ちょ……!?」

「に、逃げないと!」

「ま、まて、アレを見ろ!」


秋葉達は慌ててその場から離れようとする。

だが、キモラスの手に抱きしめられたその機体を見て、二人は目を見開く。


「アレは………!!」


キモラスの手に抱きかかえられているのは、なんと作業艇。

岡田が乗っているそれを、まるで赤子を抱きかかえるようにして、キモラスは優しく運んできた。


「お、おい、アレって……」

「岡田さんの作業艇……!」


キモラスの腫れぼったい半開きの目が、秋葉達に向けられる。

そして二人の見守る中、えちぜんの甲板にそっと、作業艇が置かれる。

ばしゅっ、と、作業艇のハッチが開き、そこから岡田が出てくる。


「かはっ、はあ、は………あ」

「岡田ァ!」

「岡田さん!!」


思わず駆け寄る二人に、岡田は手を上げて応える。

岡田は作業艇から降りると、振り向き、キモラスを見上げる。


「……助けてくれたのか」

ブモォ


ただ短く、静かに、キモラスは唸った。

その腫れぼったい目は優しく、澄んでいるようにも見えた。

そしてキモラスは岡田達に背を向けると、遠くへと泳いでゆく。


「キモラスは……」

「あの方角は……!」


キモラスが向かう先。

その方角は、東京……………そう。


「渋谷だ」


そう、今やデスビッチの巣と化し、水の底に沈んだ渋谷。

キモラスは本能で察したのだ。

そこに「敵」がいると。


「……えちぜんの機能が回復し次第、俺達も渋谷に向かおう」

「岡田さん………」

「俺達はキモラスを自分達の都合で起こした。俺達には、この戦いを見届ける義務がある!」



***

 

水没した渋谷を駆ける水上バイク。

ロケットランチャーは弾丸を撃ち尽くし、既に捨てた。

小芝の手に握られているのは、残弾の少なくなったミニガンのみ。

小柴を乗せた水上バイクがスクランブル交差点に入った直後、ビルを吹き飛ばしてメスのデスビッチが飛び出してくる。


「うおっ!?」

カロロロロロ!!


咄嵯にハンドルを切り、メスのデスビッチが破壊したビルの破片を避ける。

そのまま方向転換して再び走り出す。


「この、ついてこい………ッ!」


メスのデスビッチは、その巨体で小柴を執拗に追う。


(クソ!こんな事なら、もう少し持ってくるべきだったか?)


咄嗟に出てきた為に仕方ないにしても、せめてミサイルぐらいは持っておくべきだったか?

そんな考えが小柴に過ぎった瞬間。


その一瞬の隙をつき、デスビッチが、その首長竜の頭を思わせる巨大な触腕を振り下ろした。


どばしゃあああっ!!

振り下ろした触腕は、水上バイクに直撃こそしなかった。

が、それにより水上バイクはバランスを崩す。


「うおっ!?」


そして追い打ちとばかりに、メスのデスビッチがもう片方の触腕を、今度は水上バイクに向けて振り下ろした!


「うわああっ!?」


水上バイクは、乗った小柴もろとも空中に放り出される。

がしゃあんっ!!

水上バイクはミラービル内部に突っ込み、小柴もビルの内部に叩きつけられる。


「ぐ、あ……」


全身を強く打った痛みに顔をしかめながら、小柴は身を起こす。

幸いにも、大きな怪我は無いようだ。

だが。


「ああ、くそ、これじゃもう無理だな……」


彼の乗っていた水上バイクは完全に壊れていた。

恐らく、エンジン部分に大きなダメージを負ったのだろう、黒い煙を上げていた。


「ぐ………ッ」


ガラス窓の向こう。

爛々と輝くデスビッチの赤い瞳が、ビルの中の小柴を見つめている。

それはまるで、小柴の今の状況を嘲笑っているかのようだった。

ざまあないわねえ、と。


「………来い、スルメのバケモンが………!」


しかし、小柴からしたらそれはこちらの台詞である。

そも、小柴の目的は部下達が排水システムを作動させるまでの時間稼ぎ。

システムのある下水道管理局ビルから、デスビッチは十分離れた。

今頃、小柴の部下達が排水システムにたどり着いている頃だろう。


「ざまあみろ尻軽スルメ………俺の勝ちだ」


デスビッチが触腕を振り上げ、ビルを叩き壊そうとする。

ビルが破壊されれば、その中にいる小柴も死ぬ。

しかし、この国の………銃を握る立場というだけで後ろ指を指してくるバカばかりの国のとはいえ、それを守る為の作戦の礎として死ねるなら、自衛官冥利に尽きるというもの。


その、自衛官のプライドからか、小柴はデスビッチの赤い目をキッと睨みつけ、皮肉の効いた笑みを浮かべて最後の時を待った。

だが。


…………どごぉん!!


