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08

 

 ローズを部屋に残し、陛下の横について玄関へと案内した。


 ローズから陛下を早く遠ざけたくて早足になった。ローズの声を陛下に聞かせずに済んだ事が嬉しく、笑みが漏れた。


「ラムセス、嬉しそうだな」


 嬉しい、ローズという名を綺麗と言って受け入れてくれたローズは、陛下とは話さなかった。陛下より自分の方がローズとの距離は近いと感じた。ローズの神々しさと可愛さを陛下はまだ知らない。


 明日、陛下はローズを王宮に連れて行くのだろうか、陛下の命であろうと……。

 今夜、ローズを連れ王都の別邸に移ろう、いや隣国へ渡ろうか。環境に慣れるのに時間がかかるローズにまだ旅はさせられない。そういう意味ではローズを王宮に移すのも今ではない。


「陛下、明日のご来訪のご主旨をできましたらお聞かせください」


 屋敷を出たところで、陛下は結界を要求した。


「ラムセス、喉は大丈夫か? 呼吸苦や胸痛はないか?」

「そういえば、お昼過ぎに息苦しさを感じました」


「ラムセス、お前にも関係深いことだから聞いてくれ。

 召喚時に私の血を召喚魔導書の白紙のページに落とし召喚術式が浮かんだ。

 それに基づいてラムセスが召喚術を展開した。

 魔導書の私の血痕と召喚術式が消えると同時に、召喚された者が現われ刀剣が顕現した。

 ここまでは、ラムセスの知っている通りだ」


 陛下は静かに続けた。


「その後、刀剣が発光し同時に魔導書に新たな文字が浮かんだ。

 ーーー

 刀剣は召喚されし者の命を示し、その者がこの世界に適合し時に刀剣は力を有す

 血の提供者と術式の展開者は、適合の時まで召喚されし者の心と病を共有す

 但し、1年以内に適合できない時、召喚されし者は消滅し血の提供者と術式の展開者に影が落ちる

 ーーー

 と記されていた」


「陛下、召喚術は無事に終わらなかった。正確には、まだ終わっていないと……」


「ああ、今までの文献では、召喚された者の出現と刀剣の顕現が、召喚の成功を示した。だが今回は、その先があるようだ……。

 昼過ぎに、私にも同じような症状が出た。ゆっくりと首を絞められるような苦痛だった、これがおそらく心と病の共有だろう。治癒魔法は効かなかった。

 今朝、刀剣は昨日より短くなった『命が尽きる』と言った根拠だ」


「…………短く……そんな……」


「昨夜浮かんだ文字を見た時点で、召喚された者の保護は予定していた王宮よりラムセスの近くの方が良いと思った。だが刀剣の変化を目にして、ここでの対応に問題があるのかと念のため様子を見に来ただけだ、問題はなさそうだ。

 ローズ嬢の意向は直接確認できなかったが、王宮での保護という言葉に反応しなかった、穏やかに我々を見ているだけだったな……」


「陛下、私は……」


「ラムセス、今はローズ嬢の側に居てくれ。

 ローズ嬢はもちろんラムセスの体調も記録しておいてくれ、私も自身の体調を記録して明日報告する。ローズ嬢が、生きようと思い直したことで刀剣の長さは変わるかもしれない。この事は、ラムセス以外には話してはいない。

 私は、過去の文献を調べ直す。ラムセス、ローズ嬢を頼む!」


「はっ、仰せの通りに。最善を尽くします」


 騎乗し去っていく陛下を呆然と見送った。


 陛下は、何を言っていた……。

 いや、内容は覚えている。理解したくない、認めたくない。



 ※



 国王陛下の見送り後に地面に両膝を付いたセスの姿を……窓から見てしまった私はギョッとした。

 こちらの世界のお見送りは、全身全霊を捧げあんなにも辛いものなのか。


 今生の別れのようだった、明日には会えるのでは?

 見送り途中、廊下あたりで喧嘩して絶交宣言でもされた?

 国王陛下とセスの愛は拗れた?


 理解が追い付かない。



 夕食時のセスは、静かだった。

 セスは話さず、あまり食事も進んでいないようだった。

 時々、泣きそうな顔で私をそっと見ていた。


 セスごめん、恋愛相談は他の人にしてね、私には無理。

 どうかしましたか? 明日、国王陛下は何時ごろお越しになられるのですか? 等と余計なことは一切聞かない。


 セスは、時間帯で人格が変わるのだろう、そう思うことが最適に思えた。そうだと理解するまで時間がかかってしまった。


 なんとなく緊張した食事が終わったが、緊張する食後のお茶が始まる、喘息発作が誘因されそうだ。紅茶を飲もう、そうすれば喉が少し楽になる気がする。


「ハーブティーではなく、紅茶をいただけますか?

 ストレートでもミルクティーでも飲めるような、少しだけ主張の強い紅茶をいただきたいのですが……」

「かしこまりました」


 セスが私を見て破顔した、目に明かりが灯ったようにも見えた。

 何に反応したのだろう。もう考えるのは止めよう。


「ローズは、紅茶に造詣が深いのですか?」

「単に今の気分が紅茶なのです。紅茶・コーヒー・ハーブティー全て好きです」

「ローズ、お菓子はどれにしますか?」

「紅茶を楽しみたいので、お菓子はやめておきます」


 紅茶を楽しんでいるうちに、セスの雰囲気が少し優しくなった。

 おやすみの挨拶をして、私は部屋へ戻った。


 ベッドに入る前に習慣でついうっかり、吸入薬を使ってしまった。

 カウンターは残57。


 朝夕、1吸入にしようかな?

 そんなことを考えて、眠りについた。





 明け方、少し咳が出た。全力で二度寝を試みたが、弱い咳が止まらない。


 二度寝を諦めて吸入薬を使った。

 カウンターは残56。


 口をすすぎベッドに戻った時に扉を叩く小さな音がした。


 コンコン コンコン


 返事をせず私は吸入薬を隠した。

 その直後に扉が静かに開き、セスが顔を出した。


 寝起きに、また……。


「おはよう、ローズが咳をしていたと報告がありました。眠れなかったのですか、大丈夫ですか?」

「おはようございます。大丈夫です、よく眠れました」

「ローズにお願いがあります。今日、医師の診察を受けてください」


 そうか、医師に診てもらうという選択肢があった。

 この世界に喘息の確定診断基準があるのだろうか、そして治療薬があるのだろうか、それを確認すべきかもしれない。

 私は、頷いた。


「よかった、サリに喉にやさしいお茶を用意させます」


 急に明るい口調になったセスは、廊下に消えていった。




 朝食後、フォード家お抱えのグラント医師の診察が始まった。


「ローズの咳の原因は?」

「こちらの空気に慣れるまで咳が続くかもしれないですね。いずれにしても空気のきれいな場所で静かに過ごされるのがよろしいかと」


 私は、グラント医師に喘息の事を言い出せなかった。


 診察後、一人にしてもらった。



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