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13. 昨日の行いを知って絶望

コンコン

ぬいぐるみと一緒にしばらく待っていると部屋のドアが叩かれ、ディオリーゼは息を吞んだ。

女性の声がし、声の主が入ってくる。

足音は一直線にディオリーゼのいるベッドへと向かってくる。

天蓋のカーテン越しにもう一度声がかけられ、そっとカーテンが開かれた。


ベッドの枕元でぬいぐるみを抱きしめて体を固くするディオリーゼとカーテンを開けた侍女の目が合った。

怯えるディオリーゼに、侍女は目を瞬かせると頭を下げた。

「失礼いたしました、ディオリーゼ様。侍女のレベッカと申します。無断でお部屋に入りましたことお詫び申し上げます」


「いえ…」

ディオリーゼはぬいぐるみを抱きしめる力を弱めずに返事をする。

その目には不安がありありと浮かんでいた。


「失礼ながら、昨日のことは覚えていらっしゃいますでしょうか」

侍女は囁くようにディオリーゼに問う。



昨日…

ディオリーゼは昨日のことを思い出そうと眉間にしわを寄せる。

昨日は起きてすぐにドレスを着せられて…そう、王宮からお迎えの馬車が来てみんなとお別れして…

王宮で両陛下にご挨拶をしてとっても疲れて…

その後、ヴァレイドル様にお会いしてたくさんのお話をした。


話をしたことは覚えているが、どのように話を終えたか思い出せず、眉間のしわを深めた。

「王弟殿下とお話になったディオリーゼ様はお疲れでしたのでそのままお休みになってしまわれました。」

ディオリーゼは目が飛び出るほどの衝撃を受けた。


侍女はそんなディオリーゼの様子に構わず話を続ける。

「こちらの部屋はディオリーゼ様のためにご用意した部屋になります。昨日は、王弟殿下自らディオリーゼ様をご案内になりました。」


ディオリーゼは努めて冷静になろうとした。

つまり、自分はヴァレイドル様とお話ししている最中に失礼にも眠ってしまい、その自分をヴァレイドル様がこの部屋まで抱えて連れてきてくれたということだろう。



ディオリーゼは絶句した。

王弟と会話中に寝る。王弟の部屋で寝る。王弟に運ばれる。

どれもあり得ないことばかりだ。

相手が王弟でなくても、婚約者でなくてもありえないことだろう。



今にも泣きだしそうに目をうるうるとさせるディオリーゼの様子に、侍女は慌てたように声をかける。

「ディオリーゼ様がお眠りになったことは、私を含め一部の者しか知りません。その者たちにも殿下が箝口令を敷いております」


潤んだ瞳で不安げに見つめられた侍女は、彼女の不安を取り除くために柔らかな笑顔を浮かべる。

「殿下は、ディオリーゼ様がお疲れであったことを理解されています。殿下から『疲れているのに長話に付き合わせてしまって悪かった。つい楽しくて話過ぎた』との伝言を承っております」


会話の割合はディオリーゼとヴァレイドルで9:1、どんなに甘く見ても8:2。

どう考えてもディオリーゼがずっと話していた。

それでもヴァレイドルが謝罪したのは、ディオリーゼが気に病むことがないようにとの配慮だということは5歳の少女にも理解できた。



気まずそうにもぞもぞとするディオリーゼ。

しかし、その瞳にもう涙は浮かんでいなかった。


「殿下からディオリーゼ様がお目覚めになったら二人で朝食をとりたいとのお誘いを受けておりますが、いかがいたしましょうか。まだお疲れのようでしたらお断りさせていただきますが」

「一緒に食べたい…です」

侍女の言葉に被せるように話し出したものの徐々に声が小さくなっていくディオリーゼ。


そんな彼女にレベッカはにっこりと笑いかけた。

「それではお風呂の準備をさせていただきますね」

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