デスビッチを、飛来した超音波の砲弾が吹き飛ばす。

さながら、マッコウクジラがダイオウイカを超音波砲で吹き飛ばすがごとく。


カロロロロロッ!?


状況を理解するよりも早く吹き飛ばされたデスビッチは、そのまま背後にあったビルに突っ込んだ。

そして、状況を理解できないのは傍観者となった小柴も同じ。



ブモォオオオオオオォォォォォォーーーーッッッ!!!




だが、次の瞬間響いたこの、牛か豚のような咆哮を聞き、小柴は理解した。

岡田達が、やってくれたと。


「キモラス………!!」


瓦礫を押しのけ、デスビッチが立ち上がる。

その体は小さいが傷だらけであり、人間の兵器などとは比べ物にならないダメージを受けているのは明らかであった。

当然だ、それは彼女等を狩る為にミティサウルスが身につけた能力なのだから。


カロロロロロロ!!!!


威嚇するように吠え返すデスビッチ。

対するキモラスは、膝まで浸水した渋谷の街に、悠々と歩きながら姿を現した。


カロロ、カロロ!!

ブモォオオ!!


互いに威嚇し合う二大怪獣。

デスビッチは、目の前に現れた仇敵に興奮し、触腕を振り上げ、発光器官を赤く光らせて威嚇する。


ブモォオオ!!


しかしそんな威嚇が、オーガニックエボリューダーによってハイになり、調子に乗ってイキっているキモラス通じる筈もなく、キモラスはその60mの巨体をデスビッチに突撃させた!


どばしゃああっ!!

水飛沫を上げて突進してくるキモラスに、デスビッチは反射的に触腕を振って迎撃しようとする。

しかし、その動きが鈍かったのか、それとも相手が速すぎたのか、触腕が届く前にキモラスがデスビッチに激突。


どごおおおっ!


轟音。

広がる衝撃波。

そしてキモラスは、組み合った体制のままデスビッチの背中の殻に拳を叩き込む。


カロロ、カロロ! カロロ、カロロ!!

ブモォオオッ!!


殻を殴られ、もがき苦しむデスビッチに構わず、キモラスは何度も、何度も殴りつける。

しかしデスビッチの殻は固く、細かい突起は崩れるも中々破壊できない。


カロロロロロ!!


そしてデスビッチも、やられてばかりではない。

二本の触腕を器用に動かして、キモラスの首元に巻きつけた。


カロロロ……!


そしてそのまま、締め上げる。


ブモッ!?


首を絞められ、苦悶の声を上げるキモラス。

さらにデスビッチは、そのイカ特有の嘴を使い、キモラスの足にガブリ!と噛み付いた。


ブキィッ!?


これには堪らず、悲鳴にも似た咆哮を上げるキモラス。

噛みつかれた箇所から、真っ赤な血がダラリと流れている。


ブモォオオ………!!


しかし、キモラスは賢かった。

デスビッチに組み付かれた状態で、そのまま付近にあったビルに進撃。

デスビッチごと、ビルに突っ込んだではないか!


どごぉん!!

カロロ!?


突然の出来事に、混乱するデスビッチ。

ビルが砕かれ、叩きつけられる形になったデスビッチを痛みと激震が襲う。

そして、キモラスに対しての拘束が、ほんの少しだけ揺らいだ。


ブモォ!!


そして、キモラスはチャンスの時を逃さない。

デスビッチに対し、足を振り上げて蹴り上げたのだ。

いわゆる、ニーキックである。

クジラの仲間であるキモラスができるのかと思うが、まあ怪獣モノで気にしたら負けだ。


カロロッ!?

ブモォオオ!!


キモラスの強烈な一撃を喰らい、吹っ飛ぶデスビッチ。

拘束を解かれたキモラスは、次に自分より体高の低いデスビッチを、踏みつけようとしたが……


………さて、皆様はデスビッチが何体いたかは覚えているだろうか。

そう、デスビッチは一匹ではない。

メスが一頭。オスが三頭である。


メスは、今キモラスが戦っている個体。

オスのデスビッチ・アッシーは、オホーツク海でキモラスと戦って瞬殺。

もう一頭のオスのデスビッチ・メッシーは、メスのデスビッチの食糧として貪り食われて死亡。


そう、デスビッチはもう一頭残っている。


カロロロロロ!!

