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4話~偶然の運命~


「そこで俺は言ってやったんだ。「クラス! まだ女遊びはやめられないのか! 今回は5股だってな!」ってな。そしたら奴はなんて言ったと思う? 「誰だお前は! 俺はクラスでも無いし今まで彼女が出来た事もないよ!」だってよ!! ハッハッハッハ! 笑えるよなぁ?」


「誰かも知らない人に冤罪擦り付けたって話のどこに笑う余地があるのさ」


「まぁ待て落ち着け、この件には続きがあるのさ。後日俺の所に一人の男がやってきた。そいつの名前はクラス・ロリーヌス。クラスは俺に掴みかかってきてこう言ったんだ、「お前のせいで彼女と別れる事になっちまただろうが! どうしてくれる!」ってな。酷い冤罪だと思わね? 俺は誰かも知らない奴に適当な事吹かしただけだぜ?」


「……え、わざとやったって事?」


「俺が意味のない事するような奴に見えるか? 当然分かっててやったのさ。理由は別に無いけどな。たまたま聞いたから、せっかくだしやっとくかぁみたいな?」


「うーん、恋人を裏切るような事をする方が悪いとは思うから、仕方なかったのかなぁ?」


「流石に5股はどうかと思ってなぁ。1股くらいなら許してやったかもしれないけど、5はなぁ」


「まず浮気が駄目だからね……」


「それからそいつはまー全員にフラれた訳だが、その悪評が国中に拡がっちまってよ。それを俺のせいにされた挙句に決闘沙汰になってな」


「決闘……」


「俺は大声で街を走り回ってやったのさ。「あの5股のクラスが! 俺が悪いって言いながら決闘を申し込んで来やがった! 女だけに飽き足らず男にまで手を出す算段だぞこいつぁ! 流石の俺にも手に負えねぇ! 助けてくれぇぇぇい!」とそれはもう大々的に宣伝してやった訳だ」


「流石に可哀想になってきた……」


「そして俺はそのまま家を出て、旅を始めたって訳さ。お分かり?」


「ちょっと待って、数日中の話だったのそれ?」


「2週間前の話だな」


 アーネンガへの道中、ひたすら話し続けるフラウに僕は感心していた。よくもここまで話すネタが尽きないものだ。

 幼い頃に風魔法で吹き飛ばされて海に叩き落された話や、毒草の入れられた料理を口に含んで苦しみながら魔法で胃の洗浄をした話、見知らぬ土地で一人取り残されて森の中でサバイバル生活をした話に、兄に命を狙われ徹底的に追い詰めて辺境の地に逃げ込ませた話など……12歳の身でどれだけの人生経験をしているのかと内心舌を巻いた。貴族だからだろうか、毒入りの料理だったり海に落とされたりと、命の危機に何度も遭っている上に血の繋がった兄弟とも戦っているなんて……。

 ここは魔物もいるようなファンタジーの世界なんだ。ファンタジーにあまり詳しくないが、後継者争いみたいな事とかが当たり前のように起こっているのだろう。しかしこんな子供が……。


 ゴンッ。


 頭を軽く叩かれた。フラウが槍の柄で叩いて来たらしい。


「なーに生魚食べて嘔吐寸前みたいな顔してんだぁ? 同情ならやめとけぇ。必死に生きてる奴に対して失礼だぜぇ?」


「……うん、ごめん。ちょっと同情した。まだ子供なのになぁって」


「ヒャッヒャッヒャ! お前俺より年下だろうがぁ! え、もしかしてのまさか俺の方が年下だったりする訳ぇ?」


「僕はまだ10歳だから、そっちの方が二つ上だね」


「はぁん。ま、上だ下だなんてくだらねぇ。今日からお前は12歳だ」


「分かったよ」


 僕は頷いて12歳になることを受け入れた。この数時間で分かった事だけど、5分もしたらフラウは忘れた事にしてしまうのだから適当に返事をしても問題無いだろう。

 そんなこんなで個人的には楽しい道中を過ごしていると、森林を抜けてようやく開けた場所に出られた。そしてチラホラと歩いている人影や、遠くの方には荷車を引く馬車も数台も見え始めてきた。見た限りでは自分たちと同じ方向へと向かっているようだ。

 更にそこから30分ほど歩くとようやく城壁が見えてきた。ずっと広がっているように見える巨大で広大な石の壁は何となく男心を擽られる。


「クックック、田舎者丸出しだな。あまりきょろきょろするなよ、馬鹿に見えるぜ」


 フラウが先を行ってくれたので、その後ろを着いて行く事にする。

 城門に来ると二人の門番が立っていて、こちらを見て二人揃って嫌な顔をした。すぐにフラウのせいだと察する。

 予想通り、門番の一人がフラウに話しかけてきた。


「なんで戻って来たんだよお前は……」


「誰だお前は?」


「朝に俺たちをずぶ濡れにしただろうが!?」


「悪いな、俺は常に未来に生きて……おい、誰だお前ら?」


「このクソガキィ……!」


「おい、止めよう。こいつに付き合ってもロクな目に遭わん」


 もう一人の門番に宥められて怒りを収める門番A。フラウはニタニタと笑っている。最悪だ……。

 落ち着いた門番Aは、平静を装うように事務的に語り始めた。


「門を通るには通行証か、一人100銅貨だ」


 どうやら門を通るだけでお金が必要らしい。まずいな、僕はお金を持っていない。

 フラウはというと、ちゃっかり自分の分のお金を出していた。お金持ってたんだ……。

 今僕が持っている価値のあるものは宝石だけ。勿体ない気もするけど、これで何とかしてもらえないかな?


