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【書籍化・コミカライズ】断罪された悪役令嬢は、元凶の二人の娘として生まれ変わったので、両親の罪を暴く  作者: 葵 すみれ
本編

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60.女神の意思

 ここでマリエッタを責めたとしても、彼女の心には響かないのだろう。

 彼女にとっては犯した罪も国のためであり、信念を持って正義だと言い切れるのだ。

 何を言おうとも無駄なのだと、セシリアは虚しさの入り交じった諦めの気持ちがわき上がってくる。


 だが、アデライン殺害の黒幕を暴き、王太子と王太子妃の罪も明らかにして、アデラインの名誉を回復するという目的を達することは叶いそうだ。

 もともとはそれが最終目的だった。本来はエルヴィスとの婚約も、女王を目指すのも、そのための手段に過ぎない。

 それならば、目的を達することができるのだから構わないと、セシリアは己を納得させる。


「……わかりました。ただ、何でもするという言葉、お忘れなきよう」


「はい。ありがとうございます。国のためでしたら、私は何でもいたします」


 セシリアが言い放つと、マリエッタは平伏したまま答えた。

 目をそらし、セシリアは扉に向き合う。


「ま……待て……セシリアは王家の秘法を知らないだろう……秘法とは、いわば祈りの言葉だ……いいか……」


 そこに、座り込んでいたジェームズが苦しそうに口を開く。

 彼の口から紡がれたのは、聞いたことのない言葉だった。歌うような独特のリズムを持っていて、女神に語りかけるための言葉なのだろう。

 これが王家の秘法なのかと、セシリアはいささか意外な気分だった。意識せず、眉根が寄ってしまう。


「国王となる者は、祭壇の前でこの祈りを捧げるのだ……それによって力が捧げられ、女神の糧となるという……私ではもはや届かなかったが……セシリアなら……」


 そこまで語ると、ジェームズは再びぐったりと力を失う。

 最後の希望だとセシリアに託したのだ。おそらく、王家にはこの言葉だけが祈りとして伝わり、それが本当は何を意味するかは伝わってこなかったのだろう。

 だから、これが希望であるとジェームズは疑っていない。あえて何か言うこともなく、セシリアはただ頷いた。


「……では、行ってきます」


「セシリア……!」


 扉に向かおうとするセシリアを、エルヴィスが心配そうに見つめる。

 本当は、セシリアが危険な場所に赴くのは反対なのだろう。

 だが、もしここで放り出してどこかに行ったとしても、国内である限り天変地異から逃れることはできない。かといって、他国に行くこともできない。

 国が滅んでしまえば災害もおさまるのかもしれないが、そうなってはセシリアも無事ではいられないだろう。

 今、ここで女神の怒りを鎮められる可能性があるのはセシリアだけだ。そのことをエルヴィスも理解しているから、余計な心配を口に出せないのだろう。


「きっと、大丈夫です。怒りというより、嘆きですから……」


 セシリアはエルヴィスに向かって微笑みかけると、扉に手を触れた。

 さほど力を入れることなく、大きな扉はあっさりと開く。まるでセシリアを迎え入れるかのようだ。

 中に入ると、扉は勝手に閉まった。


「……黒い」


 目の前に広がる部屋は白かったが、セシリアの口から出たのは違う言葉だった。

 奥には荘厳な黄金の祭壇があり、嘆きの声はそこから聞こえるようだ。

 はっきりとした言語としてではなく、イメージが頭の中に入ってくる。

 嘘つき、裏切り者といったところだろうか。誰かに対する怒りが渦巻いている。

 それと、出る、壊す、終わらせるといった意思だ。だが、それがうまくいかずに、助けてと嘆いているように思える。

 何かを聞き入れることができないくらい、我を忘れているようでもあった。


「あなたが女神さまですか……?」


 セシリアは祭壇の前に立ち、おそるおそる問いかけてみる。

 先ほど聞いたばかりの王家の秘法を使う気にはなれなかった。

 これまで耳にしたことのない言葉だったが、何となくどういう意味合いなのかは伝わってきた。

 それは、餌を与えるからもう少し頑張って待っていろ、といったものだ。

 実際にはもっと高尚な物言いなのかもしれない。だが、セシリアに伝わってきたイメージは、このようなものだった。

 セシリアには、目の前に餌をちらつかせて希望を与え、苦行を強いているように感じられる。


 さらに言えば、たった一回聞いただけで発音や抑揚まで、全て完璧に再現できるはずがない。習得には練習が必要だろう。伝承されたらすぐに使えるといった、都合の良いものではなかった。

 そのため、セシリアはただ自分の知っている言葉で話しかけることしかできないのだ。

 だが、何となくのイメージが伝わってくるのだから、こちらの言っていることも何となく伝わるのではないだろうか。


「……?」


 祭壇で渦巻く意思は、セシリアを認識したようだ。

 荒れ狂っていた渦が動きを緩めたようだった。

 弾かれることもなく、ただ不思議そうな視線にも似たものを感じる。


(あ……あうあ……あなあ……あなた)


 渦巻く意思が、セシリアの心に話しかけてくる。柔らかく、女性的な感じだ。

 それも、理解できるように調整しているといった様子だった。

 最後には、はっきりとした言葉になり、セシリアは驚きながら祭壇をじっと見つめる。

 すると、ほっとしたような思いが伝わってきた。セシリアが理解できる言葉になったのだと、わかったのだろう。


(あなた、不思議。名前、二つある。忘れもの……?)

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