ブモォ!?


キモラスがメスのデスビッチを踏みつけようとした瞬間、飛来したオスのデスビッチが、キモラスの後頭部に噛み付いた。

最後に残ったオスのデスビッチ、ミツグクンである。


ブモォオオオ!!

カロロロ!!

ブモォオオ……!!


首筋に噛み付くデスビッチ・ミツグクンを振り落とそうと暴れるキモラス。

振り落とされまいとするミツグクン。


カロロロロロ!!


メスのデスビッチは、自身を守ろうと二倍近くもある体格差のキモラスと戦うミツグクンを前に、ひっそりと逃げようとする。

心なしか、その表情は嗤っているようにも見えた。


その様をビルの中から見守る小柴は、メスのデスビッチが自身が若い頃よく見た嫌な女に被って見えた。

男性からの貢物に依存しているくせに、強い女を気取り男を弄び、利用し、最後には捨てる。

それを「大人の恋」だと思いこんでいる、そんなバブルの時代が残した怪物に。


しかし、今は昔とは違う。

もうバブルなんて時代じゃない。

そんな自称強い女の尻軽女には、必ず裁きが下るのだ。


「………あっ!!」


その時、小柴は気付いた。

水没した渋谷、その水位が下がってきている事に。


「あいつらがやったんだ………!」


どうやら、小柴が託した決死隊の作戦も成功したようだ。

排水システムが起動し、どんどん水位が下がってゆく。


ブモォオオ!!

カロロロロ!!


水飛沫を上げながら戦うキモラスとデスビッチ。

そして、ビルから戦いを見つめる小柴。


この一対二の争いは、まだ決着がついていない。

しかし、水位は徐々にだが確実に下がりつつある。

それは、このデスビッチに有利に作られた戦場が崩壊しつつある事を意味していた。


カロロ………!?


メスのデスビッチは、20mはあった水位が半分以下まで下がった事を察知すると、一目散に逃げ出そうとする。

あの体型と巨体で自由に立ち回れたのは、ひとえに水中という自身に有利なステージだったからに他ならない。

だがそれは、メスのデスビッチ自身の身体が許さなかった。


「アレは!!」


その時、小柴が見たのは、水位が下がった事で明らかになった、下腹部が膨らんだメスのデスビッチの姿。

その内部は透けており、中でいくつもの卵が蠢いている。


「あれは……妊娠しているのか!?」


そう、デスビッチは妊娠しており、産卵期を迎えようとしていたのだ。

だから、普通に追いつけたであろう小柴の水上バイクと水上デッドヒートを繰り広げる事になったのだ。

これを放置すれば、メスのデスビッチが産卵し、デスビッチが増殖する可能性がある。

もしそうなれば、状況は最悪だ。


ブモォオオ!!

カロロロロ!!


キモラスとデスビッチ・ミツグクンの、取っ組み合いのような戦いは続いている。


キモラスとデスビッチは同じ水棲生物であるが、キモラスは水位が下がった状態でもこのようにピンピンして立ち回っていた。

まあ、以前の時点であの巨体で地上を這うなんて事をやってのけているが、それに加えて今の状態は二足歩行。

人為的なパワーアップだったとはいえ、既に人類の常識を超えた存在=「怪獣」なのだと、嫌でも思い知らされる。

今のキモラスなら、バンカーバスターを浴びても死ぬ事はないだろう。


カロロロ………!!


デスビッチ・ミツグクンとキモラスの激闘の最中、水位の低下により逃げられなくなったメスのデスビッチ。

その、殻についた四本の突起に、バチバチと電流が走る。


小柴は、また電磁パルスか?とも思ったが、すぐに違うと分かった。

一つは、電磁パルスとは規模が違いすぎる事。

一つは、キモラスがエコーロケーションを超音波キャノンに応用するように、デスビッチの電磁パルスも「武器」に応用できると、気付いた故に。


カロロロロロロロロ!!


背中の突起をコイル代わりに、エネルギーをチャージし、過剰チャージされた電磁パルスは破壊光線「エレクトロンブラスター」となり、キモラスに襲いかかった!


