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22. デートの準備と希望

今からディオリーゼに自らの美しさを自覚させて街に出るのを諦めさせるのは現実的ではない。

どうにかディオリーゼを納得させられないかとヴァレイドルは困ったような表情を崩さないまま、思案する。


「ヴァル様、ディオリーゼと〈お忍びデート〉したくないの…?いや…?」

いつもならばすぐに承諾してくれるヴァレイドルが返事をしないことに不安を覚えたディオリーゼが悲しげに問いかける。



5年間、ヴァレイドルがどれだけ愛情を注ぎ、甘やかしてもディオリーゼが傲慢な振る舞いをすることはなかった。

両陛下や使用人たちもディオリーゼの願いを引き出せずにいる中、ヴァレイドルに寄せられる小さなわがままだけが彼女の自己主張の全てと言って良かった。

ヴァレイドルはディオリーゼを可愛がり甘やかす行為の一環として全ての願いを叶えていたが、同時に、一度でもディオリーゼの願いを拒否すれば、二度と願いを言ってもらえなくなるのではないかとの不安に苛まれていた。


「わかったよ、ディア。二人で〈お忍びデート〉に行こう。可愛い町娘の服を用意するから、10日後まで待ってくれるかい?」

「本当!?ヴァル様ありがとう!大好き!」

ヴァレイドルの返事に喜んだディオリーゼがヴァレイドルに飛びつき、頬に可愛らしく口づける。

その勢いでディオリーゼの目に張っていた水の膜が弾け、ヴァレイドルの頬に触れた。

力の限り抱きつくディオリーゼを抱きしめ返しながら心の中でため息を一つつき、10日間でできることを考える。

愛するディオリーゼのために。



10日後、ヴァレイドルは町娘の服を持ってディオリーゼのもとに訪れた。

普段の服より何段も質の落ちる服を体に当てて鏡を見たり、くるくるとその場で回ったりして喜びを表すディオリーゼの姿につい口元が緩む。

侍女にディオリーゼの着替えを任せ、ヴァレイドルは自室に戻る。

自身の着替えと最終確認を行う必要があった。




「ヴァル様!早くー!」

着替えを終えてこっそりとヴァレイドルの私室までやってきたディオリーゼは、浮き立つ心を抑えきれずにソファの上で足をばたつかせる。

「はいはい。もう終わるよ」

ディオリーゼに気づかれず、街の人々にも可能な限り迷惑をかけない護衛の配置や店の予約などの最終確認を済ませ、平民の服へと着替える手を進める。


最後のボタンを留めるとディオリーゼの方へと振り返る。

ソファに寝転び、満面の笑みでヴァレイドルを見上げる彼女の手を取り、立ち上がらせる。

質素な服に身を包んでもやはりディオリーゼは美しかった。

彼女が平民に生まれなくて良かったと心から思う。

この美しさのまま彼女が街で暮らしていたら、様々な危険に晒される日々を過ごさねばならなかっただろう。

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