第96話 跡地
賊の男が縛り上げられて荷台に転がっている。
ちゃんと、水の魔法を治療に使える開拓者が死なぬように処置を施した後に縛り上げた。
全員が馬車に乗り込んだのを確認して動き出す。
戦闘そのものよりも敵が会話していた時間の方が長かったなぁというのが嘘偽りの無いアタシの感想だった。もっと言えば、戦闘終了後の処置とかの方が時間と手間が掛かっている。
それよりも体が濡れているのが気持ち悪い。
戦闘後、後方に居た開拓者達に手を振って戦闘の終わりを告げた後、色々と賊への処置をお願いした……のだけれど、アタシ自身が血まみれだったのでちょっと水を掛けて貰ったのだ。
アタシを見る目が全力で引いていたのでゼン様に会う前に気づけて良かった。
水魔法でドバシャとやってくれた方には感謝しかない。
瞬間的とはいえ、久しぶりに全力で体を動かせたので気分が良い。
ここ数日は魔獣との戦闘ばかりで、どう戦えば良いのか迷う事ばかりだった。けれど人との戦闘はそんな事は無く、迷い無くいける。
途中魔法が飛び出したときは観察する余裕すらあったぐらいだ。
――――やっぱり魔法は脅威だなぁ、と再確認させられただけなのだが。初手から遠距離戦を仕掛けられなくて良かった。
先に飛び出したゼン様は問題無いだろう。
馬車は盗賊達が待ち構えているだろうセーフティハウスへの残り僅かな距離をややゆっくりと走っていた。
ゼン様が乗っていた一頭分減っている為だった。
「……」
馬車内は沈黙が続いている。
盗賊は目を覚ます気配は無い。完全に切り飛ばした手首はバッチリと繋がっているし、足も治っては居るのだが、失った体力は戻ってこないからだ。
あの状態からでも失ったモノがあれば接続ぐらいは出来るあたり何とも凄い。
まぁそれは置いておいて。
何というか、車内の開拓者達からの気配が凄いのだ。
アタシに対する警戒心とかそういう物を感じる……。
学園で剣を振るっても特にこうも変な目で見られる事は無かったのだけれど、魔獣狩りがメインの人達となると違うのだろうか。
今の開拓者達の中には、うちの学園からの卒業生の人達も結構居ると思うのだけれど……。別の地域とかに行ってるのだろうか。
御者をやっていた同じく開拓者の人が、短い声で準備をと声を掛けてきた。セーフティハウスまでは本当にすぐそばだ。
一番に飛び出す。木々の緑が目に刺さり、太陽光も燦々と輝いていてのどかとも感じ取れる陽気だ。ピクニック日和である。息苦しかった車内から早く出たかったというのもある。
御者の人の声からして切羽詰まった様子は無かったのでそこまで緊張はしていないが、周囲を探りながら慎重に歩く。
前方を見れば、ゼン様が乗っていた馬……だと思う生物が佇んでいて、その先には――――。
「……なんと」
「メルベリか。早かったな」
ゼン様が振り返る。
戦闘が終わっちゃってたか……。
何名居るかはわからないけれど、ゼン様の負担を軽くするために微力ながら加勢しようと思っていたのに……。
「間に合わず申し訳御座いません」
「気にしなくていい。その分こちらも好きにやることが出来た」
「賊は何名でしたか?」
「全員で5名だ。そっちは生け捕りに出来たのか?」
「はい。問題無く」
「良かった。こちらは一名以外は生きてはいないからな」
「はぁ」
身なりは綺麗なままで、先ほどまで戦闘があったような気配は微塵も感じさせない。手にしている作り出された氷の剣だけがゼン様の戦闘気配を匂わせていた。いや、身に纏っている黒いマントの先を見れば、やや火の粉が付いたように穴が空いている。
ゼン様から先へと視線を向ければ……まぁ、死屍累々である。
激しい戦闘があったのは間違いない。
あちこちの地面は爆ぜているし、セーフティハウスは一部焦げた後がある。が、屋上は青白い氷の針がウニのように伸びていたのを見つけて唇が引きつる。明らかに串刺しにされて絶命しているのが一名見える。
周囲の木々は何かに切り刻まれたかのように幾つもの斬れ目が見える。氷の弾丸がめり込んでいるし、地面にも逆さに生えたかのようなつららが幾つも伸びていた。
またゼン様の目の前には大穴が開いており、蒸気がゆらゆらと揺らめいている。大規模な破壊の跡で、周囲には赤黒い土がまき散らされており……煙の向こうに立像が見える。
立像である。
それは氷で出来ていた。
氷は分厚く、大きく……中に人がいる。
怯えたような表情のまま、絶命しているだろう盗賊だった。
それを呆然とみていると、ゼン様が正体を教えてくれた。
「コイツがここの頭だったようだ」
「そうなのですか? その、殺してしまって良かったのでしょうか?」
「安心しろ、生きている。……何をそんな驚いた表情をしているんだ?」
「あ、いえ……」
え、この状態からでも生き返る事が出来るんですか!?
しげしげと氷で出来た立像を眺めるが、この状態で生きているとは。
意識は流石に無いだろう。
装備は汚れた皮の防具などに反して過分なほど指輪や首輪をしている。リストにあった魔道具なのだろう。
手には大きな刃と剃りが付いたサーベルを一刀持っている。
他の賊はといえば、うつ伏せに倒れ、血だまりに沈んでいるのが一名、木に杭型の氷によって体の中心を貫かれているのが一名、手を伸ばした状態で血だまりに座っているのが一名といった有様だ。
盗賊の頭以外は死んでいる……のだろう。
見える範囲で彼らの装備は血に濡れていたり所々破損している。
酷いボロボロ模様であり、ゼン様相手に全力を尽くしたのだろう事はわかるが、ゼン様へはかすり傷一つ与えられていない。
光栄宮学園最強は揺るぎなかった、という事だろう。
「良い性能テストになった」
「性能テスト?」
「あぁ。オレの家が開発している魔道具を使用していたからな。良い機会だと思って実戦での使用を体験させてもらった。今後の改良に役立てられそうだ」
満足そうに頷くゼン様を見ながら、思わずはぁと言ってしまったアタシは多分悪くない。
後ろから、開拓者の人達が駆けてくる音が聞こえた。
担当していた拠点制圧が瞬く間に終わった事を告げる音だった。
次の更新は土曜です。
難産でした……。