「あの、僕はお金」


「なぁ門番さんよ、こいつを見てくれ、どう思う」


 フラウが僕の言葉を遮って、取り出した布を門番Aに見せた。

 門番Aは少しの間まじまじとそれを見てから、ゲッと声と共に顔をしかめた。


「ルレルの家紋じゃねぇか……なんだこれは?」


「このハンカチは実はこいつから盗んだものなんだ」


「え、いつの間に!?」


 そもそもハンカチが入ってたことにも気づいてなかった。というかルレルってなんだろう?

 門番Aが僕に質問してきた。


「お前、ルレルの知り合いなのか?」


 知り合い、っていう事は人なんだ。

 レイドの記憶を探ってみても、ルレルという人物に思い当たらない。


「すいません、ルレルって誰の事ですか?」


「おいおい! ラーゲン・ルレルを知らないのか!?」


 門番Aは信じられない! と言うように後ずさった。門番Bも引いている。そんなに有名な人なのか?

 しかし、ラーゲンと言う名前には思い当たる事があった。どこで聞いたんだったかな……?


「……ああ、そういえば兄さんの師匠がラーゲンっていう名前だったような」


「あいつの弟子!? うわマジかよ最悪だ!」


 そこまで言われるほどの人物なのか。でもリュースの剣の師匠っていう事は実力のある人なんじゃないのかな?

 剣の才能はあっても人格に難あり? そういえばさっき、僕が「面白いお師匠さん」って言ったらリュースが怪訝な顔をしていたような……。

 しかし僕ことレイドの記憶の中にラーゲン・ルレルについての情報は一切無かった。うーん?


「そういう訳、こいつはちょぉーっと訳アリなんだ。黙ってここを通してくれねぇかぁ?」


 フラウがそう言うと、二人の門番は顔を見合わせる。そしてため息をついて頷いた。


「俺たちは何も見てねぇからとっとと通れ。くれぐれも言っておくが、あの女には何も言うなよ」


 ラーゲンは女性なのか。勝手なイメージだが、豊かな髭を蓄えた筋骨隆々な男性を想像していた。

 とにもかくにも何事も無く無事に国へと入る事が出来た。フラウがいなかったらこうはならなかっただろう。


「ありがとう、フラウ」


「クキャキャキャキャ」


 フラウは謎の笑い声を発して、持っていたラーゲンのハンカチを僕に渡して先を歩く。これを見越してハンカチを持っておいたのだろうか? フラウに関してはまだ謎だらけだ。

 アーネンガは活気に溢れた街だった。商人たちが右に左に拡がっており、高らかに自分の商品を宣伝している。その通りを大勢の人が忙しなく歩いていた。その間を馬車が行き来している。

 よく見ると人間だけじゃなくて、大型爬虫類のような……確かあれはシュクラ族だ、レイドの記憶にあった。シュクラ族の一群が肉にかぶりついていた。

 ん、耳の長い女性がいる! あれは僕でも知ってるぞ、エルフ族だ。映画で見た事のあるエルフよりも実物はずっと綺麗だった。いや、映画のは女優さんか。

 ぼーっと見ていると、エルフの女性は僕の視線に気付いてか近づいてきた。


「何か用? 坊や」


「あ、ごめんなさい。僕、エルフを見るのが初めてで、話しでは見た事はあったんですけど、実際はもっと綺麗なんだなと驚いていました」


「あら、人の子供なのに随分口が達者なのね。そういう事なら良いの、失礼」


 エルフの女性はウィンクして去っていった。

 するとフラウが僕の耳元に顔を近づいて囁くように声をかけてきた。


「おい、お前随分命知らずだなぁ。エルフはとんでもなくプライドが高いんだ、劣情なんて抱いてみろよ、一発で森に連れてかれて帰ってきた頃には聖人になってるぜ」


「いやいや! 本当にそういうんじゃないからね! とても綺麗だったから、ビックリしたんだよ」


「そいつは良かった。もっとエルフについて知るべきだな、エルフは耳が良い上に嘘に非常に敏感だ。今のも多分聞かれてるぜ」


「え、そうなんだ。凄いねエルフって」


「まったくこれだから田舎者はぁ」


 フラウは何故か首を振って先を行ってしまった。

 何が言いたかったのだろう? よく分からないままその後を追う。

 行く道にある商店を見ていくと、意外と前世の世界と変わらないことが分かった。リンゴにミカンにブドウなどの果物類を売ってる店、見たことの無い魚や何かの肉を売ってる店、料理に使う酒や小麦粉などを売ってる店、他にネックレスやブローチなどの装飾品を売ってる店などもある。


 ドンッ!


