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07

 

 専門知識のない私によるタブレット講座は続いていた。生徒が優秀すぎる。

 私は、知識も喉も完全ではない。う~、察してほしい。と思い始めた頃……。

 執事が来客を告げ、セスが顔色を変えて出て行った。


 誰だか知らない急な来客とそれを告げにきた執事に感謝した。


 サリがお茶を用意してくれた。


「こちらも美味しいです。ありがとうございます」

「お嬢様は、お茶がお好きなのですね」


 この世界の紅茶は、美味しい。



 コンコンコンコン



 扉に目をやると、開いたままの扉をノックしたセスの後ろに人影があった。


「ローズ、君と話をしたいというお客様がみえたのですが……」

「はい……」

「体調は、大丈夫ですか? 」

「お気遣いありがとうございます。大丈夫です」

「まだ、顔色が悪いですね、今日は帰ってもらーー」

「おいっ、大丈夫と言っているじゃないか」



 アレキサンダー・ラナ・フュー・フォンテだと名乗ったフォンテ国の国王陛下が、二人の護衛を連れて乗り込んできた。今日は王子コスプレでなく軽装だ。


 拉致犯の親分のお出ましです。


「ローズ嬢、貴女を王宮で保護します」

「陛下、ローズには私の屋敷で過ごしてもらいます」

「ラムセスは黙っていろ……」

「陛下、お話が違います。ローズは……召喚後のご発言をお忘れですか、昨日の今日でなぜ?」

「ローズ嬢、必要な物はこちらで用意する。さぁ」

「陛下、仮にローズを王宮で保護するとしても急すぎます。何か状況が変わったのですか?」

「ラムセス、説明は不要だーー」

「陛下、私はーー」


 ……私は、何を見せられているのだろう?


 私が使っている部屋に来た男子二人が仲良く話し始めた、もう何なの? この部屋に来る前によく話し合って決めておいて欲しい……よく見ると、どちらも美形だ。

 セスは色白・黒髪・細身で物憂げな感じ、国王陛下は色白・金髪・細身で快活な感じ、二人とも高身長だ。


 あれ、二人で触り合っているじゃない!

 それにしても見目麗しい若者達は絵になる、あっもしかして……あ、相思相愛だったのね、へぇ~。

 と二人を改めて凝視した時だった、二人が同時に私を見た。えっ……。


「ローズ嬢、今、変な事を考えて……?」

「どうしました、ローズ?」

「………」


「旦那様、お茶の準備はこちらでよろしいですか?」

「ああヨハン、陛下には是非落ち着いていただこう。ローズ心配ないですから」

「………」


 私が使っている客間にお茶の準備が始まった、心配だ……。


 なぜ、ここでお茶の準備をする? それに、お茶ばかり飲みすぎでは? お菓子も山盛り、メタボやダイエットという概念は無いのか……。


 お花とお茶道具とお菓子の美しいテーブルセッティングは写真に残したい景色だ、護衛とメイドは離れた場所に待機している。それでも部屋は、広々としている。



「ラムセス、おまえ雰囲気が変わったな、私に掴みかかるとは……」

「ローズを優先すると決めました。ローズは、やっと生きようとしています。少しずつこの環境に慣れてもらいたいのです」


「生きようとしている? 死のうとしたのか?」

「ローズは、召喚という拉致ができるならついでに殺してくれと言いました。それは出来ないと答えると、毒杯を求めました」

「ローズ嬢! それは認めない!」


「私は、ローズを元の世界に戻せない。傷つけることもしない。ローズにとっては理不尽な召喚だったとしても、生きて欲しい。そのためならどんな償いも協力もすると説明しました。

 その後、ローズが具合を悪くし、やっと少し回復したところでした。

 ローズが元の世界の道具を使って曲を聴いたりする姿を見て、改めて自分のしてしまった罪を深く認識した次第です。

 ローズは高次元の世界でしっかりと生きていたようです、ローズの実績と未来を奪ったことを時間をかけて償いたい所存です」


「ローズ嬢は、どう具合を悪くしたのだ」

「ローズは、ひどい咳をして息切れをおこし、みるみる顔色が悪くなり、静かにしていたら少し落ち着いたようですが……」

「そうか……人払い、いやっ何重にも結界をはってくれ」

「かしこまりました」


 私が離席しようとしたら陛下に制止された。人払いの対象ではないようだ。


 セスによって結界が張られた、……らしい。


「ラムセスの思いは分かった。ローズ嬢は、今後どうしたい? 先ほどから何も話さないが喉が苦しいのでは?」

「ローズは環境の変化に弱く、この状況をまだ受け入れられていません。人見知りも激しく、やっと私と少し話してくれるようになったばかりです」

「今までの召喚された者は、教会が預かるか、王族か高位貴族と結婚した。

 同様にローズ嬢の意向に沿った、立場や環境を早急に準備しようと思う」

「陛下、それはおいおいローズの意向を確認しながら陛下に相談申し上げる予定でおります」


「いや、それでは遅い」

「なにが遅いと?」

「ローズ嬢の命が尽きてしまう。その前に王宮で保護する」


 うん? 何だろう私の命が尽きるのを知っている。

 親分は、腐っても親分なのね。

 セスに異世界召喚術を許可したのは、この国王陛下しかいない。

 筆頭魔術師を選定するための召喚が成功した今となっては、私の命が尽きようが、国王陛下に何の関係があるのだろうか?


 昨日は「召喚した者については好きにせよ」とか言っていた、それって捨てても殺してもいいって事で、私に対して失礼すぎる!

 拉致に遺棄が加わった酷い行いだよ、人としてどうなの? ないわ~。


 今さら王宮で保護するというのには矛盾がある、何かある?


「陛下は、何を根拠に」

「まだはっきりとしないが、いくつか検証もしたい」

「だとしたら余計ローズを動かせません」

「ローズ嬢は、どうしたい」


 国王陛下という拉致犯の親分から無責任な質問がきた。


 興味どころか存在すら知らない国にいきなり連れてこられて、人権もない今の状況で、貴女はどうしたい? と言われてもねぇ~、関わりたくないとしか……。


 私を王宮で保護したい理由が何かある? セスも知らない理由がある?


 私は、人間関係を広げたくない。

 私は、穏やかな最期を迎えたい。


「陛下、ローズが答えられないようなことを聞かないでください。ローズ、無理して答えなくていい」

「ラムセス、変わったな。冷徹魔術師で周囲を震え上がらせていたのに、そんな風に他人を思いやれる心遣いができるようになったのか?」

「冷酷王と言われている陛下に言われたくありません」


 熱い仲よねぇ~、二人で何を確かめ合っているの?

 さっきから、セスだけでなく陛下と視線が合う?

 なんですか? 私が邪魔なの?

 結界の外にいる執事や侍女長のように視点を定めず、空気に徹してみよう。


 突然「明日、また来る」と陛下が、帰りを告げた。

 セスは、陛下を見送るため部屋から出て行った、妙に嬉しそうだ。

 そんなに、明日も陛下と会える事が嬉しいのか……。


 この二人の間に何があろうと私には関係ない、関わらない。


 明日こそ二人きりで、ごゆるりとお過ごしください!



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