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ヒステリー

 惨劇が終わった後、私たちは教室に集められた。内田と永友はすぐに救急車で病院に運ばれた。永友は既に手遅れで、病院で死亡が確認された。内田は命に別状はなさそうだったが、身体より精神的ショックが大きそうだ。


 私は血まみれになった体操服を脱ぎ、教室に戻った。あの体操服はもう着れないな。


 教室は静かだ。みんなもう席についている。ただ内田と永友の席は空席。私が席に着くと、原口先生が戻ってきた。


「皆さんも知っている通り、とてもショックな出来事が起こりました。残念ながら永友さんは、……亡くなりました。先生は今から内田さんの様子を見に病院へ行くので、次の教科の先生が来るまで少し待っていてください」


 そう言うと先生は急ぎ足で出て行った。


 先生の出て行った教室はとても静かだ。けれども耳元ではあの言葉がが囁いていた。


「あ……い…つ……だ」


 永友が死に際に放った言葉。今度ははっきりと聞こえる。あいつ。死んだ子。自殺した子。Ayumi Yanagisawa。彼女の怨念がまだ生きていて、私たちを殺そうとしている。私は……少なくとも大丈夫だとしても、ほかのクラスメイトが危ない。


 だけどみんなはどうして冷静なの? 私の疑問に思った。


「呪いだ」


 今まで黙っていた前田がそう言った。呪い。可能性として考えていなくはなかった。しかしまさか、本当にそんなことがおこるなんて。


「私たち呪われてるんだ!」


  前田が顔を上げて叫ぶ。 そうだ、絶対呪われてる。


「前田さん落ち着いて……」


  長谷部が口を挟んだ。まだ長谷部は呪いではないと言い張るのか。


「そうだ、絶対呪われてる」


 私は口に出している。心の中を。


「みんなどうしてそんなにも冷静でいられるの?  永友さんが死んだのよ! うっちーも怪我をして……」


「うるさい!」


 大きな声が響く。岡崎だ。


「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!!」


 ふと見ると岡崎は立ち上がり、耳を塞ぐ。


「もうやめろよ、死んだやつの話は! そうだ。あいつは死んだんだよ。ヤナギサワアユミは死んだんだよ。死んだやつの呪い? そんなのあるわけないじゃん。」


 声は嘲笑。だが顔は号泣している。あの岡崎が、号泣している。


「あるわけある。これは呪い。そうとしか考えられない。」


 前田の冷酷な声が岡崎のすすり泣く声を遮る。


「たった10ヶ月の間に5人も死ぬなんてあり得るの? しかも同じクラスで、あのノート通りに……」


すすり泣きが止み、一瞬静かになる。


「みんな死んでる」


「やめろ!!」


叫ぶ岡崎。


「もうやめてよ…… 聞きたくない」


涙声で言う。 いや、涙声で頼む。


「……ごめん」


さすがに申し訳なかったのか、前田が謝る。教室が再び静かになる。


「もういい。うちは帰るね」


 岡崎はそういうと荷物をまとめ、教室から出ていった。


「岡崎さん。ちょっと待って……」


長谷部が立ち上がり、あとを追った。クラスに残ったのは、私と前田、そして円藤。教室を沈黙が包む。


そんな中、


「アユミ」


円藤が口を開いた。


「あんたがもし殺しているのなら、早く私を殺しにきなさいよ。もう一度、殺してあげるから」


そういうと荷物を片付け始めた。


「円藤さん、帰っちゃうの?」


私が聞く。


「ええ、こんな阿保らしい論争に付き合ってられないし。うっちーのお見舞いにも行かなくっちゃ。パパに迎えに来てもらうわ。早退理由はヒステリーを起こしちゃったって伝えといて」


そう言うとそそくさと教室を出ていった。 教室には私と前田だけになった。

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