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23. 周囲の視線を意識する希望

帽子を深く被って顔を隠し、人通りの少ない廊下の端をこそこそと歩く2人。

衛兵たちの目を掻い潜り、門から離れた瞬間を見計らって城の裏門から外に出た。

第一関門突破とばかりに満足げな笑みを浮かべるディオリーゼをヴァレイドルが微笑ましく見つめる。


2人はそのまま城壁沿いに街の方向へと道を歩く。

靴や小物まで今回の〈お忍びデート〉のために揃えたため、普段より歩きに適した靴になっているが、作りは粗雑であり、長時間履いていると足が痛くなりそうだ。



門を出て10分ほど歩くと、後ろから馬車がやってくる音が聞こえた。

「ディア、おそらく街へと向かう乗り合い馬車じゃないかな。街までは遠いし、運が良かったよ。あの馬車に乗ろう」

振り返って馬車を確認したヴァレイドルの提案で、2人は街まで馬車に乗っていくことにした。


ディオリーゼの小さな足では街まで歩くのは厳しかったので、こっそりとその幸運に感謝した。

あともう10分歩いていたら、街に到着する前に帰りたくなっていたところだった。




馬車の中で2人は肩を寄せ合い、くすくすと笑い合った。

他の乗客たちに王弟と公爵令嬢であることがばれないように、互いを愛称で呼びあい、図書館にあるディオリーゼのためのスペースで2人きりで過ごしている時のように気軽に話した。

人の目があるところで2人がこれほどに近い距離にいることはなく、ディオリーゼは心臓がいつもより早いことに気付いた。



いつもは2人だけの空間だった。

朝食も、ヴァレイドルの私室にいる時も、図書館にいる時も人の目を気にすることはなかった。

ヴァレイドルと2人きりの世界だった。

勿論2人で人前に立つことは何度もあったが、その時はディオリーゼもヴァレイドルも紳士淑女としての仮面をつけ、正しい距離を保っていた。

それが今、愛称で呼び合い、頬が腕に触れるほど近い距離にいる2人の傍には他人がいる。


不思議な緊張感に包まれて不自然な動きをするディオリーゼの名前をヴァレイドルが呼ぶ。

そっと顔を上げると、彼女の顔を覗き込もうとしていたヴァレイドルと至近距離で目が合った。

途端に蕩けるような笑顔を浮かべるヴァレイドル。

外で見るその笑顔の無防備さに心臓が飛び出すような衝撃を受けた。


私室にいる時と変わらない距離感、変わらない笑顔、変わらない瞳。

そのはずなのに、近くに人がいるだけで、意識してしまう。


ディオリーゼはさっと周りに視線を巡らす。

自分に向けられたあの蕩けるような笑みを目にした者がいないか確認したかった。


まだ午前中だが疲れている人が多いのか、顔を伏せて眠っている人がほとんどで、誰もこちらを向いていなかったことに安堵した。

ディオリーゼだけに向けられる無防備な笑顔は誰にも見られたくなかった。

また、きっと自分が同じように浮かべている笑顔を誰かに見られるのも恥ずかしかった。



高鳴る鼓動を誤魔化すように、そっと周りから見えない位置でヴァレイドルの手を握った。

街に着くまでもう少し。

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