第94話 目星
ゼン様が盗賊討伐戦に参加すると明言した日から2日が経った。
その2日間でわかったことがある。
一つは、今回の魔道具奪取事件は、少なくとも一週間前から発生していたのではないか? という事だ。
二つ目は潜伏先の目安である。
今回の魔道具を盗まれた件に関して、『そういえばうちのグループも最近魔道具を紛失したんだよな』という声が幾つか上がっていたのだ。
魔道具はたとえ現代で作製された物であっても高い物には変わりなく、一週間に紛失がここまで増える事は異常な事だ。
グループ全体として魔道具を購入し、共有資産として管理しているところは珍しくない。
そしてこの問題はこの一週間に集中して発生していた。
また、そんな高価な魔道具を所持する個人はある程度存在が知られている。その1グループのメンバーが数日前の魔森林にて死体で発見されたとなれば今回の賊の関与が疑われるのは自然の流れである。
ゼン様が参加表明した日は、グループとして大人数ひとまとめになって――アタシは参加していなかったが――調査が行われた。
探索の際は、クエスト仲介屋が魔森林に建てているセーフティハウスを中心に、比較的使われない場所を幾つか洗った際、届けが無いはずのセーフティハウスで人が前日まで活動した思われる痕跡が残されていたのは大きな収穫であった。
また、15名以上での大規模な散策であったためか一度も接敵は無く、組織立っているがそれほどの大規模では無い可能性が上げられている。
その次の日は、ターゲットを使われていないセーフティハウスに絞り、数があるために人数を分けたが――――このとき、襲撃を受けた。
アタシは魔森林の経験が薄いということで受付嬢の織賀さんや琥珀アギトさんから待機命令を受けていたため、特に関係は無かった。
だがアランくんは魔森林の経験があるため、アギトさんがいるグループに参加したという。
襲撃を受けたグループは2グループのみ。
あるグループは奇襲を受け、二人を負傷させ、魔道具の所有者一名を殺害して奪取、離脱された。
もう1グループは奇襲を察知し辛くも追い返したが、前衛が戦闘中に魔道具を持っていた後方支援の開拓者が襲われ、負傷した。
どちらも、今回の探索用に貸し出されていた連絡用の魔道具で腕に装備するタイプであったが、腕ごと持って行かれた形となる。
驚くべきことに、襲撃されたグループの片方にはアタシ達がお世話になった琥珀アギトさんが居たにもかかわらず、襲撃側は最終的に魔道具の奪取に成功している。
アギトさんが居たからこそ奇襲は失敗し、カイトさんも同行していたため、負傷者が死ぬことは無かった。アランくんは幸いにも怪我しておらず、負傷者の世話を手伝っていたらしい。
このことから、向こうには少なくともランクとしてはA相当の腕利きがいる事になる――――そのような説明を、アタシとゼン様は目の前のアギトさんから聞いていた。
「とまぁ、昨日の進捗はこんな所だ。正直なところ、まさかここまで強い奴がいるとはな」
「アギトさんはAランクですよね? 上から数えた方が早い人と打ち合える賊がいるなんて……」
思わず絶句する。
だが、ゼン様は特に動揺する事は無く、アギトさんはまぁありえるだろう、と前置きして話を続ける。
「ランクはあくまで魔獣狩りに対するランクだ。どれほどの魔獣や規模を任せる事が出来るのかが根底にある。対人の強さに直結したランクじゃない。魔獣とは全く戦えないズブの素人であっても、人の癖に熟練した人間の方が対人は強いと相場は決まっている」
確かに道理である。
身をもって経験しているので納得出来る。
「魔森林でも、比較的危険度は高くないエリアに居たんだ。アイツらそのものは、魔獣にはそこまでの練度は無い可能性がある。今までの出没地域も絞ってみれば、魔獣の危険度が低い場所に出ている」
アギトさんは、目の前にある地図に手を置き、今までの出没地点――――バツ印が付けられた箇所を指で指し示していく。
そして、動きがピタリと止まる。
「という事は、次の場所は――――恐らくここか、ここだ」
地図を二度叩いた。
今までの襲撃地点の印と合わせると、ちょうど中央に位置するセーフティハウスが二つ。魔森林のより奥か手前か。
「前の場所に戻っている可能性もあるが、奪った魔道具の量が量だ。欲目があるならまだ居座っているだろう。実力もある」
「だとしても、もはや猶予は無いだろう」
ゼン様が呟く。
「向こうは短期決戦の動きをしている。大規模な人員の投入と活動を目撃された今、今日そこに向かって居るかどうかは賭けになる」
「だが2グループに割くにしても、実力のある奴が現状いねぇ。今回相対してわかったが、無駄に増やせば死者が無駄に増える。国の連中はまだ動く様子も無い。現状最高戦力である俺とカイトが一方を叩くが、もう片方はな――――」
「そこは」
チラリとこちらをゼン様が見た。
「オレとオリヴィアに任せて貰おうか」
その台詞にアギトさんが難色を示すかのように顔を顰める。
アタシはゼン様からの信頼の印に心臓が止まらないように必死に制御していた。
「オリヴィアはまだ魔森林の経験が殆ど無い。俺としてはオススメしない」
「相手が対人なら話は別だ。対魔獣用のメンバーを集めて欲しい。賊と出会った後はこちらに任せて貰えれば問題は無いだろう」
「嬢ちゃんのえげつない強さの一端は街で見たことはあるが……」
ふぅむ、と腕を組むが、アタシとしてもゼン様がいるなら何も問題は無い。
そもそもゼン様は目の前のアギトさんより実質強いのだ。実はランクもS手前のAと呼ばれるほどだ。
設定集で見たから知ってる。
たぶんアタシも必要ないぐらい。
「――――魔獣の心配をしなくて良いならば、私も是非とも参加させてください」
「……オリヴィアがそういうなら、俺は何も言わねぇ。魔獣になれた連中をまとめてやる。無茶はするなよ」
「はい」
そうして、ゼン様とアタシ含むその他モブによる急造グループが作成されたのである。
これはもう、ゼン様の活躍をこの目で焼き付けろという事なのだろう。
神楽にはゼン様のご活躍の様子を聞かせられるようにしなければと、いっそうの気合いを入れるのであった。
次の更新は明日です。