……キモラスと取っ組み合っていた、デスビッチ・ミツグクンごと。


カロロ………!?


死の直前ミツグクンは、短く「どうして?」と言うかのように困惑したような声を上げた。

そりゃそうだ、他のオスと取り合い、勝ち取り、また命をかけて守ろうとしたメスに、捨て駒にされたのだから。


後の調査で、この時メスのデスビッチが妊娠していた子供がミツグクンの物ではない事が明らかとなった事と合わせて、哀れとしか言えなかった。



ズドオォォォオオオオオン!!



二体の怪獣を巻き込み、大爆発が起きた。

過剰チャージされた電磁パルスが、地下に流れていたガスのライフラインに引火した事もあり、その威力たるや凄まじい。


カロロロロロ!!カロロロロロ!!


勝利を確信し、デスビッチは笑うような咆哮を挙げる。

天敵の排除と産卵の為に、自分に尽くしたオスを全て犠牲にする様は、まさに怪獣界の悪女としか言いようがない。


排水システムにより水没していた渋谷から水がなくなり、アンモナイトや三葉虫がビチビチと跳ねている。

身重のデスビッチであるが、歩行はできる。

海に向かい、そこで産卵しようと考えていた。


……だが、先も言った通り男を利用して切り捨てるような、自称強い女の尻軽女には、必ず裁きが下る。

デスビッチの思い通りになる事など、決してないのだ。


…………ブモォ


おい待てよ。

そう言うように聞こえた声を聞き、デスビッチはビクリと震える。

それはまるで、倒されたハズの「ヤツ」の声そのものだったから。


カロロロ……!?


その眼前。

燃え上がる炎の中から、それはその巨体を表す。

そして現れるのは……。


「キモラス……!!」


小柴は、驚きを隠せない。

キモラスは、あの爆炎の中でも全くの無傷。

かつては、上陸しただけで体表が渇き、皮膚が焼かれる程だったが、今は違う。

よく見れば、保湿用の粘液も分泌していない。

もう必要がないのだ。


ブモォ……!

カロロ……!


再び、キモラスとデスビッチが対峙する。


キモラスの鼻の周りに大気の揺らぎのよいな物が現れたかと思うと、次第に火の玉のような光の塊になってゆく。

対するデスビッチも、再び殻の突起を使い電磁エネルギーをチャージ。バチバチと電力が走る。

互いの必殺武器をチャージし、にらみ合う姿は、さながら西部劇の決闘のよう。


見守る小柴。走る緊張。

渋谷の曇天に、一筋の光が差し込んだ瞬間。

勝負の火蓋は切って落とされた。


どごぉん!!


放たれる、キモラスの充填超音波キャノン。

飛ぶ、デスビッチのエレクトロンブラスター。

互いに直撃。


カロ……!!


しかし、敗れたのはデスビッチの方だった。

キモラスに飛来したエレクトロンブラスターは、右足に当たった。

しかし、デスビッチに向けて飛来した充填超音波キャノンが直撃したのは、デスビッチの真正面。


殻で守られていない、頭だった。


ドシュウウッ!!


キモラスが放った超音波キャノンは、デスビッチの頭を、脳を、そして内蔵を卵ごと貫通する。

断末魔を上げる間もなく、デスビッチは絶命した。


ブモォ……!!


デスビッチの死を確認し、キモラスもぐらりとよろける。

足は負傷したが、勝ったのはキモラスである。


「やった………!」


小柴は勝利を見届け、一気に脱力し、ビルの壁に倒れる。

そして電磁パルスによって反応しなくなった通信機を取り、通信の真似事をする。


「本部に通達………状況終了、キモラスの勝ちだ」



***



暗雲は晴れ、水の引いた渋谷に再び青空が戻る。

そして最終決戦に遅れる形で、渋谷に岡田達が到着する。


「キモラス!」

「キモラスが勝ったんだ……!」


岡田や斎藤、秋葉の見守る先で、戦いを終えたキモラスは渋谷を抜け、港区の海へと帰ってゆく。

あの時は直前で死んでしまったが、今のキモラスならバンカーバスターも効かない為、悠々と帰る事ができる。


「キモラス………人間の都合で蘇らせて、本当にごめん」


海に帰っていくキモラスの後ろ姿を、岡田達は見えなくなるまで眺めていた。


「そして……俺達の為に戦ってくれて、ありがとう」



……キモラスの勝利を祝うかのように、空には虹がかかっていた。

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