ラスボス系お姉さんが酔い潰れて職質されていたので助けてみた
お姉さんは純情派。
「散るとわかっていてなぜ片す?
出すとわかっていて何故しまおうとする?
食べれば全て無になってしまうのに」
「ダメです。片付けて下さい。歩けません」
「あ、はい……」
俺は今、お姉さんの部屋を片付けている。それも無償でだ(重要)。
発端はベランダにある。
なんか最近置いた覚えの無い物があるなと思ったら、お姉さんがこっそり俺のベランダに置いていたのだ。
たまらず俺はお姉さんにクレームをつけ、部屋を片付けに来たのである……。
「なんで、たこ焼き器が三つもあるんですか?」
「たこパする度にどっか行っちゃうんだよね……そういう経験無い?」
「ないです」
「うにゅん……」
ゴミというよりは物が多い部屋。それもまだ使える、もしくは使う物が多くて実にタチが悪い。
「勇者よ! 見るがいい!」
「誰が勇者ですか、ったく」
お姉さんが懸賞で当たったと思われる、懐かしい玩具を探し当てた。
「ワニの歯を押すやつッスね」
「ワニパしようぜ♪」
頭にワニを乗せて踊るお姉さん。
「その前に片付けです。早くしないと終わりませんよ?」
「逃げるのか勇者よ……そなたが勝てば何でも願いを叶えてやろう」
「なん……でも!?」
思わず持っていたビニール袋を落としてしまう。中身はゲーセンで取ったと思われる年代物のフィギュアだ。可愛いから貰うことにしたやつだ。
そして、自信ありげにニヤッと笑うお姉さんに、俺は「唐揚げで」と手を叩いた。
お姉さんの作る唐揚げは、通称『闇の衣』と呼ばれる程に中毒性と旨味があり、少し前にご馳走になって以来、普通の唐揚げでは満足出来ない体になってしまったのだ……!!
「よかろう勇者よ!」
キッチンの棚にワニを置くお姉さん。だからそういう所に置くから無くなるんだってば。
「ん?」
お姉さんがキッチンの隙間から葉書を拾い上げた。
「すまん勇者よ。唐揚げはお預けだ」
「なんです?」
お姉さんが葉書をこちらに向けた。
「フハハ! 居酒屋のバースデークーポンだ!」
「おお!」
『1グループ様半額にてご提供』と書かれた素敵な葉書に頬ずりをするお姉さん。
「勇者よ……行くか? 我の奢りじゃ!」
「感激です!」
熱い握手を交わし、ビニール袋を隅に置く。
全てを忘れ、俺達は居酒屋へと出掛けた。
「フハハハハ! 実に愉快! 愉快愉快!」
ビールを片手に上機嫌なお姉さん。俺もビールを飲みながら冷や奴をつまんでいる。
半額とあってか、そのペースはかなり早い。
「お姉さん大丈夫ですか? 顔がかなり赤いですよ?」
「うにゅ……」
そっとお姉さんのビールを没収してお冷やとすり替える。
「なんか水っぽいぞ、このお酒」
水っぽいもなにも、水ですから、はい。
──ブルル……
「あ」
スマホに着たメールを見て思い出す。
そういえば、今日宅配来るんだった。
「お姉さんすみません。十分抜けます。直ぐ戻りますから」
「うにゅ……」
うつろなお姉さんに一礼しアパートへ慌てて戻る。
ドアの前に着くと、丁度良く宅配のお兄さんがウチのチャイムを鳴らしているところだった。
「すみません」
「あ、宅急便です。サイン下さい」
サインを殴り書き、家の中へ荷物を入れ、慌てて居酒屋へと向かった。走ったせいか、酒が上がってきて苦しい……。
そして居酒屋へと戻ると、お姉さんが入り口で二人の警察官に囲まれていた。
「なんだ……お前達は……?」
「警察です。お姉さん、お名前言えるかな?」
「ぬ、ぬぅ……何も思い出せぬ……我は何者なのだ……?」
「あーダメだこりゃ。お姉さんだいぶ酔ってるね」
「しかし……何をすべきかはハッキリしている」
「うん。お支払い出来るかな?」
「ダメじゃ……やはり思い出せぬ……」
「お姉さーん。目をそらさないで伝票見て、ね?」
ぐでんぐでんのお姉さんが警察官の肩を借りるも、直ぐに地面にくたぁっとなってしまう。
慌てて警察官に声をかけた。
「すみません。その人俺の連れです」
「よくぞ来た、勇者よ……」
「お姉さん、それ誰か来る度に行ってますよー」
どうやら完璧に飲みすぎのようだ。お姉さんの目からハイライトが消えかかっている。闇堕ち寸前だ。
「彼女さんですか?」
「い、いえ……そういう訳では」
「ご友人?」
「う、う~ん……なんといいますか……その……」
上手い説明が見付からない。
俺とお姉さんの関係って隣同士だけだもんなぁ……。
「同じアパートの隣同士です」
「じゃあ、お姉さんのお名前、いいですか?」
「──へっ?」
「お名前、知ってます?」
そういえば……俺、お姉さんの名前知らないぞ?
やべ、最近は防犯対策にドアに表札も無いし、よく考えたら俺、お姉さんの事説明出来ることが──あ!
「お姉さんの部屋片付けた時の写真あります」
「ほう、どれどれ」
お姉さんの部屋(魔界)の写真を警察官に見せる。
一瞬顔をしかめたのを、俺は見逃さなかった。
「お姉さんお姉さん。これお姉さんの部屋?」
「……zzz」
「寝てるし!!」
揺さぶっても目覚める気配の無いお姉さん。このままではお姉さんが留置所行きになってしまう……!
何とかお姉さんが写っている写真は無いかと、スマホをスライドさせる。
「あ、あった!」
「どれどれ?」
「──あ、あったけれど……これはぁ……」
「どれ?」
警察官がずいっと画面を覗き込んだ。
「ん? ほほぉ……」
「いやぁ……その……ハハ……」
そこには俺にしがみ付いて寝るお姉さんが写っていた。
「これは確かにお姉さんだねぇ」
「彼女じゃないけど、あれだねぇ」
警察官が二人ニヤニヤと俺を見た。
「もう宜しいでしょうか?」
「うむ、支払いは君に任せても宜しいかな?」
「あ、はい」
顔が滅茶苦茶熱くなるのが分かった。
メトロノームのように店員さんに頭を下げ続け、お姉さんをタクシーに乗せると、逃げるようにアパートへと向かった。
運転手さんの手を借り、何とかお姉さんを部屋まで連れて行く。
「お姉さん、着きましたよ!」
「うにゅぅ……気持ち悪い……」
「飲み過ぎです」
「勇者よ……このままで済むと思うなよ……?」
「多分明日には忘れてると思いますよ?」
そっと背中をさする。
「うご……うごごごご……!!」
「ああ! 危なくなったらトイレ行って下さいよ!?」
「あ、袋……ゥボァー!」
「俺のフィギュアがぁぁぁぁ!!!!」
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(*´д`*)