16. 共に時を過ごす希望
図書館のディオリーゼのためのスペースは、王宮で慣れない暮らしに追われるディオリーゼの心を慰めてくれた。
両陛下に会って緊張でがちがちに固まった体と心をほぐしてくれた。
家庭教師に叱られた悲しい気持ちを癒してくれた。
ヴァレイドルが忙しくて寂しい時はプレゼントにもらったぬいぐるみをソファの上で抱きしめた。
ディオリーゼは王宮で約5年の月日を過ごした。
椅子や机、ソファは成長に合わせて大きいものへと変更されていった。
本棚にもぎっしりとディオリーゼが選んだ本が収められている。
その5年間は、ディオリーゼの婚約が決定した時に大人たちが心配したほど悪いものではなかった。
ヴァレイドルは常にディオリーゼが安心して楽しく過ごすことができることを第一に考え、彼女に無理な要求はしなかった。
もともと社交界に顔を出すことも少ないヴァレイドル。
その婚約者になったからと言ってディオリーゼが社交を強制されることもなかった。
王宮に来た時には両親や使用人たちのことを思ってベッドで泣くこともあったが、そんな夜はヴァレイドルが気づいて会いに来た。
毎年の誕生日のパーティーには両親を呼ぶことも許された。
パーティーの夜は両親が王宮に滞在できるように手配してくれ、翌日は家族3人で過ごすことができた。
シェイリーも侍女として両親と一緒に滞在する許可をくれた。
ヴァレイドルと初めて朝食を共にしたあの日から、ヴァレイドルとディオリーゼはどんどん仲を深めていった。
まだ幼いディオリーゼにとって、歴史やマナーの勉強は大変だったが、分からないところはヴァレイドルが教えた。
ディオリーゼのために時間を作り、ほとんど毎日2人でご飯を食べて、話や王宮内の探検をした。
王宮の中において2人で行ったことのない場所は陛下たちの自室くらいではないかというぐらい、たくさんの場所を訪れた。
公爵家で両親と過ごしたのと同じだけの時間を、王宮でヴァレイドルと一緒に過ごし、いまやディオリーゼの心の一番大きなところをヴァレイドルが占めている。
図書館のスペースはディオリーゼ専用の場所で侍女すら立ち入りを許されなかったが、ディオリーゼは、初めてそこに踏み入れた時と同じようにヴァレイドルだけはそこで一緒に過ごすことを許した。
最初の頃は、ディオリーゼがヴァレイドルの膝に乗って本を読んでもらっていた。
少し経つと、今度は同じ格好でディオリーゼがヴァレイドルに本を読んであげたがるようになった。
今では、ソファの上で2人寄り添って、それぞれ好きな本を読んでいる。
過ごし方が変わっても2人の距離は変わらず、一緒の時を過ごした。




