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物語の始まり
ある男がいた。
右を向いているのか左を向いているのか、ましてや男が本当にそこにいるのかも定かではないくらいの深く黒い闇の中でか細く、しかししっかりとした声色で一人つぶやく。
「これで俺も生まれ変わることができる、今度は強く生きてやる…!!」
瞬間、ヴーーーンと頭の中を突くような電子音とともに男を中心として目を開けていられないくらいの眩しい光があたりを包む。
「これでやっと……」
どうやらここは今や誰にも使われていない廃工場の一角のようだ。
目を凝らして光の芯を見ると、なんだかへんてこな、鉄の板を継ぎ接ぎしたような大きなカプセルの中に、年齢は五十路すぎであろうか、先程の男がぎゅっと目をつむり拳を握る姿がある。
しばらくすると男の姿は少しずつ粒子状になりそして消えていった。
あとに残ったのは先程の闇と、うってかわったような静寂だけである。