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20. 小さなお姫様のわがままが示す絶望

ディオリーゼからお忍びデートに誘われたヴァレイドルは、安全上の観点からその申し出を却下した。

ディオリーゼは、王国一と言って良い美少女であり、そのディオリーゼに街中を歩かせることは、誘拐や拉致の危険に自ら身をさらしに行くようなものである。

誘い自体は非常に嬉しく、断るのは非常に心苦しかった。


もし一緒に出掛けることがあれば絶対にディオリーゼから目を離さない自信があるが、それでも安全だとは言い切れない。

目を輝かせるディオリーゼには申し訳ないが、王宮の一室を服屋の内装のように改装させることで納得してもらおうとした。



しかし、ディオリーゼはその提案を受け入れなかった。


小さな眉間にきゅっとしわを寄せて精一杯の不機嫌な顔をして、強く言い放ったのだ。

「いや!ヴァル様とお忍びデートするの!!」

小さなお姫様のわがままにヴァレイドルは困り果てた。



ヴァレイドルはディオリーゼのわがままにとことん甘かった。

というのも、ディオリーゼは滅多にわがままを言わないためだ。

そんな彼女の数少ないわがままは必ず叶えてあげたいと思っている。



王弟の婚約者という立場であり、王族に次ぐ権力を持つディオリーゼだが、わがままを言える相手は限られている。

両陛下はディオリーゼに優しく接するが、ディオリーゼから見ればあくまでも王族。わがままを言うどころか、必要以上の会話をすることすら烏滸がましいと考えている。

王宮には多くの貴族が出入りするが、ディオリーゼと話すことが許される者は一握りであり、会話も当たり障りのない挨拶程度の内容なので、ディオリーゼから何らかの要望を伝えることはない。

使用人たちもディオリーゼに優しく、常にディオリーゼが快適に過ごせるように気を配ってくれているが、ディオリーゼは彼らにそれ以上のことを求めない。

使用人の中で最も気を許しているレベッカにの前では、頬を膨らませるなどして不満を表すことや不平不満を口にすることはあるが、だからと言って何かを求めることはない。

レベッカもそれが分かっているので、ディオリーゼの不満に相槌を打つに止める。

1年に1度しか会えない家族にわがままを言って困らせるようなこともできない。


そのため、ディオリーゼがわがままを言える相手はヴァレイドルだけだった。


ヴァレイドルだけでなく使用人たちも、5年経った今でもディオリーゼが日々を少しでも快適に過ごせるように気を配っている。

特にヴァレイドルは、ディオリーゼが寂しくならないように可能な限り一緒に過ごし、たくさんのプレゼントを贈った。

それゆえディオリーゼが願望を口にする前に大半のことは叶えられており、ディオリーゼが願望を口にする必要がないだけなのだが、それに気づかない大人たちはあの手この手でディオリーゼから不満や要望を聞き出そうとしていた。



そんなディオリーゼが久しぶりにわがままを言った。

それだけで、ヴァレイドルが考え直すには十分すぎる理由になる。

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