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第91話 新しい刺客に動揺する

主人公の視点に戻ります。

「え!? 盗賊が出たんですか!?」


 寮に併設されている食堂棟で食事している最中、そう神楽が驚きの声を上げた。

 あれからクエスト仲介所の元に戻り、報奨金は貰ったものの、ギルド内はかなり忙しく職員が走り回り、次々と魔森林で素材収集などのクエストをこなしていた開拓者達も戻ってきた。

 流石にギルド内に居座り続けられる雰囲気でも無く、すごすごと退散することになった。

 市内のクエストは引き続き受けられるようだったけれど、土地勘も無いし、やめておいたのだ。

 貰ったお金でもうちょっと私服系を増やそうかと思ったけれど、そんなテンションでも無かったのでぶらぶらと市内をうろついてからの寮への帰宅だった。

 なお、新人のアランとジェラルとはクエスト仲介所で別れている。

 帰宅した頃には日が暮れ始めていた。

 あの初日に出会った、クエスト仲介所へと案内してくれた少女をそれとなく探したけれど見当たらなかった。


 ぐるぐるとフォークを巻く。料理はパスタだ。濃い味のクリームを食べながら話す。記憶に朧気に残っているクリームパスタと比べても遜色がない気がする。

 食事はゲーム中で日本食として描かれてたのがそのまま反映されている感じで非常に助かる。……ユピ神国ではマジファンタジー! みたいな食事だったので、ここに来てからは毎食が実は楽しみだったりする。

 

「そ。別のグループだったんだけど、いきなり襲われたみたいで。怪我だけで済んだけれど、魔道具を奪われちゃったみたいでね」


 周囲に誰もいないので、砕けた調子で話す。

 ちゃきちゃきと食器が音を立てた。


「申し訳無いとは思いますけど、盗賊がオリヴィアさんの所に出なくて良かったです……」

「アタシ的には魔獣よりかは戦いやすいかなぁ」


 間違いなくジェリーフェイカーとの戦いより上手くやれる自信がある。

 触手なんてどう捌けばいいのかわからないし。

  

「危ないですよ、もう!」


 呆れるように声を零す神楽。

 けどよく考えて欲しい、と告げてからフォークをビシっと突き付けた。

 

「そもそも、魔獣を狩りに行っている時点で危ないからね」

「あはは……それはそうですけど……」


 フォークで指しちゃってごめんね、いえいえと会話してから食事を再開する。


「今日戦ったジェリーフェイカーなんて、こう触手がドーン! って来て、バシーンって弾けて、でも触手に攻撃しても切り方わからないからもうとりあえず叩こう! みたいな?」

「ジェリーフェイカーって……あの授業で解体した奴ですか?」


 ナイフでかっさばいて生態観察をしたのは記憶に新しい。授業もクエストでも。

 

「そうそれ。実際動いている個体見るとさ、なんか色も違うし挙動は気持ち悪いし、触手は枝をバキバキに折ながら頭上から迫るしで大変だったよ」


 こう上からさーと身振りを示すと、神楽の顔が曇る。

 

「それは……怖いですね。私じゃ駄目かも……」

「でも誘導はないから、最初の振り下ろしを避けるとか、そもそも斜めに動きながら接近するだけで避けられるから、そこまででも……」


 と言いながら、アタシは全然実践出来そうにないなと思ってやめた。


「……いや、魔獣との戦いなら、多分神楽の方が一歩先に行くから」

「またまた……」


 ころころと笑いながら食事を食べる姿はやっぱり見ていて可愛い。

 そりゃゼン様達も気に入るよねとは思う。

 クラス内で男子からの人気は高いんじゃないかなぁとは思う。知らないけど。

 アタシの交友範囲でそういう話をしてくれる人が何故か居ないし。恥ずかしそうに話し掛けてくる、女性のクラスメイトの方が多い。

 

「……話を戻すけど、盗賊の話ね。今回、相手は魔道具を奪ってすたこら逃げたんだけどさ。……その話だけ聞くと、どうしても街の怪盗を思い出しちゃうよね」

「街の怪盗って……でも、悪徳な貴族の人の屋敷に忍び込んで悪しき魔道具を奪って去る人ですよ?」


 小首を傾けながら言う。

 神楽のお皿には既にパスタは無く、アタシの方は身振り手振りが災いして未だ残っている。

 

「噂を聞くとそうなんだけど、実体は見たことないからさ。実は結構な盗賊だったりとか。貴族さんの屋敷も結構厳重だろうし、それをくぐり抜けるんだから実力はあるだろうし」

「またまたぁ。それに女性の方ですよ? 今日出た盗賊の人は男性ですよね?」

「それは確定してない」


 まぁ、実際に捕まえたらわかるのだろう。

 仲介所の方も、開拓者に危害を加えるなら黙っちゃいないとばかりに人が動き出されていたし。思った以上に初動が早くてビックリしたものだ。案外すぐに捕まるんじゃないだろうか。


