1. 可憐な少女と絶望
ディオリーゼ・カルティアは生まれた時から美しい顔立ちをしていた。
輝くような白い肌に柔らかく長い睫毛、桜貝のような唇。
そして、瞳は宝石のように輝いていた。
彼女を見た誰もがあまりの美しさにため息をつき、彼女を見るだけで微笑んだ。
成長するにつれてその美しさは増していく。
多くの家から養子や婚約の要請が届き、誰もが彼女の瞳に見つめられることを切望した。
彼女は王家に嫁ぐのではないかと考える者も多く、その予想は概ね当たっていた。
彼女の家にある手紙が届いたのは彼女が5歳になったばかりの頃。
「あなた…」
カルティア夫人は言葉を失った。カルティア公爵は椅子に深く座り、頭を抱える。
この時、まるでカルティア公爵家全体が深い闇に覆われたような、絶望と言っていいほどの空気が屋敷を満たしていた。
カルティア公爵夫妻はまるで最愛の娘を失ったかのように深い悲しみの中にいた。
執事長は夫妻の後ろに控えているが、その眼はきつく閉ざされており、耐えがたい感情を抱えていることが見て取れた。メイドたちの中には、支え合わないと立てない者たちやエプロンの端でそっと涙を拭う者もいた。
カルティア家がこれほどまでの絶望に包まれているのには、訳がある。
カルティア公爵が力なくその手に抱えている一通の封筒。
ディオリーゼに婚約を申し込む手紙が絶望の原因であった。
「ディオリーゼは…まだ5つだ…」
貴族の中では家同士の繋がりを強めるために婚姻を用いる家も多く、子が生まれる前から婚姻の約束をしている家もある。
5歳での婚約は貴族間においては、それほど早いものではない。
ましてや、ディオリーゼは国一番と言ってもいい美少女だ。婚約の申し込み自体もこれが初めてではないし、1歳を迎える前には彼女に会いたいという要請だけでも机に乗りきらないほどの量が届いていた。
それほどまでに多くの手紙を受けていたカルティア家にとっても、驚きを隠せないほどの手紙である。
「王弟からの婚約の要請だなんて…」
王弟に嫁ぐということは、王家との強い繋がりを得るということである。ともすれば、自分の娘が生んだ子供が次期国王となる可能性すらある。
しかし、ディオリーゼの家は、そのような幸せとは似ても似つかない様子であった。
カルティア夫人においては、顔色が城を通り越して真っ青である。ハンカチをつかむ指先は真っ白で、今にも倒れそうだ。
「ディオリーゼ…」
公爵の口からあまりにも悲壮な響きで娘の名前が零れ落ちた。
「まだ5つなんだ…」
繰り返すように呟く。