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【書籍化・コミカライズ】断罪された悪役令嬢は、元凶の二人の娘として生まれ変わったので、両親の罪を暴く  作者: 葵 すみれ
本編

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35/72

35.騎士たち

 常に一人にならないよう気を付け、セシリアは用心しながら過ごしていた。

 ところが、何事もなく三日目になろうとしている。

 廊下や庭で隣国王ケヴィンと会うことはあったが、ごく普通に挨拶や、ちょっとした世間話を交わすだけだ。それはセシリアがエルヴィスと一緒にいるときも、そうでないときも変わらず、態度の変化は見当たらなかった。

 緊張が途切れるのを見計らっているのか、それとも何かを待っているのか。セシリアは落ち着かない日々が続く。


「……緊張のせいで、眠りが浅くなっているのかしら」


 早朝に目覚めて、すっかり目が冴えてしまったセシリアは、まだ薄暗い室内を眺めながら、ため息を漏らす。

 散歩にでも行きたいところだが、一人で出歩くのはやめるべきだ。

 諦めてもう一度寝直そうとするものの、やはり無駄だった。それでも何度も寝返りを打っているうちに、使用人たちが動き出す時間になったようだ。


 そろそろ大丈夫だろうかとセシリアは起きて、控えめに呼び鈴を鳴らす。

 すると、すぐに侍女がやってきて、朝の身支度が始められた。

 いつもよりずっと早い時間だというのに、嫌な顔ひとつせず、にこやかな態度だ。

 王太子宮にいた侍女たちならば、呼び鈴を鳴らしても来なかったかもしれない。来たとしても、嫌味くらいこぼしただろう。

 随分と違うものだと、セシリアは感じ入る。


 身支度を調えると、セシリアは散歩に行くことにした。

 朝食はエルヴィスと一緒にとっているが、まだ時間がある。

 侍女と護衛を伴って外に出ると、朝の澄んだ空気が心地よく、ここ数日の鬱屈した気分が晴れていくようだ。

 目を閉じてさわやかな空気を味わっていると、遠くから叫び声のようなものが聞こえてきた。


「……あら? 何か聞こえるような……」


「きっと、騎士たちの早朝訓練でございますわ。旦那さまもよく参加なさっています。ご覧になりますか?」


「まあ、エルヴィスが……ええ、見てみたいわ」


 侍女に案内されて、セシリアは騎士たちの訓練場に向かう。

 近づいてくるにつれ、金属のぶつかり合う音や、怒鳴り声も聞こえてくる。

 荒事とは無縁に生きてきたセシリアは、少し身がすくみそうになってしまう。アデラインは護身術くらいは学んでいたが、セシリアはさっぱりだ。

 だが、怯えた姿など見せては、エルヴィスに恥をかかせてしまうかもしれない。セシリアは毅然と顔を上げ、しっかりとした足取りで進んだ。


 訓練場では、騎士たちが剣を交えていた。

 刃を潰した訓練用の剣だが、当たれば怪我をするだろう。

 少し心配になりながら、セシリアはエルヴィスの姿を探す。すると、すぐに剣を振るう黒髪の青年が目に入ってきた。訓練用の簡素な服だったが、存在感が違う。

 間違いなくエルヴィスだ。セシリアが見守っていると、エルヴィスは相手の騎士を軽々とあしらい、圧倒していた。

 そして相手を下すと、何かを言っているようだった。


「……セシリア?」


 途中で、エルヴィスがセシリアに気付いた。

 汗を拭いながら、セシリアの元にやってくる。


「このようなところまで、どうかしましたか?」


「いえ、ちょっと見てみたかっただけですわ。お気になさらないで」


「そうですか。あなたが来るとわかっていれば、もう少し身だしなみを整えておいたのですが……」


 残念そうに呟きながら、エルヴィスは乱れた髪を片手で押さえる。

 普段は髪も服装も大貴族にふさわしく整えられているが、今はまるで一介の騎士のようだ。


「素のままのあなたが見られたようで、嬉しいですわ。突然、押しかけてしまってごめんなさい」


「いいえ、ここはあなたのものでもあるのです。いつでも好きなときにお越しくださって構わないのですよ。このような汗臭いところ、おすすめはいたしませんが」


 セシリアとエルヴィスが話していると、いつの間にか騎士たちが訓練を中断して、じっと二人の様子をうかがっていた。

 剣がぶつかり合う音も声も途切れ、静まり返っている。


「……お前たち、何を見ている」


 不快そうなエルヴィスの声が響く。

 普段のローズブレイド当主としての取り繕った顔はなりを潜め、一人の若者らしい顔になっていた。


「そちらの美しい方が、旦那さまの愛しい奥方さまですよね? なかなか我々に紹介してくださらないなと思いまして」


 騎士の一人が代表して口を開く。すると、他の騎士たちも頷いていた。

 そういえば、使用人たちとは初日に顔を合わせたが、騎士たちはまだだ。護衛についてくれる騎士数名しか面識がないと、セシリアは今さら気付いた。


「まだ、未来の奥方だ。お前たちのようなむさ苦しい連中、特に今のような見苦しい姿は目の汚れになるだろうが。……申し訳ありません、セシリア。あのような連中、不快でしょう」


 エルヴィスは騎士たちに厳しい声を投げた後、困ったようにセシリアに囁く。

 その落差が激しく、セシリアは思わず笑ってしまいそうになる。


「いいえ、ローズブレイドを守ってくれる騎士たちですもの。頼もしいですわ」


 本心から、セシリアはそう答えた。

 こうしてしっかりと訓練している姿は頼もしく、不快だなどとかけらも思わない。

 微笑むセシリアの姿を見た騎士たちから、愛らしい、健気だ、などとざわめきが起こる。


「むしろ、私が訓練の邪魔をしてしまってごめんなさい。すぐに戻りますわね。また改めてご紹介いただければ嬉しいですわ」


 そう言って、セシリアは訓練場を後にする。

 追いかけてこようとしたエルヴィスだが、騎士たちに捕まってもみくちゃにされていた。

 つい、セシリアからくすりと笑いがこぼれる。

 騎士たちの態度は不敬といえば不敬なのかもしれないが、エルヴィスも本気で嫌がっているようには見えない。されるがままになっているのだから、受け入れているということだろう。


 これまでエルヴィスは陰惨な争いの中に身を置き、青春など無縁だったのだろうとセシリアは思っていたが、それだけではなかったようだ。

 主従である以上、どうしても壁はあるのだろうが、それでもエルヴィスと騎士たちは仲間に見えた。

 少しでも心を許せる場所がエルヴィスにあることが、セシリアにとっても嬉しい。

 温かい気持ちになりながら、セシリアは庭を歩きつつ、部屋に戻ろうとする。


「おや、セシリア姫。おはようございます」


 すると、ばったりとケヴィンに出会った。

 和んでいた気分が、一気にひっくり返る。


「……おはようございます」


 だが、これまでケヴィンと会ったときも、挨拶や世間話で終わった。

 今も一人ではなく、エルヴィスはいないものの、侍女や護衛は一緒だ。

 今回も大丈夫なはずだと、セシリアは微笑んで挨拶して、立ち去ろうとする。


「少しだけ、お時間をいただけますか?」


 ところが、ケヴィンが次に発した言葉は、これまでになかったものだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  エルヴィスと配下の騎士たちの関係が非常に好ましいものに見えた事。 [気になる点]  いよいよ好色王がアクションを起こしそう‥‥‥ [一言]  侍女や騎士たちの反応を見るに、セシリアは公爵…
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