29. 成長に伴う希望
ディオリーゼは元来、年齢の割に聡明な子供であった。
初めて見る光景に衝撃を受け動揺してしまったが、侍女からの説明を受け、ディオリーゼは自分の体に何が起きたかを正しく理解した。
違和感と痛みは消えず、不快感も残るが、未知のものに対する恐怖心は落ち着いた。
侍女たちはディオリーゼの体と心を気遣い、ディオリーゼがゆっくりと休めるようにしてくれた。
今日のスケジュールはすべてキャンセルし、ヴァレイドルにも体調不良で食事を共にできないと伝えてくれた。
ヴァレイドルからは見舞いの申し出があったが、ディオリーゼはそれを断った。
倦怠感がひどかったのもあるが、ヴァレイドルが様子を見に来てくれた時に匂いや汚れで気付かれてしまったらと思うと気が気じゃなかった。
これまでヴァレイドルに秘密を持ったことなどなかった。
せいぜい秘密で誕生日の贈り物を準備した時くらいだ。
こっそり用意していた贈り物を渡したときのヴァレイドルの驚いた顔を思い出して、1人くすくすと笑う。
そんなディオリーゼでも、流石に今日のことはヴァレイドルに言えなかった。
身長が伸びたとディオリーゼが話すと良かったねと笑いかけてくれるヴァレイドル。
きっと今日のことも伝えたら喜んでお祝いしてくれるだろう。
でも、やっぱりとても恥ずかしかった。
伝えるのも、祝われるのも嫌だと思ってしまった。
「…よし!」
声に出すことで無理矢理気持ちを切り替えた。
今日のことは、自分が大人に近づいた証拠であり、何も怖いことはない。
そうでしょう?
であれば、大人になった体に伴うように、精神も大人としてふさわしいものにならなければならない。
ディオリーゼは決意を新たにした。
その日からディオリーゼはこれまで以上に振る舞いに気を付け、より多くの知識を吸収するよう、勉学にも励んだ。
大人の女性としてふさわしい礼儀と知識を身に付けたい。
ヴァレイドルの隣に自信をもって立っていられる素敵な女性になりたい。
未来の自分への希望はとどまるところを知らない。
恋する少女は一直線だった。




