43.幽閉
警備兵たちに囲まれたまま、馬車は王城にたどり着く。
これから尋問だろうかと緊張しながら、セシリアは馬車から降りようとする。
それでも、差し出されるエルヴィスの手を取りながら、一人ではないのだと少し心が落ち着く。
「王女殿下はこちらにどうぞ」
しかし、警備兵は無情な言葉を放つ。
セシリアとエルヴィスを引き離そうとしているのだ。これは、別々に尋問をしようということだろうか。
「国王陛下からお話があるのは、公爵閣下だけでございます。王女殿下はお休みになり、旅の疲れを落とすようにとのお心遣いでございます」
警備兵が指し示す先には、数名の侍女が控えている。王太子宮では顔を見たことのない者たちばかりだ。
心遣いだとは思えないが、セシリアが尋問から除外されるのは本当らしい。
国王はセシリアのことを役立たずの出来損ないと思っている。女王の座を狙っているとすれば、それは飾り物の頭しか持たないセシリアの立案ではなく、エルヴィスが描いたものと考えたのだろうか。
「ですが……!」
だが、自分だけは尋問から除外されて良かったなどと思えるはずがない。
セシリアは思わず食い下がろうとするが、エルヴィスに止められた。
「ここは、おとなしくしておきましょう。あなたが無害であると思わせたほうがよい」
耳元で小さく囁かれ、セシリアはぐっとこらえて口をつぐむ。
やりきれなさはあるが、確かにそのとおりだろう。たとえセシリアが無理やりついていったところで、エルヴィスの足手まといになるだけかもしれない。
「今のところ、監視されているだけで、拘束されるには至っていません。ローズブレイドとも連絡を取り、対策を進めていますので、心配しないでください」
穏やかに微笑むエルヴィスは、泰然とした態度を崩さない。
その姿を見て、セシリアも気持ちが落ち着いてくる。
「はい……では、また後ほど」
エルヴィスの手が離れていくと、急速に温もりが失われていくような寂しさが襲いかかってくる。
セシリアはすぐに再会できることを願い、せめてエルヴィスを心配させないよう、毅然と背筋を伸ばして微笑む。
「ええ、後ほど」
何でもないことのようにエルヴィスも微笑んで答えると、警備兵と共に遠ざかっていった。
その後ろ姿を、セシリアはじっと見送る。
やがて王城の中に消えていくまで、セシリアは動かなかった。
「王女殿下、そろそろまいりましょう」
すると、侍女から声がかけられた。
セシリアの気が済むよう、今まで待っていてくれたらしい。
「ええ……ありがとう、待っていてくれて」
王太子宮にいた侍女ならば、もっと早くに急かされただろう。
セシリアが礼を言うと、侍女は柔らかく微笑んで頭を下げた。
侍女に案内されて、セシリアはまた馬車に乗る。今度はローズブレイド家の馬車ではなく、王家の馬車だ。
だが、馬車はセシリアの住む王太子宮とは違う方向に進んでいく。
どこに連れて行かれるのかと、セシリアは不安に苛まれる。
それでも、取り乱した様子は見せないよう、背筋を伸ばして座り、穏やかな表情を意識して作る。
先ほどの侍女は気遣いを見せてくれたが、周囲は全て敵と見るべきだ。隙を見せないほうがよいだろう。
「ここは……まさか……」
やがて馬車がたどり着いたのは、離宮だった。
優雅な白亜の宮殿だが、主な使用用途は幽閉だ。国王に、セシリアを解放するつもりはないらしい。
だが、セシリアを幽閉しようというのは、驚くことではない。今の状況ならば、当然といえば当然だろう。
セシリアが動揺したのは、この離宮には王太子妃ヘレナも幽閉されていることだ。
「お部屋にご案内いたします」
侍女に案内され、セシリアは離宮に入る。
中の造りも白を基調とした優雅なものだったが、どこか閑散とした印象を受ける。調度品がほとんど見当たらないためかもしれない。
奥に進んでいき、一つの部屋にたどり着く。
王太子宮でのセシリアの部屋よりも豪華といえるが、色数が少ないためか、少し寂しく見える。
「こちらが王女殿下のお部屋となります。宮殿内ではご自由にお過ごしください。中庭もございますので、外の空気を吸いたいときはそちらでお願いいたします。宮殿外に出ることはお控えください」
侍女の説明を聞き、セシリアはおとなしく頷く。
幽閉とはいえ、それなりに自由はあるらしい。だが、それはヘレナと鉢合わせする可能性があるということだろう。
この離宮でヘレナがどういった生活をしているかはわからないが、なるべく関わり合いたくない。
「……この離宮に、王太子妃もいるのかしら?」
「はい、いらっしゃいます。ですが……今はその……」
セシリアが尋ねると、侍女は気まずそうに言葉を濁す。
どうやらまだ状態は悪いようだ。侍女はセシリアが会いたがっていると思ったようだが、そうではない。
会いたくないので、ばったり遭遇しないようにヘレナの生活習慣を知っておきたいのだ。
しかし、セシリアの望みを踏みにじるかのように、騒がしい足音が聞こえてきた。
セシリアは全身の血が引いていくようで、倒れそうになってしまう。
侍女もどうしてよいかわからず戸惑っているようで、そうしているうちに開け放たれたままだった扉の前に、勢いよく駆け込んできた姿がある。
「まあ、話し相手になってくれるお友達ね!」
前に見たときのような、度肝を抜かれる制服姿ではなかったが、全身を愛らしいピンク色で包んだヘレナが現れた。










