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12. 目覚めを襲う絶望

互いの名前を呼び、砕けた口調で話すことでディオリーゼの緊張は和らいだ。

目の前の男性を自分の婚約者だと思うことはまだできなかったが、〈威圧感がある怖い王弟〉から〈優しい男の人〉くらいには考えられるようになっていた。


ディオリーゼの家族になりたいと言ったその男性は、優しくディオリーゼの話を聞いてくれた。

好きな食べ物、好きな遊び、好きな色に、好きな人…たくさんの話をした。

目を輝かせて色々なことを話すディオリーゼに、男性は優しく微笑みかけながら相槌を打ったり質問したりした。

そして、今いるお城のことやお城に住んでいる人たちのことを教えてもらう約束もしてくれた。



小さく口を開けてディオリーゼが欠伸をする。

心身ともに疲れていたところに、ふわふわのソファ、美味しいお菓子に温かいお茶、そしてヴァレイドルと話すことで緊張の糸が切れてしまった。

先ほどまでキラキラと輝いていた大きな目も、今はとろんとしている。

体は半分ソファに預けるような形になっており、今にもずり落ちてしまいそうである。


「ディオリーゼ、眠いかい?」

囁くようにヴァレイドルが問いかけると、少女はこくんとわずかに頷いた。

もう話す力も残っていないらしい。


そんなディオリーゼの様子に目じりを下げると子守唄を歌うかのように話しかける。

「おやすみ、ディオリーゼ。よい夢を」


その言葉が終わるかどうかというところで、ディオリーゼは眠りに落ちた。




ディオリーゼが目を覚ましたのは知らないベッドの上だった。

ふかふかのベッドは真っ白で、天蓋はディオリーゼの大好きなピンク色。

そろりと天蓋の隙間から部屋を見るも、自分の部屋に似ているようで違った。


カーテンもソファもカーペットもディオリーゼの大好きなピンク色で、広さも自分の部屋よりずっと広い。

目の届く範囲に人はいない。

廊下につながると思われるドアも閉まっていて、人の気配は全くしない。



いつもならディオリーゼが起きるのは自分の部屋か両親の部屋で、すぐにシェイリー達が来てくれた。

誰もいない知らない部屋の知らないベッドで1人、ディオリーゼは不安で泣きそうになった。

いつもなら誰かいる、ディオリーゼが起きたらすぐに来てくれる、一人ぼっちで眠ることもない…


そこまで考えてディオリーゼは勢いよくベッドを振り返った。


急いで枕元に行って毛布をめくると、お気に入りのぬいぐるみを見つけた。

家で眠るときはいつも一緒に寝ているうさぎのぬいぐるみがちゃんとそこにいた。



短い手でぎゅっとうさぎを抱きしめて、首のあたりに顔をうずめる。

知らない場所で一人ぼっちでも大好きなぬいぐるみがいるだけで安心できた。

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