「あいたっ」


「む……」


 よそ見をしていたせいで誰かにぶつかってしまった。

 尻もちをついてしまった僕に、相手が手を差し伸べてくる。


「大丈夫かい?」


 赤髪の物凄いイケメンがそこにはいた。顔だけじゃない、服装も白い上下の服に装飾品がこれでもかと取り付けられている。

 リュースも理想の王子さまみたいな風だが、こちらはもう見ただけで「あ、かっこいい」と思ってしまうような風貌だった。

 ビックリしすぎて固まっていると、そのイケメンはクスッと笑った。


「ふふ、大丈夫だよ。何もしたりしないから」


「あ、はい」


 呆けたままその手を取ると、力強く引き起こされる。

 イケメンがパンパンと僕のズボンに付いた汚れをはたいてくれる。


「すまない、ちゃんと前を見てなかったんだ。怪我はないかい?」


「はい、大丈夫です。こちらも初めて来る街なので浮かれていて……ごめんなさい」


「ハハハ。良い街だろう? 存分に浮かれていってくれ。楽しんで」


 そのイケメンはサッと手を上げると、そのまま去っていった。

 僕が呆けたままその後ろ姿を見送っていると、誰かに肩を掴まれた。

 フラウだった。


「おい、お前は次から次へと声をかけられるもんだ。まったくお前って奴は悪い所ばかに引きやがる」


「ああ、ごめん……というかフラウ、エルフの時もそうだけど僕が声をかけられるたびにどこかに隠れてるよね?」


「だから今言っただろ、悪い所ばかに引くって。エルフは相手にすんのが面倒で、今のは誰だか知ってるか? いや知らないんだろうな田舎者」


「いやまぁ見覚えはないけどさ……有名な人なの?」


「そりゃそうだ。このアーネンガ王国の第一王子だぞ。ルーヴィス・ド・アーネンガ。まったく、なんだってわざわざそんな所とぶつかるんだか」


 王子だったのか……言われてみると、あれだけ豪華な服装をしていて「一般人です」とはならないよね。

 というか、そんな重大人物にぶつかるなんて実は中々ヤバイ状況だったのか……。

 フラウは呆れたように僕に言った。


「周りに気は使え。今俺たち護衛隊に狙われてるぞ」


「うわ……気を付けるよ……」


 ドンッ!


「キャッ」


 言った傍から、また何かにぶつかってしまった。

 今度は僕ではなく相手が尻もちをつく。


「オイオイオイオイ言った端からよぉレイドくぅん?」


 今度はフラウはどこかに行かずに、相手に手を差し伸べている。

 うう、僕ってこんなにドジだったかなぁ……?

 地面に座っていたのは、フードを深く被っている少女だった。少女は差し伸べられた手を取らずに、自分で立ち上がってから僕に人差し指を突き付けてこう言った。


「あなた、どこに目をつけているんですの!?」


「ご、ごめんなさい?」


 僕が謝罪すると、何故かフラウが言い返した。


「おいおい、ちょっと待て。思うにそっちにかなりの非があるように思うぜ? なんせフードで前が見えて無かったんじゃないかぁ? 確かにこっちもかなりのドジ野郎馬鹿野郎だが、今のお前の状況見てみたらどうよ?」


「うるさいですわね! この私に口答えするなんて!」


「どこの誰様かは御存知ありませんのでええ申し訳無いですわぁ。で、誰だオメー?」


「わ、私は……い、いえ何でもないんです。今回の事は無かった事にしますので、感謝しなさい。それでは」


 フードの少女は後ろを気にするようにしながら、言うだけ言って慌てたように離れて行ってしまった。そのまま人ごみに呑まれて姿は見えなくなる。

 僕はフラウと顔を見合わせた。


「なんか、様子おかしかったね」


「そうだなぁ……」


 二人で少女の消えて行った方を見やっていると……。


 ドンッ!


 僕は強い衝撃で弾き飛ばされてしまった。

 すぐに誰かにぶつかられたと分かる。威力はそれぞれ違ったが、今日三度目の衝撃だ。

 今度は誰だと見上げると、男達が何かを探すように辺りを見ながら、先ほど少女が消えて行った方に走っていく。こちらへの挨拶も特に無かった。

 フラウを探すと彼は直前で回避していたらしく、僕を見て肩を竦めていた。


「なぁんかさぁ……俺、さっきの女がどうして慌ててたのか、分かった気がするぜぇ?」


「僕も、何となく分かった気がする」


「あの野郎共、微かに血の臭いがしたしなぁ……クックック……」


「助けに行こう」


「へぇ、そりゃまたなんで?」


「なんでって……危ない目にあっているかもしれない人を無視できないからだよ」


「そりゃ良い。どうぞ頑張ってくれ。どうなっても知らないぜ、生きて帰れないかもな。怖いのか?」


「え? あ、うん、着いて来てくれるって事でいいんだよね?」


「早く行こうぜ相棒! 敵はすぐそこだ!」


 フラウが先に走って行ってしまった。彼はどこまでも自由だなぁ。




side:アリア


 ああもう、本当に最悪! 護衛とははぐれて、変な奴らに追いかけまわされる! さっき人とぶつかった時に足を怪我をしたし……ああもう、早く私を見つけなさいよ駄目護衛!

