11. 謝罪が表す絶望
部屋に通されたディオリーゼは、勧められるままソファにかけた。
侍女たちがお茶やお菓子を準備してくれる。
部屋の持ち主に勧められるままに紅茶で喉を潤す。
喉はカラカラだし、疲れた体は甘いものを欲していた。
しかし、あまり食べすぎると夕飯に響くし、何よりはしたない。
ディオリーゼは1つ小さめの焼き菓子を食べるだけで我慢することにした。
様々な種類のお菓子の上で視線をさまよわせ、1つ選んだ後もちらりと残りのお菓子を見つめるディオリーゼの様子に美丈夫は口を開いた。
「早速夕飯の時にでも全員で顔合わせができればと思いましたが、今日はお疲れでしょう。皆で食事をとるのは明日の夕食の時にし、今日はゆっくり部屋で休んでください。」
食事の場で挨拶をすべきことは分かっていたが、既に疲れ切っているディオリーゼにとっては非常に嬉しい提案だったので、その言葉に甘えることにした。
長時間馬車に揺られ、両陛下との謁見を行い、5歳の少女の体は疲弊していた。
男は、手の動きだけで使用人たちを部屋から追い出す。
ゆっくりと閉められるドアに意識をやっているディオリーゼは、男の呼びかけによって呼び戻された。
「カルティア嬢」
自分の名を呼ぶ男に顔を向けると、彼が真剣な目で自分を見ていることに気づいた。
「まず、最初にお礼を。この度は、私からの婚約の申し出を受けていただき感謝します」
彼は椅子に座ったまま頭を下げた。
「そして、まだ幼いあなたを家族と引き離してしまうことに謝罪を。申し訳ない」
ディオリーゼは狼狽した。
いくら他に人がいないとは言え、王族が一貴族に頭を下げることなどあってはいけない。
しかも子供相手に。
それは、その子供であるディオリーゼでも知っている常識だった。
「どうかおやめください…!」
ディオリーゼはおろおろと机を挟んで頭を下げ続ける王弟の様子を窺い、懇願する。
「両親は王家からお声がけいただけるのは非常に名誉なことだと申しておりました」
その言葉に膝の上の拳を一度強く握りしめると男は顔を上げた。
「…ありがとうございます」
「カルティア嬢、あなたのことをお名前でお呼びしてもよろしいでしょうか」
困ったように眉を下げて薄く笑う彼からは、ドアを挟んで向かい合った時に感じた威厳や威圧感は感じられなかった。
ディオリーゼはほっと息をつき、微笑んだ。
「はい、殿下。どうぞディオリーゼとお呼びください」
その答えに男は優しく微笑む。
「ありがとう、ディオリーゼ。どうか僕のことも殿下ではなく、名で呼んでもらえないだろうか」
婚約者と言えど、愛し愛され結ばれるものばかりではない。
家同士の繋がりを強くするため、またはより強い権力を手にするために結ばれる婚約も少なくない。
そのため、婚約者であっても互いに敬称をつけて呼び合うものも多い。
「あなたと家族になりたいのだ」
美しく微笑む王弟にディオリーゼは答えた。
「はい、ヴァレイドル様」




