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【書籍化・コミカライズ】断罪された悪役令嬢は、元凶の二人の娘として生まれ変わったので、両親の罪を暴く  作者: 葵 すみれ
番外編

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【コミックス④発売記念SS】二人の結婚式

web版未登場(書籍2巻に登場)キャラ紹介

●ディラン

 ローバリー第一王子。ケヴィンの息子。側妃同盟により擁立された王子(web版64話)だったが、何だかんだあって王太子に。ケヴィンのことが嫌い。

●ハリエット

 ローバリーの公爵令嬢。セシリアと同い年。ケヴィンの正妃候補だったが、何だかんだあって王太子ディランの婚約者に。ケヴィンのことが嫌い。

 薔薇で埋め尽くされた神殿内は、芳しい香りで満ちていた。

 窓から射し込む柔らかな光が、純白のドレスに身を包んだセシリアを神々しく照らし出している。


「セシリア、とても綺麗です」


 感極まったようなエルヴィスの声が、セシリアの耳をくすぐる。

 純白の婚礼衣装に身を包んだエルヴィスも、いつも以上に凛々しく、麗しく見えた。


「ありがとうございます。あなたも素敵ですわ」


 はにかみながら、セシリアがそっと手を伸ばすと、エルヴィスがその手を取って指先に口づける。


「ありがとうございます。あなたの隣に立っても恥ずかしくないよう、精一杯努めましたよ」


「まあ……それは私の台詞ですわ」


 エルヴィスの言葉に、セシリアが思わず唇を尖らせる。

 すると、その唇に軽く口づけを落とされた。


「やっと今日という日を迎えることができました。この幸せをどう表現すればよいのか、言葉が見つからないほどです。本当に……愛しています」


 エルヴィスは、セシリアをぎゅっと抱き締める。


「私もですわ」


 セシリアもエルヴィスの背中へと腕を回した。

 二人はしばしの間、抱擁し合っていたが、やがてそっと体を離した。


「さあ、時間ですよ」


「……はい」


 差し出された手に、セシリアは自分のそれを重ねる。

 そして二人は手を取り合い、神殿の奥へと歩き出したのだった。




 セシリアとエルヴィスの結婚式は、滞りなく行われた。

 参列者には、国王ジェームズを始めとして、王国の重鎮たちが名を連ねている。また、隣国ローバリーからも、王太子とその婚約者が参列していた。

 ローズブレイド家の人々も、二人の晴れ姿を見るべくやって来ていたが、中には感極まって涙ぐんでいる者もいるようだ。


 厳かな式が終わると、今度は披露宴だ。

 参列客が次々と二人の前にやって来ては、祝いの言葉を述べて贈り物を手渡していく。


「セシリア、ローズブレイド公爵、この度はおめでとう。末永くお幸せに」


 今や唯一の王子となったギルバートが、二人に祝いの言葉をかける。

 婚約披露パーティーのときは勘違い発言をした彼だが、今ではすっかり落ち着いているようだ。

 辺境の騎士団で鍛えられていると話は聞いていたが、その効果はあったらしい。

 隣りに立つ、彼の婚約者であるモラレス侯爵令嬢も、にこやかな笑顔を浮かべている。


「ありがとうございます」


 セシリアは、ギルバートに軽く膝を折って礼をする。エルヴィスも、胸に手を当てて礼を取った。


「その……以前の僕は、色々と失礼してしまったね。すまない。まだまだ未熟な身だけれど、これから頑張っていくつもりだ」


 ギルバートは、セシリアに対して恥ずかしそうに謝罪する。


「わたくしも……以前は令嬢らしからぬ態度を取ってしまいました。申し訳ございません。これからは、ギルバートさまを支えられるよう、精進してまいります」


 モラレス侯爵令嬢も、申し訳なさそうな顔をしていた。

 かつてとは違う、成長が感じられる二人の姿に、セシリアは感慨深さが込み上げてきた。


「いいえ、お気になさらないでください。お二人が成長されたようで何よりです」


 セシリアは、二人に対してにっこりと微笑んだ。

 すると、モラレス侯爵令嬢の顔がぱっと明るくなる。そして、おずおずとした様子で口を開いた。


「あの……もしよろしければ、わたくしともお友達になってくださいませんか?」


「……ええ、喜んで」


 セシリアは笑顔で頷く。

 その答えを聞いて、モラレス侯爵令嬢は嬉しそうに笑った。


 それからも次々と祝いの言葉を述べにやって来る人々と、二人は会話を交わしていった。


「セシリア姫……いえ、もうローズブレイド公爵夫人ですね。おめでとうございます。この度はお招きいただき光栄に存じます」


「まあ、ディラン王子……いえ、今は王太子殿下でしたわね。ありがとうございます」


 セシリアとエルヴィスの前に現れたのは、ローバリーからやってきた第一王子ディランだ。

 色々と因縁のあったケヴィンの息子である。

 かつてローバリーの側妃たちに擁立された傀儡だった彼は、今や王太子として認められていた。

 隣りには、彼の婚約者となったローバリーの公爵令嬢ハリエットもいる。


「ハリエット嬢、本日はお越しいただきありがとうございます。どうか楽しんでいってください」


「ありがとうございます。お気遣いいただき恐縮です」


 エルヴィスの挨拶に、ハリエットが微笑みながら礼を取る。

 するとディランは、エルヴィスに小瓶がいくつも入った箱を手渡した。


「これは私からの結婚祝いです。お納めください」


「これは……」


 ディランから渡された小瓶を、エルヴィスはじっと見つめる。