 それにあの男達、こんな白昼堂々と大勢のいる前で襲い掛かってくるなんて……。何が「逃げ出したお嬢様を追いかけているだけです!」よ! そんな嘘に簡単に騙される愚民たちも最悪だわ!

 とにかく早く警備兵を探さないと……。

 しかし逃げようとした先に、先ほどの男の仲間がいるのが見えてしまった。

 こっちも駄目……いっそ大声で助けを呼んでみようか……?

 いいえそれも駄目よ! そんなことハイドリツェ家の人間として許されない!

 私は横道に入って身を隠せる場所を探す。

 足が痛い……こんな事ならお父様に黙ってこんな所に来なければ……。


「いたか!?」


「いない! まだ近くにいる筈だ! 探せ!」


 背後で男達の声が聞こえた。もうすぐそこまで迫って来ている……隠れないと……!

 近くに置いてあった樽の中に身を潜める。生魚の臭いが酷い……うう、この私を誰だと……。いいえ、今は耐えなければ……。

 …………………………。

 足音が遠ざかっていった、と思う。

 今のうちにもっと遠くへ逃げないと……。


 コンコン。


 不意に自分の入っている樽が叩かれて、ビクッと身体を震わせてしまう。

 当然樽も大きく動いてしまった。確実に外にバレてしまっただろう。

 しかし、かけられた声はあの男達では無かった。


「お嬢様、私です。ライズです」


 その声の主は、先ほどはぐれた護衛の一人のライズだった。

 心の底から安堵した。頼りないグズな護衛でも、今はいないよりはずっとマシだった。

 こんな生臭い樽から一刻も早く出たかった。


「何やっていたのよ! 変な男達に襲われて……」


 息が止まりそうになる。

 そこにいたのは確かにライズだった。しかし、ライズは一人ではなかった。

 あの男達が隣にいたのだ。


「ら、ライズ……これはいったい……」


「申し訳ありませんお嬢様。人間は金には弱い生き物でして。お嬢様にはお分かりにならないでしょうが」


 小馬鹿にしたようなライズの物言いにムカッとしたが、すぐに頭の中が真っ白になる。

 ライズは私を裏切って敵の側にいた。この男が家に来た半年前から今回の事は決まっていたのかもしれない。


「いやぁ大変でしたよお嬢様。家で退屈している貴女を家から出るよう誘導するのは。でも本当……愚かですねぇ? 今の貴女、普段から馬鹿にしている貴女の言う愚民よりもずっと愚かですよ」


 ライズの罵倒も今は上手く反応できない。

 固まっている私の手を男の一人が乱暴に掴んで、力任せに樽から引きずり出した。


「いや! やめ……誰かぁ!!!」


「無駄ですよお嬢様。ここら辺は人も少ない、それに厄介ごとが大嫌いなクズ共の溜まり場ですので」


「へへ、安心しろよ。テメェには生きていてもらわないといけねぇからな。精々大切にしてやるさ」


 男に頬を舐められる。その息の臭さに吐き気を催すが、こんな男に屈したくない気持ちで何とか堪えた。

 しかし心はそうでも身体は正直なものだ。私の目からは私の意思に反してどんどん涙が零れてしまう。

 プライドなんて言ってられる状況じゃない、と無駄だと言われても何度でも大声を上げようとしたが汚い布を口に入れられてしまいそれも封じられた。

 こんな筈じゃなかったのに。ちょっと家を出てお父様を困らせたかっただけだったのに。

 誰か助けて……誰か……。


「オーイオイオイ……なんだぁ? こいつらどいつもこいつもくっせぇくせぇ。ドブネズミの臭いで鼻が曲がりそうだぁ」


「誰だ!?」


 助けが来た! これで助かる!

 などと思って声の方を見ると、先ほど私に失礼な事を言った山賊のような服装の男が立っていた。

 この状況では非常に頼りない助けの手に、私は神を呪いそうになった。

 ライズ達も声の主がただの子供であることに気付いて、下卑た笑いを浮かべた。


「おいガキ……英雄ごっこなら他所でやんな」


「へぇ……見られてもお構いなしってんなら、あんたら相当悪い連中だなぁ。今ここで大事になっても獲物を捕まえた後なら関係無いってかよ。はてさてどこの誰に雇われた連中なんだか」


 男達の顔色が明らかに変わった。

 子供だとナメていた態度が一変し、辺りをピリッとした空気が流れる。

 山賊風の男は妙な笑い声を発しながら、驚く事に無謀にも男達に近づいてきた! 何故!? なにをしているの!? 状況が見えてないの!?


