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18. 美少女を取り巻く思惑と希望

10歳のディオリーゼは、どこに出しても恥ずかしくない公爵令嬢になった。

マナーや振る舞いはもちろん、王国の歴史や他国の特色など、王家に連なるものとしての知識も十分に身に着けた。

優れた家庭教師たちによる教育や王宮での生活で必然的に身につくマナーもディオリーゼの成長には欠かせなかったが、一番はヴァレイドルによる手ほどきがあったことが大きいと考えている。

ディオリーゼが好む内容でありながら知識が身につく本を用意し、

日常の会話の中で諸国の特色について面白おかしく伝え、

王宮の中を歩き回りながら肖像画や彫刻について説明し、

ディオリーゼが楽しみながら知識を身に付けられるように、いつも隣で支えた。



ディオリーゼは10歳にして公爵令嬢としての自分と10歳の少女としての自分を使い分けていた。

普段は、美しい公爵令嬢として声を荒げることや表情を崩すことなく、優雅な微笑みをたたえる。

そして、レベッカ達のような心を許した使用人、そしてヴァレイドルの前でのみ、愛らしい10歳の女の子へと戻る。


そんな二面性もまた彼女の聡明さと美しさを引き立たせた。



10歳には思えない美貌と知性、どうにかしてお近づきになりたいと思う者は少なくない。

ディオリーゼの瞳に映りたい少年達、

ディオリーゼとお近づきになりたい青年達、

ディオリーゼと子に繋がりをもたせたい親達、

ディオリーゼを介して王家と繋がりをもちたい貴族達、

ディオリーゼを広告塔にしたいと狙う商人達。


ディオリーゼが一人になるような隙を見せることはなく、王宮内でもディオリーゼに声をかけることができるものは非常に限られた。

運良くディオリーゼを廊下や中庭で見かけることができたとしても、隣には必ずと言っていいほどヴァレイドルがいる。


王弟の目の前で、その婚約者に手を出すことができる人間などいるはずもない。

いくら2人の年齢が離れていても、ディオリーゼは王家に認められた王弟の婚約者であり、

そのディオリーゼに手を出そうとする行為は、王家への反逆ととられかねない。


いくらディオリーゼが王国一の美少女であっても、自分と一家の命を懸けることができる人間はいなかった。




王家としてもディオリーゼに向けられる視線には危機感を感じていた。

ディオリーゼの生家や美貌を考えると、他国の皇太子や王太子から求婚の申し入れがあっても全くおかしくない。

一部の貴族からは、国としての利益を考えるのであれば、王命として他国に嫁がせるべきであるとの声も大きい。

王弟との婚約が成立してから5年も経つがその声はいまだ衰えることを知らない。むしろ、ディオリーゼが優れた才覚を発揮するたびに声は大きくなる。


公爵家も1年に1回、ディオリーゼの誕生日に会うのみという状況を受け入れてはいるが、いつディオリーゼを取り戻そうと動き出すか分からない。

一公爵家の意見程度であれば容易に捻じ伏せられるが、他国の王族と手を結ばれるとその限りではない。

そのため、公爵家に近づく他国の貴族にも目を光らせる必要がある。



そのため、王は密かに2人の成婚を急いでいた。


本来、貴族の子女たちは16歳でデビュタントを迎える。各々の財政状況や諸事情により多少前後することもあるが、

王はこれまでの前例を大きく捻じ曲げてディオリーゼを13歳で社交界デビュー、同時に婚姻の発表を行いたいと考えていた。

デビューから婚姻までに期間が空けば空くほど、ディオリーゼをものにしようとする者たちに隙を与えることになる。


また、王家の婚約者のデビューと成婚が同年になされることは一般的であるといってもいいため、デビューと同時に婚姻の儀が行われることを危惧するものも少なくない。

そのため、王家がディオリーゼのデビューを急ぎ、同時に婚姻の発表を行うことは貴族達も想定していると思われる。

しかし、前例では最年少デビューは14歳、それも親族との争いで両親を亡くした伯爵家の一人娘が婚姻するためのものであり、言わば特例中の特例であった。


その中で、ディオリーゼを13歳でデビューさせることで、自国・他国の貴族達から横やりが入るのを防ごうというのだ。

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