「神楽の方は? 学園に先生居なかったでしょ?」

「あれ? オリヴィアさん、先生が長期休暇中はお休みなの知ってたんですか?」

「いんや。アタシは行きの馬車の中で、ここの研究所の人? 達が愚痴ってたのを聞いただけだよ。その中で先生達は休みだけど、俺達は休みがないんだーって」


 前世でもあった、仕事したくない病というのはゲームの世界に入ってもあるものだ。乙女ゲーとは思えない渋みを感じる。

 

「研究所の人達も大変ですね……」

「だね」

「あ、でも、魔法を教えてくれる人は居ました!」

「そうなの? フィオ?」


 アタシが知っている中で魔法を教えられるくらい上手いといったら、ぱっと出てくるのはショタ金髪なフィオレンティーノ・ジャイルズぐらいだ。

 クラスメイトに魔法を使える人達は少ないし、教えられる程の子はもっと少ない。

 上級生との絡みはゼン様以外は神楽にはないはずだし。

 ゼン様はそもそも今日予定があるから無理という話だ。

  

「いえ、星井さんって覚えてますか?」

「……誰だっけ」


 主要キャラクターじゃないな、と考えてから、知り合った子達の名前を思い浮かべるがヒットする候補は出てこない。

 

「保険医の方です。ほら、入学式の日に私が怪我した時とかにお世話になった……」

「あぁ、あの人ね」


 言われれば思い出す。

 確かにゲームに出てきそうな、優しい黒眼鏡の保険医がそんな名前だった気がする。


「なんで星井さんが?」


 保険医はまさか休日出勤をしなければいけないのだろうか。

 そう思いながら聞くと、少しだけ眉をハの時にした表情になった。

 

「えっと……まだ入院している子が何名か居るみたいで、保険医の方は交代で出勤されているみたいです。……私と戦った月影キンコさんも、まだ……」

「そっか」


 決闘後に起きた魔獣襲撃は、死者は出さなかったけれど重傷者はいたはずだから、傷は魔法で治せても何日か様子を見るレベルの子が居たのだろう。

 月影さんの様子は知らないけれど、もしかしたら精神的なところで弱ってて継続して入院、って形なのかもしれないなと思う。

 そしてあの保険医なら、水魔法には間違いなく詳しい。

 ……なるほど。


「神楽が暴発した魔法は氷だったから、適任だった感じだね」

「はい! 星井さんに導いて貰って、初めて水球っていう魔法を発動出来たんですよ!」

「え、ホント!? 凄い!」

「はい!」


 神楽の頑張りました、というペカーとした笑顔に圧倒されながら、成熟度が原作より早い事に驚く。

 原作は2ヶ月程度で片鱗を見せ始める……というレベルだったのに、こっちでは既に発動まで行くとは。

 原作だと、水の基礎魔法が使えるようになるのに平行して遺伝魔法も開花し始める兆候を見せるんだけど。

 この分だと、遺伝魔法が使えるようになる頃には基礎魔法の初歩的な部分はマスターするかもしれない。


「いいなぁ。アタシは欠片もまだ様子が掴めないのに」

「私もよくわかってはいないんです。結局、発動したのも一回だけで、あとは星井さんに手を持ってもらってずっと練習してたんですけど……」


 こうやって持ってもらったんです、と嬉しそうに私の空いた手を持ち上げるが……。

 なんですと?

 星井さんルートなんて原作に無いんですけど。

 そんな指をにぎにぎされると困るんですけど。

 見知らぬルートに行ったら世界滅亡しちゃうかもしれないんですけど!?

 

「……それ、ゼン様に言わない方が良いよ?」

「魔法の……事ですか?」

「いや、星井さんに手を持って貰った事。魔法を教えてもらった事は良いから」

「はぁ」

「絶対、絶対だよ?」


 フィオルートに入ると寂しそうなゼン様というのを見ることが出来るし見てみたい所はあるけれど星井さんは不味い、絶対不味い気がする。

 神楽にはもっとメインキャラと仲良くなって貰わないと困る。


「あとね、これから可能な限り、魔法を教わるならゼン様かフィオにしたほうが良いよ……決闘でも様子見てもらったから、勝手も分かるだろうし」

「? はい!」


 よくわからなそうな顔してわかりましたというけれど……新たな火種になるじゃないか。


「あ、でもフィオさん何ですけど、今ヨルム王国に居ないみたいですよ」

「あれ? そうなの?」

「何でも、ユピ神国の方に戻ってるとか? 星井さんが教えてくれました」

「へぇ」


 それも原作には無い展開だなぁ。家族にでも会いに行ったのかな? でも妹さんはヨルム王国にいるって設定のはずだしなぁ。

 それよりも星井さんである。


「むぅ……」

「オリヴィアさん? ……良いのかな、手を繋いだままでも」

 

 その後は、唐突に湧いて出来た星井さんルートの事で頭が一杯で、最後までニコニコと片手を繋がれた状態でパスタを食べていたことに気が付かずに、味が分からなくなったクリームパスタを食べきった。

 食べ終わった後、内心でため息を吐いていたけれど、機嫌が良さそうな神楽が正面に居たことは、今この瞬間にとっては良い癒やしだった。

 

次の投稿は土曜ではなく、明日です。

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