「なぁ、今なら何も無かった事にできるぜ。そいつを離してとっとと消え失せ」


 話している最中に男の一人が、手に持った棒で山賊男に殴り掛かった。

 その瞬間、山賊男の身体が膨れ上がって弾け、一気に大量の水が男達を吹き飛ばす。

 私も水圧で吹き飛びそうになったが、直前で横から私の腕を誰かが掴んでくれたおかげで難を逃れることができた。


「行くよ!」


 私の手を引いて走り出そうとしたのは、先ほど私にぶつかってきた男だった。

 うっ……足が痛くて上手く走れない……。


「レイド! そいつ足怪我してっぞ! 俺が抑えとくから先に行け!」


「大丈夫!?」


「五時間しか持たねぇぞ!」


「嘘が大きすぎる! 無理そうならすぐ逃げて!」


 山賊男をその場に残して、レイドという男は私の肩を掴んで動き始めた。

 私の足に配慮してか、ゆっくり急ぎ足だ。


「ちょっと、どこに行きますの!?」


「わからない! 僕もこの街初めてだから!」


「頼りになりませんわね!」


 と言っても、私もこの街は初めてなので状況は同じだけど……。

 とにかく距離を取るべきなのは確かだし、分からなくても先に進むしか道は無いわね……。

 レイドの醜く肥えた身体から流れ出る汗が私の身体に触れて非常に不快だが、今はそんなことを言っている場合じゃない。

 大通りのそれなりに人がいる所に出た。

 私はすぐに声をあげる。


「変な奴らに追われているの! 助けて!」


 その声に殆ど全員が一瞬だけこちらを見てすぐに目を逸らした。一部は声をかけようとしてきたものの仲間と思われる人間に止められている。面倒には関わりたくないといった所だろう、これだから愚民は嫌いだ。自分の事しか考えられない醜い生き物め。

 そう考えると、隣でふう、ふうと声を漏らしながら私を肩に抱えて懸命に進むこの豚は(実際にはほとんど歩行程度のスピードだったけど)、もう少しだけ価値を上げても良いかもしれない。


「……今は逆効果みたいだし、声は出さないで」


 レイドにそう言われて私は口を閉ざす。

 そして少しでも距離を離そうと動き続けた。

 その時だった。


「うわっ!?」


 いきなりレイドが右側に倒れ込み、当然私も一緒にそちらに引っ張られる。

 レイドが躓いた? と思ったがそうではなかった。

 誰かがレイドの右手を掴んで引っ張っていたのだ。


「まったく冷たいよなぁ。ここら辺はちっとばかり他人に冷たいんだ、なんせ明日をも生きるのに苦労してる連中の集まりだからなぁ。はてさて、モタモタしてる奴らがいると思ったらなんだよ知り合いかよ、残念過ぎて欠伸が出るぜぇ。初めての街で浮かれる気持ちは分かるけど迷子は程ほどにしておけよなぁ?」


「フラウ! 無事だったんだ、良かった」


 合流して早々に長々と喋り続けるのは先ほど置いてきた山賊風の男、フラウというらしい。

 フラウは少し遠くに見える建物を指さした。


「あそこが北区の兵舎だ。どいつもこいつもやる気が無い連中で昼間っから酒を飲んだり遊び歩いてる連中が多いが、まぁこの時間なら2~3人くらいはいる筈だ。あそこに入ってチェックメイト……だと良いんだがなぁ」


「何か問題が?」


「とにかく中に逃げ込むぞ。もう後ろに追いついてきてる」


 レイドの問いには適当に返して、フラウは私達を連れて兵舎の中に飛び込んだ。

 兵舎の中にはフラウが言った通り、軽装をした衛兵が3人椅子に座ってカードで遊んでいた。机の上にはワインまで乗っている。

 衛兵たちはこちらに気付くと、面倒臭そうにグラスを呷った。


「ガキ共、ここは遊び場じゃねぇぞ。とっとと出て行け」


 笑いながらそう言うと、そのままカードに戻って行く衛兵たち

 怒りで衝動的に怒鳴り声を上げそうになったが、それよりも先にフラウが口を開いた。


「おいテメェら。テメェらがどうなろうと知ったこっちゃ無いがな、こちらのお嬢さんはハイドリツェのお嬢様だ。現在誘拐犯と思われる男達に追われていて、俺たちが保護してここまで連れてきた」


 衛兵達はギョッとしたような表情でこちらへ向き直った。

 私も同様に驚いている。何故この男は私がハイドリツェ家の人間だと知っているの?


「ほ、本当か?」


「さぁな。信じるも信じないもお前らの自由だ、ただ信じなけりゃ仕事が無くなるどころかこの国に居られなくなる……だけで済めばいいけどなぁ?」


 男達は顔を見合わせて数秒固まり、ようやく立ち上がったと思ったらドカドカとこちらへ走ってきて、媚びたような笑みを浮かべた。


「し、失礼いたしました! わざわざこんな所までご足労」


「今はそんな世間話をしている場合ではありませんわ! 奴らはすぐそこまで来ていますの!」


「はい! 我々で対応致しますのでお待ちくださいませ!」


 衛兵たちは慌てて外へと飛び出していった。

 それを見送ってから、ようやく助かった……と安心した。その途端、足に力が入らなくなり私は地面に座り込んでしまう。

 そんな私にフラウがいきなり、地面に落ちていた麻袋をかぶせよとしてきた。

 私は手でそれを止めて麻袋を奪い取る。


「ちょ……何をしますの!?」


「嫌な予感がする、こういう時の俺の嫌な予感は良く当たるんだ。いや、予感というより確信というべきかもしれんな。そもそもお前、あの衛兵共で誘拐犯をどうこう出来ると思うか?」


 ……そういえば、あの衛兵達の顔が赤くなっていた。恐らくワインで酔っていたのだろう。

 人数差もある。少なくとも誘拐犯は5人以上はいるだろう。

 そして最後に、フラウの指さす方を見た。衛兵達がカードで遊んでいた所、剣が床に落ちているのが見えた。え? あの衛兵達、丸腰で外に出て行ったの?


