25. 少女の熱量が表す希望
背の低いディオリーゼに腕を絡められたヴァレイドルは、腰を曲げ、長い手足を窮屈そうに動かしながら、ディオリーゼに引っ張られるままに歩く。
ただでさえ背が高く足の長いヴァレイドルにとっては、背の低いディオリーゼに腕を引っ張られると、ひどく歩きにくく、もたもたとした不格好な歩き方になる。
だが、腰の痛みや歩きづらさなんてものは、ディオリーゼが自分から腕を絡めて、初めてのデートを楽しんでいることに比べたらひどく些末なことだった。
ディオリーゼは今日のお忍びデートを非常に楽しみにしていて、準備にこれまでの人生で一番と言っていいほど力を入れていた。
何でも卒なくこなすディオリーゼがここまで一つのことに力を入れるのは珍しい。
まずは、王宮お抱えの商人にこっそりと町娘の服と、ヴァレイドルに似合いそうな町娘と歩いていても違和感のない男物の服を用意してもらい、ヴァレイドルのクローゼットに隠した。
服に合う帽子や靴も準備した。
服類の注文を終えると、今度はデートコースを考え出した。
ヴァレイドルに買ってもらった小説の中に、偶然にも、一国の姫が護衛の騎士と城を抜け出して街に繰り出す箇所があったので、その部分を参考に計画を立てた。
街で流行りのお店については、さり気なく若いメイドに聞いたり、商人に用意させたリストを基にヴァレイドルに相談したりした。
公爵令嬢として生まれ、人生の半分を公爵家、もう半分を王宮で過ごしてきたディオリーゼにとって、街の情報は知らないことばかりだった。
ディオリーゼは外食をほとんどしたことがなかったが、記憶にある限り、店の前で馬車を下り、案内されるままに席に着いた。
買い物も、店に着いたら奥の部屋に通され、ディオリーゼが要求するものがいくつも目の前に並べられた。ディオリーゼは、その中から好きなものを選べば良かった。
しかし、街では、人々は基本的に店から店の移動に馬車を使わず、降車場から店までは自らの足で歩く。
店についても店員が外まで迎えに来ることはなく、人気の店ならば店の前に立って順番を待たなければならない。
商品を購入する際は、店の棚に並んでいるものの中から欲しいものを探し出し、店によってはレジまで自分で持っていかなければならない。
ディオリーゼは、目立たず街に溶け込めるよう、イメージトレーニングを欠かさなかった。
行きたい店をリストアップし、混雑時も外で立って並ぶことができるように心構えもした。
王宮を抜け出すところは予定通りであったし、馬車が通りかかるという幸運にも恵まれた。
幸先のいい始まりにわくわくと胸を躍らせ、後ろから見ていても上機嫌であることが分かるディオリーゼの様子にヴァレイドルは微笑みをこぼした。




