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【書籍化・コミカライズ】断罪された悪役令嬢は、元凶の二人の娘として生まれ変わったので、両親の罪を暴く  作者: 葵 すみれ
本編

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61.女神の忘れもの

 名前が二つあるとは、セシリアがアデラインの記憶を有しているためだろうか。

 新たな生で前の生の記憶が残っていることを、女神の忘れものという。語りかけてきた『忘れもの』という言葉はそのことだろう。


「は……はい……私は前の人生の記憶があります」


 セシリアが答えると、頷くようなイメージが伝わってきた。


(お話しできる人、久しぶり。いつも人言うだけ、糧渡される、働かされる、待たされる)


 おそらく、王家の秘法のことだろう。

 セシリアが感じ取ったのは、餌を与えるからもう少し頑張って待っていろといったものだった。大体、合っている。


「あなたは、この国を守っている女神なのですか?」


(女神……それより精霊、妖精、近い。昔、捕まった。この国守る、たくさん守る、いつか自由くれる、約束)


 女神というよりは、精霊や妖精といった存在のようだ。

 それも、昔捕まって国のために使役されていたらしい。いつか自由にするという約束をして、縛り付けていたのだろう。

 大昔は精霊や妖精といった存在がもっと身近だったという伝説もある。王家の始祖がそういった存在を捕らえ、使役する術を持っていたのだろうか。あるいは、その術を持つ者を王家の始祖が利用した可能性もある。

 その術の一部だけ残っているのが、王家の秘法なのだろう。


(おなか、すいた。力、出ない。人、嘘ついた。糧渡す、言った。糧、持っていない。怒った、もう出たい、出られない)


 嘆きが伝わってくる。

 国王が即位するときに女神と契約を交すのが、糧を与えて再び働かせるものなのだろう。その糧となるのが、王家の者が持つ秘法の素質なのかもしれない。

 女神の加護が薄れてきたのは、空腹のために力が出なくなってきたからだったようだ。

 そこまではわかったが、嘘をついたというのが思い当たらず、セシリアは考え込む。


 ややあって、追い詰められつつあった国王が、女神の加護を復活させようとしたという話を思い出す。

 きっと、秘法の言葉をそのまま言ったのだろう。

 だが、契約は一度きりしかできないと聞く。それは、糧となるものを渡してしまうからだとすれば、国王はもうそれを持っていないはずだ。

 糧を渡すと言いながら、何も持っていない。それが逆鱗に触れたのだろう。


 お腹が空いて力が出ないと言うが、このまま放っておけば消滅してしまうだろうか。

 今、天変地異を引き起こしているのが、最後の力を振り絞っての怒りなのかもしれない。

 セシリアは、彼女をどうにかここから解放してあげたかった。


「何故、出られないのですか? どうすれば出られるか、わかりますか?」


(名前、奪われた。名前、くれる、出られる)


 名前を奪われたために、出られないということか。

 セシリアはふと、童話『女神の忘れもの』を思い出す。その話も、名前を失い、最後に取り戻すものだった。もしかしたら、関連があるのかもしれない。


「名前を付けて差し上げれば、出られるということですか?」


(名前くれる、存在くれる。人、存在薄れる。やがて、死ぬ)


 どうやら、そう単純なものではないらしい。

 自分の存在そのものを渡すということのようだ。

 かつての女王が五年で力を失い、命を縮めたという記録を思い出す。名も無き女王と呼ばれていたのも、名前を渡したせいかもしれない。


(前、人、名前くれた。嬉しかった。手伝いした。でも、少し後、人、死んだ。いなくなった。また出られない)


 やはり、かつての女王のことを言っているようだ。

 名前をもらったことが嬉しくて、女王を手伝ったが、長くは保たなかったのだろう。再び、閉じ込められてしまったらしい。

 ただ、それが誰かの手によって封じられたのか、それとも名前を与えた者が死ぬと再び封じられるのかは、よくわからない。

 もしかしたら、本来の名前ではないものは、一時的な解放にしかならない可能性もある。


(帰りたい……空、帰りたい……)


 悲しげな嘆きが伝わってくる。

 彼女は、ずっとこうして人々の犠牲になっていたのだ。

 この国が女神の加護に頼り切っているとは、前からセシリアが思っていたことだ。このままでよいのだろうかと疑念を抱いていたが、この嘆きを聞いて、もう終わらせるべきだと確信する。


 しかし、もしセシリアが名前を渡したとすれば、名も無き女王と同じ道をたどってしまうのだろう。

 数年で命を失ってしまうのは、セシリアとしても避けたい。

 さらに、名前を与えた者が死ねば彼女も再び封じられてしまうという説が正しかった場合、根本的な解決にはならなさそうだ。


「名前……名前が二つ……もしかして……」


 考え込んでいたセシリアは、彼女が最初に言った言葉を思い出す。

 セシリアに向かって、名前が二つあると言ったのだ。

 実際にセシリアは、自分のものだけではなく、アデラインの記憶も持っている。これは、二つの存在が重なっているということかもしれない。

 もしかしたら、自分の存在を失わずに済むのではないだろうか。


(あなた、異なる、忘れもの、名前、ほしい。忘れもの、一緒、空、帰れる)

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