「現状を正しく理解できたようで何よりだ。あれじゃ精々時間稼ぎくらいにしかならん。そも奴らからすればお前を捕まえれば勝ちなんだから、例え相手が何人いようと止まる訳ねぇわな。相手は犯罪者だぞ? お前これが遊びだとでも……。いや、今はくだらない話をしている場合じゃない。すぐにここ裏口から逃げるぞ」


 フラウがお喋りを止めて裏口の扉を開けようとした。

 しかし扉は開かない。蹴ったり体当たりをしているが、扉はビクともしなかった。

「あ?」とフラウは短い声を出して、首を振った。


「……チッ、クズ共が……。駄目だ、裏口は無い。表から出るしかないなこりゃ」


「なら早く動こう。えーと、君、立てるかい?」


 伸ばされたレイドの手を叩いて拒絶する。


「もう良いですわ。貴方たち、すぐに逃げなさい。元々無関係でしょう」


 逃げ場がない上に助けも無い。ならば私がやるべきことはただ一つ。

 せめてハイドリツェの名を汚さないようにする。


「私はアリア・フォン・ハイドリツェ、貴方達のような下賎な者の手は」


「うるせぇ黙れ、とっととそれ被っとけっての。時間が無ぇ」


「は、はぁ? それに何の意味が」


 私の声を遮るようにフラウが槍で床をコンッと小突く。

 すると床に小さな水球が現れ、それは徐々に大きくなると人の形を取り始めた。

 それは私とそっくりそのままの姿になった。服まで今の私が着ているものを再現されている。

 私は小さく声を漏らした。こんな魔法見た事も聞いた事も無い。土の魔法で人の形を作って戦わせる魔法ならあるが、あくまで人の形のように見えるだけでここまでの再現度ではない。

 そしてフラウはそれに麻袋を被せた。


「なるほど」


 それを見て何かを察したレイド。

 私だけが何も分からず、それに腹が立ってしまう。

 そんな私を気にせず、二人は会話を続けた。


「二つは無理なの?」


「ああ無理だ、簡単そうに見えるだろ? 結構繊細で動かすの大変なんだぜこれ」


「いや簡単そうには……今は良いか。それじゃあさ、こういう事はできる?」


 そう言ってレイドはここから逃げる為の作戦を説明し始めた。

 あまりにも突飛過ぎる案だった。そんなこと不可能だ、と私は言おうとしたが、フラウはにやりと笑った。


「ああ、それならできる。だがそうだな……もっと面白くしようか」




side:ライズ


 兵舎に飛び込まれた時は面倒になると思ったが、中から出てきた衛兵共はどいつもこいつもクズばかりで助かった。

 ぶっ飛ばされて豪快にいびきをかいている馬鹿共が、この国の腐敗をよく現していた。下がこんな状況でも上の奴らは見て見ぬフリをする。

 俺は舌打ちをして仲間に指示を出した。


「【お嬢様】は中だ。あの面倒臭い奴もいるだろうから注意していくぞ」


 あのクソ女を泣かせて絶望させる日を夢見て、今日までの責め苦にも耐え続けてきた。

 公爵家に生まれたというだけで自分が偉いと勘違いしているどうしようも無い女だが、奴を使えば俺も貧乏生活とはオサラバできる。

 金を貰った後はたっぷり今までの礼をしてやる。人を豚だゴミだと散々罵りやがって……!


 バンッ!

 勢いよく兵舎の扉が開けられて二人のガキが中から飛び出して来た。

 さっき水の魔法で邪魔してきた奴は、何かが入った麻袋を脇に抱えて滑るように移動して東側へ逃げていった。

 もう一人のガキは、麻袋を被った何かを台車に乗せて西側へと走っていく。だがその麻袋の下から足を覗かせていた。

 どっちにお嬢様がいるかは一目瞭然だ。所詮子供の浅知恵だな、と俺たちは西側へ行こうとした。


「待て!」


 何かが引っかかって、俺は仲間を呼び止めた。物凄い違和感があった。

 水魔法のガキはかなり場慣れしているようだった。俺たちを一人で足止めした上に逃げおおせたのだ。見た目は俺たちと同じ貧民街の人間のようだが、恐らく没落貴族か何かなのだろう。戦争の為の勉強もしてきたはずだ。

 そんな奴があんなバレバレの小細工をするだろうか?

 そういえば、もう一人のガキ……中々良い身なりだった。貴族好みの派手なものではないが、かなり上等な物だったと思う。俺の目利きは確かだ。

 もしかするとあのガキも魔法を使えて、あの足は魔法で作ったものなんじゃ……?

