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第97話 裏側

ゼン様がどう戦ってたの? というシーンです。

side - 盗賊

 

 盗賊達は待ち構えていた。

 魔道具越しに聞いた話では一人だけがここに向かってくるらしい。

 あちらも戦闘に入ったのだろう、最初の一報以外折り返しは無い。

 禄に戦えそうな奴が居ない弟が評したのなら、人数差があっても覆せるだろう。

 それに筋力増強のシンプルな魔道具も持たせている。あの魔道具を身につけた弟は俺ら全員を相手取っても勝ちを拾う事もあるくらいだった。


「ここは守りやすいから楽なもんだぜ」


 隣に居る、仲間の一人が弓の調子を見ながら言う。

 

「当たり前だ。魔森林の中だぞ、ここは。守りやすい所でなければセーフティハウスとして機能しない」

「そりゃそうか」


 四方は背の高い壁に囲まれている。巨大な閂の付いた門は一方以外は全て閉じられており、いざという時の脱出を容易にするために、壁には梯子がついているのが見える。

 ここ……居住区の屋上からは周囲の全てがよく見えた。

 廃材や木々の内側にそれぞれ身構えた連中もよく見える。

 少々たるんでいるように見えたその姿に声を上げた。


「全員、備えろよ!」

「入り口の罠はどうしますか、頭ァ!」


 丸太の後ろに居る奴が言う。

 叫ぶな馬鹿野郎、という言葉を抑えた。

 まだ見えないとはいえ、罠が入り口にあることを喧伝する奴が何処にいる。迂闊過ぎる。

 とはいえ、腕自体は確かだ。そうでなければ今頃くたばっている。

 だから、ぐっと怒気を抑えて返す。

 

「……一人だけ来るというのなら、実力がある可能性が高い。初手で確実に仕留める」

「慎重なこった……」


 ケッ、と唾を吐き出すような声は意図的に無視した。


「来やしたぜ」


 ギリリと少しずつ弓を引き絞る音。

 まだ撃つな、と告げて腕に余裕を持たせた。

 馬に乗って駆けてくる奴は確かに一人だ。

 単眼鏡で確認する。


「武器はひとまず見えないな」

「和平交渉ですかねぇ」

「フン」


 改めてよく見るが、やはり無手に見える。背中、腰にそれらしい武器は見えない。

 長いコートが靡いているが、あまり風を受けても膨らまないという事は、そこそこ丈夫なものか、中に何かが仕込まれているか。

 だとしてもリーチの長さがある剣では無さそうだ。

 何か絶対的な魔道具を隠しているのか。いや、だとしても一人で行かせるのは悪手過ぎる。

 無手……魔法使いという事なら無手でも脅威だ。魔道具の有無関係無く。

 一対多を選択出来るなら間違いなく魔法使いか。

 単眼鏡の先にいる男はまだ若い……自分達と比べても一回り以上下のように見える。


「相手は若いな。俺らよりも一回り下か」

「相手は小僧ぉ? はは、そりゃおめでたい! どうせ仲間に大見得切って、自分がつえーって事を知らしめたいんでしょう! 底抜けの馬鹿だ! 自分が最強だと勘違いしている小僧が相手か!」


 馬鹿笑い。声の内容に釣られるようにそこかしこで笑い声が聞こえる。

 ギリギリという音が鳴る。今度こそ仲間が全力で弓を引き絞った音だ。


「射程に入ったら放て」

「――――」


 単眼鏡は使ってないが、弓の男は目が良い。射程に入れば問題無く当てるだろう。

 呼吸が止まる。タイミングを計る空気。

 

 ――――一撃で終わるか。

 

 そうふと思った瞬間、単眼鏡の先の男と視線が合った――詠唱している!?


「コイツ……!」

「ッシャァ!」


 矢が放たれた。

 風を切る音が一瞬響く。

 驚異的な破壊力を秘めた矢は、しかし恐るべき程静かに飛ぶ。

 それは瞬き一つで幾つもの距離を飛び、数秒後には標的に着弾する――――はずだった。

 その瞬きの間に、相手が腕を素早く伸ばす。

 そして氷の盾が瞬時に出来上がり、そこに来る事を予想していたかのように矢が盾の表面を滑っていく。

 矢は軌道を逸らされて後ろに消える。

 移動しながら向かってくる矢を見切り、危なげなく処理するだと……!


「っ矢が防がれたァ!?」

「出し惜しみするな! 水使いだ!」


 驚愕の声と怒声は同時に発せられた。

 瞬間、単眼鏡から奴が消える。

 慌てて外せば、馬を蹴飛ばして宙へと飛び上がっている。


「良い的なんだよお坊ちゃんが――――!」


 木の裏で待ち構えていた仲間の一人が飛び出す。

 腕を伸ばして魔法を放った。

 ソニックウィンドウと叫ぶ声が聞こえる。

 圧縮された空気の刃が1つ……ではなく、合計5つ飛び出した。

 一つは真っ直ぐに、他の4つはその魔法に遅れる形でややバラバラの方向に飛び出す。

 魔法を倍化する指輪……魔道具の力だった。

 5個分の負担は術者に来るが、同時発動数を大幅に増やせる恐るべき魔道具だ。これを売るだけでも数年は食うに困らない金が手に入る。


 それが空中にいる相手へと迫る前に、周囲に氷の膜のような物が出来る。

 普通ならソニックウィンドウで破れるだろう氷の膜は、しかしソニックウィンドウが一発当たるとかき消えた。他のソニックウィンドウはそもそも命中ルートに乗らなかった。

 その結果に舌打ちしたかった。

 

 外れたこと、ではない。シールド系の魔法で打ち消された事だ。

 あの薄さで並の強度ではない事がわかってしまった。

 魔法に込められている魔力量が違う事がわかってしまった。

 後手に回ってからの発動で、待ち構えていた仲間の一撃を防ぐとは。


 魔法使いとしての技量は間違いなくこの場の全員より高い。


 相手が着地するが、速度を殺さずに駆け込んでくる。

 身のこなしに慣れが見える。戸惑いが無い。二発目の矢が相手の近くに刺さった。

 この時点で相手に対する危険度は最大限にまで引き上げる。

 間違いなく油断できない敵だ――!


