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7. 王宮への到着と絶望

ディオリーゼは1人馬車に揺られながら景色を眺めていた。


両親は屋敷外まで出て、その姿が見えなくなるまでディオリーゼを見送ってくれた。

両親が見えなくなってからも馬車の中を見る気にはならず、そのまま外の景色を眺めていた。

幾度か見たことのある景色を終え、川を渡り、長い道を進んでいく頃にはディオリーゼの瞼は重くなり、くっついてしまった。




カタン


わずかに馬車が揺れてディオリーゼは目を覚ました。

そっと窓から外を覗くと外には数えきれないほど多くの店が軒を連ねていた。

いつの間にか道は土からレンガへと変わり、人々の活気のいい声が聞こえる。


高い塀を抜けると中には華やかな建物がずらりと並んでいた。

店先には様々な看板が飾ってあり、さまざまな種類の商品が並べられている。

色々な商品をよく見てみたかったが、馬車を見つめる視線が気になって仕方がなかった。


王家の馬車は目を引くため、人々はすれ違いざまに馬車に視線を向けた。

大勢の知らない人間から向けられる視線はディオリーゼを落ち着かない気持ちにさせる。

そっと窓から離れると座席の真ん中にちょこんと座った。



おとなしく座席に座っていると、しばらくして馬車は速度を落とし始めた。

少々の物音の後にドアがノックされた。

びくりと体を強張らせるディオリーゼ。


ゆっくりと開けられたドアの外には使用人たちが並んでいた。

一番前に立っていた執事はディオリーゼが馬車から降りるために手を差し出し、ディオリーゼを大切な宝であるかのように丁寧に扱った。


「お初にお目にかかります。執事のスチュワートと申します。この度は遠路はるばるお越しいただきありがとうございます。」

祖父を彷彿させるような年齢の執事は、ディオリーゼのために腰を曲げて柔和な笑みを浮かべて挨拶をした。


「お初にお目にかかります。カルティア公爵がむすめ、ディオリーゼ・カルティアでございます。本日は、お招きいただきありがとうございます。」

家で練習したおかげでこれまでで一番きれいに挨拶ができたことに頬が緩みそうになるのを我慢し、お姉さんらしい顔をして見せるディオリーゼに使用人たちは微笑ましく眺めた。


「ディオリーゼ様、長旅お疲れかとは思いますが、陛下のもとへご案内してもよろしいでしょうか」

執事のその言葉にディオリーゼは分かりやすく狼狽した。

挨拶の練習をしたときに両親から、登城後はまず陛下にあいさつに行くことになると教えてもらっていたにもかかわらず、一回目の挨拶が上手にできたことに満足してすっかり忘れていたのだ。


「ええ、お願いいたします」

ディオリーゼ自身はしっかり返事ができたと思っているが、声には明らかに緊張が表れていた。


執事は一瞬目を伏せてからディオリーゼに話しかけた。

「今の時期ですと中庭ではアイリスの花が咲き誇っています。陛下のもとに行く通路の途中に中庭がありますので、少し休憩してから向かわれたほうが良いかもしれません」

話し終えると同時に数人の侍女が王宮内部へ向かった。

執事の発言から、陛下に到着の報せをするとともに中庭で休憩できるように準備をしに行く必要があると理解していた。


アイリスの花を想像して少し顔をほころばせたディオリーゼに内心安堵しながら、中庭へと足を進めるのだった。

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