 いや待て、そもそもさっき……。


「なんだよ! どうするんだ!?」


 仲間が大声をあげた。


「……二手に別れるぞ。もしかしたらあの足は偽装かもしれん。お前たちは水野郎を追え」


 少しのミスも俺たちには許されないのだ。可能性があるのなら潰す。

 あの水野郎が本命だった場合は厄介だが、それならこっちのガキを人質にでもすりゃいい。

 俺の指示に仲間達は頷いて、俺たちはガキ共を追った。




side:ゴロツキ


 クソッ! 早すぎて追いすがるのがやっとだ!

 敵に魔法使いがいるなんて聞いてなかった! あのお嬢様はまだロクに魔法が使えないから楽な仕事だ、なんてライズの野郎が言っていたのに、こんな事になるなんて!

 このままじゃ見失っちまう! このままお嬢様を逃がしちまったら、なんの成果も得られずにこの国を追われる事になる! そんなの御免だ!

 だが、地の利はこちらにあるんだ!


「周りこめ! 奴を逃げられない方に誘導しろ!」


 俺たちは協力して、何とか奴を袋小路まで誘導することができた。

 バッガスもトルヌも、当然俺も肩で息をしている状態だ。対して野郎は涼しい顔をしてニヤニヤと笑いながら、そっと抱えていた麻袋を地面に置いた。すぐにそのにやけ面をズタズタにしてやる!


「なぁ、お前たちはひょっとしてひょっとすると、自分たちは上手くやったと思っているんじゃないか?」


「は……?」


「上手く誘導してこのクソ野郎をここに追い詰めたんだ……なんて勘違いをしているんじゃないか? それは酷い誤解だ、お前たちは今まさにここに閉じ込められているんだから」


「耳を貸すな! ただの時間稼ぎだ!」


 さっきも口車に乗せられて散々煽られた。二度は無い。

 しかし、気にしないようにと考えれば考えるほど、こいつの言葉が頭にモヤモヤと残り続ける。

 今までも色んな魔法使いを見てきた。どいつもこいつもべらぼうに強かった。

 だがまだガキの筈のこいつは、そんな俺の知る魔法使いたちの誰よりも厄介だと思わされた。

 魔法使いというのはプライドが高く、自分の魔法に自信がある分隙も多い。そういう隙を突けば俺でも容易に仕留める事ができるだろう。

 こいつは違う、まったく隙が無い。今も俺たちを獲物を見るような目で捉えている。

 コンッ。ガキが槍の石突で地面を叩いた。

 その音で冷静になる事ができた。

 そうだ。こんなガキに何ができる。俺は今まで悪い事を散々やってきた。人を殺した事だってある。こんなガキくらい――


「こんなガキなら簡単に捻れる……って考えてそうな顔だな」


 自分の思考を読まれた気がして、背筋がゾッとした。


「俺は悪党だ、今までやってきた事に比べれば……ああ、なるほど。殺しもやってきたんだ、それに比べれば何も難しい事は無い……なぁんてな?」


 俺は後ずさる。俺の顔を見ているガキは、ケタケタと不気味な笑い声を上げた。

 こいつは俺の表情から俺の考えを読み当てたんだ。

 ……ただ、それだけだ。ただそれだけの事だ。そんなもんただのお遊びでしかない。

 バッガスとトルヌに視線で合図をする。一気に距離を詰めて、それで終わりだ。

 俺はグッと足に力をこめようとした。


「チェック」


 ガキがそう言いながら、右手をゆっくり前に突き出した。その動きに全神経を集中させる。

 何をする気かは分からない。右手の親指と中指をくっつけて、それ以外の指は握っている。何かの魔法の準備か?


「あれ、何を警戒しているんだ? チェック・メイトっていうゲーム、今貴族の間で流行っているゲームを知らないのか? なら俺がルール説明をしてやろう、チェックメイトというのはお互いに18個の駒を持った状態から始めるゲームだ。それぞれ個性的な動きをすることができて、相手と自分の駒を取り合って全部で3回まで取った駒を」


 俺は苛立ち紛れに一直線にガキへ飛びかかる。バッガスとトルヌもそれに合わせて動いた。


「チェック・メイト」


 ガキが指をパチンと鳴らした。

 その瞬間、俺を浮遊感と共に下に落ちる感覚が襲った。地面に立っていたのにだ。

 バシャン! 水の音と、頭まで水の中に落ちる感覚。息ができない。川? 落とされた?