「これは我が国で若返ると評判の美容品です。側妃たちの間で、大人気の品ですよ。若い妻に捨てられないよう、ぜひお使いください」


「……ありがとうございます」


 エルヴィスは礼を述べてそれを受け取るが、その声はいささか強張っていた。

 その隣りでセシリアが、小さく苦笑いする。

 やはりこの二人は相性が悪いようだ。

 いつもにこやかな微笑みを崩さないエルヴィスが、珍しく引きつった笑みを浮かべている。

 それを眺めながら、ディランはにやにやと笑っていた。


「……ディラン」


 呆れたように、ハリエットがディランの脇腹を肘でつつく。


「おっと……失礼。つい調子に乗ってしまいました」


 ディランは軽く咳払いをし、改めてエルヴィスに向き直った。そして、二冊の本を差し出す。


「親父殿から預かってきました。お返しいたします」


「これは……」


 エルヴィスが、本を受け取る。

 それは、かつてローズブレイドの叔父が持ち出して隣国王ケヴィンの手に渡った、女神の加護についての本だった。


「もともとはそちらのものですし、もはや必要のないものだと、親父殿はあっさり返してきましたよ」


「そうですか……ありがとうございます」


 エルヴィスは、本を受け取るとわずかに微笑む。

 本を渡したディランは、声を潜めて二人に囁いた。


「それと、素敵な知らせがありますよ。好色王と名高い親父殿ですが、どうやら不能になったようです」


「えっ……」


 思わず、セシリアは驚きの声を漏らす。

 エルヴィスも、わずかに目を見張った。

 十二人もの側妃を持ち、好色王と呼ばれるケヴィンが、まさか不能になったというのか。


「実のところ、しばらく前からそうだったみたいですね。セシリア姫をさらおうとして、女神の怒りに触れたせいではないでしょうか。まったく、いい気味ですよ。これで、ローバリーの厄介事がひとつ減りました」


 実に生き生きとした様子で、ディランは語る。

 寄り添うハリエットも、どこか嬉しそうだ。


「それは……何よりですね」


 エルヴィスは穏やかな微笑みを崩さず、相槌を打った。

 心なしか声が弾んでいるように聞こえるのは、気のせいではないだろう。


「それでは、また後で」


 そう言うと、ディランはセシリアとエルヴィスに背を向けた。そして、ハリエットと共に歩き出す。

 その背中を見送りながら、セシリアはぽつりと呟いた。


「なんだか、お気の毒なような……」


「……まあ、自業自得というやつでしょう」


 エルヴィスが素っ気なく答える。しかし、その声はどこか楽しげな響きを帯びていた。

 実際のところ、セシリアもケヴィンのことを思い返せば、口から出てきそうになるのは恨み言ばかりだ。

 同情する必要などないかと思い直し、セシリアはエルヴィスと微笑み合った。


「さあ、まだまだ来ますよ」


「ええ、そうですね」


 二人は手を取り合う。そして、再び祝いの言葉を述べにやって来た人々への応対を始めたのだった。




 披露宴は、大盛況のうちに終わった。

 セシリアとエルヴィスの仲睦まじい様子に、参列した人々は皆一様に顔を綻ばせたのだった。


「本当に……夢のような時間でしたわ」


 セシリアは、うっとりと呟く。


「ええ、私もです」


 エルヴィスも、微笑みながら頷いた。

 披露宴を終えた二人は、寝室へと場所を移していた。そして今、二人は寝台に腰掛けて寄り添っている。

 窓から射し込む月明かりが、二人の姿を柔らかく浮かび上がらせていた。


「思い返せば……本当に長かったような気がしますわ」


 セシリアはそっと手を伸ばして、エルヴィスの手の上に重ねる。そして、そのまま指を滑らせて絡め合わせた。


「そうですね……」


 エルヴィスもセシリアの手を優しく握り返すと、そのまま自分のほうへと引き寄せた。


「セシリア、愛しています」


 エルヴィスはセシリアの耳元で囁くと、そのまま唇を重ねる。

 最初は触れるだけの優しい口づけだったが、次第に熱を帯びたものへと変化していった。


「ん……っ」


 セシリアの喉から、くぐもった声が上がる。

 それを合図に、エルヴィスはセシリアを寝台の上に押し倒した。


「あ……」


 いよいよかと、セシリアは緊張で身を硬くする。

 するとエルヴィスはふっと微笑み、優しくセシリアの頭を撫でた。


「そんなに緊張しないでください」


「だ、だって……」


 セシリアの顔に熱が集まる。恥ずかしさのあまり、エルヴィスの顔をまともに見ることができなかった。

 そんなセシリアを慈しむように眺めながら、エルヴィスは彼女の耳元に口を寄せる。


「愛していますよ、セシリア。これからもずっと、あなただけを愛し続けます」


「私も……エルヴィスを愛しています」


 セシリアはそっと手を伸ばし、エルヴィスの頬に触れる。そして、そのまま引き寄せるようにして口づけた。

 二人の夜は、まだ始まったばかりだ。

 こうして、ローズブレイド公爵夫妻の結婚式は無事に終わったのだった。

本日2024/9/7より、コミカライズの4巻が配信開始となりました。(4巻は電子のみの配信です)

とうとう最終巻、セシリアとエルヴィスが困難を乗り越えて結ばれるハッピーエンドです!

BEKO先生によって原作以上に設定を練り込まれ、作中の童話を絡めた展開となっています。

エルヴィスも原作の100倍くらい賢いので、ぜひご覧になっていただけると嬉しいです。

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