 屋上から飛び降りる。仲間は分散させていたが、これでは各個撃破されて終わりだ!

 相手が門をくぐると同時、


「もう一発いくぞぉ! うおおおおおおおおおおお!!!」


 丸太から飛び出した仲間が、顔を赤くして魔力を込めた。首が赤く光り、魔道具の効力が発揮された。

 瞬間、耳をつんざくような轟音と、真っ赤な火柱、爆風が体へと襲い掛かる。風が切り裂く音。大小の小粒が飛びかかり、大量の煙で相手の姿は見えない。


「ッハ! 体の一部分ものこらねぇだろ――っが」

「油断するな!」


 声を掛けたが既に遅かった。

 嘘だろ、という仲間の声が聞こえた気がした。

 氷の粒が弾丸のように飛び出してきたかと思えば、先ほど爆炎を放った仲間がズタズタに引き裂かれる。うつ伏せに倒れ込む。

 敵は見えない。

 こちらもファイアボールと叫びながら煙の向こう側に撃ち込むが、お返しとばかりに氷の弾丸が飛び込んできたため、地面を転げるようにして回避する。

 敵が煙から飛び出してくる。恐るべき事に無傷だった。

 しかも氷で出来た剣を持っている。接近戦もこなせるのか。

 敵は倒れた仲間へ飛びかかると手に持った剣で容赦無く首を一閃し、止めを刺した。そして首の魔道具へと片手で触れて、もう片方をこちらに向けて――――いや、上、背後か!?


「タイド!? テメェ!」

「ぎ」


 殺された仲間の名前を叫ぶ声は木々に隠れていた奴から。短い悲鳴は背後――――屋上から聞こえる。


「――――なんだと」

 

 背後を見れば、氷の針が屋上から生えている。

 あんな短期間で出せる魔法ではない――――と考えてから、敵が殺された仲間の魔道具に触れていた事に思い至る。


「見ただけで魔道具の効力がわかったっていうのか……!」


 魔法に込められる威力増幅の魔道具だ。

 首輪になっているが、実質的には触れていれば効果は引き出せる。


「ストォォォム!」


 後先を考えない、三つの竜巻が生まれる。

 見上げる程の暴風が風の刃を纏い、周囲を切り裂きながら敵へと迫る。

 が。

 

「アイススピア」

「――――」


 悲鳴は聞こえなかった。

 未だ魔道具に触れ続けている敵が唱えた魔法。

 氷の極太の槍、いや、もはや杭というべき物が、轟音を立ていた竜巻を真っ正面から突き破り、貫通、術者に刺さっても止まらず、木へと貼り付けにする。

 これで弓兵が一人、火の魔法使いが二人、死んだ。

 自分は体勢を整えて相手へと迫る。

 残るもう一人の仲間が駆け寄ってくる。

 アイコンタクト。

 仲間は縦に、自分は横になぐような十字切り。


「座ってんじゃねぇぞオラァ!」


 相手の反応は早かった。

 死んだ仲間の魔道具から手を離すと、上段の攻撃に対して剣を構えた。重さが自慢の大型のサーベルを……止めるか! が!

 


 「その体勢のまま死ね!」


 その体に守る物はない!

 仲間が作った隙を見逃さずに間髪放った横なぎ。

 引くように放つ。魔道具の力も借りて、瞬間的な加速も追加された一閃。

 それは、相手を切り裂く。

 はずだった。

 青白い剣によって拒まれ、弾かれる。加速に振り回されるように姿勢を崩した先に見えたのは……。

 上段への対処に一本、こちらへの対処に……追加の一本!?

 元々見せていた一本よりも短い。間に合わせるために生み出したのは明白だ。


「二刀流かっ!」

「ぎゃあ!」


 仲間は腕が氷漬けにされていた。身動きの取れないままもう一刀で大きく切り裂かれると、力が抜けて座り込むように地面へと崩れ落ちる。


「俺、一人か……」


 放心する、とは正にこの事なのだろう。

 瞬時に殺された仲間達だが、これまで何度も敵を退けてきた腕利きだった。シペ帝国から脱出し、ヨルム王国で志同じくして集まった仲間達。

 それが――――それがたった一人の、若造に敗れるとは。

 手から剣が零れ落ちる。

 もう片方のグループは大丈夫だろうか。

 ふと、同じ儲け話にのった気の合う奴らを思い出した。

 

「安心しろ、殺しはしないさ。――――返して貰おう」


 血だまりに死んだ、首を切られた仲間から魔道具を奪う。

 そして、悠々と立ち上がり、こちらに手を向ける――――。


 コキュートス、という声を最後に、意識は途絶えた。

 

 

次の更新は次の土曜日です。

とうとう日を跨いでしまった……orz

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