 もがきながら俺は水から頭を上げる。


「な、んだこれっ……!?」


「あーあー暴れんな暴れんなぁ。ただ地面を水に変えただけなんだよなぁ。まあそこから出ようとすんなよぉ? もし出ようとしたら、今すぐ水を地面に変えてやるからなぁ。そうなるとどうなると思う? ああ、頭と胴体がサヨウナラな訳だわぁ。こう……ブチッ、って具合になぁ」


 リアルに想像してしまい、頭の中が真っ白になる。とにかく動くのを止めた。

 それを見てか、ガキは楽しそうに笑いながら何度も何度も槍で地面を叩いた。


「なぁどうだ? 簡単な仕事だと思ってただろ? ガキ一人誘拐するだけで金が入ってくる、みたいに考えてたんだろ? そぉんな夢のある話がお前らみたいなゴロツキに巡ってくると思ってんのかぁ? あまぁい甘い、無理だそりゃ。お前らみたいなゴロツキはすぐにさぁ、今みたいに捕まるのがオチって奴な訳ぇ。オラオラ、どうした? 少しでもプライドがあるならそこから出て俺を殺そうとすりゃいい。無理だよなぁ? 怖いもんなぁ? 自分が死ぬのはいやだもんなぁ? 自分が死なないように誰かを脅かして殺して奪って生きてるんだもんなぁ? ケケケケケなぁに怒ってんだぁ? 本当の事を言われて怒るなんてさぁ器が小さいぜぇもっと心を大きく持たなきゃさぁ。いつまで濡れてんだ? いっそ頭まで全部埋まっちまえよ、死体も残らないぜ。ほら、今すぐ地面に戻してやるよ。心の準備はできたか?」


 矢継ぎ早に話し続けるガキに口を挟む暇も無い。

 このままじゃ俺達は全員殺される……どうすりゃいい、こっちにゃ魔法を使える奴なんていねぇ。どいつもこいつもナイフをブンブン振り回す事しか能が無いロクデナシだ。

 こんな所で死にたくない! まだ女を抱いた事も無いんだ! 高い酒を浴びるように飲んで良い女たちを抱いて、美味いもんたらふく食って……ああ嫌だ! 死にたくない!


「助けてくれ!」


「ああ良いとも」


 そういってガキがもう一度指を鳴らす。

 ああ死んだ! そう思ったが、いつまでも終わりはやって来なかった。代わりに体の自由が利かなくなっていた。


「……は?」


「考えれば普通の事じゃねぇのかぁ? 地面を水に代えてそこに何かが入れれば水は押し出される。そうして地面に戻してやると、どうなるかは誰にでも分かる事だよなぁ」


「ふ、ふざけんな! ここから出しやがれ!」


「いやいや、この魔法ってば意外と準備が必要でなぁ。時間稼ぎに付き合ってくれてありがとう、お前らのおかげで勝つことができたって訳ぇ」


 ベラベラと喋り続けていたのは、魔法発動の為の準備をしていたから!?

 最初から最後までこいつに良いように事を運ばれた! なんなんだこいつは!?


「ま、残念だったって事で諦めて埋まっとけやぁ。クックック……」


「馬鹿が! あっちのガキとお嬢様はすぐに捕まるぜ! 俺達の勝ちだ!」


「あっちのガキ、って僕の事?」


 は? だ、誰の声だ?

 周りを見てみると、さっきガキが地面に置いた麻袋がゴソゴソと動き出した。

 麻袋の中から這い出るように外へ出てきたのは、さっき反対側に逃げていったガキだった。

 ガキは水野郎へ手のひらを向けると、パチンとハイタッチを交わす。


「な、なんで……だってさっき」


「ああ、反対側に逃げていったのは僕じゃなくてフラウが作った水魔法だよ」




side:アリア


 足音が遠ざかっていく。そっと窓から外を見てみた。誰もいない。レイドとフラウの立てた作戦にまんまと男達は騙されたみたいだ。

 レイドとフラウの作戦はこうだ。片方はフラウが作った私の水人形を台車に乗せて、わざと麻袋から足を少しだけ出して見せて逃げる。その反対側に麻袋を持ったフラウが逃げる。男達は当然私がいる方を追おうとするだろうけど、実は台車を押しているのもフラウの水人形だった。

 フラウは「リーダー格の男(ライズの事だ)は足が出ている事を不審に思って二手に分けるだろう、「どちらかにアリアはいる」と誤認してな。水人形は長くは持たないだろうが、敵を分散させられればこちらが有利になる」と言っていたが、本当にその通りになったようだ。

 私は外に出て、フラウに言われた通り倒れている衛兵達の顔に水をかけた。


「おわっ! なんだなんだ!?」


「貴方達! 本当に情けないですわね! あんなゴロツキ共に簡単に倒されるなんて! ……今はそんな場合じゃありませんわ! 早く私を城に案内しなさい! 助けを呼びに行くのよ!」


 寝起きでボーっとしている衛星達の頬をビンタしながら、私は捲し立てた。ここの地理に明るくないのでこんな木偶の坊達でも協力が必要なのだ。

 のっそり起き上がる衛兵達を「早くなさい!」と急かしながら城へと動く。

 見ず知らずの私の為に囮になった二人の事が気になる。フラウは戦い慣れしているのが私の目から見ても良く分かるので大丈夫だと思うが、レイドはどこからどう見ても外に慣れているようには見えない。服装からしても地味だがかなり良いものだ、きっと私のようにお忍びで出てきたどこかの貴族の息子なのだろう。

 向こうが勝手に手を出してきたとは言え、私の問題に巻き込んでしまった事に多少の罪悪感はある。

 私は神に二人の無事を祈るのだった。

遅くなりました

プロット書いて書き始めてみたら、書いても書いても終わらずに15000字近くになってしまいました

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